ハイスクールD×D アフター:New HERO BorN F×F 作:scp-114514
《秋樽桜備》
火縄と出会い、焔ビトを鎮魂したあの日から2年。俺は消防長官の協力を得て、消防教会に新たに特殊消防隊…第8特殊消防隊を設立した。
この大隊の真の目的は『同じ特殊消防官の調査』。そもそも無能力者の俺が新たに設けるというのは今思えば疑わしく見えたのかもしれないが、真意には感づかれていたのかもしれない。
そんな俺達は今———
「ゲホッ、ゴホゴホ…。思ったより埃が多いな」
拠点を掃除している。消防教会といっても、実はボロい廃墟。まぁ俺達はぐれ者の住処と考えれば当然か。
「まだ使えそうなものが多いのは助かりますね」
「新調するのは制服と備品類とマッチボックス…基本的なものだけで足りそうだ」
きゅっ、きゅっ。
濡れた雑巾で窓を掃除しながら、俺は火縄にいくつか質問する。
「軍をやめてからの生活はどうだ?」
「特にこれといった変化はありません」
「私的な話を聞いたことがなかったが…ご家族とか彼女とかはいるのか?
…ああ済まない、彼氏かもしれないな。大丈夫だ、俺はそういう偏見はない」
「シングルファーザーでしたが昨年病死しました。恋人は作る気はありません」
「そうなのか…?」
「死と隣り合わせの仕事をやっていれば、そういった人を作る気にはなれませんので」
「仮に人体発火の心配がなくなったら、話は別か?」
「まぁ、彼女を作ることを考えるかもしれませんね。その時の自分の年齢によりますが」
「…なぁ、本当にここに来てよかったのか?」
「何なら今からやめても?異端の部隊と思っていませんでしたし…」
「ん~~~~ダメだ」
「冗談ですよ。他所の部隊を調査するアウトサイダーなど、煙たがられて当然です。それこそ自分のような独り身がお似合いでしょう」
「悲しいこというなよ…」
「ですが異端であるが故に隊員が集まらないのは事実です。立派な隊を作ると聞いたのに話が違います。
格好つけたスカウトをして、好待遇を約束しておいて…大丈夫ですよね?新手の詐欺ですか?」
やばい。火縄が目を鋭くして痛いところをどんどんついてくる。
「あ…いやぁ、信用できる隊員を集めるのはなかなか難しくてね…。人も自分の命も大切にできる真に強い隊員でないと俺としては納得いかないんだ」
「成程。あなたは『王』であり隊の『父』にもなるわけだ。なら自分も務めますよ、桜備大隊長。ウチを立派な組織にできるように」
「プレッシャーだなぁ…。そうか…俺も子がいてもおかしくない年齢か…。
…よし!ここが我が城だ!ここから人類を救う!!」
ビシッと決め台詞を吐くが…
ざああああっ…!
「…そういえば予報では今日の降水確率が70%でしたね」
「やっべ、忘れてた!洗濯物を屋内に入れないと!」
しかも気づいたら夜になっている。うーん、意気込みを語ったのはいいが締まりがないシチュエーションになってしまった。
「冷蔵庫などの家電製品はまだ搬入していません。飲食店で済ませましょう」
「あぁ、そうしよう。
…この時間帯だと、近所のレストランはファミレスしか空いてないがそれでもいいか?」
「問題ありません」
「よしわかった。さて、雨が強いから車で行くとする…か…?」
がちゃん。ぎ…いっ…。
俺達が消防教会の外に出ようとする寸前で、先に勝手にドアが開き始めた。
「無能力者の身でありながら、志は自らの身の丈より遥か上。このディストピアの世の中にも、骨のある大人がいたとはな」
羽織った雨具を脱げば、そこに立つのは白のTシャツに黒のズボンとシンプルな服装をしていながらもダークな銀髪が特徴的な青年。傘立てに自分の傘を仕舞って教会の中に入る。
「…動くな。何者だ。ここは発足したばかりとはいえ特殊消防隊の管轄内だぞ」
火縄が俺の前に立ち、青年に向かってショットガンを突き付ける。
「2年前。キミ達が精肉店の店主を鎮魂していた時のやり取りを見させてもらったが、やはりキミ達の心意気は尊敬に値するな」
「御託はいい。こちらの言っている事に答えてもらう」
「火縄武久軍曹…いや違うな、武久火縄隊員。そんな態度を取らなくていい」
青年は火縄に銃口を突き付けられながらも、落ち着いた表情を崩さないまま、火縄の手に目をやる。というか両手を上げていない時点で全然恐れていないのかもしれない。
「何よりその手。相手との実力差が分かるのは、強い証拠だ。誇っていい」
そうだ。武器を握る火縄の両手は彼の言う通り震えている。まさに蛇に睨まれた蛙だ。いや違う。まるで歯牙にもかけられていない…!
