陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
白装束の1人であったマリカは、元はどこにでもいる普通の中学生だった。
両親とは一緒に買い物へと行くが反抗気味。兄妹たちとは趣味が合わないものの暇になったら一緒に遊んだり、喧嘩したりなどしていた。
頭は良くないからと、高校も最初から高望みしておらず気楽なもので。スポーツ選手になれるほどの才能は無かったものの運動神経は良いほうだったため、体を動かす割の良いバイトを見つけて、たくさん稼いで遊んで楽しむ高校生活の目標としていた。
本当に、どこにでもいる普通の少女。
それが、『悪魔の子』であった事で、全てが変わってしまった。
日ごとに加熱する悪魔の子に対して不安を
――ある日から、たった一枚の紙だけで、マリカは悪魔の子になった。
それからマリカは家族から腫れ物扱いされていた。最初こそ大人になったら平気だからと、気にしないという態度をとっていたものの、世間の圧力は増すばかりで。マリカは次第に家族たちが、自分の事を犯罪者のような目で見ているような気がして一緒にいる事がしんどくなった。
高校へと進学したら、一人暮らしをしよう。
暇な時間はバイトを入れて、とにかく貯金しよう。
そうして、好きな事をして人生を楽しむんだ。
そう思っていたマリカに届いたのは、高校からの悪魔の子に対する入学取り消し通知。
そこからさらに多くの事が積み重なって、マリカは小さなリュックに入るだけの私物を持って家を出ていった。
それからマリカは年齢不問の日雇いのバイトをしながら、格安の漫画喫茶で寝るを繰り返す日々だった。
時々、トコジラミに噛まれたり、警察に補導されそうになったり、怪しい大人に声をかけられたりなどしたが、それでも1番平和な時期だった。
――あの、私ナコって言うんだけど、もしかして同じ悪魔の子?
ひとりで寂しかったからと偶然隣だったナコに声を掛られて、一緒に過ごすようになったのも同じ時期である。
世間はマリカたちの意思関係なく進んでいき、悪魔の子は『人外存在』を引き寄せて、周囲に被害をもたらすとして、次第に漫画喫茶でさえ検査結果を提示しないと入れなくなる店も増えていった。
それほど遅くはない早さで社会は悪い方向へと変わっていき、
国は悪魔の子を支援しているが、マリカと同じような境遇の子があまりにも多くて、申請こそしたものの今だに順番が来ない。
支援団体も似たようなもので、悪魔の子の多さにまいっているスタッフに、“普通の人で手一杯”と断られた時の事を、マリカは毎日のように思い出している。
ついには日雇いの仕事も検査データが必要になりはじめて、そろそろ体でも売るか、でもそっちも人が余ってそうだな。という会話が冗談じゃなくなってきたころ、ナコが顔を出している悪魔の子のネットコミュニティでは、ある事が話題になっていた。
――マリカ、
それは鬼灯家の関係会社が率先して、悪魔の子に仕事を与えているというもので、陰陽師と言えば鬼灯家とされるぐらい有名な場所ならと、マリカとナコは藁にも縋る思いで鬼灯家関係者が出しているバイトに応募する事となった。
こうしてマリカたちは、白装束の格好を着てバイトをする事となる。その内容は、ナコが運転免許を持っていたのもあって、怪異の居る危険地帯にある施設へと生活品を運ぶものとなった。
荷物を軽トラックに積んで、移動して下ろす。
仕事自体は簡単であるが、荷物は重いし、時給は低いし、怪異の対策のためにとダサい白装束を着なきゃいけないし、貪波のような鬼灯家関係者からパワハラ受けることもあるし、とにかく文句を挙げれば両手じゃ足りないぐらいあった。
それでも、マリカは充実を感じていた。
金の心配せずとも温かい部屋で、布団で眠れる。支給される弁当もけっこう美味しい。貯金も少しずつだけど貯める事ができて、来週にはナコと一緒に久しぶりにカラオケへと行く約束をした。
悪魔の子になってから、ようやく手に入れた平穏な日々。
――それが嘘だったと、マリカたちは教えられる。
「あはははは!! ほんとこの瞬間は何時だって楽しいよね! 必死に頑張ってボクの言い成りになっていたっていうのに、実は全部無駄でしたって知った時の絶望する姿! ああもう、思い出すだけ笑っちゃうね! あははは!!」
マリカの眼の前には巨大な足の指先があった。その大きさは体育館が靴のようになっているほどだ。
