陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
隠された部屋の中は左右に6台ずつ、合計12台のベッドが並んでいた。
そこに12人の子供が横たわっている。
――ベッドで仰向けになっている子供たちは、人の形は保っていた。
ただ、それは形からして、人であると分かるぐらいのものだった。
「……ここは、日本なのか?」
そんな子供達を見て、まるで【悪魔】みたいだなと思ってしまった。
だったらここは日本ではなく、【地獄】なのかと思ってしまった。
夢の国から、帰りたくもない地元に帰ってきたような。そんな気分になっている。
だから嫌だったんだ。日本でこういう事が起こるのが。
萎えるどころの話じゃない。ガキみたいに自分に都合の悪い現実が全てなくなって欲しいという気持ちと、もう何もやりたくないという面倒な気持ちが混ざりあって気持ち悪くなる。
「……カタンさん。これって人体実験とか、そういうやつ?」
「恐らく、特定の陰陽術による人体の影響を観察するといった所でしょうか」
「……そっか」
カタンさんは、先ほどと変わらない調子で話してくれる。
その内心がどうなっているかは分からないが、この状況をどうでもいいように見えてしまったのは、流石に酷い考えだろう。
「助けられる?」
「…………」
「はっきり言ってくれ」
「……彼らは既に陰陽術によって心身とも“完全に穢れきって”おり、いずれ『呪物』になる事が確定している段階です。そうであるならば――助けてはいけません」
助けられるのではなく、助けてはいけない……。
そういえば学校を壊しているさなか、カタンさんが言っていた事を思い出す。
――陰陽師にとって、“完全に穢れた”というのは、跡形もなく消さなければいけなくなった存在という事です。
「完全に穢れた“物”は『呪物』に成り果てて、その影響を無差別にバラ撒きます。通常の陰陽術には、穢れが発生しないように安全装置が掛けられているのですが……子供たちに掛けられた術は『呪物』へと至らせるための物のように感じます」
「……穢れの話、俺はてっきり、カタンさんの気持ち的な話かと思ったよ」
「学校を壊した事に関しては半分はそうですね。あの時言った通り、実験施設へと成り下がった学校を、私個人が消したいという気持ちを例えました……ですが、もう半分は、あのまま残しておけば、決してそう遠くない未来に、学校自体が『呪物』になっていたと思ったからです」
「この子たちに、俺が出来る事ってある?」
「何もありません。というよりも何もしてはいけません。後に宮内庁の
「……ちょくちょく名前を聞くけど、勅罰隊ってどういった部隊なの?」
「日本政府と皇室から特別な認可の元、過ちを犯した陰陽師および『呪物』となった存在を殺処分する専門部隊です」
「……適切ってことね」
なんだか黙るのも嫌で、カタンさんに気になる事を、全部聞いてみた。
その中には予想通りのものや、知らなかったものもあった。
この子たちに待っているのは助けではなく、死ぬことだけ。
そうしなければ周りに被害が出るから。
「……もし『布影』で、陰陽術の影響だけ取り除こうとした上手くいくと思う?」
「既に体の一部となっていますので、もし術に影響を受けている部分……呪われている部分だけ取り除く事ができたとしても、それは物理的な肉体の欠損となり、そのまま死んでしまう可能性があります」
「試すにしても、命懸けか……」
それでも、このまま見捨てるよりかは、ダメ元でやってみようって実行に移せる性格なら、誰でもいいから〈影の門〉を通しているだよな。
――なんだか、どうしたいのか分からなくなってきた。
気分的には、助けられたら嬉しいなとは思うが、どうにも素直に思えないというか。
このまま、あっそで済ました方が【悪魔】らしいよねというか。
――いや、ちがうそうじゃない。
人間らしくとか【悪魔】らしいとか、俺は単に一番嫌な事を考えないように、言い訳しているだけだ。
俺は、自分がなにも出来ない存在だって。
何者にもなりきれない存在だって。
自覚したくないんだ……。
スマホが鳴った。
「びっ!? ……くりしたぁなもう!」
自分の体内から急にスマホの着信音が聞こえてきて、心の底から驚いた。
思わず身を
というかダンジョンの中って電波届かないんじゃなかったっけ?
