陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
続いてやってきたのは、やたら頑丈そうな材質で覆われた広い室内だった。
二階に当たる位置に窓からこちらを見下ろせる管制室があって、ここに案内された時、アニメの登場人物が戦闘訓練とかデータを取る時に使う部屋って実在するんだって最初に思った。
管制室にはハテナさんたちがおり、手を振るうとミサキちゃんと
≪――あー、聞こえるかい?≫
「ちゃんと聞こえるよ」
≪よし、ではこれから身体測定を行うのだが、本来であれば最初は走ってもらったり、飛んでもらったりなどして運動能力、ヤマト君は肉体を変化させて数値を自在に変えられるからね。数字を出した所でどうにもならない所がある。だから、今回は【悪魔】はどれぐらい強いのかというものを見せて欲しい≫
「分かった」
≪ちなみにだけど、ヤマト君は【悪魔】の中でどれぐらい強いんだい?≫
「どうだろう、【悪魔】って本当に色んな奴がいるから一概には言えないけど……中の下ぐらいか?」
能力だけで言えば俺は【悪魔】の中でも弱い方だとは思う。謙虚でも何でもなく、今まで戦ってきた経験則からの結論。
それでも殺されなかったし、殺し続ける事が出来たのは、前世の記憶があったから『布影』の応用能力を発揮出来たからに過ぎない。
≪ふむ、まだ君の強さを知らないからなんとも言えないが、美人さんとしては中間ぐらいの実力であるなら基準になりそうで、とてもありがたいね≫
「といっても【悪魔】で全く同じってのは見たことがないから、俺がどれだけ参考になるかは分からないよ」
≪私に勝ったんだから、ヤマトは強いよ≫
≪なんと! あのヒバリに勝ったのかい!?≫
「いや、あれは罠に嵌めたって感じだから【悪魔】の強さって言われると違うじゃないかな……」
ヒバリさんの時は、どちらかと言えば人間の強さと呼べるものな気がする。
≪それで、私が相手すればいいの?≫
≪だったら管制室へと連れてきていないよ。というか本殿の運動施設の使用を全面禁止にされているの忘れているだろ?≫
≪えっ!? そうなんですか!? い、いったい何したのお姉ちゃん?≫
≪……半分消し飛ばしたやつ?≫
≪それもあると思うが、やはり第七運動所を厄介な呪いで汚染したのは不味かったな≫
≪お姉ちゃんが本当にすいません!≫
≪なに、そうしなければ本殿自体が危険に見舞われていた。ヒバリがやった事は大多数を救った行為と称賛されるものだよ。だから使用禁止も形式的な部分が多く、そろそろ解除されると思うよ≫
≪そ、そうだったんですね……良かった≫
≪ちなみに桜間次女は厳重警戒対象と認定されているし、三女は本殿出禁になってる≫
≪本当にお姉ちゃんたちがすいません!≫
まだ見たことない、
≪では始めるようか、〈
俺の眼の前に、無数の小さなひし形の物体が現れては形を作っていき、成人男性ほどの人形が現れた。
何処かで見たこと有ると思ったらあれだ、PS1とか64とか大昔で見たカクカクしたキャラクターみたいなんだ。
たしかアレってポリゴンって言うんだっけ?
「これってハテナさんの陰陽術?」
≪そうだよ。その身に受けた衝撃を超精密にデータ化してくれる人形だと思ってくれればいい。ちなみに私のオリジナルであり最高傑作という事を自慢させてもらおう!≫
「正確なデータを取れる人形が最高傑作。なんていうか研究者っぽいね」
≪最高の褒め言葉だよ。さて、ヤマト君の好きなタイミングで、遠慮せず蹴るなり殴るなりしてくれ≫
「なら、遠慮なく」
勢いよくポリゴン人形をぶん殴ると、勢いよく吹き飛んで壁へと激突。
細かなひし形の結晶の山となったかと思えば逆再生されたかのように、すぐ人型へと戻った。
「うわっ、なんか楽しいぞこれ」
≪気に入ってくれたなら何よりさ……ふむ、パンチ力は鬼ほどというものではないが、十分人外の領域だね≫
「どれくらいなんだ?」
≪そうだね。車を側面から殴って吹き飛ばせるほどかな≫
なんとなく分かっていたけど、人間を殴ったら穴出来ちゃうな。
戦っている間は手加減できるか分からんないし、これからも人間相手は『布影』を中心に立ち回った方がいいか。
≪スズメからパンチ一発で青鬼倒したって聞いたけど、今のがそうなの?≫
≪鬼を一撃で!? それは本当かい?≫
「いや、あれは通常打撃じゃなくて『布影』を使った技みたいなもんだけど、したほうがいいか?」
≪是非ともデータを取らせてくれ!≫
「よし、じゃあやってみるか――〈
俺もアレがどれくらいの威力なのか知りたくて、ノリノリで承諾する。
『布影』を右腕に集めて
実は先端が丸みを帯びているタイプ。【悪魔】の体って貫通しても致命傷になりにくいので、衝撃で粉砕させると実益を意識した感じだ。
「どっせーのっ!」
ポリゴン人形に拳が触れた瞬間、杭が射出される。
ドゴーーーーーーーン!!
