陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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スズメ、契約するってよ。

 

 陰陽師。

 日本に蔓延る魑魅魍魎(ちみもうりょう)。現代では『人外存在』と呼ばれている地球の生物とは違う存在に対処する者たち。

 

 『桜間(さくらま)スズメ』、16歳。陰陽師学校に通う壱級学生(いちきゅうがくせい)である。

 陰陽師四大名家である桜間家の四女として生まれたが、陰陽術に必要な呪力が生まれながらに少ないと才能に恵まれなかった。

 だから優秀な兄や姉たち、そして自分も陰陽師とは違う道を進むのだとばかり思っていた。むしろ、スズメは一般人が持つような夢があって、そっちの方が良いとさえ思っていた。

 

 だが、桜間の四女として生まれた以上は、たとえ才能がなくても、陰陽師の道に進まなければならない。

 そう桜間現当主である父に言われて、本人の意思とは関係なく陰陽師学校へと進学せざるをえなかった。

 

 ――そうして桜間スズメは、学校の補習をクリアするために深夜の廃墟へと赴き、必死に走っていた。

 

「はぁ……はぁ……!」

「マテマテェ〜〜!!」

 

 スズメが着ているのは、動きやすく現代アレンジされた狩衣(かりぎぬ)と呼ばれるもの。職人による防御術が施された戦闘服であり、高い防刃性能の他に、受ける衝撃を和らげる事ができる。

 

 しかし、追っている存在は、そんな狩衣(かりぎぬ)の防御性能を持ってしても、一撃でスズメの体を粉砕し得る力を持った人外だった。

 

 肌が不自然なほど真っ青な、全長3メートル以上の人型、頭に角を生やした巨漢の人外存在、通称『青鬼』。

 車を玩具のように破壊してしまう腕力を持つ鬼。その中でもさらに力を持ち、1度狙った獲物を諦めずに追い続ける習性を持つのが青鬼だ。

 

 並の陰陽師、十人いても傷ひとつ負わせることができずに全滅させられる。それほどのものがスズメを追いかけている。

 

「マテマテ〜!」

「来ないで……!」

 

 さらに人間の言葉を喋れるという事は、人間を食べている可能性が高い個体だ。通常よりも凶悪であり、そして強くなっている。

 なんにしても、スズメのような才能のない陰陽師では足止めすらできない。出会ってしまった時点で詰みとなる存在である。

 

「おかしい……だって……! こんな街中に『青鬼』だなんて……!」

 

 元は旅館の廃墟とはいえ、ここは街の中。青鬼のような『人外存在』が居るのであれば、陰陽師たちが張り巡らせている探知結界に反応して、すぐに討伐部隊が差し向けられている筈だ。

 だから、本当ならここで出会ってはいけない存在。

 

 才能の無い自分のために用意された。陰陽師であれば誰でも出来る簡単な補習調査。

 スズメは落ち込みながら旅館の中へと入り、大広間に居たコイツと出会ってしまった。

 それから標的にされてしまい、逃げ回っている。

 

 「マッテヨ〜!」

 

 声に反応してしまい、スズメは一瞬だけ後を振り向く、青鬼は楽しそうに笑いながら、追ってきていた。

 まだ追いつかれていないのは、陰陽術で身体強化の術を自分に(ほどこ)しており、巨漢の青鬼では動きが制限される場所を選んで逃げているから。

 

 それでも青鬼は旅館を壊しながら追いかけてきて振り切れない。旅館の外にも逃げる事ができず。そろそろ呪力が尽きかける。

 術が切れてしまえば、簡単に追いつかれてしまい、あの巨大な腕で捕まった挙句、生きたまま食われてしまうのは目に見えていた。

 

「……っ! ごめんねお兄ちゃん! お姉ちゃん! 私、もう無理だっ!」

 

 スズメは己の死を悟る。

 間違いなく助からない。助けも来ないだろうと、涙が止まらない。

 

 ――でもせめて、最後にここに青鬼がいる事を誰かに伝えないと。

 

 それは陰陽師のプライドとかではなく、遺書1つも残せないまま死にたくないという気持ちからであった。

 スマホはダメだ。操作できる暇がない。

 なら、最後の呪力を振り絞って、連絡用の式神を外に飛ばす。

 これをしちゃえば、身体強化の術は切れて青鬼に追いつかれてしまうけど、もうそれしかない!