「…」
「…」
「…」
短いのに、無限にも思えるほどの時間。静寂が俺達の間を包み込む。あちら側が沈黙を続けているという事は、俺達に話のペースを合わせているつもりなのだろう。
「はあっ、はあっ…」
「ふ、ふっ…ふーっ…ふぅーっ…」
呼吸が荒い。
俺は。
俺達は。
彼に恐怖しているという事を嫌でも認識させられる。
だが…話さなければ何も始まらない!
「…私は、この第8特殊消防隊の大隊長、秋樽桜備と申します。あなたの用件はなんですか」
「単刀直入に言う。いずれ一人の少年が特殊消防官になる。そして、こちらから一人、協力者を回す。2人の身分と、生き方をこの第八で保証してもらう」
「配属の斡旋?特殊消防隊は100%正義と愛のために存在していると断言できないとはいえ、皇国のためにある組織ですよ。初対面の人間からそんな事を言われるのは——」
「いずれも能力者だ。一人は、第三世代能力者でありながら不器用な戦い方しかできん。もう一人は、第二世代能力を使わずとも強いが、戦う事に興味を持たん。
前者は前線の隊員として使え。あいつはどれだけ強くなろうとも、その実誰にも言えない心の闇を抱えている。そして、一人残された孤独な子供でもある。
後者は戦う気がないが仕事だけはきちんとやる。裏方にでも回しておくといい。あの怪力は便利になるだろうさ。勿論万が一の時は強力な駒となるが、余波には気を付けておくことだ」
「しかし…」
「人員が足りてないんだろう?」
「ああそうだよ。戦力も、戦いをサポートする力もない。今のここはないない尽くしの閑古鳥が鳴く弱小部隊だ。
だが言いたいことの本質はそこじゃない。
あんたの方が事情を知っているんだろう。なのになぜその役目を担えない⁉」
「悪いが、俺にはやるべきことがある。2人を連れまわすことなどできない。こちらの都合で彼らを失えば、俺は…友人に合わせる顔がない」
「それはわかった。だがこちらもゼロから手探りで赤の他人と向き合うのは不可能だ。
2人は…あんた達は何者だ?」
「…その前に、こちらの質問に答えてもらうとしよう。キミ達の目的は、真実を追求することだね」
「肯定します」
「それは、眼前の如何なる事実から目を背けないという事でもある」
「はい。その覚悟でいる所存です」
これには火縄も無言で頷く。よかった。彼を連れてきて。
「では、大人とは何のために子供に対して存在する」
必死に頭をフル回転させる。
考えろ、俺。何のために大人として、消防士をやっているんだ。
これからウチに来る新米の隊員に、どう接すべきか。
「………広く深い愛、そして信じる心。これらを以て成長を見守ると同時に、子供達のありのままの姿を許容し、そしてよりよい未来を託すために存在します」
俺の答えを聞いた青年は瞑目し、暫くしてゆっくりと瞼を開く。
「…いいね、俺の目に狂いはなかったようだ。そちらを困惑させた事、心から謝罪する。
そして、真実を話すとしよう」
***
青年——否、ヴァーリ・ルシファーから聞かされた話は、何もかもが俄かには信じがたいものだった。
大災害が起きる前の時代の人間界にいた、神話や宗教に語られる者達の実在。
キリスト教…旧世界のある宗教で語られている神が作り出した
約250年前の地球に侵略してきた、異世界の邪神。
「…理解が、追い付きません」
沈着冷静で感情を表に出さない火縄が、絞り出すように言葉を紡ぐ。
「そして、あんたは魔王の末裔にして、最強格のドラゴンを宿し、旧世界のあちこちで戦い続けてきた本物の強者…」
改めて感じるが、開いた口が塞がらない。
御伽噺にしては随分と物騒な新人を押し付けてくれる。当然、ここに疑問が浮かび上がる。
「まさか、2人とも人を殺す化け物だから…というわけでもないでしょう?」
「ああ。彼らはただ、家族と離れ離れになったこの世界で、誰かに怯えたり、怯えられたりすることなく自分らしく生きたいと願っているだけだ。ただの年相応の子供だ。
青臭くも眩しい正義のために奔走する第8なら、2人にとっての普通を…居場所を作ることを、許してくれるんじゃないのか」
心の拠り所が欲しい、という細やかな思い。それは悪魔だろうが、ドラゴンだろうが持っていておかしくないものだったのか。『心』を持つのは人間だけではなかったのだ。
ましてや今の人間界という絶海の孤島で生きていくというのなら、猶更心の内を晒しても安心と思えるようにしたいはずだ。
一呼吸置いた俺は、不敵に笑ってヴァーリに手を差し出す。ヴァーリの方も手を出して握手を交わした。
「…承知致しました。種族に関係なく、自分の道を切り開くべく必死に足掻く者達に寄り添うのもまた、我々の仕事でしょう。その2人の人生、こちらで責任をもって預からせて頂きます」
「感謝する」
「しかしなぜ、我々に彼の事を包み隠さず?」
