上野と上野公園
それは、伊地知の運転で上野に向かっている時のお話。助手席に七海が座り、後部座席に一年生三人が座っている。
虎「せっかくだしさ、上野動物園寄らね?」
釘「観光じゃねえのよ、何考えてんの」
虎「いや、優太の説得成功したら、打ち上げ?みたいな感じで!」
伏「まぁ、悪くないんじゃないか」
一瞬、沈黙が落ちた。悠仁と野薔薇が目を見開いて恵を見る。
「「伏黒が打ち上げを肯定してる!!」」
伏「うるさい。宮城島も追い詰められてる、ガス抜きは必要だろ」
釘「そんなこと言っちゃってぇ。ほんとはあんたもパンダ興味あるんじゃないの?パンダ先輩のこと、『お日様みたいな匂い』って言ってたし」
恵が苛立たしげに口を開く。
伏「なんで俺がパンダに興味ある前提になってんだよ。大体パンダ先輩は
虎「あれ、そなの?」
伏「そうだ、というか動物のパンダだったらカルパス食わねえだろ」
虎「あー、確かに」
伏「パンダ先輩とパンダは違う。上野動物園も厳密には上野じゃなくて、上野公園が住所だ」
釘「え、それどこ情報?」
伏「普通に地図見ろ、書いてあんだろ」
言われて野薔薇はスマホで早速検索した。確かに、駅の住所は台東区上野であるのに対して、上野動物園は台東区上野公園になっている。
釘「なんでこういう情報持ってるのかって聞いてんのよ」
伏「宮城島はお前らと違って、東京来たからってはしゃがなかったんだよ。それで調べたことがある」
再び悠仁と野薔薇が目を見開く。その直後、にやにやとした表情で恵を見た。
「「へー、ふーん?」」
伏「なんだ、悪いか」
釘「べっつにぃ?ただ、あんたも結構気にかけてんのねって話」
伏「あと、釘崎に任せたら宮城島が歩き疲れるだろ」
恵の想定に、野薔薇は目を吊り上げてやや早口に異を唱える。
釘「どういう想定よ!あと宮城島はそんなヤワじゃないんですけど!?」
虎「なんで優太のことでキレてんの?」
伏「察してやれよ」
虎「え、でも優太違うって言ってたぜ?」
伏「……そりゃ、宮城島は違うって言うだろ」
虎「あー、そっか。優太だもんなぁ……」
釘「それ免罪符にすんな!」
たまらず、といった様子で運転席から堪え切れなかった笑い声が聞こえた。見れば、助手席の七海も少しだけ笑みを浮かべている。
虎「なんか、大人のヨユーって感じ?」
七「余裕、とは少し違います。ただ、微笑ましい光景だとは思いますよ」
伊地知は微笑んだまま、何か言いたそうに口を開いて、やめた。おそらく七海の珍しい発言に言及したかったのだろう。