陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、食事をするってよ。

 

 〈影鴉(かげからす)〉の視界から見えたのは、元は旅館だった廃墟で、高校生ぐらいの女の子が青色の化け物から逃げている所だった。

 

 女の子は随分と身軽な動きで逃げ回っている。見た目からして陰陽師っぽいし、陰陽術的なものによる身体強化でもしているのかな?

 しかし、青色の化け物は、建物を壊しながら速度を落とさずに、ずっと女の子を追い続けている。振り切れる様子はない。このままじゃ追いつかれるのも時間の問題だろう。

 

 さて、どうするかと悩む時間は一瞬だった。

 今にも死にそうな女の子から出た言葉は兄や姉といった家族への謝罪。それを聞いた時点で、助けるのはほぼ確定した。

 許せ、青色の化け物。お前が腹を空かせて今にも餓死しそうなだけの、善良な化け物だったとしても。

 【悪魔】だって性格が良い子の味方でありたいのだ。

 

 〈影鴉(かげからす)〉を通して、いつでも女の子の近くに転移可能。

 よし行くかと思った瞬間、脳みその無い頭の中に、悪魔的考えが浮かび上がった。

 

 ――助けるのはいいけどその代わり、あの子に色々と助けてもらおう。

 現状、家無し、金無し、朝ご飯も無し。守るもの有りな自分、利用できるものは利用しなければならない。

 特にミサキちゃんのご飯は、なんとしてでも確保したい。

 命を助けたら、たとえ【悪魔】でもお願い聞いてくれるよね。

 

 というわけで、しばらく見守った後。もう無理だってなった時に声を掛けました。

 失敗しないか、ものすごくハラハラしたので、こういう機会はこれっきりにしたい。

 

 ちなみに女の子、鈴明(スズメ)ちゃんとの会話中の黒い空間は、『布影』を雑に広げて作ったものである。

 その間、青色の化け物。この世界の青色の鬼っぽい妖怪は全身を『布影』で拘束。

 幸いにも、俺の力でも拘束できる程であったため、契約後は俺の実力をきちんと分かってもらうための悪魔的演出も兼ねて、〈魔杭拳(まこうけん)〉でトドメを刺した。

 

 まあ、青色の鬼だから最大火力を打ったのが主な理由なんだけど、どうやら、俺の知る奴と違ったみたいで、もっと安全に倒せば良かったと反省。最悪廃墟が倒壊して鈴明(スズメ)ちゃんに怪我させる所だったぜ。

 

 ――それから、2時間後ぐらい。

 俺たちが不法民泊している空き家に、鈴明(スズメ)ちゃんが、レジ袋を持ってやってきた。

 

「……ほ、本当にここで合ってるの?」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんは不安な様子で、案内してくれた〈影鴉(かげからす)〉に尋ねる。

 

 まあ、警戒して当然だよね。

 というわけで、俺から出迎えるとするか。

 登場の仕方はどうしよう。契約の時に派手にやったから、怖がられてもなんだ。普通に行こう。

 

「――いらっしゃ〜い。中に入っておいで~」

「ひえ……」

 

 玄関扉を開けて、部屋の中へと招いたら、滅茶苦茶怯えられた。

 うん、ごめんねブラックメタリックパワードスーツ、略してBMPな見た目で。

 命を刈り取る死神に見えてなければいいけど……。

 

 鈴明(スズメ)ちゃん。自分に選択肢はないと考えてたのか、震えながらも家の中へと入ってきてくれたので、ミサキちゃんが寝ている和室とは別の部屋。ソファが置いてある客間へと案内した。

 

「この家はヤマト様の……」

「違うよ。普通に不法侵入」

「スゥ……そう、なん、ですね……」

「日本には数時間前に来たばっかりだから、緊急事態について致し方なくね」

「うーん……まあ、平和的に解決をして頂けているのなら……」

鈴明(スズメ)ちゃん。結構話が分かるタイプだったんだね?」

 

 真面目な子に見えたから、法に反しているって嫌がられるかと思ったけど、思ったよりも反応が柔らかい。

 

 ちなみに先んじて埃やゴミなど最低限のものは『布影』で飲み込み済み。本当に便利な【権能】だ。

 というか飲み込んだやつどうしてるんだろう。なんか感覚的に中に残っていないんだよな。あんまり小さい奴だと飲み込んだ時点で跡形もなく消えているっぽい。自分の事ながら、まだまだ知らない事ばかりだ。

  

「ごめんね。明かりが無くて真っ暗で」

「い、いえ……あの、私のでよろしければライト使いますか?」

「お、マジ? じゃあお願いしてもいい?」

「分かりました」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんは巫女服の袖の中から、ヘッドライトを取り出した。

 

「これ、業務用のやつ?」

「はい。私たちは夜間活動が多いので、光源はしっかりと準備しないと」

「そっか……なんていうか、イメージ的にこういうの持ち歩かないと思ってた」

「えっと、大半の陰陽師は視覚補正を掛けるので持っていないですが……私の場合は才能が(とぼ)しく呪力が低いので、節約のために……」

「ん? ああいやいや、そういう話じゃないから、気にしないで! むしろゴメンね!」

 

 どうやら地雷を踏んでしまったようで申し訳ない。それにしてもライトみたいな科学道具を使うのは、陰陽師として才能が無い扱いになっちゃうのか?

