陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、仕事するってよ。

 

 ――車移動を終えて、降りた先には森の(ふもと)の駐車場。あとは車は通れないという事で、俺たち三人と悪魔は森の中を進み始めた。

 

 森の地面は、苔はあるものの思ったより緑色じゃなかった。草よりも枯れ木と岩のほうが多い。

 いったいどうしてだと疑問に思えば、ここは鹿が多くて地面の草を食べまくってるんじゃないかという事だ。

 自然って難しいなと思いつつも、まあおかげで進みやすいと思ったのも束の間。浮いていた木の根に足がすっぽり入ってしまい()けそうになった。

 

 そんな俺とは裏腹に、ヒバリさんたち三人は町中の歩道を歩くように進んでいく。

 それも山岳用のシューズではなく、シャルナさんとネマちゃんは足袋(たび)と靴を合わせたようなもの、ヒバリさんに至ってはもはや靴というかは、森の中へと入る前にブーツを脱いでゴム製のタイツみたいなもので進んでいる。

 ……もしかして、ヒバリさんのスーツの中って、SF作品に出てくるようなピッチリしたやつなのか?

 

「みんな慣れてるね」

「森の奥は遥か昔から境界が曖昧になって幽世(かくりよ)と繋がりやすく、『人外存在』が現れやすい。だから陰陽師の仕事現場は森の奥とかが多くなるから修行時代に歩き方とか、ひと通り体に覚えさせられる」

適応(てきおう)の修行が本当にキツいんだよねぇ。できればもうやりたくない。もうガチで軍事訓練すぎる」

「……分かる」

「大変だったんだな……」

 

 修行ってのは陰陽師としての術を磨き上げるだけではないらしく、『人外存在』と戦うための技術を覚える事も含まれているようだ。

 

「修行内容は、陰陽師として何を目指すか次第だけど、あたしたちはバリバリ現場行って『人外存在』とバトルするのを想定だったから、自然に慣らされる修行がとにかく多かった」

「……それ」

「おかげで何度死に掛けたのか分からない」

「陰陽師の修行って、そんな死に目にあうやつなの?」 

「いやいや、ヒバリのはめっちゃ普通じゃないからね」

「……一緒くたにされると困る」

 

 陰陽師として特化した教育を受けたらしいヒバリさん。その修行時代は同じ陰陽師からみても、かなりおかしいものだったようで。

 

「ヒバリというか、桜間家三姉妹は特にだよね」

「……10歳の時、山に1ヶ月放置」

育児放棄(ネグレクト)?」

「死なないように見張る大人は居たよ。死にそうになるまで私のことボコボコにする訓練相手でもあったけど」

「虐待?」

 

 そんな馬鹿みたいな事やっていいの昔の漫画ぐらいだろ。

 

「成長期にカロリーも栄養もまともに与えられなくて、それで本当に強くなれるのか?」

「才能によって頭打ちの差はあるけど、呪力は消費すればするほど上限が増える。呪力はカロリーや一部の栄養に変換する事ができるから、なにも食べずに過ごせば過ごすほど呪力を消費する事ができる。だから“日々のご飯を得るために森の中を歩き回る”のは修行として効率がいい」

 

 だからわざと栄養不足に陥らせる。スポーツ医学に真っ向から喧嘩売り過ぎだと思うが、それが陰陽師として強くなるには最も効率がいいらしい。

 ……それが、『人外存在』と戦うために必要な行いだとしても、流石にちょっと思う所が出てしまうな。

 

「大変だったんだな」

「うん、本当に大変だった。スズメに会えなくて」

「そこ?」

「でも修行が終わったあと、大人をボコボコにした後に食べたスズメの手作り豚汁は本当に美味しかった……」

「……陰陽師って大変だな」

 

 “大変”という日本語の便利さをいま、ものすごく実感している。

 なんと思えばいいのかは俺には分からないが、ヒバリさんがこう独特なのは、やっぱり陰陽師に特化された教育である事が多いのだろう。

 

「……ヒバリほどは滅多にないよ……ついた」

 

 ネマちゃんが声を掛けると、先頭に進んでいたヒバリさんが立ち止まる。

 周囲はさっきまで歩いてきた森の風景と変わらず、『人外存在』の姿は見えない。

 でも、すでに車の中でシャルナさんから、今回相手にする『人外存在』がどんなものか聞いているため、“地面”に目を向ける。

 

「……マジで分からないな」

「完全に埋まっているからね」

 

 ヒバリさんが、そこらへんに落ちていた木の棒を地面に突き刺すと、地面から大きなカニのハサミが出てきて、ジャキンという鋭い音と共に木の棒を切断する。

 もし、あそこを知らずに踏んでしまったら、足なんて簡単にちょん切られていただろう。

 

「〈鋼剣生成(スチール・ブレイド)〉」

 

 ヒバリさんは例の刀の握る部分の形をした『オオヌサ』を取り出して呪文を口にすると、先端から金属製の刀身が生成される。

 刀を地面に突き刺して引っこ抜くと、片腕ハサミよりも小さな体の赤く平べったいカニが刺さっていた。

 

