ハイスクールD×D アフター:New HERO BorN F×F 作:scp-114514
《ヴァーリ・ルシファー》
人間界が火の海に包まれて240年後。コールドスリープから覚醒し、兵藤邸(だった廃墟)の地下室から出た俺達を待っていたのは、日本であって日本でない光景だった。
スカイツリーは本来あった場所にない。道行く人々は誰もスマートフォンをいじってない。街並みは昭和後期から平成初期に近い雰囲気…いや、大火に包まれる前の時代と大正時代の融合とでもいうべきか?とにかく、現代にレトロ要素を入れたものであった。他にもいろいろ違和感があるが…少なくとも、令和時代に生まれたものは悉く消えている。まるで、一昔前の時代にタイムスリップしたかのようだった。
聞き込みをしたところ、俺達が今いるのは日本ではなく、『東京皇国』という新たな国家らしい。世界を覆った大火により世界各地はズタボロになり、大陸や島のほとんどは水没した。生き残った世界中の人間たちは、この星でまともに生活できるわずかな土地の一つである『かつて東京だった島』に目をつけ、最後の人類の生存圏として再建したのだ。
多数の移民を受け入れた経緯から人種が入り混じっており、名前は『名→姓』のローマ字表記で呼ぶ文化が定着している。なお、俺達と同じ異形についているかどうかを調べてみたが…全く目撃できなかった。これについても調べる必要が出てくるか。
まぁ何はともあれ。俺達は再建されたこの世界で生きる事にしたのだ。
次元の狭間はいまだ燃え続けているのだから。冥界に帰るのなら…俺一人ならまだしも、この2人は耐えきれそうにない。
***
「おじさん、レギーナさーん!ただいまー!」
「ああ、お帰り」「お帰りなさーい」
あれから俺はうまいこと素性を隠して東京皇国でラーメン屋として生活することにした。レギーナ・タンニーンもウチの立派な店員だ。ジュラス・グレモリーだけは年齢的に学校に通っていなかったので、彼の親代わりとして俺が養育することにした。
「じゃ、行ってきまーす!」
そんな彼は学校から帰ってすぐにランドセルを玄関に置き、秒で外に出ていく。おそらく、クラスメートと遊ぶ約束でもしてきたのだろう。
「持ち直しているようですね」
「同年代の友人というのは、それだけで心の安定になるからな」
小学校に上がる前の年で両親や故郷との離別を経験した、というのは筆舌に尽くしがたい悲劇だ。しかも、この世の中では悪魔として生きる事も出来ない。
今のこの国は太陽神アマテラス、いや正確には『天照』として神格化された火力発電機関を信仰する新たな宗教…『聖陽教』だけが信仰されている、それもほぼすべての国民に。かつての日本では信仰の自由が謳われていたからか俺達悪魔やドラゴンの存在を認められていたが、今の世の中は俺達の正体は否定される。だから素性を隠さないとならず、事実ジュラス・グレモリーは表向きの姓は父と同じ『兵藤』を名乗るようにさせているのだ。
「全く、窮屈な世の中だ。駒王学園に通っていた旧72柱の息女子息が見たらどう思うのだろうね…」
「白龍皇さまが本気を出せば何事もパパっと解決するのでは?」
「そうは上手くいかんだろう。あの日の出来事が人為的だったという仮定の話だが…地獄の神々や異世界の邪神を倒した俺達のことを警戒しないわけがない。黒幕は俺達を人間界から分断させるつもりでやったんだろうが…万が一のことを想定して対策をしているのかもしれん。この世界そのものを人質に取られてしまえばどうしようもない」
例えば、人間界における人類の完全な絶滅。あるいは自然環境のさらなる悪化。あるいは、未来永劫冥界等の異界との断絶。
俺ができるのはどこまでいっても破壊でしかないのに、そんなことをされてしまっては困るものだ。
「それに、俺が悪魔であること自体が問題でもある。
仮に俺が東京皇国を救ったとすれば、人間界に対して冥界は主導権を取ったとみなすだろう。なにせ魔王ルシファーの手で世界が救われたのだからな。外交でいつまでも相手の言いなりになってもおかしくない」
「アッ…」
そうだ。この点がかなり痛すぎる。最悪の場合なら話は別だが、基本は人間たちに頑張ってもらわないといけない。俺は影に隠れて動くしかないのだ。
「神滅具があればよかったのに…」
「邪神戦争のあと、首脳会議で天界が人間が所有する神滅具は、彼らの死後に厳重にグリゴリで厳重に封印されることになったしな。
