ようこそ実力至上主義の教室へ ──Another Note : L's Game   作:ぐぬぬです

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Episode 2 「疑問」

 才能を隠すのにも卓越した才能がいる。

 

 ラ・ロシュフコーという人物はそう語ったらしい。

 

 興味深い言葉だと私は思う。

 

 "才能"というものは、多くの人が考えているよりもずっと厄介な性質を持っている。

 

 本人が意識していなくても、何かの拍子に外へ漏れ出してしまうからだ。

 

 足の速い人間は走れば分かる。

 

 勉強が出来る人間は話せば分かる。

 

 嘘が上手な人間でさえ、その人間を長く観察していれば必ず綻びが見つかる。

 

 人は自分自身を完全に偽ることが出来ない。

 

 だからこそ、才能を隠すという行為は才能を発揮すること以上に難しいのだろう。

 

 もっとも、私自身は才能を隠そうと思ったことはあまりない。

 

 それを誇示したいとも思わないし、逆に平凡な人間を演じたいとも思わない。

 

 

 ただ、今回は少しだけ違った。

 

 せっかく新しい人生を得たのだから、以前とは違う生き方をしてみたいと思ったのだ。

 

 

 友人と呼べる存在を作ること。

 教室で他愛のない会話をすること。

 授業を受け、試験の結果に一喜一憂すること。

 

 多くの人にとっては何でもない日常なのだろう。

 

 しかし私にとっては、それらの大半が経験したことのないものだった。

 

 だからこそ、少しだけ楽しみにしていた。

 

 

 

 高度育成高等学校という場所に対しても、当初はその程度の認識しか持っていなかった。

 

 卒業後の進路を保証する学校。

 設備の整った全寮制の学校。

 

 世間一般で語られている情報だけを並べれば、それ以上でもそれ以下でもない。

 

 だが実際に校内へ足を踏み入れた瞬間から、その印象は少しずつ変わり始めていた。

 

 理由を説明しろと言われては少し困ってしまうが‥‥監視カメラの数が多いからだろうか?

 

 それとも生徒たちの様子に、どこか作為的なものを感じたからだろうか?

 

 あるいは、その両方かもしれない。

 

 根拠と呼べるほど明確なものはまだ何一つ無い。

 

 それでも長いこと観察という行為を続けていると、人は言葉にならない違和感というものを覚えるようになる。

 

 目に見える証拠よりも先に、感覚だけが何かを訴えかけてくることがあるのだ。

 

 もちろん、その感覚が常に正しいとは限らない。

 

 ただ経験上、それは決して無視して良いものでもなかった。

 

 だから私は周囲を見渡した。

 

 入学式へ向かう生徒たち。

 

 談笑している新入生たち。

 

 教師たち。

 

 そして、この学校そのものを。

 

 誰もが希望や期待、そして不安を抱きながら歩いている。

 

 

 だが、その光景を眺めているうちに、ふと一つの考えが頭を過った。

 

 

 ーーもし、この学校が本当に表向きの説明通りの場所なのであれば。

 

 

 ーーどうして私は、こんなにも違和感を覚えているのだろうか。

 

 

 

 考えれば考えるほど、その疑問は大きくなっていく。

 

 

 

 そして同時に、少しだけ心が躍っている自分がいることにも気付いてしまった。

 

 困ったことに、私は元来そういう人間だった。

 

 

 得体の知れない謎や、説明の付かない違和感を前にすると、警戒心よりも先に好奇心が顔を出してしまう。

 

 

 

 だからだろう。

 不安よりも先に、こんな感想が浮かんでしまったのは。

 

 

 

 ――これは案外、面白い学校なのかもしれない。と

 

 

 

 

 

 

 

  入学式を終えた新入生たちは、それぞれ指定された教室へ向かい始めていた。

 

 廊下には同じ制服を着た生徒たちが溢れている。

 まだ誰もが緊張しているはずなのに、不思議と校内は賑やかだった。

 

 初めて会ったばかりとは思えないくらい楽しそうに話している人たちもいれば、既に連絡先を交換している人たちもいる。

 

 そういう光景を見ていると少し安心する。

 

 やっぱり高校生活ってこういうものなんだな、と。

 

 もちろん、期待ばかりじゃない。

 知らない人たちの輪の中へ入っていくことに不安がないと言えば嘘になる。

 

 けれど、それ以上に楽しみだった。

 

 この学校でどんな人と出会うんだろう。

 どんな友達が出来るんだろう。

 

 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、ふと視線が止まった。

 

 窓際に立っている男子生徒がいた。

 

 最初に目に入ったのは髪だったと思う。

 耳が隠れるくらいまで伸びた黒髪は、ところどころが好き勝手な方向へ跳ねていて、朝慌てて家を出てきたのかな、なんてことを考えてしまう。

 

 少し猫背気味な姿勢も相まって、どこか力の抜けた雰囲気があった。

 

