陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、地獄を見るってよ。

 

 俺とカタンさんは暴れに暴れて、学校を更地にしたあと。

魔杭拳(まこうけん)(りゅう)〉によって地面に大きな穴を開け、その中へと落ちていった。

 

「思ったよりも深くなーい!?」

 

 落下して数秒後に違和感に気がつく、穴は底が見えないほど深く、まだ地面に着きそうにない。

 これだけの空洞が、大きな建物が並び立つ学校の地下にあるのは流石におかしい。

 

「カタンさん。これ本当に学校の地下!?」

「そうですね。ただお察しの通り普通ではありません」

「だよね!? あとこれ落ちてって平気なの!?」

「はい、着地に問題が無ければですが」

「あ、そこは大丈夫だと思う、むしろカタンさんの方はどう?」

「ご安心ください。既に術は行使しています」

 

 既にドラゴンの姿のままだと大きくて邪魔になるかと思い、【悪魔】の姿へと戻っている。

 俺と横並びしてカタンさんが落下しているのだが、どこか違和感がある……そうだ、結構な速度で落ちているのに髪や服の袖が上方向に流れていないんだ。

 重力に引かれて落ちていっているというよりも、下方向に移動しているみたいで変な感じだ。これも陰陽術なんだろう。

 

「そろそろ到着のようですね」

「おっと」

 

 気がつけば地面が見えてきた。

 『布影』を地面へと伸ばして広げ、俺はその中へと入って、そのまま地上へと体を出す。

 こうすると、何故か落下エネルギーが無かった事になって、どれだけ高いところからでも無事に着地する事ができる。

 

 カタンさんの方は、同じ地面から飛んで落ちたかのような軽さで着地。

 本当に大丈夫かと思って『布影』を広げていたけど、要らぬ心配だったね。

 

「それにしても、高さだけじゃなくて横も随分広そうだね」

 

 俺たちが着地した場所は、縦長の通路みたいな場所だった。

 天井は見えず、壁は岩で出来ているが、地面は平らで歩きやすい。

 また灯りになるものが1つもないのに、奥の曲がり角までハッキリ見えるなど不自然さが目立つ。

 

「まるでゲームのダンジョンみたいな」

「はい、ここは結界系統の陰陽術によって製作された蠱毒結界(ダンジョン)の中です」

「え? マジでダンジョンなの?」

 

 あくまでも例えただけだったのに、まさか正解だとは……。

 

「カタンさんが使っていた術も凄いのばっかりだったけど、これはなんていうか……もうジャンルが違うよね」

 「この術は本来。手の平サイズの箱を作るものでして。ここまでの広大な箱庭空間を作り出せるのは、現在の『七星』である虚門(うろかど)の名を与えられた当主だけですね」

「ここ『七星』が作ったのか……」

「はい今の虚門家は、蠱毒(こどく)の術を何世代にも渡ってずっと改良を重ねてきた家系で、私たち鬼灯分家の中でもかなり古い家です」

「はー」

 

 思わず感心の声を上げてしまう。

 というか蠱毒(こどく)ってYouTubeの動画で見たことあるな。確か箱の中に虫や小動物を入れて、最後の1匹になるまで食い合わせるってやつだったか。

 

「……ここに居ると、誰か1人になるまで出られないとか無いよね?」

「おや? 蠱毒(こどく)を知っていましたか。安心してください。どうやらここは普段使いしているようですし、完全に閉じ込めるようには作られていなさそうです。それに、ヤマト様が開けた穴がありますしね」

「それは良かった。それでカタンさん。監禁されている子供たちが何処にいるか分かる?」

「はい、こちらの方向に居ます」

「……そちらは壁ですね」

「おや?」

 

 カタンさんが人差し指で示した方向は壁だった。

 触れたりして確認してみるが、隠し通路とかがあるわけではない普通の壁。

 カタンさんも触れてみて、初めてここに壁がある事に気づいたようで、そういえば、彼女は目が見えないことを思い出す。

 

「どうやら蠱毒結界(ダンジョン)の影響によるものか、〈一捨六感(シックス・センス)〉による感覚に(あやま)りが出てしまっているようですね。ただ、子供たちがいる方角は間違っていないと思います」

「分かった、移動とか大丈夫そう?」

「少し感じるものにズレがあるぐらいですが……、感覚が元に戻るまで、このまま進むのは危険ですね」

「歩くの補助したほうがいい?」

「そうですね。よろしければ、しばらくのあいだお願いします」

「分かった。それではお手をどうぞ。手というか『布影』だけどね」

拝借(はいしゃく)いたします」

 

