陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
仕事の内容によっては、ちょっとした不注意で取り返しのつかない怪我をしてしまう事がある。最悪の場合は命を落としてしまう事もあるだろう。
だから、1度作業を始めたら終わるまで気を抜かないこと。
前世では、現場が変わったりするたびに言われ続けた事なのに、【悪魔】になってから初めての仕事且つ、めちゃくちゃ上手く行った事で調子に乗ってしまった俺はやらかしてしまう。
「えっと、最後の1匹は……お、もしかして、この下かな──あ」
「「「あ」」」
最後の1匹が隠れているのはあの石の下で間違いないと、確証バイアスに掛かってしまった俺は、その手前ぐらいに隠れていた
俺の肉体は『布影』と同じであり、切られた所で血は出ないし、中身があるわけでもない。
痛覚はあるが、竹蟹の切れ味が良かったのか痛みを感じる前に再生したので肉体に関しては、実質ノーダメージである。
しかし、俺のメンタルをひどく傷つけた。
すべてが上手くいっていた時にやらかす凡ミスって、本当に辛い。
「──人間だったら大事故だったんだぞ、分かっているのか? この浮かれポンチ【悪魔】め……!!」
「まあまあまあ、実際ヤマト様が居てくれたお陰で、私たちとってもハッピーだよ! 本当にありがとね!」
「……うん、凄かった」
戻ってきた車内の後部座席で、体を丸めてウジウジとする俺に、シャルナさんとネマさんが励ましてくれる。
「最後の竹蟹は、かなり見つけ辛い所に居たから仕方ないよ。それにヤマトは森に不慣れだったから、地面を見分けるのも難しかったようだし、『布影』自体にセンサーのようなものが備わっていないから、もっと複雑な物が沢山ある場所に隠れて、隙を窺いながら襲うのが1番いいかもね」
「ヒバリさん、途中から俺のガチ攻略になってなかった?」
ちなみに俺は頭を破壊されても滅茶苦茶痛いだけで死なないし、やろうと思えば『布影』で森ごと飲み込む事が可能なので、奇襲はあんまり意味がなかったりする。
でも、ヒバリさんの場合は、あのなんでも消滅させる剣があるからな……やっぱり効果的かもしれない。
「そういえばヤマト様。今日の労働の対価なんだけど、日本円でOKだったよね?」
「ん? 外国の通貨でも良いってこと?」
「あー、そうじゃなくて、対価って言ってもお金以外に欲しい物があったら、物によっては数日待って欲しいなって感じ」
「そういう事か、それなら日本円で貰えると有り難い」
これが人間だったら労働の対価はお金で払えば良い話で終わるが、俺は【悪魔】だからお金以外の対価を要求してくる可能性も考えられるので、確認したって事か。
「おっけー、それじゃあ、今日はガチガチのマジでありがとうございました!」
そうしてシャルナさんが懐から出したのは、縦長の封筒であった。
中身は考えるまでもないだろう、この日本に来てから初めてのお給料、日本銀行券という名前のお金だ。
「俺の初給料……」
沈んでいた
自分で言うにもなんだが、ほんと現金な【悪魔】である。
早速中身を確認する。
渡してくれた人の前で中身を見るのは、どうなんだって思うやつがいるかもしれないが、ちゃんと入っているのかの確認は大事である。
「──え、三万円!?」
こんなに貰えるの!?
そりゃ命の危険があるし、陰陽師って専門職だからってのはあるだろうけど、まさかこんなに貰えるとは思わなかったな。多くても半分ぐらいかと思っていた。
「……やっぱり安い?」
「え?」
「ごめん! 今の政権に予算半分削られたって言ったじゃん? 今回の場合昔だったら十万は出せたんだけど、今はこれが限界なの!」
「十万???」
「もし足りないなら、私の方で出すよ」
……どうやら高くて驚いていたのを、安くて怒っていると反対方向に勘違いされてようで、ヒバリさんが足りない分、負担すると言ってくれている。
「えっと……ま、まあ今回は【悪魔】的な労働対価的に、この金額で適正……という事で!」
お金は有るだけ嬉しいけど、だからといってヒバリさんが負担するのは違うと思うし、まあ今回に限っては、とにかく仕事をしてお金を貰いたかったと、給料がどれだけ出るのか事前に聞いてなかったのもあって適正という事にした。
こうすれば今日を基準にしたものではなく、また別の仕事の時に金額を変えやすいと思ったのもある。
「そっか、それなら良かったよ……マジでありがとうね、今は私たちも苦しいから、出せないけどできるだけ見合った対価を出せるようにするから」
「まあ、気軽にまた誘ってよ……仕事の内容によるけど、今日を基準に考えてくれればいいからさ」
「本当に助かる!」
「……ありがとう」
言葉の意図を察してくれたようで、シャルナさんは両手を合わせて、深々と頭を下げてくれた。
運転席のネマちゃんも、バックミラー越しに頭を下げてくれるし、助手席のヒバリさんもサムズアップしてくれた。
……もしこれがヒバリさんたち神罰隊のみんなじゃなかったら、どう思ったかは分からないけど。
みんなとの仕事の時間は旅行のように楽しかったし、この三万円は俺にとって十分すぎる対価になっていたことは間違いない。
「しかし、今は苦しいとはいえ、陰陽師って稼げるんだな」
「専門職ですから。それに報酬の中には個人負担の経費分も含まれていての額なんだよねー。まあ、ヤマト様の場合は総取りって感じ?」
「【権能】はどれだけ使っても0円だからね。でもそうか費用も含めた金額なのね」
「そうそう、ちなみに一昨年だったらになるけど、仕事によっては前金で200万を出すときもあったりするよ」
「……そういえば陰陽師の活動ってお金かかるんだったね」
「……もしかして、予算半分になったのってガチでヤバい?」
「ガチガチのガチでヤバいよ。なんなら自分の給料よりも、宮内庁が必須道具の費用を負担し辛くなったのが、本当にヤバくてー」
「世知辛すぎる」
そんな時代の中で、とくに何もせずに住む家と百万円をもらった俺。
……ヒバリさんたちの仕事は、もうしばらく“適正”のお値段で受けようかな。
「そういえば、今からお昼食べに行くってなったけど、ヤマト様って食べられないものってあります?」
「なんでも食べられるよ」
今のところ食えないってものはなく、前世と同じく全部美味しく頂けている。
そういえば吸血鬼だったらにんにくを食べられないみたいに、【悪魔】だから食べられないものってあるのだろうか?
もしそうなら、逆にちょっと知りたい気もするな。
「じゃあ、なんか食べたいものとか有ります?」
「なんでも食いたいから、むしろ決めて貰えたら──「ラーメン!!!」──じゃあ、ラーメンにしようか、ネマちゃん」
「……ん!」
この機会を逃さないと言わなんばかりに放たれた熱意ある要望に断る理由はなかった。
ネマちゃんはどうやら、ラーメン好きだったようだ。