陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
――【
俺の『布影』に至っては能力であると同時に、俺の存在の一部みたいなものだ。
そのためか、『布影』はたとえ切り離しても、その存在を感知できるし、意のままに操ることができる。
俺は、白装束の何人かに『布影』の欠片を貼り付けた。
こうする事で、アイツらがたとえブラジルに逃げたとしても、欠片で居場所が分かるし、一瞬で移動する事ができる。
といっても、【地獄】での話なので、どこまで同じようにできるかは分からない。
といっても今はミサキちゃんの側に居てあげたいので、あくまでアイツらがどうなっているのか確認するだけに留める。
――見つけた、感覚的にけっこう距離が遠い。もしかしてアレからずっと移動していたのか?
二分ぐらい様子を見ていたが、ずっと同じ場所に留まっており、動く気配はない。
もしかして剥がれてしまって風に流されただけかと不安に思いつつ、変化しろと念じると、視界が切り替わり、音が聞こえてくる。
よし、どうやら変化は上手く行ったようだ。
やった事は〈
その形はネズミ。名前はもちろん〈
普通のネズミの視覚と聴覚がどうなのかはわからないが、〈
といってもこれに関しては〈
ハッキリした視界で見えたのは、白装束の足たち。よかった、どうやら立ち止まっていただけらしい。
ここは、もしかして学校の体育館か?
ボロさから見ても、学校が廃校などして長年使われていない場所かも。
音もちゃんと聞こえてきた。壇上の方が騒がしい。どうやら欠片は誰かの靴の上に貼り付けてたやつだったようで。
その人物の体を伝って上にあがる、重さが無いこともあって気づかれる事なく肩に乗っかる事ができた。
「――それでなに? 召喚した『人外存在』に逃げられたってわけ?」
「いや、そういうわけでは……」
「そうでしょ? はぁ全く使えないなぁ」
「ううっ……」
「それに施設が跡形も無くなったってどういうこと?」
「ですから、それも悪魔と名乗る『人外存在』が……」
「あの施設に、どれだけお金かけたと思ってるの? 貴重な祭具だってあったのになぁ。ほんと使えない奴ら」
「ううっ……!」
うわぁ、どちらも顔を布で隠して見えないけど、声からして中年男性が、ショタ声に怒られてる。
あの中年男性は確か、俺が召喚された時に、あの部屋にやってきたリーダー的存在だな。どうやら俺がやった事で上司からパワハラを受けてるらしい。
まあ、ミサキちゃんを生贄にしたやつだし、別にいいか。俺が日本に来られたのは、アイツのおかげだったとしても認めるかは別ってね。
「……ねぇ、これいつまで続くの?」
「わかんないよ。
だいぶ長く説教が続いているのか、我慢できずといった感じで〈
声からして、だいぶ若い女性らしく、十代でもおかしくなさそうだ。
それにしても、あのショタ声は貪派って言うのか、偽名かも知れないが覚えておこう。
「なら、まだまだ続きそうだなぁ……ここ端っこだし座っていてもバレないかな?」
「やめなって、バレたら流石にヤバい」
「うーだるい。ほんとなんでこうなっちゃったの? 荷物を運ぶだけのバイトの筈なのに、なんで一緒になって怒られないといけないわけ?」
「私に聞くな」
――なんか今どきというか、ギャルっぽいというか。本当に若い女子って感じだ。怪しい白装束姿の格好しているから、ギャップがヤバい。
そんな子たちがどうして、白装束を着ているのか、もしかして闇バイトって奴だろうか?