 なにかあった時に備えて両手は空いている方が良いだろうと、腕の表面から『布影』を伸ばして、カタンさんの手を握る。

 カタンさんの手は、先程までドラゴンになっていた自分の攻撃を、薙ぎ払っていたとは思えないほど小さくて細かった。

 

「さっきの方角に向かうよう、進めば良いんだよね?」

「はい、今回の蠱毒結界(ダンジョン)は普段使いしている地下施設のようなものなので迷宮化していないと思いますし、同じ方角にそって進むだけで辿り着くかと思います」

「よし、じゃあ歩くよ」

「はい。私の方で合わせますので、遠慮なさらずに動いてください」

 

 カタンさんが指し示した方角を意識しつつ、通路を進み始める。

 歩幅こそ何時もより小さくしているが、いつも通りの速度で移動。カタンさんは問題なく付いてきている。

 調子が悪いと言っても、歩くぶんには特に問題はないらしく、歩みに危ない感じはしない。

 

「この速度で大丈夫?」

「大丈夫ですよ。なんでしたら走って貰っても構いません」

「カタンさんなら本当に走っても良さそうだけど、結局道を確認しながら進まないとだからね。ゆっくりしている時間はないかもだけど、急がば回れで行こう」

「そうですね。もしかしたら見逃しが起きてしまうかもしれませんし……どうやら侵入者を排除するための式神が来たようです」

「やっぱりそういうのあるんだ」

「右壁の上をご覧ください」

 

 言われた通り、右側の壁を見上げると、そこには自然界じゃ有りえないほどの巨大な(あり)が、何匹も貼り付いていて俺たちを見ていた。

 

「わぁ、虫嫌いな子はキツすぎる光景」

「おそらく形状からして大蟻(おおあり)かと」

「そのまんまだね」

「数が揃い始めたら、襲ってくると思います」

「じゃあ、その前に駆除しちゃったほうがいいか」

 

 先手必勝。悪いけど戦闘になる前に片付ける。

 槍の形にした『布影』を十本ほど伸ばして、大蟻を串刺しにしていく。

 そのまま、こちらへとやってくる大蟻たちも同じように駆除していく。

 

「自分が見逃しているやつがいたら、教えてもらってもいい?」

「分かりました。早速ですが真上から5匹、落下してきます」

「はいよ」

 

 そういえば蟻って、どんな高さから落ちても死なないんだっけと、前世で聞いたトリビアを思い出しつつ、落下している合間に処理する。

 

 それからも、時々カタンさんに場所を教えてもらいつつ、大蟻を駆除しながら進んでいく。

 幾つかの扉を見つけたが、カタンさんが言うには違うようで、そのまま通り過ぎる事を繰り返す。

 

「扉の外見、全部一緒だったから、カタンさんが居なかったら1個ずつ確認するしかなかったよ」

「お役に立てて光栄です……止まってください」

「着いたの?」

「はい、こちらの部屋に子供たちが居ます」

 

 大蟻たちが来なくなってから数分後ぐらい、カタンさんは足を止めた。そこには今まで見てきたものと全く同じ扉があった。

 部屋の名前も無ければ、番号も見えない……これ、普段使いしていても不便じゃないの?

 ドアノブを回してみると鍵は掛かっておらず、普通に開いた。

 

「……罠とかは無さそうかな?」

「罠などの危険は感じ取れませんね。普通に中へと入れるかと」

「よし、あとは子供たちが無事かどうかだな……」

 

 無事でありますようにと祈りつつ、室内へと入る。

 

「……まさに監禁所って感じだな」

 

 室内は結構広く、20個以上の大型動物用の金属檻(ケージ)が雑に置かれていた。

 そんなケージ1つに1人ずつ、足を鎖で拘束されている人間の子供が入っていた。

 見た目からして子供たちの年齢は10歳から18歳ほどか、少なくとも大人は居なさそうだ。

 見た感じ怪我とかはしていないようで、とりあえず安心する。

 

 この子たちが、解砥(かいと)君が言っていた監禁されている子供たちで間違いなさそうだ。

 5人以上とは言っていたけど、まさか20人居るとは、拉致りすぎだろ。

 それにしても、ここまで非人道的な捕まり方をしているとは思わなかったな。

 中には天井の高さが身長と合っておらず、座るか横になることしかできない子も居る。

 

「ひっ……」

 

 俺に気づいた何人かが引きつった声を出す。表情を見れば、完全に怯えている事が分かる。

 うん、監禁されている中でこんな【悪魔】みたいな奴がやってきたら、ホラー展開になると思うよね。分かる分かる、本当にごめんね。

 

「安心してください。私たちは皆さんを助けに来ました」

「あ、ひ、人……?」

「陰陽師の者です。安心してください」

解砥(かいと)君って知ってる? さっきまでここに居た男の子なんだけど」

 

