ハイスクールD×D アフター:New HERO BorN F×F 作:scp-114514
入隊します!
《秋樽桜備》
ついにこの日がやってきた。今年度の訓練校卒業生が新人隊員として赴任してくる。
「……大隊長。本当に、あの悪魔の少年を預かってよかったのですか」
「悪魔って…どっち?」
「ジュラス・グレモリーの方ですよ。あちらは本物の悪魔じゃないですか」
「あー、あいつか…」
火縄の問いに、俺はすぐには答えなかった。
『明星の白龍皇』ヴァーリ・ルシファー。あれほどの力を持つ男が、なぜ自分の手元から彼を送り出そうとしたのか。
その理由を俺は聞いた。しかし、それでも。彼の未来まであいつに決めさせるつもりはない。だからこちらからも意見を出した。
「ああ。俺が決めたことだ」
「ヴァーリの依頼だから、ではなく?」
「もちろん、それもきっかけの一つだ。だが、最後に引き受けると決めたのは俺だ。あいつがどんな過去を持っていようと、どんな力を持っていようと、ここに来た以上は第8の一員として向き合う。それが俺の責任だ」
「……分かりました」
「さて、そろそろ来る頃だな。初日から難しい顔をしていたら、緊張するだろう。笑顔で迎えてやろうじゃないか」
《ヴァーリ・ルシファー》
ジュラス(とレギーナ)の赴任先は、俺が秋樽桜備に要求した通り第8に決まった。既に卒業と共に訓練校の寮を引き払い、俺の家に一度戻って屯所に持っていくものとここに置いていくものを分別・整理した。いよいよ今朝から行くことになる。
俺はジュラスにあっさりとした醬油味の朝ラーメン(ダジャレのつもりではないからな?)を振舞って、久々の2人の朝食を行いながら出発前の会話をしている。
「忘れ物はないか?」
「うん。何度も確認したよ」
「そうか」
消防官を目指すことを提案したのは自分であるとはいえ、正直手放しで送り出すには抵抗感がある。
焔ビトを鎮魂するというのはそれだけでリスクのある事だから…というのは理由の一つに過ぎない。
200年以上が経過し、何度も世代交代が起こってもなお、この国の抱える未解決の問題。偽りの太陽神アマテラスと、それを信奉する聖陽教。皇国の秩序の裏に潜む謎。何一つ見極められていないのだ。
それを踏まえれば、俺からしてみれば東京皇国は信用できなかった。
それでも…場合によっては、皇国の敵になりうるという事を承知の上で、俺はジュラスを第8に送り出すことにした。
…いや、そう決意させるに至ったのは、自分だけではない。
「おじさん、箸が止まってるよ」
「あぁすまない、少し考え事をしていてね」
秋樽桜備とコンタクトを取った時を思い出す。
彼は、俺の頼みを引き受けた。ジュラスの夢の応援と、心の拠り所となることを。
だが、あちらも俺の要求をただ受け入れるつもりはなかった。後日、こう条件を提示してきた。
『あなたがどれだけ彼を心配していようと、彼の人生を決めるのは彼自身でしょう。私は、あなたの頼みだからという理由だけで、彼を受け入れるつもりはありません。自分の目で見て、考えて、行動できるようにさせます』
俺はジュラスを守ることはできる。そして戦士として導く術もある。
だから強くなることなら教えられた。敵への対処も、生き延びるための判断も、自分が知っている範囲なら伝えられた。
だが、それだけで誰かを育てたと言えるのだろうか。
自分自身を受け入れ、成長するためには、単に力をつけるだけでは足りないのだ。
それに加え、俺自身が子育てに踏み込むことを恐れていた。過去の記憶が、どうしても頭をよぎるからだ。アザゼルとの出会い。兵藤一誠と、彼の両親との出会い。それらを経験しても、毒親からの仕打ちという過去の嫌な記憶は消えない。だから…自分も同じ轍を踏むのかもしれないという不安が、ジュラスに距離を置いて接することに繋がってしまった。