「自分の殻を破る必要があるからだ。ヤツは悪魔である事がばれる事への恐怖が足枷となっている。上っ面は普通でも、いつ『その時』が来るかわからないという恐怖に苛まれている。
ありのままの自分を受け入れ、そして心の底から自分を愛せられるという精神的成長。『悪魔のままでいい』と許されること。この経験をしなければ、いくら力が強くても本当の意味で前に進めない。
そのためのキミ達だ。あえて知らぬふりをしてヒントを出すなり、はじめから知っていて寄り添うなり色々なアプローチがあるが…そこは任せる」
「最後に聞かせてください。我々は真実を追い求める組織。皇国にとって不都合な現実を知る事もあるでしょう。場合によっては反逆者となるやもしれませんよ」
「皇国の敵。太陽神を信奉する者達の敵、か…」
ヴァーリは暫しの間思案にふけり、そして不敵な笑みを浮かべて窓の外を見る。その先には久遠式火力発電所・天照が雨に打たれ、夜の月光に照らされて反射している。
「———上等だ」
こちらに振り向いた直後、彼が双眸に鋭い光を宿らせて喋った言葉を俺は忘れられない。
「偽りの神ごときが、俺達の邪魔をしてくれるな」
それだけ言い残し、彼は踵を返して土砂降りの暗闇の中に溶け込むように第8の屯所から出ていった。
「「…はあぁぁぁぁっ…」」
ヴァーリの気配が完全に消え去ったのを確認した瞬間、俺達の身体から緊張が一気に抜け落ち、深いため息とともに床に大の字になって崩れ落ちる。
「能力の一つにあらゆるものを幾重にも半減させ、果てに消滅させる。神ですらもその餌食となりうる…でしたか。自分の得物など玩具に等しいと認識させられました。
なのに桜備大隊長、よくもまぁ大層な問答が出来ましたね。生きた心地がしませんでしたよ」
いやぁ、うんまぁ…自分でもよくあんなこと出来たなって思う。
「ハハハ…。俺だって自慢の筋肉がぜーんぶ引き攣るかと思ったよ。だけどさ火縄、あいつの目は本物だった」
「えぇ、似ています。早くに妻に先立たれ、悲しみに暮れながら、慣れない子育てに四苦八苦して自分を育てた亡き父に。不器用で等身大の大人の眼をしていました」
「魔王であろうと、天龍?であろうと…子供達の身を本気で案じるのは俺達人間と変わらないんだな。
…そんな奴からの頼みを、『悪魔だから』『ドラゴンだから』って下らない理由で第8の大隊長が突っぱねられるかよ」
伸びたように床に寝転がっていた火縄は深呼吸と共に起き上がり、ずり落ちかけた眼鏡を直すと胸のメモ帳にペンを走らせる。
「…ヴァーリ・ルシファーから推薦された2人。一人は前線向けではあるが不完全な第三世代、ジュラス 兵藤…もといジュラス・グレモリー。もう一人は戦う気のないドラゴンの娘、レギーナ・タンニーン…でしたか。彼女のために資材管理のポストを作っておきましょう。流石に番犬の役目くらいは努めてもらいますが」
「仕事が早くて助かるねぇ、中隊長!戦いたくないお嬢さんだ、のんびりサボらせてやろう」
「この2人はあくまでもウチにおける別枠です。並行して最低でも2人、ここに正式採用を追加で行わせましょう。
…それと自分の方でも東京軍の中に一人、あてがあります。
軍人として向いていないほどに誰よりも心優しく、他人を第一に考えられる精神の持ち主です。ここに相応しい人物でしょう」
「ハハハハハ!それはうれしい話だな!
…問題は、ジュラスっていう少年の方だな。小学生の頃に焔ビト化したクラスメートを殺した過去が影を落としている、か…」
「話の本質は、グレモリーとしての力…いや、正確には彼の母親のその母親———つまり祖母が持つバアルとしての力で人間を殺した事がトラウマとなっているとのことですね」
俺は自分の分厚い掌を見つめ、ギュっと力強く握りしめる。
「種族なんて関係ねぇ。あいつが自分の鎖を引きちぎって、両親に自分の軌跡を胸を張って言えるようになるまで…俺達のこの第8の屋根の下で雨宿りさせてやろうじゃないか」
「えぇ。それもまた、
…ですが大隊長」
「どうした?」
「かっこいいセリフで締め括ろうとしているところを大変恐縮ですが…」
火縄が「あっやばい」というような目で執務室の外にあるベランダを指さす。激しい雨に晒された洗濯物がビショビショになっている。
「自分も、洗濯物の取り込みがヴァーリ・ルシファーとの会話で中断されたのを忘れていました。道中でコインランドリーに寄らなければなりませんね」
「しまったぁぁぁ!!!」
「まぁ過ぎたものはしょうがありません。ファミレスで期間限定メニューでも食べて、酷使した脳に栄養を与えるとしましょう」
「へいへい、わーりましたよ。んじゃ、行くか!」
ボロい屯所から車を出して、2人の大人は大雨の夜の街へ消えていく。いずれやってくる、2頭の若き龍を迎えるための、世界で一番温かい居場所の光を、その身に灯したままで。
イッセー達冥界サイドの話も書かないとDD要素が薄れちまう…!