陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
「いやはやだ。今まで君が持ってきたものの中には興味をそそるものが沢山あったが、今回が1番だ!」
興奮された美人さんに貴方の内側を見せて欲しいと、少し乱暴に迫られた。
少しマイルドに表現するとこうだけど、実際は目を見開いて、解剖させてくれと言いながら詰め寄られた。
静止の声は届かず、どうしたものかと困っていたら
ありがとう
ちなみに美人さんこと、ハテナさんは高い高いしたら落ち着いてくれた。
「まるでプラスチックの人形のように軽々と天井に向かって放り投げられると、シンプル怖くて冷静に成る事が分かったよ」
「そんな怖いことだったの? それはごめん」
「構わない。というか謝罪するのは私のほうさ、申し訳なかったね。普段はどれだけ興味深い存在を目にしても冷静である事を心がけているのだが……なんだか君を見ていたらこう体が熱く、呼吸も早くなって……興奮してしまうんだ……っ!」
「この廊下、あの部屋よりも天井高いし、もう少し高めに飛んじゃう?」
「おっと、こう見えても美人さんは絶叫系が苦手だ。これからはきちんと淑女を保とう」
所々怪しいけど、ちゃんと大人として理性的であろうとしてくれるハテナさんに安堵する。
それにしても自分の研究対象としてって意味なんだけど、なんだか言い回しに俺の
「それに、これから君を調べる事には変わりないからね。焦るだけ損するというものさ」
「俺からお願いしたことだしね。ちゃんと人権ならぬ【悪魔】権を守ってくれるなら協力しますので、どうぞよろしくお願いします」
現在、ハテナさんを1度落ち着かせて事情を話したところ、それならば時間が勿体ない直ぐに移動しようとなり、とある区画へと案内された。
そのさい、ハテナさんに相談して問題ないという事で、姿を隠す事なく【悪魔】の姿のままで移動する事となった。
実際、何人かの人とすれ違い、ぎょっとしたり、興味深そうに見られたが、ハテナさんとヒバリさんを見た途端、全員がそそくさと何処かへ行ってしまった。
……この2人、なんか俺より怖がられてなかった?
そんな感じ移動していると、清潔感が印象的な区画へと辿り着く。
「まるで病院みたいな場所だな」
「その感覚は正しいよ。ここ“人型計測区画”は実際に大型病院を参考に建設されたからね。ここに置いてある薬品や計測機は人間が使うものと何ら変わりはないよ。といっても殆ど使う相手は『人外存在』だけどね」
「……みたいだな」
――使用中のランプが点いた扉から、なにやら動物なのか子供なのか分からない、奇声が聞こえてくる。
ちなみにミサキちゃんも、気にはなった様子であるが驚きはしなかった。
「それにしても、ヤマト君は人間社会に詳しいようだね? それともミサキちゃんの事で病院に寄った事が?」
「んっ! いやほら……偶然知ってたというか、住む場所だから下調べした的な?」
「ふむ、不思議だな。『人外存在』が人間社会に興味を持っているのは極めて異例な事だから、もう少し興味を引かれてもいいものだが、どうにも貴方を見てみると、それが当然と言うべきか、あまり違和感が無いのは何故だろうか?」
「【
前世の記憶に関しては遅かれ早かれ、言わないとなと思いつつ。
今回に限っては、もし言ったら拘束時間が5日ぐらい伸びそうだったので、ハテナさんの鋭い考察に無理にでも誤魔化す。
でもまあ、ミサキちゃんの事を考えると、ハテナさん相手の情報を知る的な力を持ってそうだし、何よりも研究者なので知識もすごそうだから、気付かれるのも時間の問題かもしれないな。
「あの、これからどうするんですか?」
「おっと、そうだった」
なにかを考え出して動かなくなったハテナさんに、
「知っているなら話が早い。今からヤマト君とミサキちゃんにしてもらうのは、至って普通の健康診断。体のデータを計ってもらうよ」
「ああ、分かった」
「“けんこうしんだん”?」
「これから身長とか体重とか、自分の体を計る事だね」
