エンジニア部の2年生   作:竹輪の穴

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ウタハが好きで始めたブルアカ……
ヒビキもコトリも1年生ですね……
2年が居ない!!!


なら生やしてしまえ!!!という見切り発車の本作です
初投稿ですゆえどうか気軽に読んでいただけたら幸いです


エンジニア部2年の日常

ブレーキの無い乗り物程怖い物はない。

それは私の持論だ。

ミレニアムサイエンススクールのエンジニア部。その部室の扉を開けた瞬間、私はいつもその持論を痛感させられる。

 

「スズカさん!見て下さい!このブースター、理論上は時速300キロまで加速可能なんですよ!」

「コトリ、その理論には『装甲の融解』と『エンジンの爆発』という二つの変数が欠落しています。却下」

「スズカさんは相変わらず真面目……。ロマンは……多少の危険を背負ってこそ輝くと思いませんか?」

「……ヒビキ、その『輝き』を制御できないのであれば、それはただの火災事故です。回路の引き回しを再構築してください。貴女なら計算出来てるでしょ」

 

そして極めつけは、部室の奥から聞こえてくる自信満々の声と合成音声の悲鳴であった。

 

『スズカ!ヘルプだよ!このままだと僕という崇高なAIが宇宙の彼方に飛んで消し炭になっちゃう!!!』

「ふふふ……見たまえスズカ!名付けて『宇宙直行フライハイ』!さあ、スイッチをいれてしまおう!」

「させませんよウタハ先輩、部室を守る為、ついでに相棒を守る為にも物理的に阻止します」

 

私は手慣れた手つきで、腰のホルスターに収められたハンドガン『緊急停止装置』を抜き放った。

狙うのは基板のメイン回路。一撃で電源を落とす、完璧な制動(デバッグ)。

バチンという銃声が一つ。

部室の照明が落ち、試作機の無機質な駆動音が停止する。

 

「残念……止められた……」

 

ヒビキが肩をすくめ、ウタハ先輩が「またか……」と頭を抱える。コトリは床に転がったパーツを拾い上げながら「やっぱり安全管理の論理は強固ですね……」と感心している。

私は冷めた目で、静寂を取り戻した部室を見回した。

ミレニアムサイエンススクール。

科学の最先端を走り、数多の天才が集うこの場所は、常に何らかの「加速」を求めている。だが、ブレーキを忘れた加速は、ただの破滅に過ぎない。

止まらないのではなく止められないが正しいが……

誰も止めないのなら、私が止める。

合理的な判断を積み重ね、無駄な爆発(リスク)をデバッグし、このエンジニア部という乗り物が崩壊しないように支え続ける。

それが、鳴宮(なりみや)スズカの役割。

 

「……さて。ブラックアウトした部室の復旧作業と、壊した試作機の再調整に入ります。……先輩たち、次は安全定格をクリアしてから動かしてください」

 

私は工具を手に取り、真っ暗な部室で溜息をついた。

ブレーキのない乗り物は怖い。

だからこそ、私は誰よりも鋭く強いブレーキであり続けなければならないのだ。

それが、私の日常。

そして、この混沌としたミレニアムにおける、ささやかな生存戦略なのですから。

 

「さて、と。回路のショート箇所を特定しました。ウタハ先輩、ここ、絶縁被覆が熱で溶けてますよ。……どれだけ無茶な負荷をかけたんですか」

 

真っ暗な部室に、私が手際よく配線を引き直す音が響く。予備の照明を点け、作業台の上に広げられた巨大な基板にルーペを当てる。傍らでは、先ほどまで絶叫していた相棒「ヘルメス」が、恨めしげにヘッドライトをパッシングさせ抗議していた

 

「あぁ、すまないねスズカ。どうも出力の係数を少し見誤ったらしい」

「『少し』という言葉の定義を、辞書で引き直すことをお勧めします。ウタハ先輩、貴女の『少し』は、大抵の場合、部室の修繕費に直結しますから」

 

私は溜息を隠そうともせずに、絶縁テープを切り出した。

この人たちは、天才だ。それは否定しない。誰も思いつかないような理論を構築し、それを形にする技術力は、ミレニアムでも随一だろう。だが、その天才性が常に「破壊」と背中合わせなのが、このエンジニア部の最大の欠点だ。

