陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
「――ネマちゃん、長時間の運転ありがとね」
「……いいよ。私も凄く語れて楽しかった」
ネマちゃんに運転してもらって2時間ほど、俺たちは栃木県の山奥にある駐車場へと降りる事となった。
一応、ここの正確な場所や土地名を教えてもらったのだが、代わり映えのない田舎道を進んだ全く聞き覚えがない場所すぎて、全くピンと来なかった。
「……またラーメン食べに行こうね」
「おう、また美味しいお店教えて」
「……うん、また」
終わるのが何時になるか分からないので、帰りは桔梗家がなんとかしてくれるとのこと。
そのため、ネマちゃんは先に東京へと戻る。
「ネマさん、運転ありがとうございました!」
「……スズメも頑張ってね。あとまた一緒にラーメン食べに行こう」
「はい、その時は是非!」
「……ミサキも、その時は一緒に行こうね」
「はい、ラーメン……沢山食べたい」
キラキラと瞳を輝かせながら言うミサキちゃんに、ネマちゃんが深く頷く。
「……うん、沢山食べよう、1度の人生では全てを頂けない……星の数ほどあるラーメンを食べに行こう」
「健康に気をつけながら食べに行こうね」
俺が出前したラーメンを大層気に入ったミサキちゃんが、自分からネマちゃんに話しかけた事で、ここに到着するまで続くラーメン語りが始まった。
ミサキちゃんはまだ難しい事は分からないが、それでもネマちゃんのラーメンに対する情熱が届いたようで真剣に話を聞き続け。ネマちゃんもまた、そんなミサキちゃんに話すのが楽しくて仕方がなかったようで語りまくった。
聞いていた俺も、ネマちゃんの知識量に圧倒されつつも、移動時間があっという間に感じられるほど楽しかった。
……まあ、おかげで問題がひとつ発生したんですが。
「ネマちゃん、知っていたらでいいんだけどさ……ここってラーメン売ってる?」
まだお昼まで数時間あるのに、バカみたいにラーメン喰いたい。
「……中華そばになるけど、ここはけっこう美味しい」
「マジ最高じゃねぇか!」
正直あのラーメンを食べている最中、あまりにも理解できない美味さだったので、オーソドックス的なラーメンを食べたかった。
「“ちゅうかそば”?」
「あー、あっさりとしたラーメンで……ラーメンの祖先みたいなので美味しい」
「……今では中華そばはストレートの麺、鶏ガラをベースにアッサリとした――」
「ご、ごめんなさいネマさん! また今度聞かせて頂きます!」
「……ごめん」
再びスイッチが入ってしまいそうだったネマちゃんであったが、時間が掛かると判断したのか、
きっと、止めなければ1時間は話していただろうな。
「さて、ここが桔梗家の“本殿”か……なんていうか、画像で見る以上に“ラボ”だな」
ネマちゃんが帰り、改めて俺は桔梗家の本殿へと目を向ける。
白い素材で作られた四角形の建物が幾つか立ち並んでいる光景は、あまりにも不気味だと感じてしまうほど質素であり、逆にこういうデザインで建てたのかと思ってしまう。
「建物の画像を見せてもらったから知ってたけど、“本殿”って名前だから、実はもう少し神社っぽいかと思っていたよ」
「ちゃんと決まったものじゃないけど、本殿は『人外存在』をこの世に固定化するための装置の名前としても使われているから。その機能がある、この建物をみんなして“本殿”って呼んでる」
「つまり、建物内の『人外存在』は外に出られなくできる?」
「うん、そうしないと調べられないからって」
「あー、そういう事か」
つまり研究対象である『人外存在』が外に逃げられないように作った建物だから“本殿”と呼ばれていると。
「……それだと、俺が入ったら出られなくなるじゃない?」
「分からないけど、そうなったら私がどうにかするから安心して」
「……その前に、話が分かってくれる人探した方がいいと、【悪魔】は思うわけなんですが……」
「みんな調べるの大好きだから、【悪魔】って知られたら数日は出られないかもね。だから気絶させた方が早いよ」
「お姉ちゃん!」
まさしくここは研究機関で、大勢の研究者が居るってわけね。
そんな所に、今まで見たことがない第三存在である【悪魔】が現れたとなったら、もうみんな理性が蒸発しても仕方ないと?
