陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
カタンさんは、銭湯で出会った陰陽師のお姉さんである。
あの時と同じくシルク質の陰陽服を着ているものの、装飾具が少なく、その手には黄金色の
「いずれ再会するかもしれない。そう思っていましたが、ここでするとは想像すらしていませんでしたね」
「奇遇だね。俺もだよ」
今の俺は【悪魔】の姿で男の声だが 銭湯で出会った時は、女性の姿と声で話していたけど、同一存在だと確信して話しかけてくる。
「それにしても、やっぱり鬼灯家の陰陽師だったんだ」
「そうですね。といっても、私はしがない鬼灯家の分家でしかありませんが」
しがないなんて絶対ウソ。それだけは分かる。
「それで? ここに来たのは俺の所為?」
「そうなりますね。
「ああ、確かカタンさんは第六感持ちで、俺の事もハッキリと分かるんだっけ?」
「ハッキリとまでは行きませんが、そうですね。」
カタンさんは〈
それは妖力や呪力が無く、ステルス性能が高い俺の事を
というか、カタンさんが呼ばれて来たって事は、【悪魔】が侵入したって不曲にバレてるって事だよな。正体や目的までは気付かれていないとは思うけど……ちっ、案外油断ならないやつだったな。
いや、それにしても本当に困った。
戦った所を見たことないから直感でしかないが、カタンさんは、きっと物凄く強い。
もし、このまま戦う事になったとして、勝てるかどうかもそうだけど……殺さないように手加減できるのかな。
「侵入者を見つけた場合の対応は決まってるの?」
「はい、侵入者が居た場合は、即刻排除しろって言われています」
「それは建物から追い出すって意味? それともこの世から追い出すって意味?」
「後者ですね」
「不法侵入の罪が重い……ここは罰金刑だけで済ませてくれない?」
「法律は人間のみが適応されるものなので、難しいかと」
「だよねぇ」
エレベーターの外へと出る。リヒトたちも出るように手で誘導する。
「じゃあ、どうする?」
「さて、どうしましょうか? なにかご要望などが有りましたら、おっしゃってもらっても構いませんよ?」
「言ったところでじゃない?」
「さて、できる限り応じて上げたいのですが、無理なものは無理ですからね」
『布影』を廊下へと広げていく。
「じゃあさ。ガチでお願いするんだけど……俺たちのこと見逃してくれる」
「いいですよ」
「やっぱり駄目だよねってっててぇ!? ……あっぶなぁ」
どうせ断られるだろうなって、不意を打つつもりでカタンさんへと伸ばした数十本の『布影』の槍を止める。
ギリギリセーフ。元々寸止めするつもりだったから間に合った。
「……俺たちを見逃してくれる?」
「はい」
「本当に?」
「はい、本当です」
「このシチューエションで、OKなこと有るんだ……」
「あるみたいですね」
「……なんで?」
「私にとっては、どうでもいい事なので」
「……ちなみに不意打ちのご予定は?」
「有りませんよ。もちろん後ろのおふたりも、危害を加えるつもりは有りません」
いっそ聞くだけ聞くかと思って色々と尋ねてみると、銭湯の時と同じで何でも話してくれるなこの人。
だからこそ、不気味で何を考えているのか分からなくて怖い所はあるけど、嘘を吐いている感じは無さそうだ。
「……リヒト、
「オヤジ……良いんですかね?」
「良いですよ」
「ほら、良いってさ」
「いや、貴女に聞いたわけでは……了解です」
リヒトはおんぶしている
「ああ、念の為にですが、外に出るのであれば玄関口からではなく、1番近くの窓から外に出ることをオススメします。感知する術は施されていますが、逆に言えばそれだけですので、安全に外へと出られると思います」
「……ありがとうございます」
リヒトは警戒はしつつも、カタンさんに頭を下げて、そのまま走り去っていった。
「……あの青年、感じる気配が貴方と似ていますね。それにオヤジと呼んでいました。もしかして息子さんですか?」
「あー、そうだな……俺の息子だよ」
リヒトが息子であると聞かれたら嘘は吐きたくなく、正直に答える。
「そうですか……羨ましいですね」