「これが『竹蟹(たけがに)』?」

「うん。地面に完全に潜伏して、踏んだ生き物の足を切断するかなり厄介な『人外存在』」

 

『竹蟹』。

 森に現れやすい『人外存在』で、その姿は海で見かけるよりかは、川とか沼地に居る平べったいガザミ系に近い。

 常に地面の中にいて、自分の真上に何かが通るとハサミを突き出して、何でもかんでも切断(チョッキン)しちゃう、食えない厄介存在。

 

 その握力と鋏の切れ味は、カニだけに普通の生物と比べてはる“かに”……まあ、うんとにかく、とんでもないもので、人間の足なら骨ごと切断できるし、普通車のタイヤも切れるんだそう。

 この話を聞いた時、思わず地雷かなと言ったら、まんまそれと全員に同意された。

 

「……そういえば今思ったんだけど、生き物の足を切ってどうするんだ? 後でじわじわ食べるのか?」

「間違ってはいないよ。『人外存在』が糧とするのは生き物の感情とか気分とか呼ばれる“心”。竹蟹は切られた足の痛み、逃げ出す事ができない恐怖、死ぬかもしれないという絶望。そういったもの求めて足を切る」

「こわ~。ほぼ(おど)り食いだろそんなもん」

「躍り食い……神楽舞(かぐらまい)とは違うかな」

「違う違う生きたまま魚とかを食うって意味なんだけど……え? 神楽舞って巫女さんが踊るやつだよね? そういうことなの?」

「神楽舞は人間側から『人外存在』に気持ち()を与える行為だからね。それで横暴な『人外存在』をお腹いっぱいにして大人しくさせたり、対価を得るために行うものだからね。正に踊り食い」

「……それはどちらかと言えば、“踊り食わせ”じゃない?」

「意味不明すぎて、ウケる」

 

 さて、この竹蟹。基本的には地面の外に出るのは獲物に踏まれた時だけで、ずっと地中に居て動かないらしい。

 こんな森の奥深くに居れば、人間には危害が加わる可能生は低いように思えるが、厄介存在と呼ばれるだけの性質を持つ。

 どうして名前に“竹”が付くのか、それは地下茎(ちかけい)という特性を持つ竹のように、放っておけば物凄い速さで増殖して広がっていくから。

 さらに地中であれば石材やアスファルトなど舗装された場所でもお構いないらしく、そうやって人間の生息領域へと侵入してくる。本当に厄介過ぎる。

 

「どれくらい広がってる?」

「……やっぱりかなり多い」

「だよね~。あ~、しんど~」

「ネマちゃん、竹蟹のこと見えてるの?」

「……見えているわけじゃなくて、感じ取ってる」

「なるほど」

 

 なので、いつもなら竹蟹かもしれない反応が出た時点ですぐに駆除するのだが、今回は人手不足による仕事の遅れが原因でニヶ月も放置してしまったんだそう。予算半分の影響が凄い出ちゃってるなぁ。

 

「この奥、結構近くに道路あったよね?」

「……ある」

「じゃあガチで駆除しきらないとだね~。数ってどれくらい?」

「ちょっと待って――〈探知結界(カウンティング・フィールド)〉」

 

 ネマちゃんから円状の呪力の波動が広がっていくのを感じる。

 シャルナさんとの会話からして、竹蟹の数を正確に(はか)るための術のようで、しばらくするとネマちゃんは顔をしかめた。

 

「……1089匹居る」

「多っ」

 

 想像していた桁が1つ違った。

 

「どうするんだ?」

「さっきヒバリがやったみたいに、1匹ずつ除去していくしかないんだよねぇ……」

「途方も無いなぁ」

「あたしたちは、こういう大多数の『人外存在』向けの術を持っていないからね~。ったく、私たちの相手はカニじゃなくて“(カミ)”なのにってね!」

「『人外存在』なのは一緒だよ」

「ううん、違うのヒバリ、そういう事じゃないの」

 

 通じないのが1番辛いやつ~。

 やれやれと首を横に振るうシャルナさんに、ヒバリさんは首を傾げる。

 ……さっきの口に出さなくて良かったな。

 

「ちなみに1匹でも逃がしちゃうと、また最初からやり直しだから気をつけてね」

「……わたしが居るから、見逃さない」

「モチのロン、ネマは発見術に関しては超天才美少女なのは分かってるって」

「……ふふん」

 

 見つけるという事が得意らしいネマちゃん、シャルナさんに褒められてドヤ顔になる。

 陰陽師については、まだまだわからない事があるが広範囲に潜んでいる竹蟹の数を把握できるのは、凄いことなのかもしれない。

 

「さて、じゃあ早速やりますか~。定時は諦めるにしても、日が超えるまでには帰れるように頑張るぞ~!」

 

 気合を入れるシャルナさん。

 仕事をして、安定した収入を得たいと思っている俺であるが、残業前提の仕事となれば流石に勘弁だな。

 まあ、だから俺が呼ばれたんだろうけど。

 

「それでヒバリさん、俺はどうすればいいんだ?」

「竹蟹を一掃して」

「好きにやればいいのか?」

「面倒だけど被害はあまり出さないで、周りがうるさい」

「本当に大変だな、公務員」

 