そもそも。引き続き黒幕がいる、という仮定だが。黒幕側が神滅具を持っていたらどうする」
「想像したくもないですね」
「だからこそ、特殊消防隊には頑張ってもらわねばな」
現在、人間界が抱える脅威には、突然起きる人体発火現象が第一に挙げられる。これによって正気を失って暴れる『焔ビト』となった人間の鎮魂と、人体発火現象の原因究明を任務とする組織が『特殊消防隊』だ。
「彼らへの接触とかはやるんですか?」
「いずれはそうしようかと考えている。その前に、見定めなくてはな。どこに肩入れすべきか…」
特殊消防隊は現在、6つの大隊に分けられている。聖陽教会の色が強い第1。東京軍の色が強い第2。大企業が実権を握る第5。どの大隊も特色が千差万別であり、ほぼ独立した関係にある。これが理由なのか、活動の中で得られた情報は共有されていないらしい。一見すると正義の組織のように見えるが、きな臭さを感じるのでよくよく調べる必要があるのだ。
***
《ジュラス・グレモリー》
やっと学校が終わった。今日はタクヤくんの家で他の友達も集めてボードゲームをやる予定だ。
と言っても、今日はお父さんは家で仕事をやるとか言ってたから静かにしないと怒られちゃうね。
あっ、でもスーパーでお菓子買ってから行こうっと。その方がみんな喜ぶよね。
「おーいジュラスー、そっちタクヤの家じゃないだろー?」
「うちらで始めちゃうよ?」
「あっリョウくんとエマさん、なんかお菓子でも持っていこうかなって思ったんだよ。一緒に選びにいかない?」
「そうなん?俺ポテチがいいな」「指が汚れるでしょ、他のにしましょうよー」
***
ピーンポーン。
「…あれ?」「返事ないや」
お菓子を買ってタクヤくんの家に来たものの、チャイムを鳴らしても反応がない。もう一回鳴らしても、誰も出てこない。
というか、なんかにおう。変な臭いがする。
「なんか焦げ臭くない?」
「…え、縁起でもないこと言うなよ!」「晩御飯作ってるだけかもしんないでしょ!」
明らかに友達2人が動揺する。いやいや、まさかそんなことが…起こらないよね?
「そ、そこまで言うならさ!俺が一番に入ってみてやんよ!それで文句ないだろ!」
「ジュラスの気のせい…だよな?」「消防に通報しておいた方がいいかな…」
意を決して扉を開け、リビングに行こうとしたとき———
ぼわああああっ!
ドアの先から炎が噴き出て、黒く大きな2つの物体がゴトンと音を立てて落ちてきた。
人の形をしている。肉の焦げた臭いがする。
普通、この家にいる大人は2人。タクヤくんのお母さんとお父さん。
つまり、そういうことだよね?
というか、こういうことをした焔ビトって———
「MAaaaaaaMAAAAAaaaa!」
体の大きさが俺とほぼ同じの焔ビトが出てきた。
「PAaaaaaaaaaaaaaaPAAAAAA!」
ちょっと前まで普通だった友達の変わり果てた姿を見たその瞬間、時間が止まったような感覚になった。
『初めての仕事にしては、随分面倒なのが相手だな。ちょっと体を借りるぞ』
頭の中に響くように声が入ってくる。え?誰?
『詳しくは後だ。よろしくな、相棒』
俺の足が、手が勝手に動き始めた。そこから暫くの間は記憶がない。気づいたら家のベッドで寝ていた。
***
《ヴァーリ・ルシファー》
特殊消防隊からの連絡を受けて、事故現場にいたジュラス・グレモリーを回収しに行ったが、消防官から(どちらかというと彼らにとって)驚くべき事実を伝えられた。
クラスメートの一人が焔ビトと化し、彼の両親は2人とも焼死。しかし鎮魂は消防隊が駆けつける前に行われており、胸部のコアが見るも無残に破壊されており、そのそばには無感情で立ち尽くしていたジュラス・グレモリーがいたとのこと。
被害者の自宅に遊びに行こうとしていた時に同伴していた他2人のクラスメートの証言により、ジュラス・グレモリーは事故の加害者として扱われなかった。それどころか、焔ビトの鎮魂を行ったとして確認された。しかし遺体の損壊ぶりは、彼を異質な存在として周囲に示すには十分なものだった。
10歳にも満たない年齢で。
焔ビトと化したクラスメートを。
直接的な発火能力もなしに、力任せに『破壊』したのだから。
***
《ジュラス・グレモリー》
「やあ。目が覚めたか」「体、大丈夫?」
「おじさんたち…」
少し前まであった出来事を思い出してみる。
