陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
「ここで話すのもなんだ。そこのドアが私の研究室だから、中に入って話そう」
「あ、あの、どうして外で寝ていたんですか? 仮眠なら研究室の中でも……」
「研究室の中に居ると研究以外やる気が起きなくてね。だからといって睡眠と食事は、よりよい研究のために欠かしてはならないものだ。なので決まった時間に外へと出て、必要なことを行っているのさ」
「……家ってあるんですか?」
「戸籍に載っているから有るとは思うが、一軒家だったか、マンションだったかすらも覚えていなくてね、今はもしかしたら更地になっているかもしれないね」
まだ名前の知らない美人さんであるが、これだけは分かった。
この人、研究バカだ。
「個室だから数人分の椅子とかは無くてね。すまないが好きなように
「き、危険な物があるんですか?」
「美人さんはこう見えて綺麗好きでね。触れたら危ないものは、きちんと仕舞ってあるから心配ないよ」
「……有りはするんですね」
『布影』の中から見える範囲であるが研究室の中はパソコンやコーヒーメーカーなど作業に必要な機械が置かれている一方で、壁の端にある棚の中には箱や書物、市松人形や掛け軸など、かなり年季の入った物が置かれており、陰陽師っぽさが感じられる。
全員が椅子や箱の上に座ったり、あるいは立ったままと話を聞く姿勢が決まったあたりで、美人さんが話始める。
「――さて、まずは美人さんから自己紹介をしよう。名前は『
「は、はじめまして、桜間スズメです」
「やはりか、君の事はヒバリから話を聞いていて、よく知っているよ」
「そ、そうなんですね……ちなみにどんな話を……?」
「小学生の時から今現在高校生での生活。些細な出来事からメッセージのやりとり。好きな食べ物、得意なこと、嫌いなもの、身体プロフィールなど、有るだけ全てと行った感じだね。だからいま美人さんは、遠い親戚にようやく出会えた気分になっていて、とても感慨深いよ」
「ヒバリお姉ちゃん?」
「妹を自慢するのは姉の義務」
「だからってプライバシーを忘れちゃ駄目だよ……」
ヒバリさんは、それが世界の常識と言わんばかりに堂々と言い放つ。
「えっと、それでその、桔梗の名字を与えられているという事は、ハテナさんはとても優秀な研究者なんですね」
いわゆる大学の教授みたいなものだろうか? だとすると天才とか呼ばれる人なんだろうか?
「確かに桔梗の名を与えられているが、序列は下から8番目。それより下は所在不明や凍結処分の者たちばかりだから事実上の末席の身。メディアの露出も殆どしていないからね、同じ本殿でも私の事を知らない人は多いよ」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんだよ。とはいえ美人さんもメディアに露出する大切さは理解しているから、こうして自分の生まれもった容姿と体型の維持を欠かしたことは無いのだけども、いざネットで広報活動をしようと思ったら気がつけば研究に関わるものを調べて、1日が終わってしまってね。全く出来ていないのさ」
勉強途中に何時間もYouTube見ちゃう学生かな?
「おかげで他の研究員からは、本当は実在していないかもしれない、ちょっとした都市伝説扱いされたり、活動資金もいつだって余裕はない。まあ、それでも美人さんは研究大好き、自分のやりたい事を優先させるのは変わらないだろうね」
「……もしかして、美人さんって一人称?」
「陰陽師にとって呼び名は極めて重要な要素だからね。自分の事をポジティブに呼ぶとかなり違ってくるとされる。なによりお金が掛からない。どうだい君も自分を変えたいのであれば一人称を変えてみてはいかがかな?」
「え、えっとあの、すいません!」
そうかいと残念がるハテナさん。どこまでが本気なのかは分からないけど、時間が経てば経つほど研究者らしい人だなって思う。
「いやしかし、かなり興味深い子を連れてきたものだね」
ハテナさんはこちらを向いて、そう口にした。
一瞬、俺の事がバレたのかと思ったが、どうやらミサキちゃんに対して言ったようだ。
興味深い子。それが何を意味するかは分からないが、少なくともひと目見ただけで分かるほど、ミサキちゃんは普通じゃないという事らしい。
「君、名前は?」
「はい、ミサキ……です」
「そうか、ミサキと言うんだね」
「私の新しい妹」
「おや、桜間の本家は養子を取ったのかい?」
「違います、お姉ちゃんが勝手に言っているだけです」
「ああ、なるほど。シスコンの君に妹認定される子か、それはさぞ妹的に可愛いとみた」
「メチャクチャ可愛い。この子は私の妹、絶対に上げない」
「……ヒバリお姉ちゃん」
「可愛い!!」
「本当に養子を取った訳じゃないのかい?」
「養子は取ってないです……すいません、うちの姉が」
しかし、ヒバリさんはどうしてミサキちゃんの事を妹として可愛がってくれるんだろうな。
雰囲気だけ言えば
……まさか見た目が好みとかないよね?
