陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
〈影の門〉から転移した俺とリヒトは、人目に付かないように学校近くのビルの屋上にて話していた。
「――そういえば、
「そうですね……多分仲良くやれていると思いますよ」
「そっか」
なんて聞いてみたものの、実は
その時は漫画喫茶の三人部屋で特に会話する事無く全員が同じ漫画を見ながら寛いでいたのだが、
「ただ、強いて言うなら金欠で少し困っていますが、よほどの事がない限りはバイトで賄っていくので気にしないでください」
「ん、分かった。まあ〈
まだ確証こそないものの、大きな手掛かりには違いない。
俺からすれば元は適当なお願いを聞いてもらうだけで十分だったし、なんあらボーナスを上げてもいいぐらいとすら思っている。
まだ稼ぎが少ないので、それが出来ないのが辛いところ……ヒバリさんにお仕事貰う以外にも、早めに稼ぎ所探さないとな……子供すらまともに養う事ができない。
「……解散って事ですかね? 自分の場合はナコの契約によって同行していたと認識なんですが?」
「ん? ……あっ、いやいや。一緒に居るかどうかはリヒトたちに任せるよ! 俺が言いたかった事は情報集めとかはもうしなくていいよってこと!」
「……そうでしたか」
なにやら緊張した様子で言うので何事かと思ったが、どうやら
慌てて訂正すると、リヒトは表情こそ変わらないものの、明らかに安堵する。
「……もしかして、まだ3人で居たい?」
「……まあ、そうですね」
顔を背けるリヒト。もしかして照れてるのか?
それにしてもそっか、あの2人と一緒に居たいと思っているのが分かって、なんだか俺まで嬉しくなる。
リヒトはちゃんと生きた人間で、自分のしたいことを持っていると感じられたからかも知れない。
……なんか
うん、流石に我慢だな。こんど
「分かった。これからの事はリヒトのしたいようにしてくれ。勿論、2人の意思を確認とかしてね」
「……ありがとう、オヤジ」
「おう……〈
中継地点になる〈
「じゃあ段取り通りに、リヒトの背中にお邪魔します」
「親を背負うには、まだ早いと思ったんですけどね」
「背負うっていうのかこれ?」
学校内での情報集めにおいて、俺はリヒトの服に貼り付いて付いていく事にした。
最初は俺だけが『布影』の中に潜って見て回る予定だったが、それだと時間が掛かるかもしれないという事で、リヒトが同行を提案してくれる。
それで最終的に、俺が姿を隠していた方が何か有った時、こっそり行動ができるとなって、本殿に来た時と同じ形となった。
〈
「さて、鬼が出るか蛇が出るかだな」
「この世界だと本当に鬼が出そうで嫌ですね。現に【悪魔】が入りますし」
「むしろ鬼が出て欲しいから調べに行くんだけどな」
〈
――数千年ぶりの学校訪問。何が出るのやら。
+++
東京北陰陽師学校はネットに書かれてある情報によれば、主に戦闘系の授業に力を入れているらしく、その大半は鬼灯家に連なる陰陽師の卵が多く在籍しているとのこと。
ある意味では敵の陣地の真っ只中なものの、校舎外に出ている学生たちは穏やかに、それこそ学生らしくお昼の時間を過ごしており、少なくとも自衛隊や警察の学校みたいな厳格な雰囲気はあまり感じられない。
「とにかく適当に声を掛けますが良いですか?」
「任せる」
リヒトは躊躇いなく、真っ先に目に入ったからぐらいの軽快さで、女子グループに近づいた。
「すみません。ちょっといいですか?」
「あ、はい、え!?」
「うそっ! やば!」
「……わぁ」
声を掛けて、リヒトの顔を見た三人の女学生たちは、アイドルを見たかのような反応をする。
やっぱりうちの子はイケメンなようだ。
「あ、えっとすいません。何か用事でしょうか!?」
「実はこの箱を作った人を探してまして、この学校に居ると聞いてやってきたんですが知りませんか?」
「えっと……みんなどう?」
「分かんない」
「私も見たことないですね……でも凄い呪具、中には何が入ってるんですか?」
「それをちゃんと知るために、作った人を探している感じですかね」
『人外存在』が封印されているとは言いづらかったのか、リヒトは言葉を濁した。
