陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、陰陽師最強と戦うってよ。

 

 カタンさんが振った錫杖から、しゃらんっと言った心地良さを感じる音が聞こえたと思ったら、外へとぶっ飛ばされた。

 いや、爆発とは違う、強制的に動かされたような感覚に近く、正確には“投げ飛ばされた”と言った方が正しいのかもしれない。

 

 飛ばされたさい壁にぶつかったけど、ダメージらしいものは無し。

 特に危なげもなく『布影』をクッションにして、地面へと着地。

 何処まで飛んできたのかと周囲を見たら――生徒たちと目が合った。

 

 ――キーン、コーン、カーン、コーン。

 

 あまりにも懐かしいチャイムがなっている。

 生徒たちはお昼休みが終わって、校舎へと戻っている最中だったのかもしれない。

 

「なっ!? どうして『人外存在』が学校の中に!? 結界はどうなってる!?」

「誰か先生を呼んできてくれ!」

「分かっていると思うが、相手の実力が分からない以上、攻撃をするなよ!」

 

 さすが、戦闘職を専門に育てている学校とあってか、対応が早く臨戦態勢を取り始める。

 刀を構えた男子生徒は前に出て、札を指で挟んだ女生徒は後ろへ下がって陣形を作る。

 きっとみんな物凄く優秀なんだろうな。すぐに囲まれちゃって、この場から離れるタイミングなんて無かったよね……。

 

「襲ってこない……? 攻撃性が低い『人外存在』なのか?」

「ならどうして学校に?」

「知らねぇよ、どっかの馬鹿が依代でも持ち込んだかぁ」

 

 怖くないよ~。危害を加えるつもりはないよ~。

 ……と、話しかけようとしたが、そう言えば今からこの子たちの学校を破壊するだった。普通に敵だったわ。

 

「なんだ? 頭を抱えたぞ? 暴れる前兆か?」

「バーサーカータイプってか? 勘弁してくれよ……」

「なにこれ……妖力を感じない!?」

「は? 気配を殺すのが得意なやつってことか?」

「あるいは本体が別に居るタイプか……」

「――生徒の皆さん、下がっていてください」

 

 ゆったりとした歩みで、カタンさんがやってきて、狼狽える生徒たちに声を掛けた。

 

「増援……いや、貴方様は!? 武極(むごく)カタン!?」

「今は幽星ですよ」

「あ、す、すいません……」

 

 カタンさんに気づいた生徒たちが、ざわつく。

 反応からして、やっぱり、カタンさんって名のしれた陰陽師っぽいな。

 それにしても、結婚して苗字が変わったのだろうか?

 

「あの、あれはいったい?」

「分かりませんが、どうやら貪波家当主が行っていた実験で喚び出された『人外存在』なようです」

 

 予定通りとは言え、しれっと貪波家に責任を(なす)り付けたな……。

 まあ実際、俺が喚び出された儀式は、貪波家が監督役をしてたっぽいから間違ってはいないんだよな。

 

 「先ほど少し戦いましたが、極めて危険な存在です」

 

 少し戦った(俺が一方的にぶっ飛ばされた)。

 なにも間違ってない。

 

「それこそ、この学校をいとも簡単に破壊し尽くしてしまうほどの力を秘めています……どうにかしなければ、甚大なる被害が出てしまうかもしれません」

 

 生徒たちに緊張が走り、空気が張り詰める。

 ちなみに俺も逃げ道を完全に塞がれたと、緊張しはじめる。

 

「既に教職員たちに即時緊急避難の放送を行うように指示を出しました。彼が動き出す前に、貴方たちもすぐに学校の外へと避難してください」

「わ、分かりました!」

「待ってください、俺たちは毎日ちゃんと授業を受けてっ――!」

「馬鹿野郎! 現代最強の陰陽師であるカタンさんが、これほど言う相手だぞ! 悔しいが……俺たちが居ても邪魔になるだけだ!」

「くっ!」

 

 生徒たちは心底悔しそうに、俺を見ながら避難を始める。

 その間、俺達は生徒たちが完全に居なくなるまで睨み合っている感じを装う。

 

「……カタンさん、本当に最強の陰陽師だったんだね」

「昔の話ですよ。今はご隠居の身です」

 

 生徒たちが見えなくなったのを見計らって、声を掛ける。

 

「……元七星なんだ」

「まあ、そうですね」

「さっき違う苗字で呼ばれていたのってもしかして?」

「武極は『七星』のひとつ。私はその名前を自ら本家へとお返して、新たに幽星という名を拝命しました」

「辞めた理由って聞いていい?」

「特に面白い話ではありませんよ。今の本家が望む7つの星は昔と異なりを見せたので、流れのままお返ししただけです」

 

 何かを隠しているように見えるけど、嘘は言っていない気がする……か?