 どうしたもんかと思っていたら、カタンさんが話し始めてくれたので便乗する。

 

「え!? あ、え? は、はい! ぶ、無事なんですか?」

「うん無事だよ。そんで彼が君たちの情報をくれたから、こうして助けに来れたんだ」

「そう……なんですね……良かった」

 

 彼女は捕まっていた子たちの中で1番の最年長に見える少女は、俺が話しかけてくるとは思わなかったのか、戸惑いながらも答えてくれる。

 

「詳しい話は後で、先ずは皆さんを外へと脱出させます。ヤマト様、脱出防止のための術などは施されていないので、無理やり(おり)を壊しても構いません」

「分かった」

 

 ケージは頑丈そうであるものの、【悪魔】の力で壊される事は想定しなかったようで、腕力だけで簡単に壊す事ができた。

 外に出た子供たちは、本当に助かるんだと笑みを浮かべる子や、泣き出す子まで居た。

 

 ただ、良いことばかりではなく、監禁されている日数が長くて、まともに立ち上がれない子が居たり、俺たち警戒し続ける子や、カタンさんが鬼灯分家の陰陽師である事を知っており、信用できないという子も居た。

 とはいえ、彼女たちの吐き出される高ぶった気持ちは、受けた不幸を考えれば当然のものであり、暴れ出すような子が居なかっただけでも幸いだろう。

 

 それと子供たちを檻から出す中で、どうして監禁されたのかを聞けば、やっぱり全員が悪魔の子のようだ。

 生活に困っていたところ、鬼灯家が悪魔の子に生活を支援してくれているという話を聞きつけて来たら、知らぬ内に閉じ込められたらしい。

 

 満梨花(マリカ)ちゃんと亡娘(ナコ)ちゃんと同じ境遇の子たち。

 いったい彼女たちを監禁してなにをするつもりだったかは分からないが、ろくでもないことだったのは間違いない。

 ほんと、こういうのはアニメの中だけにしてほしい……まあ、フィクションであったとしても、あまり得意じゃなかったんだけどね。

 

「何人か、ちゃんと歩けない子も居るな……どうやって外に出ようか」

「なんにしてもこれだけの人数となれば、外からの応援が必要ですね」

「だよね。そうなると鈴明(スズメ)ちゃんに連絡をって圏外か……」

 

 スマホを見て分かったが、蠱毒結界(ダンジョン)内は電波が届いていないらしい。

 

 「あれメールが来てる?」

 

 画面の通知に鈴明(スズメ)ちゃんからメールが来ていたのを知り、中を見れば、ヒバリさんたち神罰隊を含めた数名の宮内庁陰陽師部隊が出動しましたとの報告が書かれてあった。

 こういった報告を怠らずにしてくれるところ、さすが鈴明(スズメ)ちゃんである。

 

「カタンさん。桜間ヒバリさんって知ってる? いま宮内庁の陰陽師たちと一緒に来てくれているみたいだけど」

「桜間ヒバリと言えば、宮内庁神罰隊隊長の神霊殺しのヒバリですか?」

「うん、そのヒバリさん。やっぱり有名人なの?」

「はい。現代において古き神を討伐した実績を持ち、もしも彼女が桜間家の娘ではなかったら、今代の武極(むごく)となっていたであろう陰陽師です」

 

 ヒバリさん、そんなに強かったんだ。

 ハメ技が成功してなかったら、普通に危なかったかもしれない。

 

「彼女は……神を殺す事に特化していますが、宮内庁の部隊と共に動いてくれるとあれば、子供たちを無事に保護してくれるでしょう」

 

 カタンさん絶対なにか言いかけたな……ヒバリさんの馬鹿っぷりも有名らしい。

 

「だったら、ここでしばらく待っていればいいか?」

「そうですね。あの戦闘は既に監視されていましたし、穴に落ちた事は知られているでしょう」

「え、リアルタイムで見られてたの? ……不審に思われていないと良いけど」

「ちゃんと派手にやれていたので、そこは心配ないかと思います」

「あ、あの!」

 

 先ほど、最初に話しかけてくれた最年長の女の子が、意を決したような様子で声を掛けてきた。

 ……なんかデジャヴを感じるな。

 

「実は、他にも子供たちが居たんですけど、この数日で解砥(かいと)君みたいに何人か連れ去られてしまって……」

「オーケー分かった。その子たちも探してくるよ」

 

 まあ、拉致されてきた子供たちが、ここに居る全員とか、そんな都合の良い事はないよね。

 ……ただ、ここが子供たちの監禁場所なら、連れて行かれて帰ってこないという事は……無事かどうかは祈るしかないか。

 