 別に珍しい見た目‥‥‥ではないと思う。

 少なくとも私からすれば特別変な見た目というわけではない。

 

 ーーなのになんでだろう。

 

 気付けばもう一度、その人を見ていた

 本人は窓の外を眺めている。

 

 校庭だろうか。

 それとも敷地内の施設だろうか。

 

 どちらにしても、周囲の生徒たちにはあまり興味がなさそうに見えた。

 それが少しだけ意外だった。

 

 だって今日は入学式だ。

 

 私だったら周りが気になる。

 これから同じクラスになる人たちが気になる。

 

 でも彼はそうじゃないらしい。

 もっとも、それだけで人を判断するつもりはなかった。

 

 緊張しているのかもしれないし、単純に考え事をしているだけかもしれない。

 

 それに、今日から同じ学校へ通う人なんだから、一度くらい話してみてもいいだろう。

 

 そう思って歩き出したのは、ほとんど反射みたいなものだった。

 

 別に深い理由はない。

 

 仲良くなれるなら、その方が嬉しい。

 

 理由はそのくらい単純なものだった

 

 とはいえ、何を話そうかな?

 まずは‥‥挨拶だよね?

 

 

 そんなことを考えているうちに、いつの間にか声を掛けられる距離まで近付いていた。

 

 

 (‥‥よし!)

 

 

 そう心の中で小さく気合いを入れて口を開こうとした、その瞬間だった。

 

 

「おはようございます。」

 

 

 先に挨拶をされたことに少しだけ驚きながらも、私は慌てて頭を下げる。

 

「お、おはよう!私の名前は一之瀬帆波!今日からよろしくねっ」

 

 

 そう言って笑い掛けると、竜崎くんはすぐには返事をしなかった。

 

 無視されたという訳じゃない。

 

 実際、彼はこちらを見ていたし、ちゃんと話も聞いている。

 

 ただ何と言えば良いのか考えているような、そんな間があった。

 

 ほんの一秒か二秒ほどの短い時間だったはずなのに、何故だか妙に印象に残る。

 

 

 

「竜崎瑠人です。こちらこそよろしくお願いします。」

 

 

 

 返ってきた言葉はごく普通だった。

 

 丁寧で、礼儀正しい。

 

 けれど、そのやり取り一つ取ってもどこかこう‥‥ぎこちない‥って言葉が当てはまるのかな

 でもそれとは少し違うような‥‥

 

 まるで正解を探しながら会話をしている‥みたいだった。

 

 

「竜崎‥瑠人‥‥‥うん、素敵な名前だね!」

 

「ありがとうございます」

 

 そんな違和感を感じつつも私は竜崎くんと会話を続けていた。

 

「竜崎くんは中学の時なんの部活に入ってたの?」

 

「中学2年生まではテニス部に所属してました。全国で優勝してますよ。」

 

「えっ!?本当に!?」

 

 ネットに載ってますよ。と言われたので早速入学時に支給されたスマホで調べてみると‥‥本当に竜崎くんの顔が記事に載っかっていた。

しかも本当に全国大会優勝者らしい。

 

 

「ま、まじだ‥‥竜崎くんってすごいね」

 

 

 こう言っては失礼に当たるのかもしれないので、言う寸前で止めたけど

彼がスポーツマンという柄には全く見えなかったのでとても意外だった

 

「ってあれ?2年生までって‥‥3年には辞めちゃったの?クラブチームとか?」

 

「いえ、テニス自体を辞めました」

 

「えっと‥‥‥それは、なんで?」

 

 当然の疑問だろう。

全国大会優勝できる程の実力を持っていながら、そのスポーツを約二年ほどで辞めてしまうなんて‥普通では考えられない。

 

 

「趣味でやってただけですので‥続ける気が起きませんでした。」

 

「そうなんだ。なんだか勿体無いような気もするけどなぁ‥‥」

 

「そういう一之瀬さんはなにかスポーツを?」

 

「私?うーん、とくにスポーツとかやってなかったかなあ。でも運動が苦手ってわけじゃないよ!テニスも友達とやったことあるし!」

 

「そうなんですか?でしたら機会があれば一緒にやってみますか」

 

「やる時はもちろんハンデありだよね?」

 

「万が一でも負けたくないのでハンデはあげません」

 

 出会って数分程度しか経っていないはずなのに、私は竜崎くんに凄く興味を惹かれていた。

 確かに、この人は少しだけ変わっている。

 

 でも嫌な変わり方じゃない。

 

 同時にこうも思った。

 

 多分、竜崎くんは私が思っている以上に凄い人なんだろうな。と

 

 そして、私はこの学校生活を通して竜崎くんの凄さを身に染みて思い知ることになる。

 

 少なくとも、この時の私は。

竜崎くんとの出会いが、高校生活を振り返った時に真っ先に思い出す出来事の一つになるとは思っていなかった。

 

 

 

 

 担任の教師である星之宮先生から端末、pポイント、そして学校のルール、これらを簡単に説明される。

 

・在学中は外部との連絡を禁ずる

・許可なく学校の敷地内から出ることを禁ずる

・学生証カードに入っているポイントを使えば、学校の敷地内にあるものなら何でも購入可能

・ポイントは毎月一日に自動で振り込まれる

・1ポイント1円の価値

・三年間クラス替えはしない

 

 更に、入学した段階で私達1年生全員には10万円が支給されたそうだ。

 

(‥‥虫が良すぎる)

 

 

 あまりにも高待遇が過ぎる。

国が支援する学校だからといってここまでの贅沢が許されるのだろうか?

