呪われた真祖 作:俺はオモチャ、それでいい
「─────ッッ!!」
自身の心拍数を反映した土器を創造する。
土器の種類は『
(呪力無い以上、相手が術式を持っていないのは確定! 理由は説明不要! この女が天与呪縛のフィジカルギフテッドであることを前提に、命をかけた時間稼ぎを徹底する!!)
弥生の手のひらに、茶色の土器が顕れる。
まるで王冠のような造形であるそれは、よく見れば中央部分にハートのマークが彫られている。その部分が、弥生の心拍数を映す心電図であり、火力を上げるガスボンベだ。
「─────『甕』!!」
四種ある土器の中で、もっとも実戦向きであるのがこの『甕』だ。元は主食となる米を煮炊き、副菜を調理したりする深鍋。弥生の術式として使用する場合、炎を吹き出し操作する息吹となる。
(摂氏800℃……攻撃に使えば敵を焼く炎の渦だが、これを防御のみに転用する!これは『縛り』だ!!)
今まで、弥生はこれを攻撃として使い続けてきた。800℃の炎は、呪霊にとって脅威となる。そしてそれは、人間も当然のこと。
触れれば激痛と共に肉が焼け、そのうち骨すら溶け始めるのだ。
それを、弥生諏訪木は『防御のみ』に絞った。
いまの今まで攻撃として使った術式を、防御のみに絞る。絶対に相手を攻撃することはなく、またその意思すら持たない。
勝ちの目を狭めることで、『縛り』として成立させる強硬手段。これによって、炎の温度は1500℃まで上昇する。
(俺から攻撃する事は絶対に無い!! だが─────お前から突っ込んでくるなら話は別だ……!!)
炎の渦は、まるで天幕のように弥生の周囲を駆け巡った。火の粉が散り、熱が肌を刺激する。
自身の術式だからと言って、自身に炎が効かない訳じゃない。ガチ恋距離にまで近づけば大火傷を負い、直撃すれば恐らく死ぬだろう。
火力が上がったのであれば、尚のこと。
しかし、気にする事はない。
命を賭した時間稼ぎ。
覚悟の表れなのだから。
炎の渦は、弥生とアルクェイドの間に、半球体状の壁として立ちはだかった。炎そのものに質量は存在していないが、そこを突破するには摂氏1500℃に耐えうる肉体が必要になる。
天与呪縛のフィジカルギフテッドが、どのレベルまでの身体的強化を受けているのか、弥生はその全容と詳細を知らない。だが肉体が肉と骨で出来ている以上、現実的な限界は必ずある。
通常、人間が火傷を負う温度は44℃からだ。
フィジカルギフテッドが、単純なパラメーターで通常の人間の10倍の数値を保有していると仮定しても、440℃までしか耐えられない。
これは当然、想像上の話だが、高く見積もってもここらが一番有り得ると弥生は考えていた。
(敵は生身で突っ込んで来ない。確証も確信も根拠もないが、もうそう思うしかねぇ……んの場合、奴が仕掛けてくる
人の声が五月蝿い。
この炎の渦は術式から生成された産物。
きっと一般人から見て、弥生は金髪の女に対して警戒している変人にしか見えないのだろう。
しかし、それはそれとして熱は伝わっているはずだ。
彼らは急な温度の上昇という怪奇現象に、困惑しているのではなかろうか。
(俺が最もあって欲しいのが③。こっちは時間稼ぎ目的で戦ってるからな。このまま術式をフルで発動し続けて、俺の呪力が切れるまでの
ま、①よりかはマシだがな、と弥生は思った。
(問題は①に対応する手段が、ほとんど無いこと! 石やガラスみたいな小さい物体ならまだ何とかなる。だが、アイツレベルになればきっと飛んでくるのは車とかそこら辺だ。巨大な質量を一瞬で溶かし尽くすのは流石に無理……!)