「……あの、ミサキちゃんが興味深いっていったい……」
「ああ、すまない。話が脱線してしまったね。美人さんの悪い癖だ……どこまで分かっている?」
「なにも分かってない」
「そうか、であるならば全て予想で語るしかないか……結論から言わせてもらえば、その子は普通の人間ではないね。おそらくであるが何かしらの儀式によって成長を取り除かれて、見た目と年齢が合っていないのではないかね?」
……凄いなこの人。何も聞かずに本当に見ただけで、ミサキちゃんの体の事を言い当てた。
ミサキちゃんの見た目は10歳前後であるが実年齢は16歳。単に身長が低いとかじゃなく、体格からして10歳そのものから変わっていないように見える。
それは俺と出会う前の生活によるストレスとかが原因かと思ったが、どうやら陰陽師的な理由があるらしい。
「
「月神の祝福も
ヒバリさんは慣れているようで、内容の八割無視して話を進める。
「だろうね。月の神から得られる祝福は不変と変化。ただ“不浄の存在”、いわゆる地上の生物は影響を受けにくく、祝福を受けても直ぐに効果が切れてしまうのが特徴であるが。この子が受けた祝福は間違いなく半永久的に効果が持続するものだ。いったいどれだけのお清めを行ったのか、また、それほどのお清めを受けたのも関わらず人間の気配を完全に失わせていないとは……ヒバリ、この子は何のために“造られた”?」
「悪魔を呼び出すための生贄」
「なるほど最悪だ。『人外存在』の贄であり器としてなら、ここまで不変な存在としながらも人間性を残したのも頷ける。人の心は『人外存在』にとって
「どうやったらできるの?」
「あくまでも私のイメージでしかないが、まず前提として人間の成長に合わせて調整を重ねつつ儀式を進めなければならないため、生まれた時から下準備を行わなければならないだろうね。それから不純をなるべく取り除いた隔離空間で生活。その中で毎日人間性を洗い流すお清めを受けながら過ごす。それはつまり食べるものから、寝る時間までの生活の全てを管理され、1日の全てを陰陽師の修行として費やす。その上で人間らしい部分を残すための“ひと手間”ともなれば、加虐的な刺激を定期的に与えられていた可能性が……」
ミサキちゃんは自分の事であるが、あまり話を理解してない様子。
そんなミサキちゃんを、
「……ともかく、まともな神経をしているのであれば、やる筈のない儀式だ。なにせ成熟するまでに掛かる時間もとんでもないが、何人もの専門的な陰陽師を巻き込み、お金を湯水の如く何億も使い。それでいて道徳を十年以上踏みにじり続けて、ようやく“完成”できるんだからね……そんな時間があるんだったら、美人さんはテレビ番組にでも出演しているよ」
「それだけ大掛かりなら、できる所は限られてくるね」
「だろうね。特に月神の祝福を出来る場所と陰陽師ともなれば、かなり珍しい。宮内庁のデータベースに検索すればすぐにヒットするんじゃないかな」
話の殆どは分からなかったが、ミサキちゃんがどんな日々を過ごしてきたのかは把握できた。
ミサキちゃんが、大人たちにされた事によって、俺が日本に来られたのは間違いないとは思う。
だけど、気分が悪いものは気分が悪い。
ミサキちゃんはもう俺の家族だし、そんな事が日本で行われていたなんて許されて良いかって言われたら違うわけ。
そう言った意味でも、こんな事をしでかしたであろう陰陽師たち……鬼灯家は放って置く事はできないよね。
「あの、ミサキちゃんは、これから成長できるんですか?」
「ふむ、就寝後、または一定時間が経つと、まるで初めから無かったかのように記憶が欠落する事はあるかい?」
「いえ、そういったのは特に……ミサキちゃん、昨日のご飯で特に美味しかったのってありますか?」
「……だし巻き玉子と、サバの塩焼き」
「分かっているねミサキ。そのふたつはスズメが作る料理の中でも最高の二品」
「えっと、こんな感じです」
俺も思い出してみるが、まるっきりに何かを忘れた感じはしないし、隠しているようには見えない。
それに
「記憶の蓄積ができるようであれば問題ないだろう。だが肉体面は難しいかもしれない。彼女の体はもはやその姿で完成してしまっている。大人になる事はなく、老いる事もない可能性が極めて高い」
「ふ、不死って事ですか?」
「そこまでなのかは現時点でなんとも言えないが、長生きするのは間違いないだろうね」
「……? スズメちゃんどうしたの?」
「……ううん、なんでもないですよ! 今度また服を買いに行きましょうね!」
「はい」
ミサキちゃんの今後を憂いたのだろう、
……老いる事はないか。
どうやらミサキちゃんとは普通の人よりも長く一緒に要られるという事らしい。
かといって長く生きられるのは幸せかと聞かれると。俺は【悪魔】として生きてしまった時間が長すぎたから、ちゃんと答えられない。
……どうしても複雑な気持ちになっちゃって駄目だな……今は深く考えないようにしよう。
「まあ、ここに来た理由は分かったよ。この子の身体検査と、使われている儀式の詳細を調べれば良いんだね?」
「それもあるけど、もうひとつ調べて欲しい事がある」
「ふむ? これでも生命維持のひとつの完成形を眼の前にして結構驚いているのだが、まだ何かあるのかい?」
「ヤマト様、出てきて」
ヒバリさんに声を掛けられたので、覚悟を決める。
ミサキちゃんの服に貼り付いていた『布影』を地面へと伸ばすと、円形に広げて外へと出る。
うん、ハテナさんが
「はい、どうも~。【悪魔】のヤマトです。解剖とかしないでくださいね~」
「解剖したい!!」
「しないで~」
椅子を倒すほどの勢いで、美人さんに詰められるが。
嬉しさよりも恐怖が勝った。