陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、望みを叶えるってよ。

 洗面所から居間へと戻った俺とミサキちゃんは面と向かって座っている。

 ミサキちゃんはソファに座っており、俺は〈影変身〉を解除して【悪魔】の姿へと戻っており正座している。

 別に反省中というわけではなく、身長差でミサキちゃんが顔を上げ続けて疲れないようにするためだ。

 

 ちなみにミサキちゃんは、窓から差し込む光に照らされる俺の姿を見ても怖がらなかった。どうやら全く気にしていないらしい。

 

 ――俺の見た目は気にしていないけど、あの女性の姿の事を滅茶苦茶気にしている。

 

 お母さんと呼んでいた。つまりはミサキちゃんの母親にそっくりだったのだろう。

 ああなるとは知らなかったとはいえ、随分とやらかしてしまった。

 まあ、他にも話は積もっているし、1個ずつ進めていこう。

 

「さて、改めましてだ。俺は【悪魔】のヤマト。【地獄】から召喚されて、ミサキちゃんの契約悪魔となりました。本当にありがとうございます」

「はい……?」

 

 深々と頭を下げる。ちらっとミサキちゃんを見れば、なんでお礼を言われたんだろうってな感じで首を傾げていた。

 それはそうだと、顔を上げて自分の事を話す。

 

「俺は、どうしても日本に来たくてね。でも、どうしても行けなくてもう本当に長い時間(一千年以上)。もう本当に頭がおかしくなりそうになる寸前にミサキちゃんが呼んでくれたんだ。だから本当にありがとう!」

「そうなの……ですか?」

「そうなんです。そういえばミサキちゃんって呼んでるけど、名前あってる?」

「はい、ミサキです……悪魔の子です」

「うん。悪魔の俺に合わせてくれてありがとね」

 

 差別や迫害の言葉である筈の悪魔の子という呼び名。それをミサキちゃんは当然の如く口にした。気にしていないというよりも、そうとしか呼ばれなかったから当たり前としか思っていない感じだ。

 いったいどんな生活を送ってきたのか、これから聞く事になるだろうけど正直言って気が重い。

 かと、言って知っておかないと後々問題になるかもだし、せめてあらゆる内容を想像して、今のうちから対応を考えておこう。

 

「そういえば、朝ごはんがまだだったね。おにぎりとお茶があるけど食べる?」

「……はい、ありがとうございます」

「それとミサキちゃん言い辛いなら、普通に話してくれてもいいよ」

「……いいの?」

「もちろんだよ」

「……はい、分かった」

 

 “ですます”口調のさいの突っかかりが気になって言ってみたら、自然体になった。

 これは意外と言えば意外、なんて最初は思ったが、もしかして他者との会話を殆どして来なかったという事になるのだろうか。

 

「……まあまあ、遠慮せずに食べな……そういえばミサキちゃんって、最後にご飯を食べたのはいつ?」

「ヤマトに出会う前、お腹いっぱい食べた」

「そっか、それは良かった、かなりマジで」

 

 もしかしたら、1日以上飲まず食わずで固形物は食べたらダメな状態かと不安になったが、そこは問題なさそうだ。

 巫女服を着ていて分かりにくいが、体つきも細くはないし、食事だけはきちんとしていたのかな?

 

「それとも、まだお腹すいてない?」

 

 ぐーっと音が鳴る。俺の問いかけに応えたのは、ミサキちゃんの腹の虫であった。

 

「……お腹空いた……食べていいの?」

「いいよ。全部食べな」

 

 ミサキちゃんは、おにぎりを手に持って色んな角度から見始めたと思えば包装フィルムに包まれたまま、開いた小さな口に近づけた。

 

「ごめんごめん、ちょっと貸して」

「あ……」

 

 どうやらミサキちゃんはコンビニのおにぎりを知らなかったようで、慌てておにぎりを取る。

 漏れた悲しい声が聞こえてきて、心に痛みが走りながらも、すぐに包装フィルムを剥がして、ミサキちゃんへと返す。

 

「ほら、これで食べられるよ」

「……頂きます」

 

 ちっちゃな口で、おにぎりをパクリ。

 モクモクと噛んで、飲み込んで、また食べる。それを何度か繰り返す。

 

「……美味しい」

「分かる、本当に美味しいよな……ゆっくり食べればいいからな」

「ん」

 

 夢中でコンビニのおにぎりを食べるミサキちゃん。

 なんていうか、この子に召喚されて本当に良かったなと心から思えた。

 