動くしか無い。
この人口密集地である人混みの中、女の攻撃を喰らわないように距離を取り続ける。防御は常に張り続け、相手の動作を予測しながら行動する。
上手くいくとは思えない。
が、無茶を通すしか道はない。
(根性見せろよ弥生諏訪木……! やれば出来るってとこ、あのクソ女にも見せて──────)
炎の壁から、女の白い手が伸びてきた。
白い指だ。絡めれば溶けてしまいそうなほど。
汚れは一つもない。絵に描いたような肌色。
伸ばされたのなら、手に取るしかないと思ってしまう。美しくて、繊細で、細やかで、欲情してしまうような、芸術を詰め合わせた右手。
それが、火傷を負わず、煤すら付けず。
真っ直ぐに、弥生の頭を掴んだ。
「! ッッ───!?」
まさか、あり得ない。不可能だ。
呪力を体に纏わず、術式も持っていないのに。
そんな状態で────
(摂氏、1500℃の、熱、だぞ)
だが、現に掴まれている。
女の腕から徐々に肩まで現れて、そして美しい顔が何も変わらず熱の壁から飛び出した。
「『熱い』とか、言うと思った?」
アルクェイドが、囁いた。
「自惚れてるの? それとも、頭お花畑?」
「─────化け物が」
「……」
アルクェイドは不機嫌そうに目を瞑る。
わずかな沈黙、一瞬の刹那。
瞬間、弥生の膝から下が、パッ と消えた。
「っ!…………、……ッッ!!?」
ドバッ! と膝の断面から血が滝のように落ちる。
激痛、人生の最高地点。
今までも、そしてこれからも、生きていて感じることないような、圧倒的な痛みの奔流。弥生はその衝撃のあまり、視界が真っ白になって飛びかけた。
だが、今度はアルクェイドの手に加えられた握力によって、直接脳に刺激を与えられて覚醒した。
「約束通り訊くけど……呪詛師はどこ? 探していたんでしょう、貴方たち」
「ぁ────?」
痛みで飛び飛びの意識の中、弥生は半分も機能していない脳でアルクェイドの質問に思いを巡らせた。
(呪、詛師……? まさか、俺達と、同じ、目的……?)
だとしたら、なんて不幸なんだ。
この仕事を断っていれば、こんな目には────
(ク、ソ……! 知ら、ねえよ────……!!)
そう、弥生は呪詛師の場所など知らない。
何より今日から配属されたのだ。詳細情報すら教えられていないのに、一体この質問に何を答えれば良いと言うのか。
しかし、答えなければ何が起こるか。
そんなのは考えなくても分かる。
使えない、用済みな男。
(殺される……最悪だ。もう本当に……嫌になる)
何もかも、全ての選択肢を誤った。
この任務を受けなければ良かった。
あの補助監督を逃さなければ良かった。
術式をもっと上手く使っていれば─────
(……そこは……どうにも、ならねーだろうな)
圧倒的な格の違い。
恐らく、自分が思っている以上に、この女との力量差には天と地ほどの差があった。今まで見た中での最高戦力は、七海さんか日下部さんのどちらかだった。いわゆる一級術師と呼ばれる、呪術界を牽引していく存在。
それが限界地点。
きっと目の前にいる女は一級以上。
というか、ほぼ間違いなく特級。
単独で国家転覆が出来る存在。
勝てるわけが、なかったのだ。
「…………呪詛師の、居場所、か……」
滝のように落ちる血。
失血によって消えかけている意識の中、弥生は恐怖によって震える手で、呪詛師の居場所に指をさす。
言ってしまえば、楽になる。
言ってしまえば、後悔する。
これを言ってしまえば、きっと─────
「いるな。ここに」
弥生の言葉と同時に。
アルクェイドへ、指が向けられた。
これは最後の抵抗。
保身に走った弥生諏訪木の、人生最大のカッコつけ。
「─────────あっそ」
ゴチュ!! と。
弥生の頭部が地面に押し潰された。
真っ赤に弾けた果実のように。
原型すら残すことなく、万力で押された頭蓋骨と脳みそはバラバラの肉片となり散らばった。跳ねた血液はアルクェイド自身に飛び返り、その白い体を赤色で泥のように汚した。
「素直に答えてくれたら、
脳みその残骸で溺れたアルクェイドの手が、ゆっくりと吊り上がる。ペチャペチャと、残骸が付着したゴミのように剥がれて、不愉快な粘着質っぽい音を流しながら、その穢れを地面にばら撒いた。
「また選択肢、間違えちゃったのね。死にたくないと思っていながら、ミスを永遠と重ね続けるその道化っぷり。ほんと、哀れだわ」
周囲にいた人々が、アルクェイドから逃げ始めた。例え呪術が見えていなくても、目の前で人が惨たらしく殺されれば、流石に恐怖という感情を覚える。
アルクェイドは、悲鳴と混沌の中心にいながらも、まったく持って意に介さず囁いた。
「────集まってきた、か」
表在感覚が伝達してくれている。
何人もの呪術師が、こちらに向かっている。
恐らく、逃した補助監督が連絡したのだろう。
予想通り、そして計画通りに。
「訂正するわ。貴方はミスばかりじゃない。わたしの為に、働いてくれたんだから」
ありがとう、そしてさようなら。
何処にでもいる、ありふれた人。
たぶん2度目になりますが、
アルクェイドは原作よりも冷酷になっている
というのを言っておきます。
だから、どうしても解釈違いが出ると思います。
そこに関しては申し訳ない…