出しては行けない爆音と共にポリゴン人形は吹き飛び壁に激突、爆発四散。
あまりの衝撃に幾つかの破片が壁にめり込んでおり、再生する様子を見せない。
……スピーカーの沈黙が痛い。
「あー、これって出禁?」
≪い、いや反応が遅れてすまない、とんでもない数字が出たので驚きのあまり固まってしまっていた。アバターも術としての機能を失っただけで、また作り直せば良いし、壁に関しても、あれぐらいなら何時もの事だから気にしなくて良い≫
「良かった~……それで、どれくらいの数値が出たんだ?」
≪そうだねぇ、ココまで来ると例えるにしても難しいのだけど……戦車ならパンチ一発で倒せるんじゃないかな?≫
「戦車一発……とんでもねぇ」
もう対戦車ミサイルじゃん。
これって、そんなに威力があったの? あんな老朽化が進んでいる廃墟でやっちゃいけなかったやつじゃない?
≪とはいえ、あくまでも分かりやすいものに例えたのであって、数値的にはもっと硬いものだって壊せるとは思うよ……それに肉体を変化出来るってことは、より強い一撃にする事だって可能だろう?≫
「そうだね。やろうと思えばもっと強く打てると思う」
それこそ〈
≪うーむ、こうなってくると数値は大して意味をなさなくなるな……内容を変えてもいいかい?≫
「おう、何時でもいいよ~」
――それから、ハテナさんに言われるがまま、色んな方法で戦闘データ収集していく。
標的に『布影』を伸ばして攻撃する内容では、視界で認識していれば自動で狙ってくれるが、実は結構な誤差がある事を知り。
『布影』で相手を飲み込む内容では、接触面が部分的だと速度は必ず一定であるが、全体で包むように飲み込めば時間を短縮するという仕組みを知り。
通常のキックだとパンチが全く同じ威力だという事を知る。
今までなんとなくしか把握出来ていなかった事。まったく気が付かなかったものなどが明確に数値化されたり、言葉になったりして結構面白い。
≪ん? これは……≫
「ん? なにかトラブル?」
≪おっと、マイクに入ってしまったか、いやなに、普通であれば出るはずのない数値が出ている事に気付いてね≫
「数値?」
≪ふむ、本来であれば術のエラーでも疑うのだけど……これは『布影』の方から……?≫
「な、なに? 結構怖いやつ?」
≪いや、そういうわけじゃないんだが……これに関しては検証してみないと予想すら口に出来ないものだから、今は秘密という事で勘弁してくれ≫
どうやら普通とは違う数値が出たみたいだが、それが何であるかは教えてくれなかった。
意味深くて気になるけど、専門家が言わないと判断したなら、それに従った方がいいだろう。
≪さて、次は……≫
≪あ、あの……もうそろそろお昼なので、いったん休憩しませんか?≫
≪おや、もうそんな時間かい? やはり時が経つのは早いね。うーむ。あと二項目ほどすればキリが良くなるから、それまで待ってくれないか?≫
≪ミサキがお腹空いたので駄目≫
≪おっと、お姉ちゃんストップが入ってしまったな。美人さんは健康と命は大事にしたいタイプだ。ここは素直に従うとしよう≫
『布影』の中に仕舞ってあったスマホを見れば、確かにもうすぐでお昼の12時だ。
色んな事が知れて楽しかったからか、俺も時間を忘れていたな。
≪昼食後はヤマト君の【権能】……『布影』について調べてみようか≫
「分かった……そういえば、ここの食堂に美味しい中華そばが有るって聞いたけけど、本当?」
≪すまない。私は食事にあまり興味が無くてね、何時もは健康補助食品で済ませているから、食堂は滅多に行かないんだ≫
≪――――ぇ≫
あ、ミサキちゃんの信じられないみたいな声が聞こえた。
なんだか、ちゃんと食べるのが好きになっているのが分かって嬉しくなった。
「そっか、じゃあコレを機会に食べない?」
≪貴方のお誘いなら是非に。それに【悪魔】がどんな風に食べるのか気になるしね≫
「まあ、人とそんな変わらないと思うけど好きに見てくれ」
≪感謝する、それと夕食後は【悪魔】と【地獄】に関して詳しく聞いて、それを踏まえて翌日になったら、改めてデータ取りをしようか、それと今日は出来なかったCTRスキャンもやれるだろう≫
「わか――待て待て待て! 今日は夕方には帰るからね?」