「ん? 羨ましい?」
「……なんでも有りません。それで、これからどうしますか?」
「カタンさん次第かな……ちなみに聞くけど、この地下で何が行われていたか知ってたの?」
「いえ、『七星』や鬼灯家の行っている事は、“直接”なにも関わってもいませんので知りませんでした」
“直接”はね……日本語の妙ってやつだな。
〈
カタンさんが何を考えているのか分かんないけど。少なくともリヒトたちへの助言は本当だったみたいだし、カタンさんは貪波たちとは違うのを前提にして話を進めるか。
「まあ、簡単にこの地下で貪波って奴が、実は人間止めていてムカデの『人外存在』になっていてね。あのもうひとり居た子供の体を乗っ取ろうとしていたので……殺した」
「なるほど。貪波の術は支配の術。それを使って才能ある子供を、己が操る
「……まあ、そうだね」
仲間や友達でないにしろ、同じ鬼灯の分家である丹波が殺されたというのに、カタンさんの反応はえらく淡白であった。
あの虫野郎が、それほど嫌われていたのか、それとも虫である事を知っていたのか、あるいは心底興味がないだけなのか分からないが、死んだ時にこういう反応はされたくないなと、つい思ってしまう。
「それでだ。助けた子供……
「……いえ、なにも。ですがそうですね、そういった事情でしたら、私も探すのを手伝いましょう。〈
「それは有り難いけど……カタンさんって、結局どういう立ち位置の人なの?」
あまりにも協力的なカタンさんに、流石に不信感が出てしまった俺は思い切って尋ねる。
もしかしたら、鬼灯家の野望を阻止するための国のスパイとか、そういうのだろうか?
「別に何者でもありませんよ。全てがどうでもよくなって、関わるのを止めただけの、ただの堕ちた星です」
「……そっか、まあ協力してくれるならありがたい、ぜひお願いします」
「承知いたしました」
深くは聞かなかった。
そういう人なんだなと思ったのもあるけど、なんだか辛そうに見えたから。
「ただ、少し問題が有りまして、学校の敷地内に居る人間であれば、私の〈
「そうなのか、じゃあ人が居るところを地道に確認してく? 場所を教えてくれさえすれば、後はカラスやネズミを使って確認できるよ」
「流石に数を揃えるとなれば目立ちませんか? もし何かを探していると勘付かれてしまったら、それこそ子供たちの命が危ぶまれるかと」
「むっ、まあそう……か?」
カタンさんの意見は間違っていない……よな?
妙に説得力があるというか、否定する材料が無いというか。そう言われたらそうだなと納得する。
「なので、私にひとつ提案があります」
「提案?」
「監禁されているという事は、身動きが取れないという事です。ですので、学校の生徒や職員たちに学校の外へと出てもらい、学校内に残った反応を調べるというのはどうでしょうか?」
「いい案だと思うけど、どうやって皆に学校の外に出てもらう? 校内放送?」
「しても構いませんが、それだけだと少々困った事になるかも知れませんね」
「困ったことね……」
まあ、ぱっと思いつくだけでも、校内放送だけじゃ生徒たちが全員ちゃんと避難してくれるか分からないか。
「……提案を聞いても?」
「はい、確実に避難を行わせるには、避難しなければならない理由を目に見えるようにするが一番確実でしょう……ですので、この学校を私たちで壊しましょう」
「――――――ん?」
きっと俺の聞き間違いか勘違いだろう。
「ビックリしたぁ、この学校壊すって言ったのかと思った~」
「はい、学校を壊そうと言いました。正しくは、この学校の敷地内にある校舎から施設に至るまで破壊の限りを尽くすという意味ですね」
「なんでだよ!?」
考えるよりも先に、胃の無い腹から声が出た。
「ただ壊すのではありません。ヤマト様と私が敵対した振りをしつつ戦い、それに巻き込む形で学校を壊すのです」
「いや、だからなんで?」
「学園内に居る生徒、教員を学校の外へと避難させるため。学校が破壊されるほどの戦闘が行われているとあれば、流石に外へと出る必要がありましょう。それで施設内にある動かない反応があれば、自ずと監禁された子供たちかと」
「仮にするとしても、学校を壊すほどの戦闘って危なくない?」
