陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
エレベーターが降りる中、長方形の箱の中に居ると思われる貪波はずっと恨み言を吐き続けた。
≪くそ、ちくしょう! どうして誰もボクを認めない、どうして邪魔ばかりする!? ボクは『七星』なんだぞ、蔑ろにしやがって! 他の七星なんて、どいつもこいつも歴史が浅く、外来だって居るじゃないか! なぜ最も古き家を尊ばない! 失敗を責められなきゃならないんだ! アレはボクの所為じゃないだろ!≫
自分以外の全てが妬ましい、恨めしい、憎らしいと言った感じだな。
こうして見ると、本当に楽しく無さそうだ。
やっぱり、なるべく平和で楽しくやっていきたいと心から思うわけよ。
エレベーターが止まり、扉が開かれる。
どうやら目的地に着いたようだ。結構時間掛かったけど、地下何階なんだ?
≪クソっ! クソっ!!≫
箱が入った台車が、ひとりでに動き出して部屋の中へと入っていく。
それ別に押さなくても良かったのか、それとも動かせる距離に限界があるのか。
さて、この地下空間にいったい何があるのやら。
なんにしても隠された何かがある場所なのは間違いない。
とりあえず今はスマホで部屋の動画を撮って退散するか。
下手に騒いだり、気付かれるような事をしてしまったらミサキちゃんの事が気付かれるかもだし、もしかしたら
『布影』の中で、カメラの動画機能を起動。
上半身を出し、部屋の中を確認する。
――――はぁ、
部屋は縦長で8畳ぐらい。四方の壁には無数の札が貼られており、祭壇の様な棚が設置されている、そして床には五芒星のマークが描かれていた。
見た目からしてホラーな雰囲気で気分が悪くなる。
そしてなによりも最悪なのは、その五芒星のマークの中央。ミサキちゃんが着ていたのと同じ白装束を着て、布で顔が隠されている子供が椅子に縛られていた。
いったい何をするつもりかは分からないけど、こういうホラー部屋で起こる事に良いやつなんてないだろう。
≪――くそっ、やっぱり粗悪品じゃないか!≫
「っ!?」
貪波が子供の前に止まった。
怒声に反応して、ビクッと子供が驚く。
≪アレの体だったらもっと強い『人外存在』を作れて、操って、【悪魔】も! 『七星』も! 気に入らないやつ全員皆殺しにできるのに!≫
「ン!? ンンっ、ンン~~!!」
≪
「ッ!」
子供に意識はあるようだが、口を何かで塞がれているらしく、まともに話せない。
貪波の怒鳴り声に怯えて静かになる。怖いのだろう、震えている。
≪クソ、クソクソ! もういい、どうせ気分はずっと最悪なんだ! 早く終わらせる!!≫
台車に乗った箱の
そう、中身が出てきた。
≪こんなクソ狭い箱に閉じ込めやがってっ! 絶対嫌がらせだろ、あの外来っ!≫
――“それ”の大きさは、椅子に座っているのと同じぐらい。
まるで、人間の脊柱のようなムカデ。
そのムカデから、貪波の声がした。
≪今からお前はね。貪波家が代々磨き上げてきた“存在を改める”秘術の生贄になるのさ。生贄って分かる? 人が鳥とか魚を食べて体の一部にするように、お前をボクの体の一部にするって事だよ≫
ムカデの体で、子供に巻き付き、耳元で囁く。
≪このボクの体こそ全てを支配する貪波の秘術そのもの! 人間に直接取り憑いて意のままに体を操る事ができる。つまりどういうことか分かるか? お前は今から生きたまま、死んでもずっとボクの人形になるって事だよ!≫
おぞましい術だな……。
それにしても体育館のミイラは、そういう事だったのか。
元々使っていた子供の体を捨てて、本体だけコッソリ逃げたってわけだ。
≪これからお前は、ボクの体の一部になるって訳さ。光栄に思うだろ? ――思えよ、生まれてきて良かったってっ! ほら、ほらぁ!!≫
「ンー!! ンンンーー!!」
≪逃げようとしても無駄だよ! それに逃げたって何処へ行くのさ!? お前は悪魔の子だから売られて、家畜として育てられて来たんだろ!? 出荷された家畜は後はどうなるかガキのお前だって想像ぐらいはできるだろ!! アハハハハ!!≫