≪駄目だ帰さないっ!! しばらくは私と一緒に過ごしてもらうっ!≫
「思ったよりも熱い言葉が返ってきたな……」
≪本性表したね≫
どうやら、今まで冷静な感じだったのは我慢していただけだったらしい。
熱心に調べてくれるのはありがたいけど、流石に何日も続けて、ずっと調べられるのはな。マジでいつ帰れるか分からないから、しっかりと断らないとな。
≪呪力も妖力もない【悪魔】というものは、私たちにとって極めて未知の存在だ。半日調べてすぐに分かるものではないし、なにより気になって眠れずお肌に悪すぎる。それなら起きて調べたいと思うのが人間というものさ!≫
「そうだろうなって思ってるから、逆にすぐに分からなくて良いかなって」
≪……ここの食堂は結構ラインナップが豊富らしいよ≫
「あまり詳しくない事で、【悪魔】を釣ろうとするな」
≪……ミサキちゃん、お姉さんが何でも好きなものを奢って上げるよ≫
「契約主を誘惑するな」
≪むぅ……≫
ふくれっ面になって、こっちを見たって駄目です。
実のところ明日は用事が決まっていないから、今日1日だけなら泊まっても……いや
≪あ、あの、いったん『布影』の一部だけを渡して、しばらくはそれを調べてもらうというのは?≫
≪なんだって? そんな事ができるのか? だったら是非そうしてくれ!≫
「それで良かったのか……」
思えば『布影』を切り離すところ、ハテナさんに見せたこと無かったな。どうにも認識のすれ違いみたいなのが起きていたようだ。
「今日来た本題なんだけど、俺は『布影』を使って遠いところに一瞬で移動できるんだ。それを人間が使っても問題ないのかを知りたい」
≪空間移動も出来るのか? それはなんというか、とんでもないな。ただ人間となると陰陽術、『人外存在』の力、両方とも現時点で成功したという事例は存在しない。ゆえに極めて難しいと言わざるを得ないが……≫
≪……ヤマト様、隣どうしたの?≫
「隣?」
ヒバリさんの声のままに、隣を確認すると。そこには『布影』が浮かび上がっていた。
これって〈影の門〉か?
え? 俺出した覚えないぞ、いったいなんで……あ。
「――オヤジ、ちょっと良いかってなんですかね、ここ?」
「……リヒト、ちょっとあっちを見てくれ」
「あっち……あ」
案の定、〈影の門〉からリヒトが現れる。
最初は気付いていなかったけど、管制室からこちらを見下ろすハテナさんたちを見て、ピシッと固まったかと思えば、くるりと背中を見せる。
「出直します」
≪おっと! どうやら君はヤマト君となにやら関係があるご様子! お茶を出すからゆっくりしてってくれたまえ!≫
「いえ、待っている人がいるので、お構いなく」
≪人間も使えるじゃん。じゃあ私と真銘契約をして使わせて≫
≪リヒトお兄ちゃん≫
≪あ、あの方が以前聞いたリヒトさんなんですね……なんだかミサキちゃんに似ているような≫
ああもう、一気に場が
「待ってくれリヒト、どうしたんだ急に、なにか用事か?」
「……まあ用事なんですけど、あれいいんですかね?」
「とりあえずはスルーで」
「……いいんですかね」
良いか悪いかって言われたら、多分悪いけど、仕方ないってやつ。
せめてリヒトの事は
「まあまあ、それで用事ってなんだ?」
「これを手に入れたんで持ってきたんです」
そういってリヒトに渡されたのは、ちょうどリヒトの手の平に収まるぐらいの正方形の箱。光の角度で色がわかる暗い玉虫色で、なんとも言えない気色悪さが出ている。
「これは?」
「話に聞く〈
「〈
リヒトが持ってきてくれたのは、デパートの犯人から聞いた〈
デパート内ではそういった箱は一切見つからなくて、調査が難航していると
「未開封って中に『人外存在』が居るのか……?」
「分かりませんが、ただ名前を呼ぶだけでは起動しないようですね。昨日、原宿に行った『人外存在』に人を襲わせている犯人を見つけまして、その人物から回収しました」
「……回収って。危ないことしたのか?」
「まあ……オヤジから貰った『布影』や、〈
「それなら言いんだけど、あまり無茶すんなよ」
生んでしまった以上は親面するけど、最近治安が悪いから心配であると同時に、ちゃんとその場を切り抜けられたし、こうして〈