「……身長……計る……」
「ミサキちゃん?」
返事をする事なくなにかを考え始めたと思えば、
「どうしたの? なにか有ったのか?」
「……身長」
「うん」
「身長……伸びたら……怒られた」
「そいつ斬りに行こう」
「よしれっつらスゴクゴー! ……したいけど! 一旦落ち着いてくれ……」
どうやら昔、身長を計るとなって過去にあった辛い出来事を思い出してしまったらしい。
ヒバリさんが間髪入れずに魅力的な提案をしてくれるが、理性を総動員させて静止する。
「……恐らくであるが、身長が伸びるという変化に対して、“品質”が劣化したと怒りを露わにしたものが中には居たのかもしれないな」
「そんな……」
「ん、すまないあくまでも私の妄想にしかすぎないから、そう深く考えないでくれ」
とはハテナさんが言うものの、外れては居ないとは思う。
さて、このままミサキちゃんも健康診断とは行かないよな。
「ふむ、ではそうだな。まずはヤマト君が先に健康診断を受けて、大丈夫そうならミサキちゃんもするというのはどうかな?」
「いいのか?」
「勿論。世界で初めて【悪魔】。それと世界に二人と居ない、ひとつの“到達点”のデータを得られるんだ。私の時間は気にせず幾らでも使ってくれ」
「分かった、ありがとう。ミサキちゃんもそれでいい?」
「はい……ごめんなさい」
「ミサキちゃんは何も悪くないよ」
「そうですよ! だから元気出してください!」
「……はい、ありがとうございます」
ミサキちゃんの頭を撫でつつ、
雰囲気からして、ひどいトラウマでは無さそうで良かった。
これからも、こういう事が有るかもだから、その都度考えておきたいな。
「準備が出来しだい、順番に回っていこうと思うけど、いいかい?」
「それじゃあ
「はい、任せてください!」
「ミサキの事は、私たちがしっかり見ているよ」
「……大丈夫だとは思うけど、ヒバリさんの事もお願いね」
「わ、分かりました」
そんなわけで、【悪魔】になってから初めての身体検査を行う事となった。
といっても特別な事はなく、人間の時と同じで
まず始めに身長と体重。
病院でしか見ないような身長と体重を同時に測れるやつに乗るだけで終わる。
【悪魔】としての姿は体格が大きいから、ちゃんと乗れるのかと思ったけど、記憶にある計測機よりも大きいやつだったので、問題なく計る事ができた。
もしかしたら日本に来た時あった、あの青鬼みたいな奴とかの身長体重を計る事も想定しているのかもしれないな。
「標準身長は233センチと、とても覚えやすいね。体重は21グラムから260キログラム以上に変動可能。まさに『人外存在』にふさわしい数値だ……ん? どうしたんだい体を傾けて?」
「いや本当に何でも無いんだけど……自分の身長、予想よりも20センチも下だったんだなって……」
ちゃんと計測できる手段がなかったとはいえ、サバ読んでいたのは結構やった感じがする!
しかもハッキリとした数字が出たから自覚したけど、【悪魔】だから250センチは超えてるだろって言う願望ありきの数字だったわ、これは素直に恥ずかしいやつ。
体重に関しては本体でもある『布影』を肉体に集めれば幾らでも増やす事ができるので、言われるまま増やしてみた。
むしろ、軽くした場合は限界値があって、それが21グラムなのは初めて知ったな。これだけ軽いと風に乗って空を飛べそうだな……風船に括り付けたら浮けるか試してみるか。
続いて五感検査。
視力は2.0以上。色彩感覚は常人と同じ。
聴力も問題はなく、試しに行ったモスキート音も聞こえるが不快には思わなかった。
嗅覚と味覚共に、これも人間と同じで違いは無い。
触覚も同じで棒を当てられた時の感触や、熱い冷たい、電気のしびれなどを感じられた。
ただ普通の人なら痛みを感じるほどの電気を食らっても強く痺れるぐらいしか感じなかった事から全てが人間と一緒というわけではなさそうだ。
「ふむ、話しを聞けば【地獄】には他にも【悪魔】が居るそうだが、彼らも人間に等しい五感が?」