 腹の内が全然見えない。というか俺が腹の探り合い得意ではないだけか。

 

 ≪――緊急放送。学園内に『人外存在』が出現しました。極めて危険な『人外存在』であり、現在、元『七星』の幽星カタン様が対応しています。学校内に居る人たちは全員外へと避難してください。避難場所は――≫

 

 緊急放送が流れると、遠くの方からざわつきが聞こえ始める。

 ちらほらと視界の隅に学校の外へと向かう生徒たちが見えて、時折俺たちに目を向けていた。

 その表情から不安などが見て取れるので、俺の心に罪悪感がプスプス突き刺さる。

 

 「では、避難が完了するまで、少し抑え気味に戦いましょうか、先手は頂きましたので、お次はヤマト様から来てもらっても構いませんよ」

「んー。しばらくはカタンさんが攻撃してくれるとありがたいな。それでどれくらいまでセーフか計ってみるよ」

「そうですか。ではお言葉に甘えましょう――〈六角離(ろっかくり)御柱(おんばしら)〉」

 

 地面に魔法陣……この世界だと陰陽陣かな?

 それがカタンさんの真横の地面に現れて、2メートルほどの六角形の柱が生えてくる。

 

「柱?」

「はい。術者の能力を強化してくれる柱だと思って頂ければ」

「なるほど。あれ、そういえばカタカナじゃないんだね? なんか今の陰陽術の読みって全部カタカナって聞いたけど」

「術の原型は300年以上も前に開発されたものですから、古い術ほど非効率なものが多くありますが多様的なので、私はけっこう便利で使っています。この様に攻撃にも使えますし」

「ん? ごほぉ!?」

 

 地面から物凄い勢いで柱が生えてきて、俺の腹に突き刺さり、またも飛ばされる。

 痛くはなかったけど、思わず驚いて声が出てしまった。

 空中で宙返りを決めて着地。今の俺は成人男性並みの重量があるのに結構飛んだな。

 

「……なるほど、便利だね」

 

 それにしても反応も出来ずに食らっちまったな。意外とショックかも。

 やっぱり、俺って不意打ち苦手なのかな? かといって『布影』自動反撃モードの〈逆光〉を常時発動すると、生活に支障が出るし。

 ……今度なにか考えとこ。

 

「はい、それにこの様に移動にも使え――」

 

 サイズも自由自在なようで、カタンさんは自分の足の裏に小さめの柱を斜めに生やして加速。俺へと迫ってくる。

 流石にやられっぱなしなのも面白くないと、迫りくるカタンさんに向かって蹴りを放つ……が、新たに生えた柱に受け止められてしまう。

 

「――防御にも使えます」

「御柱ってなんか神様的に有り難いものじゃなかったっけ!?」

「祭では坂から落としたり、燃やしたりするので、そういうものだと思って頂ければ――よっと」

「あ」

 

 間近に迫ったカタンさんは、俺の事を手の平で軽く押す。

 たった、それだけで、そんなに力も掛かっていない筈なのに簡単に押し倒されてしまう。

 仰向けになった俺に、カタンさんが乗っかってくる……胸で顔が見えねぇ。

 

「流石にもう少し、本気を出していただかないと困りますよ?」

「なんかごめんね。なにぶん手加減とかあまりしてこなかったから、やり方とか全然分からなくて」

「それなら私で試してもらっても構いませんよ。先程も言いましたが、防御力には自信が有りますので」

 

 まわりに聞こえないようにするためか、顔の横に顔を近づけて小声で話しかけてくる。

 

「……分かったよ。じゃあまずは小手先から始めてみようか」

 

 『布影』を地面に広げる。カタンさんは即座に離脱、距離を取った。

 

 「〈影帯〉」

 

 数十の帯を作り、広範囲に広げたのち、ジグザグ軌道でカタンさんへと向かわせる。

 

「えい」

 

 どう対処するかと思ったが、カタンさんは錫杖を一振り。

 それだけで〈影帯〉の全てが払われて、あらぬ方向へと行く、また操作が受け付けなくなり、周囲の地面や建物に突き刺さる。

 

「これだけですか?」

「なんのなんの」

 

 さっきよりも倍の数の〈影帯〉をカタンさんへと向かわせる。しかもさっきよりも『布影』を範囲を広げて向かわせている。

 流石に対処できないと思ったのか、御柱加速(おんばしらかそく)を行い、あっという間に遠くへと行ってしまった。

 