どうやら女学生たちは〈
ヒバリさんとハテナさんが見たっていうのが10年以上前だって言うし、やっぱり今の学生とかは知らないか。
「あの、なにかヒントみたいなのないです!?」
「そうですね、確か……
「え!? 不曲!?」
名前を聞いた女子生徒は、手を限界まで伸ばして持っていた〈
他の子たちも嫌そうな反応をしており、不曲という名前に嫌悪感を持っていることだけは分かった。
「不曲って名前に心当たりが?」
リヒトは〈
「いや心当たりっていうか……不曲って『七星』のですよね?」
鬼灯の本家から選ばれた、7つの分家こと『七星』。
立場からすると陰陽師界隈は有名であり、憧れを抱きそうなものであるが、生徒たちの反応は憧れとは真逆の触れたくない忌むべき存在といった感じだ。
「不曲について、教えてもらってもいいですかね?」
「ひっ、イケメン……」
リヒトが顔を近づけて小声で話しかけると、黄色の悲鳴が上がる。
分かってやっているとしたら、とても優秀な子だ。
無自覚だったら、さすが【悪魔】の子だ。
「その、不曲家現当主様は、この学校で名誉教授でして、時々学校に来るんですけど、あんまり良い噂聞かないんです」
「授業もろくにしないですし、あと何ていうか私たちをバカにしている事を隠さないというか……」
「学校の運営費も『七星』を理由に好き勝手使っているって噂もある」
「その噂は別の家じゃなかったっけ?」
「今の『七星』全員に言えるんじゃない?」
この学校の生徒だから、鬼灯家とは何か関係がある子たちだろうに、いい話がひとつもない。
あくまで噂でしかないけども、廃墟になった体育館であった、あの貪波のクソの例もあるからなぁ。
「あんまり良い大人とは呼べないんですね」
「本当にそう! 他にも自分の作った呪具で人のこと平気で呪ったりもするって話ですよ!」
名前を聞いた途端、〈
まあ見るからに触っただけで呪われそうだもんな。それにこの世界だと、触れただけで呪ってくるものとか普通にあると思うから、俺が思うよりも何倍も怖いのかも知れない。もしそうだったら、申し訳ない事をした。
「実際、不曲教授に呼び出された子が……そのまま居なくなったりしてるから余計に……」
「あの子は、悪魔の子だって虐められたから転校したんじゃなかったっけ?」
「少なくとも黙って居なくなる子じゃなかったよ……」
「……辛い話をさせてしまったようで、すいません」
「あ、ううん、気にしないで! ……不曲教授の研究室はあそこの建物にあるけど……」
「分かりました。とりあえずそっちに行ってみようと思います。お昼に時間を取らせてすいませんでした」
「……あの! 気をつけてくださいね」
身を案じてくれる女子生徒にリヒトは手を振りながら別れて、人気のない所へと移動する。
「……それで、どうしますかね?」
「まずは俺が入ってみるよ。リヒトはどうする?」
「そうですね。こっちでも少し学校を回ってみようと思います。」
「大丈夫か?」
「ヤバかったら、遠慮なく〈影の門〉を使って逃げますので」
「分かった……余計な心配かもしれないけど、困ったときは遠慮なく呼んでくれよ?」
「オヤジこそ、あまり無茶な事しないでくださいね」
「おう」
俺が無茶をしないと行けない時って、よほどの事だよなと思いつつ、話を聞いていた時点で移動させていた〈
「ん? もう建物の中なのか? どうやって入ったんだか」
既に〈
陰陽術の方はどうなんだろうと思うが、呪力の波動みたいなのは感じない。
もしかしたら、俺が気付かないだけで感知する何かがあるかもと思ったが、考えたって仕方ないと、〈影の門〉を潜って俺も屋内へと入る。
「よし、ありがとな。今度チーズでも買ってやるよ」
「チュー!」
「ちゃんとチューって鳴くんだ……」
〈
ともあれ、これから何処に向かおうかと周囲を見やる。
近くに扉らしきものはなく、突き当たりはエレベーターが有り、反対方向は曲がり角で、どちらとも何処へ向かうのかはわからない。
「どっちに行こうかな……おっと」
悩んでいると、曲がり角の方から、こちらへと向かってくる音が聞こえてきた。
これは……台車を押す音か?
もしかして侵入したのがバレた?
