陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、花見をするってよ。

 ――子供たちの体を元通りにした俺は、蠱毒結界(ダンジョン)からお先に失礼した。

 ヒバリさんたち宮内庁の陰陽師の中には、俺のことを知らない人も混じっており、出くわすと面倒になるからというものだった。

 カタンさんとは、その時にお別れすることになったが最後まで何かを考えているようだった。

 

 多分、俺に関する事なんだろうけど話す気のない。というか話す余裕も無さそうなので聞き出すのは断念する。

 ただ、〈影の門〉からミサキちゃんの居る桔梗家本殿へと転移するさい、言われた言葉が印象に残った。

 

 ――いずれ……いえ、すぐにお会いいたしましょう。

 

 もしそのとおりになるとしても、敵同士じゃないといいな。カタンさん強いし、子供たちを見つけてくれた恩もあるしね。

 

 それからの事は鈴明(スズメ)ちゃんからの話を聞いて知る事となる。

 宮内庁の陰陽師が学校へと到着したさい、数名が更地となっていた学校をみて茫然自失。中には卒業生も居たとあって、涙を流す人まで居たとか。

 うん、事情があったとは言え、申し訳ない……。

 

 それから学校の敷地内へと入り、俺が開けた穴を発見。蠱毒結界(ダンジョン)内部へと進み、監禁された子供たちを無事に保護してくれたそうだ。

 また、その時も陰陽師たちはかなり狼狽えた様子だったという。

 学校の地下が蠱毒結界(ダンジョン)化しているのもそうだけど、犯罪の温床になっていたのも少なからずショックを与えたのかもしれない。

 

 ちなみに後に別口でシャルナさんから連絡が来て、『七星』が不正研究を行っていた証拠も幾つか押収できたそうだ。

 そのおかげで国家機関として正式に鬼灯本家を捜査する権利を得られたと、すごく感謝された。

 特に鈴明(スズメ)ちゃんのお兄ちゃんのテンションが高かったらしい。まだ出会った事すら無い人に、こんなことを思うのは失礼かもしれないけど、なんか怖かった。

 

 子供たちに関しては桜間家預かりとなったらしい。

 元より桜間家は、目立っていないものの悪魔の子の保護を率先して行っており、子供たちの保護に関する事についてはすんなりと決まったらしい。

 解砥(かいと)君を含めて適切な治療を受けて、生活などの支援も行うとのこと。

 今はまだ警察を含めて個人を把握する段階だけど、数日後には解砥(かいと)君と最初の部屋で出会った高校生のお姉さんが再会できるとのことだ。

 

 そして穢れていた子供たちであるが、こちらは経過観察も兼ねて桔梗家本殿で入院する事となった。

 肉体の方は本当に穢れていたのかってぐらい健康体であり、全く問題がないとのこと。

 ただ、やっぱり目が覚めた子供たちの中には心に傷を受けてしまった子も居て、ちゃんと眠れなかったり、急に涙を流す子もいるらしい。

 だけど全員が治療に前向きな姿勢を見せているらしい。何でも子供たちそれぞれ、やりたい事が有るのだとか……これを聞いた時が、一番安堵したかもしれない。

 

「なんかかなり迷惑を掛けちゃったみたいでごめんね。これ少しばかりの気持ちです」

「お、これは良い羊羹だね! 甘いものは大好きだ。でもヤマト君が気にすることじゃないよ。何事も代償は必要って事だよ。そして私は今回の結果に大いに満足している」

 

 学校での出来事から翌日。俺はお詫びの品を持ってハテナさんに会いに来ていた。

 ハテナさんは今回の事で、自宅謹慎を言い渡された。どうやら報連相(ほうれんそう)無しに無断で行った事だったらしい。

 桔梗本家にも呼び出されて、かなり叱られたらしいが、それはルールを破ったからではなく、別の理由だったみたい。

 

「ヤマト君のことを話すのは桜間家の許可を得てからだって言ってるのに、お前だけズルいとか、なんでワシを呼ばなかったとか非難轟々(ひなんごうごう)の嵐だったよ!」

「なんか思ってたのと違う……」

 