「どうだろう。【地獄】は味が分かるものも、臭いみたいなのもの無かったから全部がそうとは分からないけど、少なくとも視覚、聴覚、触覚は人間と同じだったと思うよ」
身体検査の途中や待ち時間の間に、俺はハテナさんに質問された事を答えていく。
「なるほど、【悪魔】は千差万別と言ったが、姿形はどんなものが居た?」
「本当に色んなって感じだな。動物とか虫とか魚類とかもそうだけど、鉄線を捻じって作ったようなやつから、カーテンの体に月みたいなのが乗っかっているのとかも居た」
「ふむ、虫や動物というのは地球で見られる生物に近しいものかい?」
「そうだね。ただ部分的に違ったりとか、全く一緒って感じじゃなかったよ」
「……その【悪魔】たちであるが、手とか足とか体格の構造など、何処か1部分でも人に近しいものはあったかい?」
「あー、どうなんだろう。そう言われるならそうといった感じかな?」
【地獄】に居た事を思い出すが、全部が全部あったかと言えば分からない。
ただ、そうだな。オルカはシャチと人間を足して2で割って丸っこくしたような姿で、他にも付き合いがあった【悪魔】たちを思い出すと、確かに全員が人っぽい部分を持っていた気がする。
……みんな元気かな。再会出来たらしたいけど、自分から呼ぶために動こうっていうのも違うと思うしなぁ……。
「ふむ、こちらの世界の生物と類似点が多く見られる。それも人間の特徴が必ずしもあるなら、元から人間を象られた存在? そもそも【悪魔】非人間要素からしても、こちら側との繋がりの可能性……となると召喚された意味も偶発的なものではなく――」
「……これって声を掛けていいやつ?」
「しないと、ずっとこうだよ」
「ハテナさん、悪いけどこのまま放置だけは勘弁してくれ」
というわけで、声を掛けて正気に戻ってもらう。
「いやぁ、すまないね。美人さんは何よりも研究が大好きなのさ。さてCT検査の予約は午後からのしか取れなかったから、先に運動機能のデータを取らせてもらってもいいかい?」
「大丈夫、ただお昼は食べたいかな?」
「了解した。時間になったらいったん休憩にしよう。ただしうっかり過ぎてしまう可能性が97%あるから気をつけてくれ、美人さんは時間に弱い!」
「
「あ、はい、分かりました」
再びヒバリさんの案内で、別の場所へと移動する。
そのさい、ミサキちゃんの様子を確認するが普段通りと行った感じで、とりあえず大丈夫そうだと安堵する。
陰陽師【悪魔】:短編 リヒトside ⑥⑦⑧⑨
⑥
「ナコ。これ」
「ん? あ! 私のスマホだ!」
「オ――ヤマトから返してもらいました。動画はこっちでコピーしたよ、ありがとうだって」
「まあ、なんとなく思っていたけど、ちゃんと返してくれるんだな……良かったなナコ。」
「うん……うーんでも、私のスマホってマリカより型が古くて最近読み込みとか遅いんだよね……これからも動画とかはマリカのスマホで見ていい?」
「別に良いけど、今日から使ったデータ通信量分、借金増やすからな」
「うっ! か、稼いで新しいスマホ買えるよう頑張ります……」
「ったく……それで、私たちが襲われた日。東京のそこら中で『人外存在』が出たらしい」
「うん、ネットニュースで見たけど、被害も結構でたんだよね……」
「ああ、特にデパートなんて、十体以上でたって話だ。まあ、そっちはたまたま陰陽師が居たから怪我人も出なかったみたいだけど」
「デパート……」
「ん? どうした?」
「いえ、なんでもないです。話を続けてください」
「そうか? まあでだ、この『人外存在』を出す箱。〈
「え? あれ売り物なの!?」
「おう、特定班が言うには原宿で売られている可能性が高いっぽい」
「そんな事も分かるんですね……インターネット、聞く以上に便利ですね」
「慣れてないと嘘とかすぐ信じちゃいそうになるけどね」
「つーわけで、明日にでも原宿に行って情報集めをしようと思うんだけどいいか?」
「自分は構いません」
「私も! でも、売られていたのって随分前のことじゃないの?」