怒鳴っていたのとは打って変わり、心底楽しそうな、笑い声が部屋の中に響く。
あまりにも慣れている。いつも体を入れ替える度にやってきたのだろう。
最期に出来るだけ怖がらせて、怯えさせて、泣かせて、震えさせて、絶望させて。
そうして殺してきたんだ。殺した死体を好きにしてきたんだ。
≪あの最高傑作の“三十六番”と比べれば、格下の劣化品だけど、仕方ないから代用品として使ってやるよ! ああ、ほんとボクってなんて優しいんだろうね! あははははははは!!≫
三十六。
聞き覚えのある。というか見覚えのある数字が出てきた。
俺が見たのは“三”と“六”であるが間違いないだろう。
だから分かった。こいつらが言っている“アレ”が“誰”なのか。
――ミサキちゃん。
なら、その子供もミサキちゃんと同じなのだろう。
儀式かなんだかの生贄にするために、人ではない何かとして育てられた悪魔の子。
違うのは、【悪魔】を召喚するためではなく、この
見た目も、性格も、やることも、最悪の人で無し。
だからそう、ラッキーだと思った。
「――よう、久しぶり」
≪あはははははは!! ──はえ?≫
――こいつが人間を捨てていたのは、本当にラッキーだ。
貪波の体を『布影』で固定して、手で頭を鷲掴みにする。
「俺はね。日本に来たとき、人間を殺さないって誓ってるんだ。だって殺す時も、殺した後も、絶対楽しくないだろうしね……でもね、人間を捨てた奴は例外でいいって思うわけ」
≪あ! おあおお、お前はお前はお前はぁ!? どうしてここにぃ!?≫
「さあ、お前の日頃の行いが悪かったから、誰かが祈ったんじゃない? ――地獄に落ちろってさ」
抵抗して逃げようとはするものの、そこまで力が無いらしい。
それに、この姿だと陰陽術とかも使えなさそうだ。子供の体に取り憑くのも、それが理由っぽそうだったしな。
「ごめん、しばらくだけ我慢していてくれ」
『布影』でドームを作り、子供を覆う。
これで外の音は聞こえないだろう、今から俺のする事は聞こえない方がいい。
長時間この状態が続くと酸欠になるかもしれないが、そこまで時間を掛けるつもりはない。
≪おい! おいぃ!! 今すぐ離せ! この、このっ! ボクを誰だと思ってる、貪波だ、貪波なんだぞ!?≫
「お前が今からどうなるのか、お優しい【悪魔】が説明してやるとね」
≪ふざけるな! そんなの聞くわけ無いだろ! いいから離せ、離せ離せ離せって、離せって言ってるだろ離せ!!≫
「お前は、そこら辺に居る虫のように――俺に握りつぶされるんだよ」
拘束から抜け出そうと暴れていた貪波がピタッと止まる。
≪はっ? そんなわけ……ふざけっ、ふざけるな!? ボクは貪波だぞ!? 『七星』だぞ!? ボクに手を出すって事はどうなるのか、お前わかってるのかあ!? 鬼灯家と敵対するって事だ! そうなればお終いなんだぞ!!?≫
「元からそのつもりなんだよ、こっちは」
指に力を込める。
あまり硬くは無さそうだ。
≪ま、待て止めろ、止まれ、止まれ、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないっ!!!≫
「――じゃあな虫。生まれ変わったら、今度は人間止めるなよ」
≪やめ――――≫
貪波の頭を握りつぶす。
簡単に潰れた。
手の隙間から、白い欠片以外にも、赤い“ゼリー”と液体が出てくる
なんだ、ちゃんと中身は詰まっていたのか。
「汚ったね」
このままだと子供に触れられないと、手についたものを『布影』に飲み込ませる。
本当に呆気なかったな。あの反応からして実は本体は別にあるって事は無いだろう。
なんにしても子供を解放しないとな。
「大丈夫か?」
「っ!?」
『布影』の防音壁を解除して声を掛けると、ものすごく驚く。
まあ、この子からしたら目隠しされているし、なにも音がしなくなったなと思ったら、知らない【悪魔】の声が聞こえて来たんだ。普通に驚くし、すごく怖いだろう。
「あー、そのなんだ……」
さて、なんて説明すればいいのやら。
オレ【悪魔】、イマカラキミヲタスケルヨ!