 そんな風にヒバリさんと話していると、二人が驚きと期待混じりの目を向けてくる。

 正直、この顔を見たくて俺の事ヒバリさん話さないなと思っても放置していた。

 ふふん、増えたのは【悪魔】の手である事を見せる時ってね。

 

「も、もしかして、このクソ仕事を速攻で終わらせてくれるの?」

「任せろ、俺が居る限り、みんなを定時までには家に帰す」

「か、神」

「……神」

「【悪魔】だよー」

「そうだよ。神は私たちの仕事手伝わない」

「そういう話でもないと思うけど……まあいいや」

 

 神を殺す隊に所属している彼女たちに神扱いされるのはおかしな話だと思うが、なんにしても格好つけた以上、しっかりやらないとな。

 

「這い広がれ、『布影』」

 

 俺の足元から『布影』が水のように広がっていく、木や石に当たれば左右に分かれ、枯れ木などの障害物の下を通り抜ける。

 話に聞いた通り、重さを感じないと反応しないようで、竹蟹が動く様子はない。

 

「……妖力も呪力も感じない……不思議」

「ネマちゃん。どこまで伸ばせばいいか指示出してくれる?」

「……分かった。もう少し横に広げて」

「こう?」

「……うん、そんな感じ」

 

 言われた通り『布影』を横にも広げていく、竹蟹が潜伏している範囲が可視化されて分かったが、ここから先はどこを進んでも踏んじゃうほど広がっていた。これは確かに厄介過ぎる。

 流石1000匹も居るだけあって範囲が広い。これを一匹ずつ駆除するとなれば大変だったろうし、間違えて踏みそうになったりなど危険だっただろうな。

 

「最奥まで到達したら教えて」

「……呪力も妖力も感じないから……ちゃんと測れないかも」

「あ、そっか、まあ多少通り過ぎてもいいし、もし足りなかったらもう一度やればいいだけだから気楽に言って」

「……分かった」

 

 ネマちゃんは真剣に『布影』が広がっていくのを片目で凝視(ぎょうし)する。もしかして彼女のプライドを刺激してしまっただろうか、それだったらちょっと申し訳ない。

 それにしても【悪魔】のステルス性。味方の陰陽師側も感知できないの、しっかりと意識したほうが良さそうだ。

 俺の攻撃とか音がしない走る車みたいなものだし、こうして一緒になにかやるってなったら、ちゃんと考えて使わないと事故が起きかねない。

 

 『布影』は広がっていき、大地が黒一色に染まっていく。

 あんまり好きではない光景だけど、これが1番時短で効率がいいだろうし、周辺のダメージも最小限で済むだろう。

 

「……ストップ、うん、ちょうどこれで全部だと思う」

「分かった、じゃあ早速始めようか──〈逆光(ぎゃっこう)〉」

 

 この技は『布影』に何か形を作ったり、動かすものではなく、『布影』のとある機能をオンにするものだ。

 そのとある機能というのが“自動反撃機能”である。

 地面に隠れて見えないのなら、相手から居場所を教えてくれるようにすればいい。

 さて、上手く行ってくれればいいけど。

 

「〈圧締(あってい)〉」

 

 広げた『布影』で、均等に地面へ圧を加える。

 潜んでいた竹蟹たちが反応して、ハサミを地上へと向かって突き出す。

 『布影』に触れる。

 自動反撃機能である〈逆光〉が発動して、ハサミに触れた箇所から針状の影が地面に向かって伸びる。

 それがおおよそ1000匹分となれば、どうなるのか。

 

 ──ド、ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――!

 

 鈍い音の連打が、揺れる黒い大地の下から発せられる。

 反応してハサミを上げた竹蟹が、『布影』の針の串刺しになっている音だ。

 思ったよりもしっかりと音が鳴るな。やっぱりカニというだけあって甲羅が結構硬かったのかもしれない。

 ……硬度負けしなくて良かった。これで倒せないってなったら流石に申し訳なさ過ぎる。

 

「や、ヤバー……」

「さて、どんな感じ?」

「……残り21体」

「んー惜しい、全部は無理だったか」

「……残っているのは木の真下とか……半分埋まっている石の真下とか……手を加えないと難しいところっぽい」

「そうなの? そういうのもわかるんだ」

「……うん、見るのは得意」

「マジですごいと思う」

 

 思った事をそのまま伝えると、嬉しそうに小さく笑みを浮かべる。

 流石に地面と密着している物体の真下は反応させるのは難しかったか。

 

「でも、駆除したら、ちょうど良い時間になるかもしれないな」

 

 車の移動中、事前に買ってきてくれたコンビニの卵サンドと紅茶を頂いたものの、正直言えば食い足りない。

 

「仕事が終わったら、ちょっと早いお昼ご飯食べに行かない?」

 

 俺は全員を見渡して、ご飯へと誘った。

 パーフェクトに決まったぜ。

 

 ――なお、このあとミスって竹蟹を踏み、足を切断(チョッキン)される。

 すぐに元に戻ったが、日本に来てからの初ダメージがあまりにもダサすぎてガチヘコみする。

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