「そうなんだろうけど、今のところ他に情報得られそうな物も無さそうだしな。ダメ元で行ってもいいだろ」
「それもそっか」
「よしじゃあ行くか原宿……そういえば金どれくらい持ってる? 私は1700円」
「2万4000ほどですかね」
「えっとぉ……マイナス1万4000円かな!」
「シゼレアで喰いすぎなんだよナコ! あそこで万越えるとか相当だぞ!?」
「ひーん、だってぇ!」
「ったく、全部合わせても1万1700円……これじゃあ1日ぐらいしか滞在できないな」
「原宿で、バイトを探しながら情報集めはできないんですか?」
「うーん、原宿で何回か日雇いバイトしたことあるけど悪魔の子ってなると、あんまりいい仕事無いんだよな」
「必ず悪魔の子じゃないって証明書提示してくれって言うしね」
「あと本当カスばっか。バイト代半分しか出してこないとかもあったし」
「警察も頼りないというか、地元の味方だし……」
「……あちらでお金を稼ぐのは止めたほうがいいですね……それこそオヤジから借りてきますか?」
「オヤジ? リーくんのお父さん?」
「……すいません。ヤマトにです」
「お前、なんかいつもいい間違えそうになるなって思ってたけど、あいつのことオヤジって言ってたの?」
「……まあ、はい」
「マリカ」
「あ、いや悪い。べつに何がって訳じゃないんだ。ただそうなんだなってだけで」
「いえ、別に気にしていませんよ」
「……【悪魔】さんって、リー君の保護者的な?」
「おい、私に注意したの何だったんだよ!?」
「だってぇ! 保護者だったらいつかお義父さんって呼ぶ日が来るかもって思ったら気になって~」
「気がはぇよ……」
「そうですね……保護者的な感じだと思って頂けたら」
「止め止め! こういうのは無しだ! ……まあ、もう呼んじまったしこれからは言いやすい方でいいんじゃね?」
「……はい。それで、オヤジに事情を話して追加の活動資金を貰ったほうがいいかと」
「うーんまあ、貰えるなら欲しいけど……それで何も見つからなかったらと思うとなぁ、なんかありそうじゃね
?」
「そんな事はないと……もしかしたらあるかも知れませんね」
「どっちだよ」
「じゃあさ。とりあえず今あるお金で原宿に行って情報集めて、それでダメそうだったら【悪魔】さんに相談してみない?」
「そうするか、リヒトもそれでいいか?」
「了解しました」
「といっても移動代、食費代、宿泊代を考えると1日だけになりそうだな」
「マリカ、ご飯だけは原宿っぽいの食べない?」
「別に良いけど喰いすぎんなよな」
「わ、分かってるよぉ」
「原宿にはどんなものが売っているんです?」
「え、全然知らない。なんかクレープとかパンケーキとかなんかオシャレなやつ?」
「……行く前にちゃんと調べましょうか」
色々と悩んだ結果。マリカが久しぶりにラーメンを食べたいと口にした事で、原宿ではヤサイニンニクアブラマシマシのラーメンを食べる事となった。
なお、リヒトとマリカが残したラーメンは汁も含めて全てナコが平らげた。
⑦
「――これで三体目……」
原宿の街にて、〈
リヒトはブレイダー・シャドウへと変身して、それを倒すこと連続3回目。
4体目な来なさそうだと、周囲を見れば野次馬たちが自分に向かってスマホのカメラを向けている。
流石に目立ちすぎたなと、リヒトは強化された身体能力で颯爽とその場を去り、人目が居なくなった路地裏へと入ったタイミングで変身を解除。そのまま人混みへと紛れながらマリカたちへと合流した。
「お待たせしました」
「リーくん! 怪我ない? 大丈夫だった?」
「流石にもう居ねぇよな……」
「はい、どうやら3体で打ち止めなようです。避難誘導をしてもらってありがとうございました」
「えへへ! コレぐらいしか出来ないけど任せて!」
「つっても途中から野次馬たちが近づき出してヒヤヒヤしたけどな。ったく緊張感の無い奴らだぜ」
「それにしても3体連続で現れたのを見るに、〈
「え、そうなの!?」
「おそらく3体は別々の場所に放つ予定だったのが、自分に倒されたのを見て慌てて箱から出した……」