学校を壊せるほどの戦いって事は、普通に人が死ぬレベルで戦うって事だ。
ただでさえ、普通に戦うにも手加減できるか不安なのに、そんな危険な事は出来るだけやりたくない。
だから遠回しにやりたくないなと思いを伝えると、カタンさんは、くすくすと小さく笑った。
「出来ないとは言わないのですね」
「むっ」
「ご安心ください。こう見えても防御力には定評がありますので、多少の攻撃であれば怪我を負うこともありません」
「……まあ、仮にカタンさんが大丈夫だったとしても、やっぱり学び舎を壊すのは、正直に言ってかなり嫌だが?」
学校と言えば、生徒たちが将来のために学ぶ場所であり、色んな人の思い出が詰まった場所。
……まあ、俺はあんまりいい思い出が無いけども、だからといって楽しい青春を過ごしている子供たちの場所を奪いたくはないよ。
「筋書きはこうです。貴方は貪波様が学校で行っていた実験によって喚び出されてしまった『人外存在』であり、要請を受けて遭遇した私と戦う事になってしまった……と言ったところで、どうでしょう」
「どうでしょうって言われましてもね……」
「こうする事で、貪波様は実験中の事故死として扱われます。元より鬼灯家や他の『七星』に強い妬みを抱いていたのは周知の事実、秘密裏に何かを準備していた上での事故だと、ヤマト様の行いを誤魔化せるかもしれません」
「……痛い所を突いてくるね」
あんまり良くない事だとは思うけど、貪波の事で後々、ミサキちゃんや桜間の皆に迷惑が掛かるかもしれないと思いはあった。
それが学校を壊す事でどうにかなるのなら、監禁されている子供たちだけではなく、俺も助かる話になる。
「貴方の正体を隠しきれるかは分かりませんが、鬼灯家にとって大事な時期、『七星』の非人道的な実験によって学校が壊滅したとなれば、あちらの方から隠蔽工作を行ってくれる可能性は高いでしょう」
「……」
「それに、この学校は今や『七星』の隠された研究所と化していますので、無くしてしまった方が相手にとって困ったことになるかと。今の政府は動きが非常に鈍いと聞きますので、封鎖もままならないと思いますしね」
「…………」
頭の中が宇宙に飛び飛び出そうになるのを抑えつつ、理解に
カタンさんの提案を簡単に言えば、この学校はもう悪の実験施設だから壊した方がいいし、いま壊せば貪波の所為に出来るよ……で、合ってるよね?
「……カタンさんって結構な策略家?」
言ってから、聞くこと間違えた気がした。
「いえ、苦手な方なのですが……夫が、こういうズルい事を考えるのに長けていたので、その影響ですね」
「そうなのね……まあ話は分かったけど、流石に上手く行かないんじゃない?」
「どちらにせよ。子供たちを助けるには、これが1番最適だと思います……いま助けないと、最悪証拠隠滅を確実に謀るでしょう」
「……それを言われるとなぁ」
「どうでしょうか?」
どうしたもんか。
できれば、もっと穏便な方法があれば、そっちの方が断然いいのだが思いつかないし、時間も無さそうだ。
それに、俺も【悪魔】な所為か、正直暴力で解決できるなら楽でいいよねと、カタンさんの提案に惹かれてしまっている。
だからといって学校を壊すのはなちょっとな……大分強めの拒絶反応が出る。
……考え方を変えてみるか。
結局のところ、カタンさんの提案を魅力的に思うのは、他にいい案が思いつかないからだ、なので思いつきそうな他の誰かに1度相談しよう。
「悪いけど電話していい? というか時間ある?」
「構いませんよ。ただ長くなれば不審に思った不曲が何をしてくるかは分かりませんが」
「分かった」
俺は『布影』の中からスマホを取り出して、ある連絡先に掛ける。
すると、2コール目で相手は出てくれた。
≪は、はい。スズメです。ヤマト様でしょうか?≫
電話の声は
「
遠くの方で、なんか“あーっはっはっはっはっはっは!!”ってマッドな感じの笑い声が聞こえてくるんだけど。
≪え、えっと、ハテナさんがヤマト様が置いていってくれた『布影』を調べていく最中に急に笑いだして……かれこれ5分ほどあんな感じです……≫
『布影』に人を発狂させる効果は無かった筈なんだけど……無いよね?