 どうやら叱られた理由が、俺のことを秘密にしてくれたかららしい。

 桔梗家は研究気質の陰陽師たちが集まる家。本家は特に根っからのようで、あの術の発動を目にすることが出来なかったのが1番の問題になったそうだ。

 というわけてハテナさんは実質お咎めなし。むしろ、今回の功績で剥奪されていた地位を取り戻す可能性もあるらしい。

 でなければ、色々と不味いという大人の事情もあるのだとか。

 

「なにせ現代では陰陽術として纏められてしまったものの、やはり行ったのは神の御業……いや、【悪魔】の所業というやつだからね」

「自分が思ったよりも、とんでもなかったんだな」

「なにせ神話の再現が成功してしまったんだからね。そうもなるよ。だから桔梗家は君の事に関して深く介入してくると思う。よろしければそれも込みで今後とも付き合いのほうよろしく頼むよ」

「あ、こちらこそ~」

 

 今回の件で、かなり目立ってしまったようで、今後は考えなければならない事が増えていくだろう。

 でも後悔とかは無い。子供たちを助けられて、貪波たちのような奴の好き勝手を止められたのも良かったと思うし、何よりもミサキちゃんが助けられて良かったと嬉しそうにしていたからね。

 まあ、ハテナさんが言うには桜間家御当主に任せておけば良いんじゃないかなと言うことだ……お兄ちゃん、本当に何者なんですかね。

 

「それでヤマト君。今回使用した陰陽術にお願いが有ってね。是非とも君が名前を付けて欲しいんだ」

「俺が? これって確か昔の術を再現したやつだったよね? それなら名前有るんじゃないの?」

「有るのだけど、あくまでも再現した新しい術としての扱いになるし、その名前を使うと色々と不味くてね。あくまでもそう、【悪魔】の『権能』である事にしたいんだよ。まあ皆が幸せになる建前と思ってくれればいいかな。ヤマト君も神様にはなりたくないでしょ?」

 

 なにやら結構な事情があるようで、そこまで言うならと名前を考えることにした。

 

「……『布影』に熱を加えて発動するから、熱を光として〈光影(こうよう)〉とかはどう?」

「ふむ、悪くないけども……呼びをカタカナ名にしてもいいだろうか? 陰陽術としての体裁も取っておいた方が良いだろう」

「分かった。漢字縛りで拘りたいみたいになっていたかもだけど、正確には俺の術ではないしね。あとそれなら呼び名はハテナさんが決めてよ」

「ではそうだね……漢字名(かんじな)を〈光影〉と書き、呼び方を〈光影(アビス・バース)〉としよう」

 

 アビス・バース。直訳すると“深淵からの生誕”になるのかな?

 きっと深海と掛けている所もあるみたいだし、いい名前だと思う。あと何よりも格好いい。

 

 ちなみに、俺もミサキちゃんも〈光影(アビス・バース)〉を発動した事による後遺症は無かった。

 ミサキちゃんも、呪力を使った事で少し疲れたぐらい。あとここ数日の食欲が増したけど、それが関係するかはハテナさんも分からないそうだ。

 本来であれば〈光影(アビス・バース)〉は数億円分の資源を用意して、ソフトボールぐらいの塊ぐらいしか作れないほどコスパが悪い陰陽術らしいのだが、俺という存在は海に等しいらしく、今回12人の子供たちを助けて消費したリソースは、【深海の悪魔】にとってほんの僅からしい。

 

「とはいえだ。君という存在を消費したのは間違いない。あまり多用しすぎると枯渇する事も考えられるから気をつけてほしい」

「……」

「ん? どうしたんだい、何か気になる事でも?」

「いやぁ、【悪魔】ってとんでもないなぁって自分でドン引きしてた」

「とことん人間らしいね君は」

 

 自分という存在が海と同じと言われても、正直言って実感は湧かない。

 だけど、そのおかげで子供たちも救えたし、ミサキちゃんの願いも叶えられた事は素直に喜びたいと思う。

 ――そう、たとえ自分が【深海の悪魔】になった理由に心当たりがあるとしてもだ。

 

「……俺は、人間(みんな)と一緒に居ていいのか?」

 

 気がついたら、こんなことを口にしてしまっていた。

 

「それは個人ではなく、きっと社会が決める事だと思うけどもだ。『人外存在』とは、人と共に存在は出来ても人の外でしか存在できないという意味も含まれている。だから美人さんは、ヤマト君のことを今後しっかりと【悪魔】だと呼んでいくよ。呪力や妖力が有ってもね」