秋樽桜備は俺の過去を知らない。それでも、俺一人では子育てに限界があった事を察知したのだろう。だから条件をつけたのだ。
そうこう振り返っているうちに、ジュラスは先に朝食を終え、食器を片付けていく。
「一応聞いておく。キミは自分の意志で、第8に行くと決めたね?」
「そうだよ」
「なら、俺から言うことはない。自分で選んだ道を切り開いて行け」
「わかったよ、おじさん」
「通話用の術式は教えたんだからな、たまには連絡するんだ」
「はーい」
「あとは、体に気を付けることだ。きちんとした食事と睡眠が健康の基礎だ」
「うん。へへっ…」
「何がおかしい」
「おじさんいつの間に父さんとか母さんみたいな事言うようになったなー、って。まぁ、その父さん母さんとずーっと会えてないけどさ」
「………!」
顔に出さないが思わずハッとした。親代わりとしては三流もいいところだと思っていたが、子供からすれば案外そうでもなかったのかもしれない。
「じゃあ、行ってきます」
「あ、あぁ…」
呆けているうちに支度を済ませ、ジュラスはあっさりと俺の家を出ていった。
『お前の手を離れていったな』
「いいんだよ、アルビオン。寧ろこうでなければならないんだ。いつまでも俺の後ろに立たせておくわけにはいかない」
……それでも。
『ジュラス・グレモリーが自分の足で歩き始めることは、嬉しいと思うだけではないか?』
俺はアルビオンの問いに対してすぐ答えられず、しばらく黙る。
「…少しだけ寂しいとも思っている」
こんな感情を抱く資格が、自分にあるのかは分からなかった。
《ジュラス・グレモリー》
今日からの働き先、第8特殊消防教会。
俺は眼鏡をかけた男性隊員に連れられて中の事務所に入った。
「えー…本日付で入隊いたしました、ジュラス兵藤と申します。よろしくお願いします!」
「ズタボロ第8の中隊長を務める、武久火縄だ。そして、こちらで筋トレしているのが…」
「ここの大隊長を務める秋樽桜備だ。よろしくな!」
「う…ハイっす!」
やべー、緊張する。コミュニケーションをよく交わす年上なんて今までおじさんとレギーナさんしかいなかったし。
「それで、ジュラス。お前はどうして消防隊を志したんだ?」
「えーと…親に恥じない姿になりたいからです!いやその、世間体とかそういうもんじゃなく、その、人格的な?意味でして…ハイ!」
くそ、口が裂けても自分の正体を言えないんだからマジでここら辺言うの大変なんだよなー。
「うむ。内面的な成長だな。消防官はチームだ、協調性を磨くのも頑張れよ」
桜備大隊長はストレートかつ無難に返すが——————
「…だが、それはお前自身がそう願っているからなのか?それとも、そうならなければいけないという使命感があるからなのか?」
火縄中隊長は、訓練学校から送られてきた俺に関する書類に目を通しながら掘り下げた質問をしてきた。
「えっ…?」
「俺は別にお前の志望理由を否定するつもりはない。だが、現場でお前が何をするのかを決めるのは、勿論大隊長が言った通り協調性を意識する必要もあるが…最終的にはお前自身だ」
「……」
何も言えなくなる俺の頭の中で、ドライグ2号が話しかけてくる。
『…相棒。それは本当に、自分自身の中で出した答えなのか?』
中隊長が聞いているはずのない2号のそんな言葉に釈明するように、俺は絞り出すように言葉を紡ぎ出す。
「……俺はッ、名誉とかそんなんじゃなく」
「それはわかっている、さっきお前が言っていたしな。だから今の答えが気に入らないという事ではない」
そう言って中隊長は初めて、書類から目を離して俺の顔をまっすぐ見つめた。
「あれだけでは足りないということだ。自分の言葉で、自分の志をきちんと説明できるようになれ。以上だ」
「…はい」