リヒトは偶然、フードで顔を隠した男性を見つける。
かなり苛立っており、地団駄を踏んでいたかと思えば、リヒトと目があったと思えば、その場を逃げるように立ち去った。
「ん? どうしたリヒト?」
「……見つけたかもしれません。追ってみます」
「え、あ、ちょ、リーくん!?」
明らかに怪しいと判断したリヒトは、その人物を追いかける。
「確かこの辺に……え?」
「おう、お探しものはこいつか?」
工場の廃墟に逃げ込んだのを見て、中まで追いかける。
すると、不審な男性が獰猛そうなガタイのいい男性に、胸ぐらを掴まれて気絶している光景を目撃する。
「こいつがさっきの『人外存在』で騒ぎを起こした犯人か? 呪力も無い普通の人間みたいだが……本当にそうなのか?」
「貴方は?」
「人に名前を聞く前に、まずは自分じゃないのか? ええ、ブレイダー・シャドウさんよ」
「……知っているみたいなので、わざわざ言わなくても良いんじゃないですかね?」
「はっ、ヒーローを気取っている癖に本名もまともに言えないのか? まあいい、俺はタガキ。てめぇの事を仕置きに来た――本物のブレイダーだよ」
タガキは陰陽札で拘束した犯人を放り投げると、コートの中から動物を模した面を取り出した。
「〈外装憑着(アーマー・ガゼル)〉」
顔に被った面は“仮面”と為り、“仮面”は“鎧”と為り、“鎧”を纏ったタガキはヒーローと為る。
「……ブレイダー?」
「ブレイダー・ガゼルだ。偽物野郎」
「待ってください。自分たちに戦う理由なんて……!」
「あるに決まってるだろ! それとも本気で分からないのか? はっ、だったら最悪だな、無自覚な悪ほどろくな奴は居ねぇ!」
「いったい何の話を……」
「お前、許可なくブレイダーを名乗って戦ってるだろ?」
「……いやその……」
「いいか? ブレイダーって名前には商標登録ってのがされていてな! 許可なく勝手に使っていいもんじゃねぇんだよ!」
「……本当に申し訳ありません。事が終わり次第改めて謝罪しに行きますので、いったんこの場は見逃してもらえるませんか?」
「はっ、信じられねぇな! それにてめぇも陰陽師なら覚悟を決めな! とっととボコって降板させてやるよ!」
「くっ! 〈影変身〉!」
リヒトは社会の難しさと、自分の浅はかさを思いながら、ブレイダー・シャドウへと変身。
ブレイダー・ガゼルとの戦闘が始まる。
⑧
――絶対に勝てない。
わずか2分足らずの攻防で、ブレイダー・シャドウことリヒトは実力の差というものを思い知らされる。
「オラァ!」
「ぐっ!?」
ブレイダー・ガゼルによる横腹を狙ったミドルキック。
なんとか腕でガードしたものの、強化されたパワーによって、リヒトは吹き飛ばされて地面へと転がる。
足音から、こっちへと迫ってくるのが分かったリヒトは、すぐに起き上がって不意打ちを繰り出す。
「甘ぇ!」
「ガハッ!?」
しかし、それを読んでいたと、ガゼルのパンチがリヒトの胴体にクリーンヒット、吹き飛ばされて背中を壁に打ち付ける。
ブレイダー・ガゼルはリヒトがどう対応するのか的確に読み切り、理詰めのように追い詰めていき、徐々にヒットを許していく。
圧倒的な技量の差。小細工は一切通用せず。勝てる策も思いつかない。
リヒトは全身に痛みを感じながらも立ち上がるが、どうしたものかと困り果てていた。
「……どうやって『布影』の衝撃吸収を?」
「ああ? ああ、そのアーマーのか。別に難しい事はしてねぇよ。空手にもある、中身に衝撃が伝わる打ち方をしているだけだ。ちなみに呪力は込めてないぜ」
「……ご厚意、痛み入ります」
「しかし小悪党だと思ったら、何度も立ち上がって折れねぇで抗ってきやがる。中々根性があるやつだ。正直言って見直したぜ」
「……ブレイダーを名乗ったのは勢いといいますか。素性を明かせない理由がありまして、とっさに出たものだっただけなので、後日必ず関係各所に謝罪に行きます。支払わなければならないお金が有るというなら絶対に払います。だから本当に今だけは見逃してもらえませんか?」