「……そうか。まあそれは置いといて、今、この学校に監禁されている子供たちが居るらしくてね。その子たちを助けたいんだけど、何処にいるか分からないんだ。だから見つける良い方法ってない?」
≪え? そっ、ええ!?≫
うん、そりゃ驚くよね。
「ごめん。ガチのガチでかなりの緊急事態なんだ。それで、すぐに居場所を見つけられる方法ってある?」
≪えっと……す、すぐには行きませんが宮内庁に連絡して
「それってどれくらい掛かる?」
≪それは……れ、連絡してみない事には分かりません……ですが東京北陰陽師学校の内部調査となれば、宮内庁は今現在人手不足も相まって、桜間の名前を使ったとしても……すぐというわけには≫
「そっか……」
物凄く真っ当にできることをしてくれるつもりなんだろうけど、どうしても時間が掛かってしまうか。
……ここは敵陣地のど真ん中。1分後に何か起こるか分からない。
流石に待てないよね……。
「――ごめん、
≪い、いえ、お役に立てずに申し訳ありません……あ、あのなんとかしてみるって、具体的にどうするつもりですか?≫
「…………」
≪……ヤマト様?≫
「……学校を……壊します」
≪…………え? いまなんて言いましたか? ヤマト様?? あの、あのヤマト様!? 返事してください!? あのあのえっとえっと……お、お兄ちゃ――ブツ≫
電話を切る。
ここまで来ると、もう謝ることしかできない。
「……まあ、そういうわけで、その話に乗るよ」
「それは良かった。実はヤマト様とは戦って見たかったので、こうして機会に恵まれて何よりです」
「ねぇ、本当に戦わないと駄目なんだよね? カタンさんが俺と戦いたいからじゃないですよね」
「それも有ります」
「本当に正直に答えてくれるね!?」
「それにしても桜間家と繋がっていたんですね。でしたら後処理などは、そちらに任せた方が上手く行きそうですね」
「いつも迷惑掛けているから、あんまり負担は掛けたくないんだけどね」
「むしろ、今回の件は桜間当主にとっては渡りに船かもしれません……なので、私たちは気兼ね無く暴れましょう」
「いいのかなぁ?」
まあもう、決めたのなら腹を括らないとな。
「それで、どうするの?」
「人が避難を始めるまでは抑え気味にして、その後は様子を見ながら学校を壊しましょう。なるべく派手に行ってください。でないと先生や生徒たちが中に入ってきてしまうかもしれませんので」
「派手に暴れるのが大事って事ね」
学校を壊す。
もしかしたら妄想とかはしたかもしれないけど、まさか本当にする事となるとは。
……駄目だな、ちょっとだけワクワクしてしまっている自分が居る。
まあ、子供たちを見つけたら、そこでお終いにすればいいだろ。
「それでは始めますが、最初の一撃は私からで宜しいでしょうか?」
「いつでもどうぞ」
「ヤマト様は頑丈ですか?」
「けっこう脆いけど、すぐに再生するから気にしなくていいよ」
「分かりました――では、行きます」
カタンさんは、持っていた錫杖を斜め上へと構えた。
途端に、かなり重々しい呪力の波動が体を押してくる。
カタンさんが錫杖を振るうと、黄金色に輝き出した。
一瞬、今までのとは比較にならないほどに強い呪力の波動を感じる。
「あ、まず――」
危機感を抱いた時には、俺の体は外へと吹き飛ばされていた。