「……そっか」

 

 ハテナさんは、自分は『人外存在』とは違って、人間と共生できると言ってくれたみたい。

 きっと研究者であるからハッキリとは言えないけど、個人的にはそうであると思ってくれているようだった。

 

「なので相互理解を深めるために、今後も君のことは調べさせてくれ! なに痛くしない……というか【悪魔】は痛覚があるんだったね、生物のように神経細胞が存在しないのに、五感が存在するメカニズムがどうなっているのか知りたくないかい!?」

「うーん、台無し」

 

 +++

 

 ――それから数日後、4月に入り、俺とミサキちゃんは数日振りに鈴明(スズメ)ちゃんと再会した。

 

「今日まで顔を出せず、本当に申し訳ありません」

「いやいやいや、こちらこそ本当に迷惑を掛けてしまって、マジですいませんでした」

「いえいえ。子供たちを助けられて本当に良かったです。ミサキちゃんも久しぶり」

「はい、スズメちゃん、久しぶり」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんは、俺がしでかした事の対応に忙しく動き回ってくれて、それがようやく落ち着いたという事で、こうして会いに来てくれた。

 子供たちを助けるとはいえ、陰陽師学校をひとつ丸ごと更地にしてしまった。

 流石に怒られるというか、まあそれ相応の態度になるよなと覚悟していたが、鈴明(スズメ)ちゃんは人助けであり、かなり緊急を要する事情だったとして、むしろ肯定してくれた。

 それから自分はヤマト様の巫女ですから、これからは全て任せてくださいと言ってくれた時は、かなり格好良く見えた。

 鈴明(スズメ)ちゃんは、俺が思った以上に覚悟を持って俺たちの面倒を見てくれていたんだなと知ることができた。

 

「お詫びの羊羹あるから、ヒバリさんたちとよかったら食べてね」

「あ、はいありがとうございます……あの、今回なんですが、ヤマト様、ミサキちゃん。もしお時間があるようでしたら、私に付いて来てくれませんか?」

「何時でも空いているけど、どうしたの?」

「その、えっとですね……都内にお花見をできる場所を見つけたので、よろしければ今から行きませんか?」

「え、マジ? 山の中じゃなくて都内!?」

「は、はい、都内ではあります」

「でも結構急だね?」

「なにぶん許可が降りたのが昨日だったので……私もその日の夜に知りました」

「そうだったのか……まあ、そういう事なら是非行きたい! ミサキちゃんもそれでいい?」

「はい……お花見、楽しみ」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんの反応に違和感があるものの、俺は都内で花見ができると言う事にテンションが上がって、なにも考えず了承。外に待機してあるという車へと乗り込んだ。

 

「あ、ネマちゃんだ。久しぶり」

「……久しぶり、今日はよろしく」

 

 運転席には桜間家の分家である、塩淵(しおぶち)ネマちゃんが運転席に居た。

 

「そういえば、なんか俺の所為で宮内庁が忙しくなったみたいで、ごめんね」

「……気にしないで。私たちはいつも通りだから。むしろ余計なことしないでって言われた」

「ああ、ヒバリさんがね……」

 

 俺のしでかしによって、宮内庁はだいぶ混乱しているとの事だ。

 学校がひとつ丸ごと無くなったのもそうだけど、『七星』のしでかした所業の数々が明るみになった事で、その対応をしているとのこと。

 そんな混乱の最中、宮内庁は桜間ヒバリに動いてほしくないようで、むしろ神罰隊は何時もよりも暇になっているとの事らしい。

 

 挨拶もそこそこに、車での移動を開始。

 そうするとすぐにネマちゃんの方からミサキちゃんに声を掛けて、再びラーメン談義を始める。

 そういえば、あの日結局桔梗家本殿の中華そば食えなかったんだよな。

 待っているのもなんだしと、ミサキちゃんたちは食べたそうで、とても美味しかったらしい。

 ハテナさんにお詫びしにいった時、食べていけばよかった。

 

「そういえば、都内の何処に行くんだ?」

「あー……えっと」

 

 何気なく気になって聞くと隣に座っていた鈴明(スズメ)ちゃんが、微妙な反応をする。

 