***
俺はそのまま中隊長に自分の割り当てられた机、ロッカー、そしてプライベートルームを案内された。第8に配属された以上、当直に備えてこの教会で生活することになるからだ。
俺は持ってきた荷物を整理して制服に着替え、再び事務所に戻ると…見知った顔がいた。
「お前もここに配属されたのか、ジュラス」
訓練学校の同期、森羅日下部だ。
「おう。…さっき大隊長と中隊長に挨拶した時いなかったけど、どこ行ってた?」
「ちょっと買い出しを頼まれてたんだ。洗剤と電池が切れてたから。
…あっ、追加で2人来たぞ」
シンラが右手で指した先には、シャワー室から出てきた2人の年若い少女。
一人は俺より1つか2つ年上っぽい、黒目黒髪ロングのお姉さん。『あらあらうふふ』を地で行く朱乃母さんと比べると、こちらは素朴ながらもエネルギッシュな感じだ。特に鍛えられた細くも立派な腕が印象的ですなぁ。
もう一人は焔ビトの鎮魂に携わるシスター。こちらは短い金髪と碧眼が特徴的だ。
…ヘアスタイル以外、なんかアーシア母さんと被ってるな。
「すんません自己紹介が遅れました。あとシンラには改めて…自分、ジュラス兵藤です!よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします」」
俺とあいさつした後、シスターの方がシンラに顔を向ける。
「先日は、ありがとうございました、シンラさん」
「い、いえ!ヒーローとして当然です!」
謙遜しながら返すシンラ。何かあったんだろうか。
「実は、ここにくる前日にさ。ここの人達が焔ビトの鎮魂に出てたんだ。
その時に天井からこの人の頭上に換気扇が落ちてきたから、俺が間一髪でその場から逃がしたんだよ」
「そんなことがあったんだな。俺は見てないけど…うん、確かにヒーローとして然るべき行動だろうさ」
「いや~、やっぱり運命を感じるわ~」
「フンッ!」
ビシッ!
恍惚としながら妄想する黒髪のお姉さん。そんな彼女の脳天に、シスターがチョップを繰り出した。
「シスターで可愛いアイリス様が暴力なんてイケナイと思いまーす。いいですねー、ロマンチック~」
「フンッ!フンッ!フッフッフッフゥン!」
怒涛の勢いでアイリスと呼ばれたシスターさんはラッシュをするが、それをくねくねと回避しながらお姉さんは妄想している。
前言撤回。このシスターさん、アーシア母さんとは別人だわ、多分。
「ふわ~ぁ…。あ、ジュラス君おひさ~」
倉庫の方から出てきたのは、2mくらいの巨躯を誇る、青紫の髪が特徴的なお姉さん。
「レギーナさん⁉どうしてここに⁉」「えぇ⁉ラーメン屋のあんた、一体どーゆーこっちゃ!」
「いやまぁ、色々とねー。あはは」
えっ、じゃあおじさんのラーメン屋ワンマンで動くことになっちゃいそうだけどええんか?
「じゃ、水飲んで二度寝しよーっと。むあああ——————『ドスッ』げぇっ」
レギーナさんが短く断末魔を上げて倒れる。後頭部に向かってクリップボードが投げつけられたからだ。
「…そろそろ、ミーティングを始めるべきでは?」
投げつけたのは火縄中隊長。目がマジで笑ってない。痺れを切らしてたんだな。
「お、おう…。みんな揃ったし、これからミーティングをするぞ!」
***
「てゆーか中隊長―、私なんも悪くないのに何で投げつけたんですかー」
「別に。イラついてたから。
…待遇上仕方ないとはいえ、緊張感ゼロで顔を出せば誰でもイラつくだろう」
「だからと言って他人にあたるのはよくないと思いまーす」
「元から人外だろう」
「痛かったんですけどー?」
「そうか、なら痛くない方法でぶつければいいんだな?『弾速制御』」
「わ、わかりましたから!私が悪かったですからショットガン下げてくださいって『パァン!』あだあっ!」
立ち仕事してるんだけど最近就業間際でマジで足の痛みがきつくなってきた…