 

 ーーいや、()()()()()

 

 軽く計算してみたが、毎月10万、全生徒に配るならこの学園はたった一年間で全生徒に5億7600万ほど使うことになる。

 それを毎年続ける。というのはあまりにも夢物語が過ぎるだろう

 

 つまり、ここから導き出されるのは"ポイントの増減"だろうか。

 

 

「何か質問がある人ー」

 

 

 案の定、先生が質問をする時間を設けてくれたのでそれに応じるように私は手を上げる

 

「はい」

「えっと‥はい!竜崎くん!」

 

 私の考えが正しければ、妙な言い回しだったり私達生徒を騙すような真似をする理由には学校側の掲げる"実力を測る"という部分に該当するのだろう。

 

 ならばここで直接的に『ポイントの増減』について質問しても無回答かはぐらかされるのがオチだ。

 なら、少し見方を変えた質問の方がいいだろう。

 

 

「このポイントについてなのですが」

 

「うん?」

 

「学校の敷地内にあるものなら何でも購入出来る、と仰いましたよね」

 

「そうだよ」

 

「でしたら、物品以外も含まれるのでしょうか」

 

「物品以外?」

 

「例えば()()です」

「クラス移動権。生徒会選挙への推薦権。あるいは教師との面談時間など」

 

「……」

 

「そういったものも購入対象に含まれるのでしょうか」

 

 私がそう質問すると、僅かに星之宮先生が動揺するのを感じ取る。

 その一瞬を私は見逃さなかった。

 

「‥結論から言うと、可能だよ。」

「なら、いくらで購入することが可能ですか?」

「申し訳無いけど現段階では答えられないかな」

 

 やはり、か。

 

 ここで私は確信に至る。

 うまい話には裏があるとはよく言ったものだ。

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

 私は静かに席へ腰を下ろした。

 教室のあちこちでは既に生徒たちが思い思いに会話を始めている。

 友人を作ろうとしている者。

 周囲を観察している者。

 まだ状況を飲み込めずにいる者。

 

 もっとも、それは私も同じかもしれない。

 

 入学してまだ数時間。

 学校側が提示した情報はほんの一部に過ぎない。

 それでも分かったことが一つだけある。

 

 この学校は、生徒たちへ与える情報を意図的に制限している。

 そして、生徒たち自身に考えさせようとしている。

 

 理由はまだ分からない。

 だが、()()()()()興味深かった。

 

 真実を隠そうとする者がいるのなら、その理由を知りたくなる。

 

 不可解なルールがあるのなら、その仕組みを知りたくなる。

 

 それは探偵としての性分なのかもしれない。

 あるいは単なる好奇心なのかもしれない。

 

 どちらでも構わない。

 

 

 少なくとも――

 退屈だけはしなさそうだった。

 

 

 

 やはり、この学校は面白そうだ。

 

 




高度育成高等学校データベース

氏名 竜崎 瑠人

学籍番号 xxxxxxxxxxxx

部活 無所属

誕生日 10月31日




評価
学力 A+

知性 A+

判断力 A+

身体能力 B

協調性 C




面接官のコメント

学力、知性、判断力において極めて優秀。

提出された資料を含め総合的に判断した場合、本来であればAクラスへの配属も十分に検討される人材である。

しかし、本人は自身の能力に対する自覚が極めて薄く、それを誇示する傾向も見られない。一方で、興味を失った対象に対して急速に関心を失う傾向が見受けられる。

中学時代において全国規模の競技大会で優勝経験を持つが、その後競技そのものから離れている点も同傾向によるものと推測される。

現段階において欠落しているのは能力ではなく、人間関係の形成および集団への帰属意識であると判断する。
以上の理由から、本生徒には競争環境と協調環境の双方が求められるBクラスへの配属が最も適切であると判断した。

今後の成長次第では、学年内でも特筆すべき存在となる可能性が高い。
Bクラス配属で様子を見るとする。

本作のメインヒロインは?

  • 松下千秋
  • 櫛田桔梗
  • 堀北鈴音
  • 坂柳有栖
  • 椎名ひより
  • 一之瀬帆波
  • 軽井沢恵
  • 姫野ユキ
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