なんにしても隠れないとな、〈
『布影』の中へと潜り、床を伝って天井へと移動する。
完全に塞いでしまうと外の様子が確認できないため、残した3センチほどの穴から覗き込む。
やってきたのは、何か長方形の鉄箱のようなものを台車で運んでいる男性。
二十代後半ぐらい、細いメガネを掛けた白衣姿の男性。
「――なにやら音がしたと思ったが……窓に仕掛けられた探知術も反応無し……気の所為の可能性大だな」
あぶね。どうやら術は窓のほうに仕掛けられていたようで、おそらく開けたり触れたりしたら感知するタイプだったんだろうな。
≪おい不曲、何を止まってるんだ! はやくボクを連れて行けよ!≫
やっぱり、この男が不曲で間違いないみたいだ。
というか、今の声って聞き覚えがあるのもそうだけど、あの台車に乗っている箱の中から聞こえなかったか?
≪それとも自分の不出来を隠すために、時間稼ぎでもしているのか!? そんな無駄な事を止めろよ! 良いから早く連れて行けよ!!≫
「やれやれ、いまこうして誰かの力を借りなければ移動する事すらままならないのに、よくもまあ強気に居られるものだ。素直に感心するよ――
貪波、体育館で出会った、あのクソか。
話の内容からして、あの箱の中に入ってるのか?
サイズからして、赤ん坊ぐらいしか入れなさそうだが、いったい中身はどうなってるんだ?
≪五月蝿い! クソっ! クソクソクソクソクソクソクソクソクソ!! みんなボクをバカにしやがって! あの【悪魔】さえ居なければ全て上手く行ったんだ! そ、それにボクを、貪波を偽物だってっ! ふざけるな、ふざけるな!! 今度会ったら殺す、絶対に殺してやるっ!!≫
予想は付いていたけど、だいぶ恨まれてるな。
このまま憤死してくれないかな。
「またそれか、いい加減飽きないものかね?」
≪五月蝿いっ!
「そんなお前を回収したのは誰だと思っている? あの処分場、いつの間にか
≪黙れ! 黙れ!! ボクをバカにするな! ボクの言う事だけ聞けばいいだろ! どいつもこいつも見下しやがって! ボクは『七星』の貪波! 先祖の誰もが出来なかった事をボクはやった天才だぞ!? なのに……それなのに――っ!≫
「着実に理性が少なくなり、感情的になっているか……やはり体の状態が影響していると考えるべきだろう、できればデータが欲しい所だ」
貪波の様子は明らかにおかしい。
単に性格がクソガキだと思っていたけど、何かあるのか?
≪あ、アレだ。アレと同じのが有れば、あの【悪魔】なんて簡単に――≫
「何度も言うが、“アレ”は
≪だから幾らでも払うって言ってるだろ!? ボクん
「金ではなく備蓄の話をしている。そんな事も分からなくなったのか?」
≪――お前、ボクをバカにしてるのか?≫
このまま殺し合って共倒れになってくんないかな。
「別にバカにはしていないさ。貪波の術は既にクラウド化して『七星』全員にシェアされてある。お前の価値なんて、今はもはや石ころにも等しい。今回だって本家の言葉が無ければ無視していた所だ」
≪い、いいいしししいいいししし石ころ!? 貪波が石ころだって!? こ、ここころ殺してやる! お前もいつか殺してやるぅ!!≫
お、いけいけー、やれやれー。
なんて内心で思っていたのだが残念ながら、都合の良い事にはならず。
不曲はエレベーターの中へ、貪波を押し込んだ。
どうやら不曲は乗らないようで、貪波だけを何処かへと送ろうとしている。
「後は勝手にしろ。私に荷物持ちを二度とさせるな」
≪おい! まだ話は終わってないぞ!! 逃げるな! おい!!≫
不曲が、その場を去ろうとする。
まだエレベーターは開いており、入るには絶好のチャンスだ。
「む?」
――あぶね!?
不曲が急に顔を上げて、俺が覗いていた箇所を見てきた。
いったいどうしてバレそうになったんだ? 偶然視界に入った黒い点がやけに気になったとか?
寸前の所で閉じたから気付かれなかったとは思うけど、なんにしても『布影』を閉ざしちゃったから外の様子がわからなくなった。
「そういえば、〈
〈
お手柄過ぎる。これは高いチーズを買ってやらないとな。
エレベーターの中へと移動すると、貪波は大きな声で恨み言を言い続けていた。
外から見れば、床に不自然な影のようなものが出来ていると思うが気づいた様子はない。それなら動かくてもいいだろう。
エレベーターが動き出す。どうやら地下に向かっているようだ。
いったい、この先がどうなっているのか分からないが、遠慮せずにお邪魔させて貰いますよっと。
+++
「……呪力、妖力は無し……確か報告に有った【悪魔】という存在は……まさか?」