「……人の姿に変身していた方がいいか?」
「なんにしても分かる人には呪力も妖力も無いって分かるから無駄かも」
「あー、じゃあ『布影』の中に潜って、ミサキちゃんの背中に張り付いてていい?」
「何にしても気づく人は気づくかもだけど、本当に数人だけだと思うから、隠れるならその方が良いと思う」
「じゃあ、そうするわ」
お邪魔するのに姿を隠しているのは無礼だと思うけども、余計なトラブルを回避する努力はしないとね。
というわけで『布影』に潜って、ミサキちゃんの黒ジャージの背中に付いていく。
「ミサキちゃん大丈夫? 重さとか感じてない?」
「はい、だいじょうぶ」
「良かった。それじゃあよろしくね」
「はい」
こんな事もあろうかと、ミサキちゃんの服に引っ付いて移動する事は
こうする事で姿を隠しながら、最も近くでミサキちゃんの側に居ることができる。ただ、潜っている最中は『布影』を、わずか数ミリでも展開していないと行けないし、あんまり閉じすぎると外の様子が分からなくなるので、今回の黒ジャージみたいに同化する服の時じゃないと、結構目立っちゃうかもしれない。
ヒバリさんが金属製の頑丈そうなドアの前に立つ。
どうやら、相手が反応するのを待つ必要があるタイプの玄関らしい。
≪――桜間ヒバリ様一同、お待ちしておりました。床の案内矢印に沿ってB3ブロックの02号室へと向かってくださいなのだ≫
すっごい聞き覚えがある、ずん○もんな案内音声に吹き出しそうになる。
いや、この世界では違うかも知れないけども、まさか聞き慣れたこの声を聞くことになるとは。
……なんか前世に対して
一時期、見る動画全部が、この声だったからなぁ……。
「みんなこっち」
そんな風に思っていると、ヒバリさんが慣れた様子で中へと入り、そのまま建物内を進み出す。
どうやら目的地はヒバリさんにとって見知った場所なようで、床に書かれてある案内矢印を見ている様子がない。
本殿の中は外装から見たイメージ通りな現代的な研究施設といった感じだ。
ただ、人間が過ごしているような生活感が無いといえばいいのか、真っ白い壁に覆われているだけの質素な空間は、ある意味で神社のような神聖さを感じられる……気がする。
「ううっ、本殿に来るの初めてだからなんだか緊張しちゃう。お姉ちゃんはよく来てるんだよね?」
「うん、仕事で分からない事があった時とか、逆に仕事で呼ばれる時もあるよ……後、スズメも小さな時に、私たちと来たことあるよ」
「そうなの!? うーん、覚えてないなぁ」
「物心付く前だったから仕方ないよ。
「ど、どこから何を言えばいいのか分からないっ! そ、それからどうなったの?」
「子どものやった事だから大目に見てくれたよ。……あの時、沢山のモルモットに囲まれて眠るスズメを今でも鮮明に覚えている、あ、写真有るけど見る?」
「絶対ヒバリお姉ちゃんも一緒になって遊んでいたよね?」
「あの頃はスズメに会える時間は、ほんのちょっとしか無かったから大切にしたくて……」
「お姉ちゃん……なんにしても人様に迷惑を掛けたのは反省しないと駄目だよ」
「みんなでちゃんと謝ったよ。兄だってコレを切っ掛けに太いパイプが出来たって喜んでいたから、結果的には良かったみたい」
「お兄ちゃん……」
大変だなぁ、
こんな個性的な姉や兄と一緒にいたら、そりゃ【悪魔】もすぐに受け入れられる度胸が付くよね。
「そういえばお姉ちゃん、これから行く場所ってどんな所なの?」
「よく、正体が分からない『人外存在』を特定する時に手伝ってもらったりしてる人のところ」
「知り合いなんですか?」
「陰陽師学校の同級生」
「え!? お姉ちゃん同級生居たの!?」
「聞いたこと無かったの?」
「は、はい、初めて知りましたけど……ま、まあその、ヒバリお姉ちゃんたちの仕事は国に関わる事なので機密も多いですし、私から聞かないので仕方ないかと……」
「普通に忘れてた」
「もしかしたらそうじゃないかと思ったけど……! 何度もお世話になってる人なんだよね?」
せっかく
「ううっ、やっぱり1度菓子折りを持って挨拶に来たほうが良いかな?」
「そんなに気にしなくていいよ。お互い様な所があるし」
「お互い様って……いったいどういう人なの?」
「アレ」
「あれ? ……え? わ!? ビ、ビックリした……気付かなかった……」
「え、なに?」
ミサキちゃんの肩へと移動して、ヒバリさんが示した通路の右隅を見る。
そこには枕と布団が敷かれてベッド化したベンチがあり、女性が熟睡していた。
「起きて、来たよ」
「お姉ちゃん!?」
ヒバリさんはガンガンと、結構強めにベンチの足を蹴る。
「ん……この優しみがない振動は、ヒバリか? もうそんな時間だったのか、時間にルーズな所が美人さん困ったところだ。ふわぁ〜」
ヒバリの起こされ方に慣れているのか、寝ていた人物は特に驚くことなく、体を起こして大きなあくびをする。
薄緑色の長髪に切れ長の緑目、白衣を来ながらも分かるモデルをやれそうな程の細いスタイルが印象的な女性。
「おや、初めての人がいるね。どうも見たまんまの美人さんだ。今写真を撮るなら斜め上からの寝起きアングルをオススメするよ。スマホのロック画面に使っても恥ずかしくない永久保存級の写真が取れちゃうぞ」
「あ、はい……お姉ちゃんの知り合いだなぁ」
俺も