「……悪魔が召喚されたっていうけど、マジで悪魔だと思う?」
「わかんない。でもあの施設って私たちみたいな悪魔の子ばっかなんでしょ? それだったら可能性はある……かも?」
「悪魔の子が、悪魔を呼ぶか……マジ笑えないわ」
「ほんとにね……これでさらに仕事無くなったらどうしよう……もう生活できないよ」
――違うわ、こんな子たちでも悪魔の子って呼ばれて、普通の生活ができなくなっている。だから生活するために白装束の格好をして仕事をしている。これは、そういう奴だ。
困ったな。こういう子たちが居ると知ったら、なんか全員殴り倒してスッキリみたいな感じになるか怪しいぞ。
ミサキちゃんを生贄にしようとしたの、明らかにこの子たちは関係なさそうだしなぁ。
「まあ、大丈夫じゃね?
「……うん」
鬼灯家。また聞いたことのない名前が出てきたな。そこが悪魔の子の生活支援を行っているのか?
気になるけど、会話が終わっちゃったな。かなり大事な部分っぽいから聞きたいが。
――こうなったら俺から聞いてみるか。『布影』で作られた動物は喋らせる事も可能だ。でもマジで難しくて長い事やっておらず、上手くできるかは一か八かである。
「――ドウシテ、ホオズキケノトコロダト、シゴトガアルンダイ、ハハッ」
〈
これは普通に失敗したかもしれん……。
「なんでって、鬼灯家当主様が悪魔の子でも関係なく雇うように関係者に言ってくれているからだよ」
「え? 私なにも言ってないよ?」
「は? というか、そもそも私を誘ったのナコじゃん。この仕事も鬼灯家の紹介だし……もしかして忘れたのか?」
「え、なんの話?」
「いやまて分からん。なんか話が噛み合ってなくないか?」
よし、どうやらギリ上手く行ったようで、新しい情報を手に入れる事ができた。
鬼灯家の当主が、悪魔の子たちに仕事を与えるように言っているのか、それは何ていうか人情だねぇ。
なんていう事にはならない。
そっかー、この仕事って鬼灯家の紹介なのかー。
どう考えたって怪しいわ。
――なんかさぁ、これさぁ。すごい悪い考えが浮かんだんだけど。
子供を生贄にするような儀式をする白装束団体に関係があるらしい鬼灯家は、仕事を与える名目で悪魔の子を集めている。
もうこの時点で、絶対なんかあるじゃん。
なんならさ、まだ決めつけるのは早いとおもうけど――悪魔の子に関して、鬼灯家がなにかやっている可能性高くないか?
――きゃああああああああああ!!?
突然、体育館に大きな悲鳴が響き渡る。白ギャル系装束のふたりと一緒に、壇上へと目を向ける。
――壇上の前に、紫色をした
全長5メートルほどか、
そんな大男が、先程までパワハラを受けていた中年男性と思われる白装束を頭から飲み込んでいた。
「――もういいよ。その『人外存在』の居場所が分からないなら、おまえらは完全に用済み」
ゴクリと、男が飲み込まれる。すると紫色の巨人は、さらに大きくなった。
「な、何をして……!? やめてください貪派様! お願いですから、どうかやめ――」
「うるさいよ」
巨人の妖怪は、必死にお願いしていた老婆であろう白装束を掴んで、同じように飲み込んだ。
すると、さらに巨人は大きくなり、もう少しで体育館の天井に頭をぶつける大きさになる。
どうやら、この紫色の巨人は人を食べたらデカくなっていくようだ。
声を上げたら食われてしまう。全員がそう思ったのか静かになる。
「――どうして」
その中でポツリと呟かれる言葉の返事は、
「あはははは! 本当にバカな奴らだね! 元から君たちは儀式が終わったら、
紫色の巨人――ダイダラボッチが動き始めると
ダイダラボッチは、より大きくなった手で3人ぐらいを同時に掴むと、口の中へと放り込んだ。
その時、口の名から助けてという声が聞こえたが、すぐに奥へと消えていった。
どうやら飲み込まれた時点で、もう助からないらしい。