 

「いく……あ――」

 

 覚悟を決めて、人型に切られた形代を手に持った。その時だった。スズメは元は天井だったであろう、瓦礫に躓いて転んでしまった。

 

 ――目を瞑ると、走馬灯が浮かび上がる。

 いつも働きすぎて心配な、お兄ちゃん。

 個性的で無茶をしまくるお姉ちゃんたち。

 そうして自分のこと。

 こんな事なら家を出て、教師になるための勉強をすればよかったな。

 

「……死にたくない」

「──なら契約するか?」

「え?」

 

 近くで聞こえた男の声に反応して、スズメが目を開くと景色が変わっていた。

 夜というレベルではない。自分の存在があやふやになってしまいそうな暗闇。

 

「こ、ここって……」

「安心してくれ日本だ。まあちょっと俺とお話をするために作った部屋だと思ってくれ」

「あ、貴方は……」

 

 陰陽師として、こういった超常現象に対する受け入れる心構えができているスズメは、すぐに冷静になり声に反応する。

 

「……助かりたいか?」

「え?」

「助かりたいか? 助かって、兄や姉と再会したいか?」

「ど、どうしてお兄ちゃんたちの事を!?」

「いや、だって逃げながら名前呼んでゲフンゲフン……ともかく、助かりたいかと聞いている」

「それは……」

 

 答えていいのかと、言葉を詰まらせる。

 だけど、この存在には十分な反応だったのか、続きを語り始める。

 

「ならば俺と契約すれば。助けてあげよう……」

「あ、貴方は……いったい……」

「あと今なら初回限定サービスも付いてきて、とってもお得」

「深夜の通販番組!?」

 

 陰陽師、業務時間帯の都合上。深夜の通販番組の内容に詳しくなるのは業界あるある。ついでに言えばスズメは買ってしまうタイプ。

 

「あ、貴方はいったい何者なんですか?」

「……言ってもいいんだけど、正体知られたほうが変に警戒されそうなので内緒で」

「……えっと、何も知らないまま契約を迫るのは十割詐欺ってお兄ちゃんが……」

「やっぱ、そうだよね~」

 

 少しだけ冷静になったスズメは謎の声の段取りの悪さが気になってくる。というかもの凄く気さくだ。

 そのせいで余計に人外なのか、人間なのかも判別が付かなくなってきた。

 

「まあでも、言うべきか、言わざるべきか、どっちが良いか分からないから、今回は秘密で行くよ」

「ええ……」

「さて、どうする? 契約してくれたら君を傷1つ付ける事なく絶対に助けるよ」

 

 スズメは考える。助かる道は、謎の声と契約する事しかないのは分かってる。

 元から選択権は無いに等しい。

 

「――生きて……帰りたいです……生きて帰れて、家族と会えるなら、どんな対価だって払ってみます!」

 

 それは陰陽師と日本政府の橋渡しを担う、外交一族でもある桜間家の四女として重い決断であった。

 

「我、〈桜の間、鈴なりの明〉――桜間(サクラマ)鈴明(スズメ)”の真銘(しんめい)(ささ)げ、貴方様との契約を願い(たてまつ)ります!」

 

 真銘契約。陰陽師が『人外存在』と契約するさいに用いられる手段の中で、もっとも重い契約。

 

 「――いいね、格好いいね」

 

 それが【悪魔】に通じるかは、本人も分からない。だが誠意は確実に伝わった。

 

 スズメを覆っていた『布影』がしまわれて、実はずっと眼の前に居た、青鬼が露わになる。

 

「契約は無事に結ばれた――【悪魔】のヤマトは、鈴明(スズメ)ちゃんを絶対に守り抜く事を約束するよ」

 

 スズメの前に立つように、青鬼の前に立ちふさがるように、【悪魔】のヤマトが【布影】を通して、この場へと登場した。

 