「もしかして、サプライズ?」

「そ、そういうわけではないんですけど……」

「……スマホで現在位置みてもいいやつ?」

「い、良いんですけど、場所は口にしないで頂けると助かります」

「ん? …………」

 

 スマホの地図アプリを開いて、自分の現在位置と向かう方角に何かあるかを調べる。

 といっても、桜が見れそうなポイントは結構あるな。

 いったい何処に向かっているんだろうと思っていたら、鈴明(スズメ)ちゃんがなにも言わずに地図をある所でまで動かした。

 そこは前世でも見たことがある土地だった。

 高貴な人が関係する公園だった気がする、でも普通に一般人も入れたよなと前世の記憶を辿っていたのだが、そうだったら鈴明(スズメ)ちゃんの反応はおかしいと、スマホで検索をかける。

 ……あ、前世とは違って私有地で、一般人は入れないんだ。

 

「ねぇここって御苑(ぎょえん)……」

「きょ、許可は取っているみたいです」

「【悪魔】が入ってもよろしいんですかね? 入ったら浄化されるとかない?」

「……そういう結界は張られてないよ」

「そういう問題じゃなくてー」

「どうしたの?」

「いや、ちょっとうん。花見という日本の伝統文化を、日本の伝統的な土地で楽しめるって事に気づいたって感じ?」

「……?」

 

 ミサキちゃんが分からないと首を傾げるが、ちゃんと説明していい奴かも分からない。

 というか鈴明(スズメ)ちゃんが場所を口にしないで欲しいと言っている時点で、色々と事情があるんだろう。

 俺みたいな他所の【悪魔】がマジで入っていいのかすら分からない。というかなんで許可が出たんだ?

 流石に恐れ多すぎると、目的地に到着するまでの間。緊張感から俺は姿勢を正して過ごした。

  

 +++

 

 目的地に着いて、園内へと入った俺が真っ先に思った感想は観光地っぽい公園であった。

 綺麗で特別なんだけど、どこか馴染みがあるというか、見たことある自然が広がっている。

 その事に緊張して固まっていた体が、ほぐれたような気がした……いやでも、なんか神聖オーラみたいなのが何処となく漂っているのを肌で感じる。

 痛いとか気分が悪いみたいなのは無いけど、なんか同じに見えて違う日本に来たような、そんな気分になる。

 ……この日本って前世の日本とは違ったな。

 

「人は居ないけど……もしかして貸し切り?」

「そうみたいですね」

鈴明(スズメ)ちゃんも知らなかったの?」

「私も本当に昨日の夜に知りました……どうにも、唐突に決まったようでして」

「……こっち」

 

 ネマちゃんの案内で移動する。実のところ目的の場所は目に見えていた。

 それほど鮮やかで、大きくて、綺麗な桜があった。

 

 ある程度近くまで来たら、立ち止まって眺める。

 桜、日本の象徴というべき花。

 前世振りに見たからか、言葉も出ずに見続けてしまう。

 

「――綺麗」

「ミサキちゃんは、桜初めて見た?」

「はい、初めて見た」

 

 ミサキちゃんは桜から目を離さない。

 俺も桜の花に目を戻す。

 鈴明(スズメ)ちゃんとネマちゃんは、そんな俺たちを、静かに見守ってくれる。

 

 風が吹いて、桜吹雪が俺たちに掛かる。

 ……なんか、焼いた肉のいい匂いがした。

 

 ――ぎゅる~~~。

 

 小さい腹の虫が大きく鳴った。

 ミサキちゃんを見れば、お腹に手を抑えてこちらを見ていた。

 

「……お腹すいた」

「よし、じゃあ向かおうか」

「はい」

 

 花より団子という(ことわざ)があるけど、花と団子どっちも楽しめばいいよねという事で、桜へと近づくと、シャルナさんがバーベキューコンロで肉を焼いていた。

 

「ちーっす、ヤマト様! こうして合うのは久しぶり!」

「シャルナさん、ちっす。そしてこの度は大変ご迷惑をおかけしました」

「いいよいいよ。本当に気にしないで。電話で話したけど、悪魔の子たちも助かったし、むしろ私たちにとってメッチャ助かってベリナーベリナーよ!」

「いやぁでも、流石に学校を更地にしちゃったのはねぇ~。やった本人が言うのもなんだけど、絶対やりすぎだったって」

「まあ、そこはほら――鬼灯家のしでかした事による代償だよ」

 