「〈影鴉(かげからす)〉。カタンさんを追ってくれ」

 

 学校上空を飛んでいた〈影鴉(かげからす)〉と視界を共有すると、自分の指示に従い高度を下げてくれる。

 

「あ、飛んでいるカラスには攻撃しないでね~!」

 

 多分聞こえているよねと思いつつ言ったら、縦長の紙が顔に飛んできた。

 ゴミかなにかだと思って見てみれば、“わかりました”と書いてあって、カタンさんの御札(おふだ)だった。

 

 ――カタンさんの動きは、まるでアクション映画のようで、ひたすら追いかけてくる〈影帯〉を、的確に柱を使いつつ回避、もしくは錫杖で打ち払っている。

 肉体を陰陽術で強化しているのか、飛べば三階の壁に手が届き、バイクのエンジンを積んでいるのってぐらい加速力が凄い。

 

 窓をぶち破って校舎の中に入ったので、〈影帯〉も追従させる。

 カタンさんは廊下を走っている最中、大量の札をばらまいていた。

 いったい何をするかと思ったのも束の間、印を結んで呪文を唱える。

 

 「〈爆紙符(エクスプロージョン・ペーパー)〉」

 

 札が一斉に爆発。廊下が木っ端微塵(こっぱみじん)になる。

 遠慮なく破壊しちゃってまぁ……。

 

 そういえば〈影鴉(かげからす)〉、巻き込まれてないかと思ったが、どうやら無傷なようで飛んでいる視界が変わらず共有できている。

 いったいどうしてと見れば、周辺に札が浮いているのが分かり、カタンさんがバリアみたいなのを貼ってくれたらしい。

 

 カタンさんを探すと、教室を通って再び外へとでたらしく、再び〈影帯〉の群れを追わせる。

 外に出るとカタンさんは運動所に立っており、〈影帯〉、というかは校舎に向かって人差し指を突きつけて、なぞる。

 

二十八宿(にじゅうはっしゅく)一筋(ひとすじ)、〈觜宿(とろきぼし)〉」

 

 空間に下線が無い三角形を描くと、それからキラキラと光る流れ星が放たれた。

 早くもないが、遅くもない印象を受けるほどの速度で校舎へと向かい当たると膨張。

 光が触れた部分は、元から何もなかったように消えてしまった。

 

 〈影の門〉を通って合流する。

 校舎を見ると、幾つかの教室が消し飛んでおり、カタンさんの方へと向き直る。

 

「……学校を壊すの楽しんでたりしない?」

「ふふっ、そういうわけでは有りません。ちなみに先ほど消し炭にした箇所は、私が生徒の時に学んでいた教室が有った場所です」

「容赦ないね……学校、あまりいい思い出なかった?」

「いえ、むしろ私の人生は、あの教室から始まったと言っても過言ではないほど……大切な思い出が詰まっていました」

「……じゃあなんでだ?」

「ですが、ここは『七星』の実験施設へと成り下がってしまいました。完全に(けが)れてしまったようなものです……陰陽師にとって、“完全に穢れた”というのは、跡形もなく消さなければ行けなくなった存在という事です」

 

 陰陽師の価値観は、正直って分からないけど。カタンさんにとっては、この学校はもう消さないと行けないものだったらしい。どれだけ大切な思い出がある場所だったとしても。 

 

「今の今までやる気が起きず、放置してしましたが。ヤマト様とこうして出会えたのも何かの導きだったのかもしれませんね」

「……いま、避難ってどんな感じ?」

「すでにこの辺の建物施設には誰もいません。だからこそ誘導も兼ねました――ここで本気を出しても、誰も巻き込みませんよ」

「用意周到だねほんと……防御力には自身があるんだよね? どれくらいか具体的に言える?」

「そうですね。例えばになりますが、空から飛行機が激突してきても1度だけなら耐えられると思います」

「あ、じゃあ、けっこう本気出しても大丈夫かな?」

 

 別に、やろうと思えばこの学校を『布影』の中に沈めることだって出来る。

 それが1番楽であるが、脅威とみなされるかは少し不安が残る。

 

 それなら、できるだけ派手に壊せるほうがいいだろう。

 なら、それに見合った姿にならないとな。

 膨大な量の『布影』を体に集める。

 

 「〈影変身〉」

 

 この姿は、最強の姿になれば最強になるだろう。

 なんて馬鹿な発想によって作られたもの。

 あるいは、純粋な憧れ。

 前世の小学生時代、俺の裁縫箱のデザインは“これ”だった。

 

「――〈竜の型〉」

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