 べつに夜間に活動するなら、何かあった時に持ち歩いても良いと思うんだけどな。

 

「じゃあ、ちょっと貸してもらってもいい?」

「あ、はい。充電もまだ数時間持つかと」

「おー、ありがとう」

 

 ライトを借り受けて、細い帯状に伸ばした『布影』に引っ掛けて天井まで上げる。

 それでスイッチをつければ、強めの光が、いい感じに部屋を明るくしてくれた。

 

「よし、いい感じだな」

「……あ、はい」

 

 帯状の『布影』を見て、色んな感情混じりの表情になる鈴明(スズメ)ちゃん。

 まあ、得体のしれないものを見たら、そうなるよね。ごめんね、いちいち謝っていたら話進まなそうだから、心の内にとどめておくけど。

 

「まあまあ、座って」

「わ、分かりました」

 

 俺がソファに座ると、鈴明(スズメ)ちゃんはガラス製の座卓を挟んだ対面上の床へと正座する。

 うーむ、ソファに座りなよって言うべきか迷う。見た目が和だから正座の方が慣れているのかもしれない。

 

「……あの、こちらがお求めになった対価の品となります」

 

 そう、実を言うと鈴明(スズメ)ちゃんが持っていたレジ袋が気になって落ち着かなかった。というかカラスを通して買ってくれたのを見た時から、ずっとソワソワしていた。

 本当は玄関で出会った時から貰いたかったが、契約の対価という建前を建てた以上は格好つけなければならないと思ったからだ。

 

「そうだな。じゃあ対価を貰おうかな」

「わ、分かりました」

 

 てっきり手渡しで来るかと思えば、鈴明(スズメ)ちゃんは懐から、座卓の上に綺麗な白布を敷くと、その上にレジ袋の中身を丁寧に置き出した。

 

 コンビニで買ってきたであろう、おにぎりが3つ。

 ペットボトルのお茶が二本。

 そして四角い紙袋に入れられたフライドチキン。

 

 それらを出し終えると、鈴明(スズメ)ちゃんは正座をしたまま後ろへと一歩分下がり、深々と俺に向かって頭を下げた。

 

「悪魔ヤマト様、此度(こたび)はこの身の命をお救い頂き。心より感謝申し上げます。お望みの物をお持ち致しましたので、どうかご納めください」

 

 ……なんか、もの凄く神様扱いされた。

 ソファに座らなかったのは、上座(かみざ)下座(しもざ)を気にしていたからみたい。

 どうしよう、確かに【悪魔】だけど、そんな大層なやつじゃないって誤解を解いておいた方がいい気はするけど……。

 いや、ちょっと待てよ?

 

鈴明(スズメ)ちゃんや」

「は、はい」

「俺は【悪魔】だから。そんな神様みたいな対応じゃなくて、もっとフランクに接してくれ」

 

 遠慮や謙遜が悪いわけではないが、敬ってくれているのならば利用しない手はない。そう考えて訂正はせずに要望を口にする。

 

「えっと……」

「まあ、いきなりそう言われても困るわな。まあ、俺に関しては人間同士のマナーぐらいでいいよ」

「わ、分かりました。頑張ってみます」

 

 実際どうするかは鈴明(スズメ)ちゃん次第であるが、少しだけ肩の力が抜けたように見える。

 鈴明(スズメ)ちゃんは悪い子じゃないと思うし、これから慣れて、気を使わないようになってくれたら嬉しいね。

 

「……じゃあ早速、食べていい?」

「あ、はい、どうぞ」

「それじゃ、頂きますわ」

 

 テーブルに並び立てられたコンビニ飯。まずは何を食べようか、なんて考えるよりも先に手が動き、紙袋を取った。

 こんなに小さかったっけ? 