ダイダラボッチは雲の巨人と呼ばれている妖怪であり、その巨大な体は
しかし、この紫色のダイダラボッチは貪波の手によって改造を施された式神であり、肉体は水分で構成されながらも人間を掴み持ち上げられるだけの密度となっている。また、体内へと飲み込んだ人間を深海に等しい水圧で瞬時圧殺する事で、贄として得られるエネルギーを余すことなく取り込む事ができる。
何十人と食べたダイダラボッチは、都会にあるような高層ビルよりも高い巨人となった。そんな巨人が腰を曲げて、残った二人。マリカとナコを見下ろす。
ダイダラボッチに影ができないのは、肉体が水だからか、それともこの世
「あ~あ、もうお終いか、まあいいや。これ以上でっかくなったら認識阻害術の範囲外にでちゃいそうだしね。それにしてもクフフ! すっごいブサイクな顔~!!」
マリカとナコの涙を流している顔を見て、
ふたりが最後まで残されていたのは、1番奥の扉に居たからという、なんて事のない理由だった。
「どうする? 今すぐ土下座するなら、あと逃げる時間を10秒だけあげてもいいよ~? まあ、どこへ逃げても、ダイダラボッチからは逃げられないと思うけどね!」
どこまでも、人のことを指で潰せる蟻のようにしか思っていな貪波。どれだけマリカが怒ろうとも、巨人を従える陰陽師に単なる少女が勝てるはずもない。
ナコは既に諦めており、へたり込んで声を出さずに泣いている。
マリカもできればそうしたかったが、貪波の笑い声によって現実に引き戻されてしまい。これから、スナック菓子のように食われる事しかできない現実を前に泣くことしかできない。
「う、うう……!」
「あ、泣いちゃった〜。汚いね。やだなぁ、遊ばずに食べちゃえば良かった」
――この国は、いつからこんなにもクソだったんだ。悪魔の子になる前は普通に幸せだったんだ。なにも悪い事していないのに、どうして化け物に食われて死ななければならない。
「――こんな国、生まれなきゃよかった」
【――助かりたいか?】
「だ、誰だ!?」
耳元で声がして、マリカは周囲を見渡すが誰もいない。
【助かりたいかと聞いている】
「な、なんなんだよお前!?」
「お、頭おかしくなっちゃった? やっぱり死ぬ寸前の人間って面白いね。とことんおバカになっちゃうもん!」
貪波の様子からして、マリカはこの声が自分にしか聞こえていない事を知る。
【質問しているのは俺だ。そう何度も聞かない――助かりたいか、と聞いている】
「そんなの……助かりたいに……助けてほしいに決まっているだろ!?」
腹の底から、本気の願いをぶつける。
【ならば俺と契約しろ、ただし契約したのならば対価を払ってもらう】
「契約でも何でもする、対価だって何でも払ってやる。だから頼む――助けてくれ」
声の正体だとか、対価とかは考える余裕なんてあるわけないと、助かるならば何だっていいと、マリカは必死の思いで願いを口にする。
【……(えっと、じゃあ、たしかスズメちゃんの時は)――ならば、
「し、しんめい? ……もしかして、陰陽師がやるっていう真銘契約をするのか?」
【たぶんそゴホン――そうだ! ゆえに真銘を
『人外存在』にとって、人間の名前はものすごく重要な意味を持つ。そのため日本人は、生まれた時に
呼名とは呼ばれるための名前であり、マリカやナコはそれに属する。
そして真銘とか、その人物を現すためのもの。つまり漢字によって構成された名前である。
真銘を『人外存在』や陰陽師に知られるという事は、人生に干渉できる権限を与える事と同義である。
ゆえに真銘契約は数ある契約手段の中でも、もっとも重い契約であり、正体も分からない存在に絶対にやってはならない危険なものである。
だが、今のマリカには関係ない。助かるならなんだってやると決めたのだ。
「ああもう好きにしろよ!」
「マリカ……?」
「ああほんとおかしい……待て、お前何かと会話をしているのか?」
ナコが顔をあげる。クソ野郎が睨みつけてくる。
そんな中でマリカは、思い出した己の名に付けられた意味を告げる。
「私はマリカ! ――
梨の花言葉は“愛情”だと、マリカは母親に教えてもらった時の事を思い出した。
【――契約は結ばれた】
マリカの肩に大きな手が置かれる。後ろを振り向けばSF作品に出てきそうなパワードスーツの化け物が立っており、ぎょっと目を見開く。
「――契約に基づき、【悪魔】のヤマトは
【悪魔】のヤマトが、マリカたちを守るように前へと立った。