 

「コトリ、さっきの設計図のバックアップは取ってありますか?」

「はい! もちろんです! 今回の失敗データも貴重なサンプルになると思って、しっかり保存してあります!」

「……ええ、それならいいです。失敗の再発防止こそが、成功への唯一の近道ですから」

 

コトリが嬉しそうにタブレットを差し出す。彼女の目は、失敗ですら「次の実験」の糧として輝いている。そのひたむきさは、時に眩しく、そして同時に――胃が痛くなるほどに危なっかしい。

 

「スズカさん、これ、差し入れ」

 

ヒビキが差し出してきたのは、炭酸の抜けた甘ったるいエナジードリンクだった。私はそれを受け取り、一口だけ含んでから、ふぅと息を吐く。

「……ありがとうございます。ヒビキ、貴女も少しは休息を取ってください。さっきの作業ログを見ましたが、36時間連続で回路シミュレーションを行っていますね」

「う、うん……でも、面白いから止まらなくて」

「その『面白い』が過ぎれば、それは過労という形でデバッグされますよ」

 

私は作業台から離れ、少しだけストレッチをした。身体を動かして、強張った筋肉を解す。

エンジニア部員。その肩書きには、ロマンと創造、そして紙一重の狂気が詰まっている。私というブレーキがなければ、この部活はとっくの昔にセミナーの手によって解体され、部員は謹慎処分かそれに並ぶ処分になっていただろう事は明白だ。

ユウカの顔が脳裏をよぎる。あの「冷酷なる算術使い」が、どれだけエンジニア部の予算を削り、どれだけ安全管理に関する通知を送ってきているか。それを私が肩代わりし、時には先回りして「事故の芽」を摘み取っている。

それは決して、彼女たちを縛り付けるためではない。

ただ、彼女たちが「やりたいこと」を続けられる時間を、少しでも長く確保するためだ。

 

「……さて。修復は完了です」

 

基板に電源を戻す。青いインジケーターが、静かに光を取り戻した。先ほどまでの「宇宙直行」という危険極まりない出力設定はリセットし、安全定格内の、かつウタハ先輩がそれなりに満足する数値へ書き換えてある。

 

「おっ、スズカ。何か設定を変えたのか? 動作が妙に安定しているな」

「性能を維持しつつ、過熱を防ぐためのパッチです。先輩、この設定値以上に出力を上げたいなら、冷却機構の換装から始めてください」

 

ウタハ先輩は、基板の出力を見てニヤリと笑った。

 

「なるほどねぇ。……相変わらずスズカは、いい仕事をするよ」

「……当然です。それが私の『部活動』ですから」

 

私はそう返すと、自分の作業台へと戻った。

この場所は、混沌としている。だが、不思議と居心地は悪くない。計算し尽くされた日常よりも、いつ何が起こるか分からないこの不安定な日々に、私はある種の調和を感じているのかもしれない。

ブレーキは、必要だ。

だが、そのブレーキが踏まれるのは、あくまで「この乗り物」が走り続けるため。

止めるためじゃない。守るためだ。

私は机の上のメモ帳を開き、明日の予定を書き出した。

「午前:セミナーへの予算申請資料作成」

「午後:開発中の外部製品のセキュリティ及び安全面の確認」

「夕方:ウタハ先輩の試作機によるクレーター発生の阻止」

……うん、明日も忙しくなりそうだ。

「ブレーキのない乗り物程怖い物はない」

私は独り言ちて、小さく微笑んだ。

その怖い乗り物を、誰よりも上手に操縦してやろう。

私という、最高に鋭く、そして最高に信頼できるブレーキを添えて。

ミレニアムの夜は、今日も科学の熱に浮かされている。

その熱を冷ます役目も、私には必要不可欠なのだ。

窓の外に広がる星空を見上げながら、私は思う

明日もまた、この場所で、デバッグという名の非日常が始まる。

それは、私にとって何よりもかけがえのない、エンジニア部の「日常」なのだから。




エンジニアはいいぞ(ウタハ好き)
ミレニアムはいいぞ(ノア好き)
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