マブラヴオルタネイティブ―ホワイトシャドウ 作:嫉妬憤怒強欲
人間は平等であるか否か?
答えは否だ。
生まれた時から白い部屋に閉じ込められていたオレはそれを理解していたつもりだった。
――だが、それにしたって、神の盤面の作り方は少し雑すぎる。
赤い非常警報灯が、白い部屋の壁を不気味に染めていた。
鼓膜を震わせるけたたましい
それが、オレの日常が終わりを告げた合図だった。
「急げ!BETAの進軍速度が速すぎる!嵐山防衛線はあと数時間も持たんぞ!」
「運べない資料は処分しろ!
「移送ヘリに乗せ切れるわけがないだろう!役に立たない下位の世代は……ここに置いていけ!処分しろ!」
廊下をドタドタと無様に駆け回る足音が聞こえる。白い研究衣を血相に変えて、資料を運び出している「大人たち」の姿が見えた。
普段、オレたちを観察対象としていた冷徹な
その喧騒の真ん中で、オレはただ一人足を止め、思考を巡らせる。
彼らの算出したシミュレーションは、現実の戦況に対しておよそ84時間もの狂いを生じさせた。人類の天敵である地球外起源種BETAの圧倒的な侵攻スピードの前に、この『ホワイトルーム』の移転計画は、今この瞬間に完全な破綻を迎えたのだ。
さて、どうするか。
警備兵は避難誘導に追われている。
廊下を走る人間の数は多いが、統制は取れていなかった。
施設全体が混乱している。
地上から断続的な振動が伝わってきた。
砲撃か、建造物の倒壊か。
どちらでもいい。
軍の防衛線が崩壊した。まず間違いないだろう。
ならば次に考えるべきことは一つだ。
どう生き残るか。
・避難部隊へ同行する。
・施設に残る。
・単独で離脱する。
順に検討する。
避難部隊への同行も難しい。既に出発した可能性が高い。仮に追いついたとしても、乗せてもらえる保証はない。それに移送ヘリに詰め込まれた場合も、対空能力を持つ光線級BETAに叩き落とされる確率は約87%。
施設残留は却下だ。この施設で優先されているのは研究資料だ。次に研究員。被験者の優先順位は低い。ここに残って処分、あるいはBETAに喰い殺される確率は100%。
ならば、選ぶべき選択肢は一つしか残されていない。
大人たちの監視の目が、保身のパニックによって完全に消失したこの一瞬。オレは彼らに従うことをやめ、自分の生存確率を最大化するために、静かに走り出した。
途中で大人を見かけたが誰にも止められなかった。
人手が足りていないのか、それともオレに構う余裕がないのか。
どちらでも結果は同じだ。
目指したのは、施設の最奥に位置する『第4地下格納庫』だ。
重い防壁も開きっぱなしで、搬出口は開放されたままだった。
移送作業の途中だったのだろう。本来なら輸送車両が待機していたはずだ。だが、今は誰もいない。
中央に一機の巨大な
肩装甲がなく、腕部のフレームも露出している。
外見だけなら未完成品に見えるかもしれない。
実際、その認識は間違っていない。
教材として使用されていた試験機で、人体運動学、構造学、操縦理論などの様々な授業で利用された。
中のインナーフレームが剝き出しになっていて、武装もない。
そんな兵器と呼ぶには心許ない欠陥機に乗るが問題はない。
必要なのは移動手段であって、戦うつもりはない。少なくとも現時点では。
それに教材として何度も構造を学んだ機体だ。幼児期からシミュレーターの中で、オレはこいつの挙動をミリ単位で脳内に叩き込んできた。
実機のコクピットへ滑り込み、シートベルトを締める動作にも、一切の躊躇や緊張は介在しない。
ハッチが閉まり、未完成のOSが起動する。
エラーログが画面を埋め尽くすが、オレは迷わずマニュアル制御のスイッチを入れた。
燃料残量九八パーセント、起動試験完了。
『――SYSTEM ALL GREEN』
モニターに冷たい光が灯り、剥き出しのインナーフレームが、駆動音を響かせて静かに目覚めた。
『おい、見ろ!第4格納庫のシステムが動いているぞ!?』
『馬鹿な、あの機体はまだ調整中のはずだ!誰が乗っている!?』
耳につけたインカムから、網膜投影で機体の視界と同期すると、大慌てでこちらへ駆けつけてくる職員たちの顔が見えた。網膜投影越しに見下ろす彼らの顔は、滑稽なほど恐怖に歪んでいる。
『止まれ!今すぐに止めないと―――』
インカムから響く大人たちの声を、メインコンソールのスイッチを引くことで物理的に遮断した。
「まさかこんな形で外に出ることになるとはな………」
操縦桿を静かに引き絞る。
オレの意図をくんだ機体は、腰部にある
急激な加速Gが肉体を襲うが、呼吸一つ乱れない。
大慌てで逃げ惑う大人たちの頭上を駆け抜ける。
景色がシミュレータの時よりも速い速度で流れてゆく。
コンクリートの壁や照明、警告灯が彼方へ消えていく。
数秒後、機体が搬出口を抜けると、視界が一気に開けた。
緑一色の森や山々………そして上には夜空。
生まれた時から
だが感傷に浸る余裕はない。
重要なのは生き残ることだ。
搬出口から黒煙が上がっているがもう振り返らない。
オレ、
今まで書いた綾小路モチーフの作品ではホワイトルームを出た後の話ばかりだったので、出るところから書いてみました。