そう思って画面を見ると、スズメちゃんの名前が表示されていた。
「……カタンさん、これって出ていい奴だと思う?」
分からないなら人に聞いたほうがいいと、カタンさんに尋ねる。
「どうやら、あちらの方で陰陽術などを使い、電波を通したのかもしれません」
「あ、そういう事ね……」
「取らないのですか?」
「いや、ちょっとこの状況を未成年に伝える事に躊躇いが……いや無視するわけにもいかないし、出るけどね」
とはいえ気が重く、数秒の間を置いて、通話開始のボタンを押した。
≪――あ、も、もしもし繋がりましたか!? こちらの声は聞こえていますでしょうか!?≫
「……うん、聞こえているよ
≪よ、良かったです。連絡しようとしたら急に繋がらなくなったので心配していました≫
「いま学校の地下にある〈
≪が、学校内に〈
「うん、あったんだよね。その中に入ったら電波が届かなくなっちゃったんだけど、
≪す、すいません。ヤマト様とどうしても連絡が繋がらなくなったので、試しにとハテナさんにお願いして、どんな場所でも通話できるものさえ有れば会話できる『道具』を貸してもらいました≫
「そっか、心配かけてごめんね」
≪い、いえ……あの、何か有ったんですか?≫
分かりやすかったようで。
「……結構ショッキングな事があってね。どうにかしたいけど、どうにも出来ないなって打ちひしがれていたんだ」
≪そうだったんですね……あ、あの、もしよろしければ聞かせてもらえないでしょうか? もしかしたらお役に立てるかもしれません≫
「ごめん、本当に結構ショッキングな奴だから。それこそ18歳未満に聞かせたくないというか……
多分、ここの部屋の事は遅かれ早かれ
でもいま見捨てるしか出来ない子供たちの事を知らせてしまうのは違う気がして、口を閉ざす。
≪……あ、あの、ちょっと待ってください≫
「
保留音が流されるが、十秒程度ですぐに解除された。
≪――やあ先ほどぶりだねヤマト君。美人さんだよ。できれば君のおかげで収まらない、この胸の高まりを君に伝えたい所だが、そういう状況じゃなさそうだね≫
「ハテナさん……」
≪未成年には聞かせられない状況と聞いたんだが。それならばっちり成人している美人さん相手ならどうだい? 陰陽師に携わるものとしてエロ、ホラー、スプラッタ、グロは結構珍しくない。だから遠慮なく相談してくれたまえ≫
「……分かった」
どちらにせよ現状を報告しなければならないとして、ハテナさんに子供たちの事を伝える。
≪――ふむ、その子供たちをカメラで写してくれないか≫
「これでどう?」
≪見えた……なるほど、最悪だな。これは研究とお遊びの違いを分かっていない“奴”の仕業だ。そういうやつに1人心当たりがあるよ≫
テレビ通話に切り替えて、子供たちを確認したハテナさんは底冷えした声で言いきった。
≪まあいい。個人的な検証は後にしよう。悩みというのは、その子供たちの事で間違いないね?」
「……死なせるしかないんだよな?」
≪そのとおり、彼らはもう手遅れだ≫
嘘偽りのない事実であると、断言される。
≪陰陽術の効果、もしくは『人外存在』の影響などが個の存在に蓄積してしまったものを、我々は“穢れ”と呼んでいる。その穢れが一定量蓄積されると、その物体は『呪物』として周囲に
「……やっぱり駄目なんだな」
≪そうなる――人間の技術ではね≫
「なに?」
≪ふふ……運命の糸が絡まる時、それは思ったよりも人が作り出す物に等しい、綺麗な
ハテナさんは笑っていた。
思えば話をしていた時の声色も、どこか笑いそうになるのを我慢していたような気がする。
≪ほんの数時間前までだったら、その子供たちは死ぬしかない定めだっただろう。だが、ヤマト君が美人さんに『布影』を渡してくれたあの時、本来ではありえないはずの分岐点が生まれた≫
「……悪い、いま余裕が無くてね。ハッキリと言ってほしい」
≪ああ、すまない。少しだけ、本当に少しでいいから勘弁してくれ。今の私は、自分を専門とする陰陽師の中で最も幸運な存在である事が分かったんだ。宝くじで言えば1等六億なのに10億円手に入れたような、それほどまでの気分なんだ≫
徐々に声に喜びが
≪美人さんはね、これでも理性的な
「……いま俺のこと“資源”って言った?」
思わず聞き返してしまう。
しかし、聞こえていないほど興奮しているのか、ハテナさんはそのまま語り続ける。
≪【悪魔】の事はまだ分からない、だけどヤマト君。貴方という存在については、『布影』を調べる事で分かった事がある≫
「俺のこと?」
元はと言えば桔梗家本殿にやってきたのは、自分の正体について知る為であった。
≪ヤマト君は私たちの常識からすれば完全なる第三の存在だ。しかしながら『布影』を調べれば我々陰陽師の属性に当てはめる事ができた≫
「属性?」
≪特性、概念、呼び名は何でもいいが、その存在の本質、元となった物と考えてもらっていい。鬼火という『人外存在』の場合は火属性といった具合にね。RPGやソシャゲなどでよく見られるやつに当てはめてもらっても構わないよ。ただし現代陰陽師の場合は何百種類とあるがね≫
俺を表す属性。
【地獄】では決して分かることが無かった、自分という【悪魔】の存在。その正体が少しでも判明したとなれば、この状況でも会話に集中してしまう。
≪……変幻自在の物体。静かなる底の闇、無量なる存在。人類絶対排他領域であり生命の始発点――その存在の名は【深海】≫
≪ヤマト君、貴方は【深海の悪魔】だ≫