 ほんの瞬きの間だけ、シャルナさんの表情から感情が消えた気がした。

 シャルナさんの怖い一面を見た気がするが、深くは聞くまい……。

 

「――何よりも、うちらの御当主様が大喜びしていたから、私としてもむしろ超グッジョブよ」

「……フクロウ様。久しぶりにスズメ以外の事で機嫌良かった」

「そうなのか? むしろ問題を起こしたから、その対応とか仕事を増やしてしまった気がするんだけど」

「その増えた仕事が大事ってわけよ。というわけでフクロウ様がお礼にって、ここで花見をできるように取り計らってくれたの! マジ無礼講で楽しんじゃって!」

「分かったよ。それじゃあ楽しませてもらいますわ」

 

 事情はよく分からないが、そこまで言われたら気を使うのも失礼だろうと気分を切り替える。

 

「あ、始める前にヤマト様、1度自分の席に座ってくださいな!」

「俺の席って、桜の下のやつ? 一番いい場所じゃないの?」

「そうそう。そこにヤマト様が座らないと始まんない感じだから。それで報告用に写真撮らせて欲しいんだ!」

「分かったよ」

「ありがと! スズメ。ごめんだけどこのカメラで1枚とってもらっていい?」

「は、はい」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんがシャルナさんから渡されたのは一眼レフのデジタルカメラ。

 かなり高そうであるが鈴明(スズメ)ちゃんは手慣れた様子で操作し、レンズを俺へと向けてくる。

 このまま撮影するみたいだとして、桜の木の下に置かれた椅子へ座った。

 

「姿勢ってこんな感じでいい?」

「大丈夫だと思います! それでは撮りますね。3……2……1……」

 

 カシャカシャカシャカシャカシャと、連続でシャッターが切られる音が響く。

 1枚だけじゃないのかと思いつつ、音が鳴り止むまで動くのを我慢し続けた。

 

「――OKです、ありがとうございます!」

「おー、どんな感じ?」

 

 早速撮った写真を見せてもらうと、ものすごく綺麗に撮れていた。

 ……ただ、ブラックメタリックボディの俺が桜の木の下に映っている様子は結構シュールさを感じさせた。

 

「めっちゃ綺麗。鈴明(スズメ)ちゃんって写真得意なの?」

「い、いえ、そういうわけではないんですが、昔興味を持って勉強した事があるぐらいです」

「スズメは本当に器用だからね。あたしにも見せて!」

「あ、はい……あの、シャルナさん。これってもしかして皇室に提出するものですか?」

「そだよ。まあ桜間家とヤマト様は上手くやってますって説明のためにね」

「じゃあ、急遽お花見が決まったのも……」

「まあまあ良いではないか~。もうやる事は終わったしスズメもお花見楽しんじゃって!」

「は、はい。じゃあえっと……肉を焼くの替わります」

「スズメ~、そういうところだぞ~。ここはシャルナさんに任せなさい! あ、ミサキちゃん、これ焼いたお肉食べる?」

「はい、食べる……!」

 

 お花見に関しては、やっぱり俺の事が絡んでいたみたいで、俺という【悪魔】と桜間家の関係性をアピールするためのものだったらしい。

 シャルナさんの話しぶりを見ている限り、普通にお花見をすれば良さそうではあるのかな?

 まあ、それならお言葉に甘えて普通に楽しんじゃうか。

 

 それにしてもシャルナさん。周りに気が聞くのもあって、なんだか皆のお姉さんみたいだな。

 

「――(よこしま)な気配を感じた」

「うおっ!? ……ヒバリさんいつの間に」

 

 ヒバリさんが気配もなく、側に現れて普通にビビった。

 

「あと、(よこしま)な気配ってなに?」

「スズメは私の妹なのに、違う誰かの妹として見るような視線を感じた」

「……へぇ~」

 

 なんで分かるんだこの人。怖い。

 あと邪とか言うな。

 

「美人さんも居るぞ~」

「ハテナさんも来たんだ」

「ヒバリの付き添いついでではあるけどね。色々な大人の事情はあるかもしれないが、せっかくの機会だ。お疲れ様会も兼ねて楽しんで行こうじゃないか」

「まあそうか、そうだな」

 