「……やばいよ。本当にやばいよ!?」
「くそっ、逃げるぞナコって、スマホで撮ってる場合かよ!?」
隣に居た白装束――ナコはダイダラボッチが人を食っている所を動画に撮る。そんな彼女を〈
「――っダメだ。鍵が閉まってる!?」
「嘘でしょ……嘘っていってよ!?」
この扉だけではなく、他の扉や窓も全てが固く閉ざされており、誰も外に出ることができない。
この体育館に白装束たちを集めていたのは、逃さないようにするためだったようだ。
「ど、どこかに出られる場所が……きゃっ!?」
さらにデカくなった『ダイダラボッチ』が、天井を突き破る。
頭だけが外に出ているのは、ちょっとおもしろいなと思ってみていると、天井を掴んで何処かへと放り投げた。
――こうして、巨人の餌箱は完成する。まだ白装束たちは沢山いる。これからもっと大きくなっていくだろう。
「い、嫌だ。死にたくないよ助けて、マリカ!?」
「落ち着けナコ!? 最後まで……諦め――っ!」
「いやあああああああ!!」
ドーンっと、遠くで投げた天井が落ちた事による振動で、完全なパニック状態となる。
「……なんだよ、これ」
〈
金色のメッシュを入れている、長い黒髪。大人になったばかりに見える、何処にでも居そうな女の子が、ダイダラボッチを絶望の表情で見上げる。
「ちくしょう……どうしてだよ……」
――さて、どうしようかな。見なかった事にするのは正直有り。
あの貪派が、どんな立場の人物なのか分からない今は、俺の事を知られないようにするべきだろう。ミサキちゃんに危険が及ぶかもしれないし。
「なんで、こんな事に……」
この二人が死んじゃうのは気分が悪いけど、それは俺が耐えればいい話だ。
ほとんど無関係だったとしても、一応は敵対団体のメンバー。
ミサキちゃんを狙う可能性が、敵が勝手に減ってくれるなら手を出さないほうがいい。
「なんでこんなに……」
だから、助けないほうがいい――んだけどな。
「――この国はクソなんだよ!!」
――本当に困ったね。
気持ちは分かるよ。俺も人間だった時代があるからね。
ほんのちょっと運が悪ければ、どこだって地獄になる。
だから、どこどこよりもマシとか、こっちの方が酷いとか。
比較する話じゃないと思うけどさ。
なんていうか、そうだね。
コンビニのフライドチキン。
本当に美味いんだよね。
+++
「……ミサキちゃん。急に言われて戸惑うと思うけどさ」
「……うん」
まだちょっと落ち着かないミサキちゃんを、抱っこしたまま話始める。
「実はいまミサキちゃんを生贄にしようとした白装束の奴らを調べていたんだけど、現在進行形でダイダラボッチっていうでかい巨人に襲われてるんだわ……あーそんで、ちょっと契約チャンスだから、二人ぐらい命を助ける的な……事をしたいんだけど……いいか?」
ミサキちゃんにとっては、自分を生贄にしようとした奴ら。だから嫌っていうなら、俺は仕方ないなってきっぱり諦めるつもりだった。
「いいよ」
即答だった。俺に気を使った様子はない。
「いいのか?」
「うん、難しいことは分からないから、ヤマトの好きなようにして」
「……おう」
ミサキちゃんを下ろして、腕を回して気合を溜める。これであの巨人にペチャっとされて負けたら、さすがに格好が付かないからな。
「じゃあ五分だけ行ってくるわ。危ないから少しだけ留守番よろしく頼むな」
「うん……行ってらっしゃい」
「行ってくる! ――〈
壁に向かって『布影』を円形に広げる。
これをくぐれば一瞬であちらへと移動できる。
ダイダラボッチは、まあどうにかなるだろう。あれよりもでかい【悪魔】は何度か見てきたし、殺してきた。
むしろ俺のセールストークの方が、うまくいくか不安である。
「まっ、【悪魔】らしくやってみるか」
ここで考えていたら食われてしまうかもしれない。考えるのは後にしようと〈影の門〉をくぐった。