「ええと、学校から帰って、リョウくんとエマさんと一緒にお菓子を買ってからタクヤくんの家に行って、そしたらタクヤくんが焔ビトで…」
「そのタクヤくんが正気を失って暴れ、両親を焼き殺した。彼も鎮魂された。キミの手でね」
「ちょ、白龍皇さま!」
「嘘でごまかすわけにもいかんだろう。どのみち、悪魔として生きるなら避けては通れん道だ」
おじさんの言葉でハッと我に返る。
「俺が…?」
『正確には、お前から肉体の主導権を握った俺がやったんだがな。恨むなよ、そうでもしなければお前が焼け死んでいたんだ』
また、聞き覚えのない声が響く。淡々と告げられる事実。
俺はあの時、友達を殺した。
「あっ、あっあっ、ああっ…」
『死ぬか生きるかの瀬戸際だったんだ、仕方のないことさ。だが正しいことであったとも言えん。焔ビトを元に戻す方法がないとはいえ、失った命は元には戻らんのだからな。
あの時主導権を握っていた俺が言うのもなんだが…殺しから目をそらすな』
何も言えない。『じゃあ、どうすればいいか』と考えられないから。立ち上がれないから。
そんな俺に対して、謎の声は厳しくも諭すような口調で話を続ける。
『血や死に慣れろとは言わん。心を失った先にあるのは、醜い獣そのものだからな。
重要なのは、強い心を持つことだ。自分にとって譲れないもの。愛おしく、守りたいと強く思えるもの。利益、未来、居場所、家族、友人、仲間。自分。色々あるだろうが…それらを傷つけるが脅威が立ちはだかる時。それに立ち向かい、抗うという選択をした者だけが運命を変えられる』
逆に言えば、逃げてしまえば、二度と手に入らないものを失ってしまうという後悔と喪失感を背負って生きていくという事だ。
『少なくとも。
お前の憧れのヒーローは。
乳龍帝おっぱいドラゴンは。
兵藤一誠は。
お前の父親は。
多くの譲れないものを背負い、それを守るために必死で戦ってきたぞ』
その言葉が深く突き刺さる。黒い昏い霧の中で、小さな光が灯った気がした。
「…なれるのかな。俺、お父さんみたいに。テレビで見てた、正義のヒーローみたいに」
『それはお前次第だ。強い意志を持てば、おのずと自分の力もそれに応えてくれるだろう』
改めて『おっぱいドラゴン』を観てみたくなった。お父さんの事、おじさんから聞きたくなった。
憧れの本当の姿を知れば、自分の何かが変わるきっかけになると思えたから。
「んんっ、ごほんっ」
そんな中、おじさんが隣でわざとらしく咳をする。今回の声はおじさん達も聞いていたようだ。
「いい感じになっててすまないが…そういうお前は何者なんだ。ドライグの声そっくりじゃないか」
『こいつが人工神器を有するのは知っているだろう、ヴァーリ・ルシファー。それはバグを引き起こし、俺という自我を生み出したのさ』
『バグが起きたのは百歩譲って理解できるとして、なぜ赤いのに似た自我を?正直、二手天龍の片割れとして偽物は許せる気になれないんだが』
『地獄の盟主連合が自分と自分のライバルの偽物を作って暴れさせてたんだから、そんな感情を向けるのも当然か』
『おい、まさか…』
『ジュラス・グレモリーは人工冬眠を200年以上続けていただろう。長期にわたる生命活動の中止によって、こいつが眠っている間に神器が変質していったのさ。その産物が俺。ドライグの記憶を元に作られた自我を、神器が持っているんだよ。
まぁ、記憶があるだけで他には何もないんだが』
『成程な、理解できた。一応聞くが、お前は自分の事を赤龍帝ドライグだと思っているのか?』
『まさか。俺には先ほど言った通り、倍加の能力すらない。そんなのが本物だと主張するなんて失礼だろう。まぁ、俺は俺なりにオリジナリティが欲しくはあるが』
『………』
「おい、アルビオン。どうかしたか」
『いや、何でもない。自分が何者かを弁えているのならば、私からはとやかく言うつもりはないぞ、ヴァーリ』
「そうか。というかドライグ…のコピー?お前の事は何と呼べばいいんだ?」
『オリジナルとは別物であるという意味であれば何でもいいんじゃないか?『ドライグAI』『2号』みたいな感じで。
…というか、相棒を置いて話を進めてしまっていたな』
「あ、相棒って…俺ぇ⁉」
『そうそう。倍加もないからお前の父親ほど強くなれはしない。だが俺にも俺なりのプライドってものはある、損はないように頑張ってみるさ。よろしくな』
「う、うん…」
子供が小学生の年齢で殺しとか戦を経験して普通でいられるはずがないんだよなぁ