 そういえば関係者といえばリヒトはどうしているんだろうと思い、近くの〈影鴉(かげからす)〉で様子を見る。

 するとリヒト、満梨花(まりか)ちゃんと亡娘(ナコ)ちゃんたちもまた、桜が咲いた公園にて花見をしていた。

 どうやら、今回の件でのお疲れ様会を三人でやることになったらしい。

 お酒を飲んだのか顔を赤くして笑ってる亡娘(ナコ)ちゃんに、困ったような、だけど仕方ないなと笑みを零す満梨花(マリカ)ちゃん。そして、そんな二人を楽しそうに見つめるリヒト。

 

 ……うん、誘うのは野暮だな。俺たち家族のお疲れ様会は、また今度にするか。

 

「お酒もあるけど、ヤマト君は行ける口かい?」

「あー、どうなんだろう。酔って迷惑掛けるかもと思うと、流石に怖い……」

 

 人間が酔ってもたかが被害は知れるけど、今の俺は【悪魔】。

 もしも暴れ上戸とかだったら、マジでシャレにならない……。

 

「その時は、私がどうにかしてあげる」

「どうにかするの内容を先に聞いてもいい? 光になるとかだったら、流石に烏龍茶にするよ?」

「……ミディアムぐらい光になる?」

「半殺しにするって意味?」

「ほらヒバリ! アホな事言ってないで皿と割り箸配って! それと肉焼けてきたから、みんな遠慮せずじゃんじゃん食べてね! タレはそっちにあるよ」

「……焼きそばも作るよ」

「というか、誰か飲み物配って、お願い~!」

「じゃあ俺がするよ」

「それなら私が……」

「いいよいいよ。こういうのは皆でやろう? 鈴明(スズメ)ちゃんも頑張ってくれたしね。俺からお疲れ様っていう事で」

「は、はい!」

「スズメ! お姉ちゃんのお膝が空いてるぞ!」

「やっぱり手伝います」

「あ、うん。よろしく」

 

 ――もうこの時点で花見に来て良かったと思った。

 桜があって、食べ物があって、飲み物があって、そして皆が居る。

 

 ……未だに【地獄】に居る、あいつらもいつか来れて、そうしてこうやって一緒になって楽しめたらいいなと思う。

 

「ヤマト」

「ミサキちゃんどうしたのって、随分と幸せそうだね~」

「もぐもぐ……」

「美味しい?」

「美味しい……!」

 

 声を掛けられて、下を見れば。焼肉がこんもり乗った紙皿を持ったミサキちゃんが、こっちを見ていた。

 目がキラッキラに輝いている。焼いた肉って美味しいよね、超わかる。

 ……うん。楽しそうで本当によかった。

 あの時、ミサキちゃんが自分から人を助けたいって言って、皆を助けた。

 上手く行って良かったってのもあるけど、ミサキちゃんの成長をしっかりと感じられて、実は静かに感動したんだよな。

 

 ――これからも俺は、ミサキちゃんと一緒に平和な日本を満喫したい。

 これだけは絶対に守りたいなと強く思った。

 

「ヤマトも食べる?」

「うん、でもその前に乾杯しようか」

「“かんぱい”?」

「そう、こういう時にやる……うーん、説明が難しい……まあ、楽しい事だよ。というわけでミサキちゃん、このコップを持って」

 

 ジュース入りの紙コップをミサキちゃんに渡す。

 俺はビールを手に持って皆を見れば、全員が俺を見ていた。

 

 ……あ、これ俺が言うのね。

 あんまり経験はないんだけど……やるしかないか。

 

「それじゃあ、みんな、これからも日本で平和で楽しくやっていきたいので、よろしく――乾杯!!」

「「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 

 陰陽師が居て、人ならざるものが居る日本だけども。

 俺は前世と変わらない桜の木の下で、何千年ぶりかの花見を楽しむのであった。

 

 

 






【あとがき】

これまで、陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】を読んで頂きありがとうございました。これにてこの作品は完結となります。

この作品はカクヨムコンテスト11用に執筆したものであり、事前に賞の結果次第でどこまで書くかというのを決めていました。結果は自分の力不足もあり落選となりました。
そのため申し訳ありませんが、半端を承知で完結とさせて頂きます。

今まで自分の作品を楽しんで頂けたのなら幸いです。
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