なんてストレートに言うのは普通に不味いよな……。
どうしたもんかと考えると、良さそうな理由を思いつく。
「……俺は桜間家の陰陽師の関係者で、ここの調査をしに来たんだ。そうしたら偶然、ここを発見してね。なりゆきになっちゃったけど――助けに来たよ」
申し訳ないけど、桜間の名前を使わせて貰う。この子が知っているかは分からないが、こうした方が話を進めやすい。
そしてこの子の処遇とかの諸々も、
ごめん、
間違いなく大変な事だけど、
でも連絡どうしよう、なるべく早いうちに伝えた方が良いとおもうけど……いまは緊急事態だし、敵陣地のど真ん中だし、この子と一緒に学校出てからの方がいいか。
「――助かるの?」
恐る恐る尋ねてくる。
まだ声変わり前っぽいが、どうやら男の子だったらしい。
「……ああ、よく頑張ったね」
「――グス」
俺の言葉を聞いて安心したのか、泣き始める。
なんだかミサキちゃんと比べて、普通の子供って感じだ。
……本当、お昼を抜いて来て良かったよ。でなかったら間に合わなかった。
「そういえば名前は? 俺はヤマト、よろしくね」
「あ、えっと……カイトです」
「そっか、じゃあカイト君。悪いんだけど、目隠しを外すのはちょっと待ってね」
どうしよう、俺を見ると絶対ビックリするよな。
〈影変身〉で人間の姿になるか?
でも、〈影変身〉の時に、ちゃんと戦う事ってできるのか分からないんだよな。微妙に着ぐるみを来ている感じがするし、体格や身長が変わるから
……警戒に越したことはないし、このままで居たほうが良いだろう。
「……あ、あの、聞いて欲しい事があります」
「ん? どうした?」
しばらく泣いて落ち着いたのか、カイト君は意を決したかのように話しかけてくる。
「ここに連れてこられた時、他にも沢山の人が居て……その人たちも助けてください!」
「……マジかよ」
そんな海外のマフィアみたいなことしてるのか鬼灯家。
「ま、マジです!」
「ああいやごめん、別に疑ったわけじゃなくてね。その人たちは檻かなんかに閉じ込められてるって思ってもいい?」
「はい、たくさんの檻があって、その中に1人ずつ入れられてました」
「何人ぐらい居たか分かる?」
「えっと……五人以上は居たと思います」
「結構多いな……あ、それとその子たちって悪魔の子か?」
「えっと……はい、全員かは分かりませんけど、話した人は悪魔の子でした」
そんなに人が居なくなれば、事件にでもなっていそうだと思ったけど。
それに学校内で消えた生徒の話から察するに、鬼灯家が何かしらの偽装をしている可能性もあるのか。
「お願いします!」
「……カイト君を助けるのは成り行きだからいいけど。何処かに捕まっている子供たちを助けるのは、全く別の話になっちゃうんだよね」
俺的には、このまま分かったって言いたいけど、世の中建前というのは大事である。
でないと、俺の大事にしている事が、段々と後回しになっちゃいそうだから。
そうなると、萎えて何もかも嫌になるかも知れないからね。
「……だから、カイト君。もし君が本当に、監禁されている子供たちを助けたいなら――契約をしよう」
「け、契約ですか?」
「うん、まあ君がやることは、たったひとつ……カイトくんの真銘を俺に教えてくれる事」
我ながら言い回しが、子供に詐欺行為を働いているみたいで、すんごい嫌。
緊急事態だから別に良いだろって思わないでもないけど、真銘がかなり大事なものであるならば相手の本気度が伺えるし、なによりも強制的に一生に1度のお願いにする事ができるから、色々と考えたけど、これが一番良いかも知れないって事で落ち着いた。
といっても、実のところカイト君がもし嫌がった場合は、まずはカイト君だけ助けて、その後、個人的な私情で助けに行くつもりである。
だって、ここに居るのは元から私情だしね。仕事じゃないから自分のやりたいことをやればいいのだ。
「……分かりました。真銘を教えます」
「いいの? 真銘って大切なものだよね? それにこんな状況だし、もしここでカイト君だけが助かっても、言って誰も責めないよ?」
カイト君は少し悩んで、契約する事を選んだ。
遠回しに止めて見た後で気づいた、これ逆に背中押してね?