「出来の良い息子を持てて誇らしいよ」
「…………」
「あ、何かのハラスメントに抵触する感じ?」
「いえ……それで、これは手掛かりになりますかね? 正直言えば鬼灯家と関係あるかは分かんないので、空振りの可能性はあります」
「直接かは分からないけど、何かしらの手掛かりになるんじゃないかな。本当に大手柄だよ。問題はこの手掛かりをどうすればいいのか、俺にはちっとも分からないって事だが」
「なんとなく、そうなんじゃないかとは」
出来る息子に比べて、俺は竹蟹を1度に沢山駆除できるだけの【悪魔】です……しかも、最後にやらかすタイプ。
≪――ふむ? その箱はもしや最近東京都内を騒がしている、『人外存在』を封印したものの実物か?≫
「知ってるのか?」
≪最近宮内庁の
≪……なんだかこれ、ハテナとどっかで見たことある気がする≫
≪美人さんとかい? ふむ、少なくともここ数年、こういった封印箱を見た記憶は無い気がするが……≫
箱を見たヒバリさんが首を傾げる。
ハテナさんと一緒に見たことあるって言うのが、なんだか引っかかるな。
≪いつだったっけ、だいぶ昔……≫
≪――そうだ思い出した。あれは十二年前、東京北陰陽師学校の研究室で似たようなのを見たんだ。確かあれも『人外存在』を安定して封じ込める最小の封印箱として注目を浴びていたが、望んだ耐久性を獲得できずに頓挫した物だったはず≫
≪あ、アレか、私も思い出した……でもアレを作っていたのって桔梗家の陰陽師じゃなかったっけ?≫
≪そう、この箱を作っていた人物は桔梗家の者だったが……今は確か鬼灯の分家に嫁いで、『七星』の
≪繋がったね≫
≪ああ、最悪な繋がり方をしたな≫
「……全部理解できたってわけじゃないけど、その学校に鬼灯家の手掛かりがあるかもって事でいいのか?」
≪そう捉えてもらっても構わないよ≫
どうやら、〈
「って陰陽師学校って事は、もしかして
≪わ、私が通っているのは東京“南”陰陽師学校なので違う学校です。それと、北は戦闘職を目指す学生たちが多く在籍しているので、鬼灯家関係者も多いと聞いています≫
「鬼灯家と深く縁があるわけだ」
≪学校は、よほど致命的な事件が表にでない限りは不透明性で言えば、日本でも随一だからね。研究するにしても、何かを行うにしても都合がいい土地だと言われれば、そうだろう≫
「……胸糞悪いな」
子供たちが将来のために学ぶ学校で、日本を乱世へと変えるための準備を進めているってか。
「……悪いけど、今日はここまででいいか? その学校今からこっそり調べてくるわ」
「それなら自分も行きますよ。ここまで関わった以上は、流石に気になりますからね」
「あっちはいいのか?」
「二人には今日帰るのは遅くなるかもとは言ってありますので」
「……分かった、それなら一緒に行くか」
ここで俺だけで向かうってのも、調べてくれたリヒトに不義理な気がして一緒に向かう事とする。
スマホに学校の名前を入力して検索。地図には掲載されているらしく、ちゃんと出た。
ここの近くに〈
どうやら居るって事らしい。
≪むっ……大変口惜しいが、なにやら事情がある様子、できれば引き止めたいが仕方ない……あ、でも『布影』の一部は置いていってくれ!≫
「はいはい、ここに置いとくよ~」
バスケットボールほどの大きさに切り離した『布影』を室内に置く。
「ミサキちゃんは、
≪わ、分かりました! もしなにか有れば電話してください!≫
≪ヤマト、リヒトお兄ちゃん……気をつけてね≫
「おう」
「……了解」
こちらに向かって手を降ってくれる
≪ちょっと待って、私も一緒に行く≫
「……ごめん、
≪え!? わ、分かりました……ヒバリお姉ちゃん、ここに居て?≫
≪ん、妹にそこまで言われたのなら仕方ない≫
恐らく人間も〈影の門〉使えるって思っているであろうヒバリさんが、こっちに来そうだったので、
今のうちに向かった方が良いだろうと、〈影の門〉を開いて、そそくさと移動してしまう。
――【悪魔】になって、学校とは縁がないとは思っていたが、まさかこんな形で行くことになるとはなぁ。
――――――――――
【あとがき】
リヒトの方で何があったかについては、近況ノートの短編を見てください。