 いや、俺の手がでかいのか。

 先っぽをつまんで引っ張る。切り取り線に沿って袋が綺麗に開いていき、四角いフライドチキンが顔を出した。

 

「これって、ファミチキか?」

「いえ、フミリカマートのフミチキですね……も、もしかして、違いましたか!?」

「……いや、これで間違いないよ」

 

 めっちゃ似てるけど違うやつ。

 いま初めて、ここが俺の知っている日本じゃないって心の底から理解できた気がする。

 でも同時に日本である事は間違いないんだなとも思った。だって、フライドチキンから漂ってくる香ばしい匂いが、記憶にあるものと同じだった。

 

「スゥーーーー」

 

 衣に顔を近づけて、思いっきり息を吸う。

 あくまで真似事のつもりだったけど、しっかりと揚げた鶏の匂いがした。

 

 嗅覚は元からあったが【地獄】では匂うものが無かったのか。

 それとも日本に召喚された事で、俺の体が変化したのか。

 どっちでもいい、この匂いをもう1度嗅げる日が来るのを、ずっと願っていた。

 腹に違和感が生まれる。これが空腹と呼べるものかは久しぶりすぎて自信が無い。

 

 ――食べよう。

 

 顔の下半分といっても過言ではない大きな口を開き、フライドチキンにかじり付いた。

 

 ――それだけで、あの味が、口いっぱいに広がった。

 

「……うまい」

 

 千年以上ぶりの食事。俺ってこんなに語彙力(ごいりょく)無かったんだな。

 ツナマヨおにぎりを袋から取り出して、丸ごと1個と残りのフライドチキンを口の中に放り込んだ。

 

 噛む。噛む噛む噛む噛む噛む噛む――限界まで噛んで、名残惜しくも飲んだ。

 

「……美味いなぁ」

 

 小さく震えた声がこぼれた。

 もっと叫ぶかと思ったけど、感動しすぎて、そうならなかった。

 理性が大袈裟なんじゃないかって言ってくるけど、こうなって当然だろ。

 【地獄】での長い時間。どうしても食い物を思い出してしまう事があった。

 記憶なんて無くなれと、床に何度も頭を打ち付けた。

 それでも、忘れる事ができなかったんだ。

 

 ほかほかの白米。サンドウィッチ。ハンバーガー。パスタ。ピザ。卵焼き、味噌汁、トンカツ、納豆、鍋、豆腐、漬け物、キムチ、ウインナー、ハム、餃子、寿司、天ぷら、唐揚げ、サンマ、鯖の味噌煮。

 

 他にもたくさんの、数え切れないほどの食い物を頭がおかしくなるほど思い出していた。

 それが全部、やっと食えるようになったんだ。

 きっと、涙が出る体だったら、号泣していたんだろうな。

 

「……ごちそうさまでした」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんに向かって、両手を合わせて感謝を伝える。

 残りのおにぎり2個と、お茶1本はミサキちゃんのものだ。

 本当なら食いたいが、そこは契約悪魔、主のためならちゃんと自制が効く。

 あー、遠慮せずにあと3個ずつは買ってきてもらえば良かったな。

 この体、思ったより食えそうだ。というか満腹になるのか?

 まあいいや。これから試す機会はいくらでもあるだろう。

 

「美味かった……マジで……」

「そ、それは良かったです……フライドチキンお好きなんですか?」

「いや、日本が好き」

「日本が!?」

 

 鈴明(スズメ)ちゃん、感情を隠すのが苦手なのか、結構派手に驚いてくれる。

 良い子だし、面白い子だ。いいご縁に恵まれたな。

 ありがとう日本の神様。いま口に出すとヤバそうなので心の中に留めるけど。

 

 あ〜、緑茶もうめぇ。見たこと無いパッケージだけど、すごく馴染みのあるお茶の味だ。

 

「あの、それで契約は……」

「ああ、じゃあ次のお願いなんだけど」

「あ、はい。え? ……ま、まだなにか」

「そりゃ流石に、命を助けた対価が1000円ちょっとじゃね。鈴明(スズメ)ちゃん的にも納得できない所があるんじゃない?」

「う……聞かれてた……」

 

 ふふふ、ちゃんと契約書の内容を読んでから確認しないと、こういう事があるからダメなんだよねぇ。

 まあ、契約書も無ければ命を盾にゴリ押ししたんから、鈴明(スズメ)ちゃんなんも悪くないけど。

 

「この見た目だから、外に買い物行けなくてね。申し訳ないけど生活の目処が立つまでは、日々のご飯がほしいんだ」

「わ、分かりました。それぐらいでしたら、なんとかできると思います」

「頼むよ……あー、あと良かったらなんだけど、栄養がつくものを持ってきて欲しい」

「栄養ですか……分かりました、考えてみます」

「よろしくね」

 

 ミサキちゃんは育ち盛りだと思うし、偏った食生活にさせるのはね。

 

「あと、これ対価とか関係なく聞きたい事なんだけど……陰陽師ってなに?」

「え……し、知らないんですか? 日本に詳しいので陰陽師についても知っているのかと……」

「まあね。それで簡単で良いから聞かせてくれない?」

「わ、わかりました、陰陽師というのは――」

 

 こうして、鈴明(スズメ)ちゃんから陰陽師の話を聞き。この日本が抱えている問題も知る事となる。

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