「あ、悪魔? ……悪魔の子?」

「ん? いや違うよ。ガチもんの【悪魔】」

「が、ガチ?」

 

 現代において、悪魔という名を持つ『人外存在』は存在せず。完全なる架空上のものと定義されている。

 だから最初こそ悪魔の子と勘違いしたスズメであるが、すぐにヤマトの異常性に気がつく。

 

「――妖力が無い?」

 

 『人外存在』であれば必ずしも持っている妖力。

 妖力は隠せるものではなく、たとえ才能の無い陰陽師であったとしても、名乗っている以上はほんの微かでも感じる事ができる。

 

 なのにヤマトからは、あるべき妖力が感じ取れない。

 あってはならない、第三存在。

 その可能性に行き着いたスズメは、青鬼に追われていた時とは違う、言いようのない恐怖に襲われる。

 

「うおっ、青い鬼だ……勝てるかな? 俺の世界で知られてるやつじゃないよね?」

「え?」

「ンンッ! ……なんでもないよ〜。安心して、そこで待っててね〜」

 

 本当に色んな意味で安心できないが、今のスズメにやれることは、成り行きを見守るのみだった。

 

「ナンダオマエ〜!?」

「【悪魔】だよ。人殺しはなるべくしないと決めたが、妖怪退治や害虫駆除とか、そういうのはなんでもやっていくつもりだから、死にたくなかったら逃げろや」

「シネェ〜!」

「あ、話通じないタイプね。了解」

 

 言葉こそ発するが、それはあくまで人間の真似事でしかない。

 ヤマトの言葉を理解できない青鬼は、車を粉砕する事ができる剛腕(ごうわん)の拳で、ヤマトへと殴りかかった。

 

 それに対してヤマトは、拳を作って肘を限界まで後ろへと引いた。

 ほんの数秒の出来事を見ていたスズメは、まさか鬼相手に殴り合うのかと、この後の最悪な未来を連想して体を強張(こわば)らせる。

 

「〈魔杭拳(まこうけん)〉」

 

 しかし、結果はスズメが想像してたのとは真逆。

 必殺名と共に繰り出された拳は一瞬のうちに、『布影』が纏い、巨大な杭へと変貌する。

 

 青鬼の拳に触れた瞬間、杭が射出されて青鬼の肉体ごと木っ端微塵(こっぱみじん)粉砕(ふんさい)する。

 〈魔杭拳(まこうけん)〉。『布影』を腕に纏わせて射出型の大杭パイルバンカーを相手に突き刺す技。

 悪魔になって最初期の頃、『布影』を練習中に編み出した高い破壊力を持つ対大型【悪魔】向けの技。

 なんでこんなに威力が出るのか、ヤマト自身よく分かっていない。

 

「……おっ、消えてなくなるのか、いやぁ、それにしてもあの青色の鬼じゃなくてよかった。アレだったら流石に勝てる気しなかったからな」

 

 肉体という器が破壊されて、妖力を維持できなくなった青鬼は、跡形もなくこの世から消え去った。

 それを見たヤマトは、安堵の息を吐きながら内心で、もっと安全に倒せる手段いくらでもあったなと1人反省会を開く。

 

「あ、青鬼を……たった一撃で……」

 

 そんなヤマトの心情を知らないスズメは、助かった安堵が消えてしまうほど、【悪魔】の強さに呆然とする。

 鬼の力は、陰陽師の誰もが知り、恐る存在だ。

 それを真っ向勝負で(ほうむ)った。妖力が無い『人外存在』。

 

「……さて早速だけど、契約の対価について話をしようか」

「は、はい……」

 

 これほどの力を持つ、未知の『人外存在』が求める対価。

 もしかしたら、私以上の物を支払わないといけない。

 スズメは緊張感に襲われながら、言葉を待った。

 

「とりあえず――コンビニでフライドチキンとおにぎり三個、あとお茶2つ買ってきて」

「……あれ、私の命って1000円ちょっと?」

 

 あまりの予想外の対価に、スズメは思ったことを思わず口に出してしまう。

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