「カタンさん。他に子供たちの気配があるとか分かる?」

「そうですね……はい、かなり曖昧ですが、もう一箇所、人が集まっている場所があります」

「それって子供たち?」

「見てみない事にはわかりませんが。もし大人であれば、今の今まで動いていないのは違和感があります」

「そっか。どっちにしても確認しないとか……」

 

 少なくとも、この蠱毒結界(ダンジョン)に生きている別の誰かが居るのは間違いない。

 

「よし、それなら見に行きたいんだけど、カタンさん付いてきてくれる?」

「はい、構いませんよ」

「……二人とも行っちゃうんですか? ……あ、いえ、私が頼んだ事なのに……ごめんなさい」

「気にしないで。ほんのちょっとだけだし、自分たちが居なくても安全なようにするから、少しだけ待っててね?」

「は、はい……ごめんなさい」

 

 彼女だけではなく、自分を助けてくれる大人が側から居なくなる事に、何人かの子供たちが不安な反応を見せる。

 なので、安心させるためにも〈影鴉(かげからす)〉を1羽は生み出して、この子を通じて、ここになにかあってもすぐ分かるし、すぐに駆けつけられると伝える。

 

「アー! よろしくナ!」

「喋った……」

 

 喋る〈影鴉(かげからす)〉に子供たちは戸惑うものの、中でも小さな子たちは好奇心が勝ったのか、〈影鴉(かげからす)〉の事を触ろうとしたり、話しかけたりなど夢中になる。

 想像はしていなかったが〈影鴉(かげからす)〉の存在によって、少しでも不安を取り除けたみたいだ。

 

「こちらです」

 

 部屋の外に出ると、カタンさんはひとりでに歩き出す。

 どうやら、もう手をつなぐ必要はないようで、俺は後ろを付いていく。

 特に話す事もなく、進むだけの時間が過ぎた。

 徐々に張り詰めていくカタンさんの気配に気づかないまま。

 

「……どうやら、気配は子供たちので間違いないみたいですね」

「そっか、とにかく生きているみたいで良かった」

「…………こちらです」

「……そこは壁ですね」

「いえ、“扉”です」

 

 カタンさんが指で壁を縦一直線になぞると、空間が紙のように引き裂かれて、扉が現れた。

 

「隠されていたのか……」

「かなり高度な隠遁系の術ですね。それこそ私のように、特殊な感知能力を得ていなければ、見つけられなかったかもしれません」

「マジか……なんで、そこまでして子供たちを隠してるんだ?」

「…………」

 

 純粋に疑問に思う。例えば解砥(かいと)君のように何かしらの儀式で子供たちを使うにしても、こうまでして隠されている理由が分からない。

 

「……中に入れば分かるかと思います」

「カタンさん?」

 

 カタンさんは、じっと扉の先を見ている。

 壁を通り越して、ハッキリと中が見えているようだと思った。

 それを踏まえて、彼女の言い回しが気になった。

 誰にも見つからないように隠さなければならない理由が、部屋の中にある――。

 

「部屋の中に居るの……子供たちで合ってるんだよね?」

「はい、間違いないと思います、ですが――」

 

 

「――どうにも“形”が……」

 

 

 ――何処かで、解砥(かいと)君みたいに間に合ったんだなと楽観的に思った。

 確証バイアスってやつかは分からないけど、生きていたら無事と、なんとなく思ってしまっていた。

 

 扉を開ける。

 部屋へと入る。

 そこにはベッドが並んでいて、子供たちが横になって寝ていた。

 あるいは意識が無いと言ったほうが正しいのかもしれない。

 

 全員、生きてはいた。

 みんな、人間である事は分かった。

 

 カラフルな花と植物が体のそこら中から生えている子供。

 肉体がひし形のパーツとなって、ゆるかやに欠けていっている子供。

 リヒテンベルク図形(電気が通ったさいに出来る焦げ跡)が、全身を伝い脈打っている子供。

 全身が白灰化しており、マネキンみたいになっている子供。

 足はバッタの形をしており、胴体は虎柄の毛が生え、頭は鳥の羽によって包まれ隠れてしまっている子供。

 苔とキノコと肉の芽と小さな枝が生えて、ミニチュアの深林のようになっている子供。

 首と全ての関節が消えており、浮かんだ球体へと差し替えられている子供。

 たくさんの閉じた(まぶた)が体の至るところに有って、顔にある瞼が縫い付けられている子。

 四肢のいずれかが無く、四肢のいずれかが胴体と合っていない子供たち四人。 

 

 ――みんな、違う人形(ヒトガタ)をしていた。

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