「それでも助けたいです!」
「……いいね、格好いいね」
男を見せたんだ、この契約にどれだけの意味があるかは分からないが、ここは彼の事を尊重しよう。
「分かったよ。じゃあ聞こうか――
「えっと、確かおばあちゃんが……僕の名前は〈解して砥くもの〉――
「――契約は結ばれた。
「捕まっている他の人たちも助けてほしいです」
「分かった。じゃあその前に、まずは
といっても、
「……リヒト、ちょっと来てくれ!」
〈影の門〉を作って、声を掛ると、すぐにリヒトが来てくれる。
「なにか有った……みたいですね」
「詳しい話は後で、この子
「……マジですか?」
「マジだ」
「……できれば細かい事情を知りたいところですが、ここに留まっているのも危険なようですし、了解です」
リヒトの言う通り、貪波が上がってこないと不審に思った不曲が様子を見に来るかも知れない。
もしくは
……まあ出会ったら出会ったらで、気になる事を聞くチャンスかも知れないけど、今は
「目隠しはどうします?」
「んー、背負うとしても、このまま連れて行くのは危ないよな……
「わ、分かりません……でも数時間だったと思います」
「それなら部屋は薄暗いし、外しても目がやられる事はなさそうかな? ……
「は、はい……」
「実は俺、見た目が朝の特撮の……リヒト、この世界の仮面ライダーってなんて言うか知ってる?」
「ブレイダーですね」
「お、サンクス」
寸前で、もしかしてこの世界の特撮は違うものかもと思い、リヒトに聞いてみたら、やっぱりそうだった。
「そのブレイダーに出て来そうな姿だから、全然驚いてもいいし、怖がってもいいから気にしないでね」
「え、え?」
戸惑っている
露わになった顔は思ったよりも幼い印象で、髪は白色だった。
俺を見る。数秒フリーズ。目と口が一気に開かれる。
「うああああああああ、怪人だあああああああ!!」
「いい悲鳴っぷり、元気そうでなにより」
「え、え!? 人間じゃ……!?」
「実はそうだったんだよ。でも君を助けたいのは本当だから信じて欲しいな」
「う、うぅん……」
明らかに恐ろしい見た目の『人外存在』だけど、自分を助けてくれたし、ここを脱出するには俺を頼るしかない……みたいな顔をしてるね。
事前告知したとはいえ、パニックにならないだけ偉いよ。
ミサキちゃんよりも少し年上であるが、やっぱり実年齢はもっと上なのだろうか?
何にしても今は助かる。
「あんまり怖かったら、見ないようにしても良いからね」
「その通りなんだけど、なんでリヒトが言うんですかね?」
「……お兄さんの方はブレイダーみたい」
「違います」
「なんで強めに否定するんだよ」
なんかブレイダー関係で嫌なことあったの?
「歩けそうですか? 無理ならおぶって行きますので、正直に答えてくださいね」
「あ、あんまり」
「でしたら、背中に乗ってください」
「うん」
「よし、長居は無用。とっとと上がっちゃおうか」
ボタンを押せば普通に動き出した。
「……リヒト、上に上がったら何が起こるか分からないから、
「了解です」
何が有っても2人を守れるように、エレベーター内部に『布影』を広げて、腕を組んで扉の前に立つ。
できれば、このまま気付かれずに去りたいけど、それが無理な時の覚悟をしておこう。
誓いを破るのも、ひとつの責任の取り方ってやつだろう。
エレベーターが止まり、扉が開く。
――人が立っていた。
編んでいる長い茶髪の髪に、閉じた目元にほくろが有る女性。
「――連絡を受けてきてみれば、まさかこうして再会するとは思いませんでしたね。ヤマト様」
「……俺もですよ――カタンさん」
銭湯で出会った盲目の陰陽師こと幽星カタンさんと、予想だにしない再会を果たした。