 食べながら話をしていこうと思ったけど、邪魔するのは止めよう。ミサキちゃんが食べているのを見守りつつ、俺はこれからについて思考を巡らせた。

 

+++

 

「――ごちそうさまでした」

「お腹いっぱいになった?」

「はい……美味しかった……」

 

 ミサキちゃんは時間こそ掛かったものの、おにぎり二個を完食した。本当にうまそうに食べるもので、空腹感こそないものの食欲は増加。鈴明(スズメ)ちゃんが来るのが待ち遠しくなっちゃった。

 

「そんじゃ、ミサキちゃん。俺たちの事を色々と話そうか」

「はい」

「まず、ミサキちゃんは【悪魔】である俺と契約をした。だから俺と見えない糸のようなもので繋がっているんだけど分かる?」

「……はい、分かる」

 

 ミサキちゃんも意識を集中させると、俺との繋がりのようなものをハッキリと感じ取れるみたい。これによって見えない糸のようなものが俺の気のせいではない事が証明された。

 

「そう、それが悪魔との契約した証だ」

 

 という事にした。

 

 実際はどうなのかは分からないけど、まあそこまで間違ってもないはず。この見えない糸が絶たれてしまった場合、この世界との繋がりを無くして【地獄】へと戻ってしまう。

 そして絶たれる事があるとすれば、恐らくミサキちゃんの意思による契約破棄、そしてあるいはミサキちゃんが死んでしまう事だと思われる。

 それだけは嫌だ。【地獄】に戻るのも、ミサキちゃんが不幸になるのもヤマトは許しません。

 というわけで、日本とはいえど俺たちに害を与えるやつは排除する。これ絶対。

 

「そんなわけで、ミサキちゃんに召喚された俺は君の望みを何でも叶える義務がある。なにか願いごとはある? 何でも叶えてあげるよ……俺ができる範囲でね」

 

 などと口では言ったものの、世界を滅ぼすとか、人間を虐殺するとか、そういう物騒な願いだった場合は、なんとか変えてもらえるよう必死に説得するつもり。

 

 そりゃ、大人たちの勝手な都合で悪魔の子として酷い目にあっているだろうし、生贄にだってさせられているから人間に恨みがあっても仕方がない。よって特定の復讐なら願い事関係なく全然俺がヤってもいいけど、無差別はやっぱりダメだよ。

 

 ミサキちゃんには平和な日本での生活を楽しんでもらいたいし、それこそ【地獄】のような人生を送ってほしくないからね。

 

「……ごめんなさい。よく分からなかった」

「ごめんごめん。難しいこと言っちゃったね。まあ、とりあえずコホン――契約者様。この【悪魔】のヤマトに願いを言いたまえ~」

 

 やっぱり【悪魔】なんだし契約の時は格好つけたいよね。でも、全然慣れていないのが透けちゃってるな。ここは練習あるのみだ。

 ミサキちゃんは俯いて考える。まあ、急に言われてもパッと答えられないわな。

 いまは保留でもいいよ。なんて言いかけた時、顔を上げた。

 

「――家族になって」

 

 あまりにも真っ直ぐすぎる願いだと感じて、俺は即答できなかった。

 

「……ミサキちゃんのご家族は?」

「……お母さんがいたけど、四年前に……」

 

 なんとなく察してはいたが、ミサキちゃんは天涯孤独だった。

 そして、お母さんがとても大好きだったのだろう、母親の事を話すミサキちゃんの声は、とても悲しそうだ。

 

 ――だからこそ家族になってという願いの真意に気づく。

 彼女が求めている家族は、洗面所で見てしまった〈影変身〉によって母親の姿。亡くなってしまった母親の代わりだ。

 それが彼女の望みなら、叶えて上げるべきなのだろうけど。

 

 ――うん、やっぱり違うな。

 

「……ミサキちゃんが望めば、俺はどんな家族にだって慣れると思う。お父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、妹、弟、おじいちゃんに、おばあちゃん、ペット……お母さんにもなれる」

 

 黒い小さな瞳に宿っている期待が、俺を突き刺してくる。

 【悪魔】の俺は、それを裏切る。

 

「でも、ミサキちゃんのお母さんにはなれないよ」

「…………」

 

 ミサキちゃんはなにも言わない。

 

 俺は、やろうと思えばお母さんとして振る舞えるのかもしれない。

 でも、それをやってしまったら後でしんどくなるだけだ。俺も、ミサキちゃんも、萎えるどころじゃないだろう。

 