「……ふん、自分の事を何も言えないやつを見逃せるわけねぇだろ。いいから1回大人しく捕まれよ」
「……何も言えないのは、どう説明していいか分からない、信じられないような出生なもので……」
戸籍がない0歳児と言えるはずもなく、どうしたものかとリヒトは頭を捻るが、なにも思いつかなかった。
「……お前、悪魔の子なのか?」
「まあ、そうですね、悪魔の子(ガチ)です」
「……お前のやった事はSNSで見た。『人外存在』に命がけで立ち向かうなんて、戦える力があったとしても、そう出来るもんじゃねぇ」
「……ありがとうございます」
「だがな。この世の中、社会からはみ出した無責任な正義ほど怖いものはねぇ。いるんだよ、敵をボコボコにするヒーローには、ルールを守る責任ってやつがな! でなきゃガキたちに送る言葉が、全部薄っぺらい嘘になる! ……お前にどんな事情があるかは知らないが、まずは大人たちの前に連れて行ってからだっ!!」
「……その大人たちの中に、鬼灯家は居ますか?」
「はっ、本当に何も知らないんだな。俺は鬼灯の分家だよ」
「そうですか……すいません。貴方は真っ当な大人なんだと思います。ですが――本当に捕まるわけには行かなくなりました」
「ふん、だったら俺が担いで、連れてってやるよ」
ブレイダー・ガゼルは腰を低くして構えをとった。
なにかしらの強力な技を繰り出すつもりだと直ぐに分かったが、逃げられるような感じはしない。
先程から自分の動きを完全に読み切られている。必ずそれに合わせて直撃を与えてくる。
それなら、予想されるよりも先の1手を考えなければならないが、通用するとは思えない。
逃げる隙もない。リヒトは頭に思い浮かんだ手詰まりという言葉を消せなかった。
「――アー、困っているみたいじゃないかブラザー」
「っ!? どこから声が……!」
「あ? なんだ?」
「シッ! 相手にバレないように小声で話せ」
「……貴方はいったい?」
「アー、言っただろブラザーと、そうつまりオレたちは……お前より先に生まれた〈影鴉〉たちだ!」
「……本当の意味でブラザーでしたね……でも会った事ないのに、どうして自分の事を?」
「ファザーからお前の事を頼まれたのさ、だから、他の個体と交代しながら遠くからずっと見守っていたぜ!」
「……過保護ですね」
「おい、なに喋ってる?」
「すいません、あと1分ほど待って下さい」
「はっ? ……ちっ、なんだよ」
構えこそ解かないもののタガキは言われた通りに待つ。
逃げもせずに、立ち止まっている相手を不意打ちしたとあっては、ブレイダーの名前に傷を付けるという判断だからだ。
彼は陰陽師であり、タレントであり、子どもたちの尊敬されるべきヒーローでなければならないブレイダーであった。
「それで、助けてくれるんですかね? ブラザー?」
「アー、勿論だブラザー! オレたちが助けてやる!」
「たち? ……他にも何羽か居るんです?」
「アー! 20羽の〈影鴉〉たちが潜んでいる!」
「思ったより多い……それで、どう助けてくれるんですか?」
「アー、オレたちはカラスにして『布影』! ブラザーの着ている『布影』にオレたちが纏えば強化できる! きっとな!」
「確証は無いんですね……まあ、やるだけやってみましょうか――お願いします」
「承ったぜブラザー! いくぞお前らー!」
「「「「「「「「「「アー!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
物陰や隙間に潜んでいた二十羽の〈影鴉〉がリヒトへと集まり、アーマーへと一体化する。
その姿は黒でありながら、窓から差し込む陽の光に当たると青や紫に輝く鴉を模したものへと変わる。
「へぇ、格好いいじゃねぇか。強化フォームってやつだ。名前あんのか?」
「――ブレっ…………」
「……いいから名乗れよ! 歯に挟まったみたいで気になって仕方ねぇ!」
「ありがとうございます――ブレイダー・シャドウレイヴンズ!」