「お母さんに似ている姿になって、それらしく振る舞っても。それはミサキちゃんの事を最後まで愛してくれたお母さんじゃない」

「……はい」

 

 分かっていたのか、素直に俺の言葉を聞き入れる。

 俺が抱かせてしまった希望を、俺の手で潰したようなもんだ。正に悪魔の所業だな。

 心が痛い。でも本当に大事な事だから最後まで言わないとな。

 

「ミサキちゃんは、お母さんのこと好き?」

「はい」

「だったら、お母さんの代わりは求めちゃダメだよ……それが、どれだけ辛くても」

「……はい」

 

 ついに泣かせてしまった。

 彼女を持ち上げて抱っこする。【悪魔】の力が無くても、ものすごく軽い気がした。

 俺の体は固くて冷たいのかもしれないけど、今は人の姿になるのはなんだか気が引けた。

 彼女を絶対に傷つけないように、力加減に細心の注意を払いながら背中をさする。

 

「それでいいなら――【悪魔】のヤマトは、ミサキちゃんの家族になるけど、どうする?」

「……家族に……なって」

「分かった、その願いを受け入れるよ。俺は今日からミサキちゃんの家族だ」

 

 ミサキちゃんは、俺の胸元で声を出さずに泣きはじめる。

 強い子だ。俺の言葉で、すぐに思い直してくれた。

 幸せになってほしいなと、俺の事情抜きにして改めて強く思った。

 

 ――そのためには、やっぱり情報が必要か。

 

 一瞬だけ、あの白装束がどうしているのかを確認しよう。その積もりで白装束たち貼り付けていた『布影』に意識を集中させる。

 

 

 

――――――――――

 

【あとがき】

近況ノートにミサキちゃんの過去話(イラスト)ありを掲載しました。もしよろしければ見てください。

 

「陰陽師【悪魔】:短編 母親が握った冷たいおにぎり」

https://kakuyomu.jp/users/komadori0006/news/2912051598587346888





こちらはカクヨムの近況ノートに記載されたイラストと短編です。

陰陽師【悪魔】:短編 母親が握った冷たいおにぎり(イラスト有り)
イラスト:クロノ
[X(旧Twitter)掲載版]


――――――――――

 母親として何かしてやりたい。
 そう思ったようで、許された散歩の中で盗みを働いた。
 調理場に置いてあった、おひつの中の炊き出しのお米。
 それを小さくて細い片手で掬い、誰にも見つからないように隠しながら帰った。
 部屋に戻った母親は、白米を握り始めた。どうやら握り飯にするようだ。
 しかし、炊き出しの米の熱は、ひどく熱かったのだろう。握っていた手は火傷しており、痛みからか手が止まる。
 だから出来た握り飯の形は、丸か三角か分からないほどに歪であり、細い手で隠せるだけの量しか盗ってこれなかったので、あまりにも小さい。
 さらに保管できる場所もなく、仕方なくトレーの上に置いた事で娘が清めの儀式を終えて帰ってくる頃には、冬の寒さに当てられて、すっかりと冷えてしまい硬くなってしまった。
 それでも母親は娘に食べてほしいと、娘に差し出した。
 自分が危険を承知で盗って来たものを、どうしても食べさせたかったようだ。
 娘は初めて見る握り飯、正確には炊いた白米に首を傾げた。
 白米は食べたことがあるが、いつもは生米であるから、全く違うものに思ったのかもしれない。
 そんな娘は、母親に言われるままに、その不格好な握り飯を食べた。
 あんなのでも、初めて食べたとあってか、美味しいと思ったようで人間らしい感情(笑顔)を浮かべた。
 そんな娘を愛おしそうに、母親は小さく笑いながら頭を撫でた。
 
 ――素手で握った握り飯は、旨み成分が増さり美味しくなると言う。
 だが同時に、食中毒の危険性がある菌も付着するとされる。
 長い時間隠すために持っており、さらに形を整えるために握った。
 その上で何時間も外気に晒し続けていた。冬でなかったら間違いなく腐っていただろう。
 
 そんなものを世間を知らない娘が食べて、世間知らずの母親が喜ぶ。
 なんて汚らわしい愛だろうか。
 滑稽とは、こういった時のために使われる言葉だろう。

 人間の要素をある程度は残さないとならないため、今回は許してやったが、定期的にやられてしまっては品質に関わる。
 また盗みを働いたら、自分の愚かさを教えてやれば、もう二度としないだろう。あれはそういう女だ。

 冷えた握り飯など、汚くて食えたものではないと。


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