「いいじゃねぇか。シンプルで男心を掴む名前だ。俺に勝てるかどうかは別だがなっ!」
「行きます!」
ブレイダー・シャドウレイヴンズとブレイダー・ガゼルが激突する。
リヒトは、自分のしてしまった悪い事から逃げるために戦っている事に、ずっと罪の意識がある。
だがそれとは別に、ブレイダー・ガゼルに対してある気持ちが宿っていた。
――この男に勝ってみたい。
いまリヒトを動かしているのは、きっと探せば何処にでも有るような。
年頃の青少年が持つ、ライバル心であった。
⑨
「リーくん。もう大丈夫?」
「はい、ありがとうございます。ナコが看病してくれたおかげで調子が戻ってきました」
「そ、そう? でも私がやったことなんて腫れていた所を冷やしたり、ご飯を買ってきたくらいで……」
「そのおかげで回復が早くなったのは間違いないかと。本当にありがとう」
「……うん!」
「にしても、あのブレイダー・ガゼルと戦う事になるなんてな。なんか陰陽師の紹介動画によると本名は屑星タガキ、元『七星』で、38歳の今でも戦闘の実力はトップレベルだってさ」
「そんな相手に勝つなんて凄いよ!」
「いえ、自分は全力を 出したのに、彼はかなり手加減していました……きっと技だってあったのに、それをひとつも使わなかった……隙を見て運よく逃げる事が出来ただけです」
「そっか、やっぱり強かったんだな。つーかなんでブレイダー・ガゼルと戦う事になったんだ?」
「ま、まさかリーくん……悪者だったの?」
「あー、確かに詐欺とかやってそうだなと思ったけど本当に……冗談だよ、そんな切ない顔するなって」
「……少し無責任な事をしてしまっただけです。事が終わり次第謝りに行きます……そのさい 多額の借金を背負うハメになるかもしれませんが……」
「え!? ……お、お金はないけど、その時は私たちも一緒に頭を下げに行くよ!」
「私も!? ま、まあ許されるかは分かんないけど、あっちがガチヒーローだし、謝りには行ったほうがいいよな。お詫びの品って買ったこと無いけど、甘い物でいいのか?」
「私もそういうの買ったこと無いから分かんない。というか考えすらしなかった。マリカってそういう所ちゃんとしてるよね」
「謝罪は誠意が大事ってな。アニメや漫画で習ったぜ」
「そうなの? 私も動画やSNSだけじゃなくてアニメ見ようかな……」
「――悔しいなぁ」
「リーくん?」
「あ、すいません……聞こえてましたか?」
「う、うん」
「バカ、こういう男の呟きは聞こえないふりをするんだよ!」
「あ、やっぱなんでもないよっ!」
「……相手の方が強さも、技も、経験も遥かに上でした。勝てない相手でした……それでも、負けたくなかったです」
「なんつーか、リヒトも男の子なんだな~」
「格好いいっ!」
「ナコはともかくとして、勝ちたいってなら、特訓とかしないとじゃないか?」
「特訓ですか……そうですね。ちょっとやってみようと思います」
「おー、その時は相談に乗るから任せてくれ。バトル漫画とか筋トレ配信者とか色々と見てるぜ!」
「今度オススメ教えてください」
「わ、私もえっとえっと……お水持ってきたり、怪我したら治療するね!」
「はい、その時はよろしくお願いします」
「え、えへへ……」
「ナコ?」
「ううん、なんでもない! そ、それより犯人見つけたのに残念だったね」
「現場に空箱が落ちてるかと思ったけど、それも無かったしな。やっぱり使ったら消えるのかもしれない」
「いえ、収穫はありました」
「え、マジ?」
「はい、戦っている最中に〈影鴉〉が犯人からひとつ拝借してきました。それがコレです」
「お前! ……本当にヒーローに言い訳できない事してんな」
「それはまあ、はい……とにかく、これが望んだ情報を得られるものになるかは分かりませんが、明日の朝、1度オヤジに渡しに行きます」
光に当たっていない筈なのに極彩色に輝く、手の平サイズの正方形の箱。
怪異が中に閉じ込めてある〈
明日の朝オヤジに渡しに行こうと、リヒトは生まれて初めての疲労を感じつつ休むことにした。