ゲインアゲイン   作:十割二八

10 / 15
第十話 三者動乱

 少し疲労を感じ木陰で休んでいたそのとき。

 地面が揺れた。曇り空に鳥が飛び立ち、その鳴き声が静寂を切り裂く。

 異常事態かもしれない。さすがに皆と合流すべきだと思い、宿の方へ向かう。生徒や教員、騎士団員がいるはずだ。走っていると再び地面が動いた。木々が荒々しく揺れ、葉が何枚も落ちてくる。

 

 

 森を抜けて宿にたどり着いたが、誰一人いなかった。多数の足跡が残っている。東、街の方に向かったらしい。ただ、魔獣の足跡が見られない。一体何から逃走したというのか。

 答えはすぐに分かった。空だ。翼竜型の魔獣が上空を飛んでいる。

 東へ向かう魔獣を追いかける。飛行している高さは約十メートル。ヴェルザなら届く。触手状の灰外殻でも届く。波導を集中させればジャンプしても届く。問題は人に見られる可能性があることだ。

 そこで、灰外殻を自分の体を覆うように展開し、翼を生やす。もちろん動かないが、人の形には見えないなら十分だ。目撃者には鳥や魔獣だと勘違いしてほしい。

 この状態で脚に波導を集中させ、地面を蹴って飛び上がる。魔獣が俺に気付き、振り返るがもう遅い。灰の槍で魔獣の体を串刺しにする。核が飛び出し、地面へ落ちた。俺も着地し、核を回収する。上手くいった。パッと見た限り、誰にも見られていないようだった。

 とりあえず空飛ぶ魔獣は倒したが、地面の揺れの原因が分からない。逃げた人たちの後を追いかける。

 荷物を持って街へ走っていると、声が聞こえてきた。この先だ。街の入り口にたどり着く。

 

 

 目に映ったのは、炎に包まれる街。人々が逃げ惑い、騎士団員がなんとか避難誘導をおこなっている。

 

 どうしてこんなことになっている?

 地震が起きて火事になったのか?

 その割には建物はあまり崩れていない。街中に放火されたような印象だ。

 

 そんなことを考えていると、突然背後に気配を感じた。振り返った先にいたのは、ドームで見た黒いローブに身を包んだ男だ。

 黒ローブが手に持っている剣で斬りかかってくる。右肩から斜めに振るわれる剣を下へ回避して懐に潜り込む。右腕を振り上げて顎を殴ると、黒ローブは気絶して倒れた。

 周囲の状況を確認してから男のローブと衣服を剥ぐ。ズボンも脱がす。

 

「今日からお前は黒ローブじゃなくて白ブリーフだ」

 

 などと言いつつ、白ブリーフの体と衣服を改めていると、男の肩に見覚えのあるマークがあった。

 

 外側に円、右上から左下へ二重螺旋が貫通し、中心には小さな円と二枚の羽。

『ACE』のエンブレム。バーンモルト()が『裏切りの英雄』と呼ばれるようになった元凶。俺が人生を懸けて打ち倒さねばならない、因縁の相手。

 

 ゼリアでのキメラ騒動、ドームでのテロも『ACE』によるものだろう。そしてダインでことを起こした、という訳だ。

 確実に潰す。少なくとも、この街に来た部隊は。

 

 

 白ブリーフはとりあえず木に縛り付けておいた。急いで燃える街の中心へ向かう。今、この街には騎士が少ない。騎士団は何人もゼリアの警戒へ向かわせてしまったはずだ。『ACE』の狙いが二十年前から変わっていないならば、それは――

 

『導脈』の掌握。

 

『ACE』は以前から魔獣の研究をしていた。『導脈』を利用できれば研究が進むと考えているのだろう。ダインの街の地下深くには『導脈』の通り道があり、そばにはアヴァリティアスの導脈研究施設がある。このままでは、まずい。

 

 

 

 

 炎上する住宅街を抜け、中心街にたどり着く。『ACE』の部隊の姿はない。既に研究施設に向かったか。

 しかし、唯一、見覚えのある人影があった。紫色の髪、長い襟足。二メートル近い身長。キメラ戦後に俺を拉致し、ドームでバルトを連れていった男。

 

 灰の仮面と灰溜まりを用意し、ゼクシオンを展開する。その音に気付き、男が振り向く。

 

「ほう、久しぶりだな。そういえば名乗っていなかったか。トロンだ」

 

「ゼリアのドーム以来だ。お前に教えてやる名前はない。お前も『ACE』の一員か?」

 

 トロンが頷く。その瞬間に地面を蹴ってトロンに近づく。ゼクシオンで頭を狙うが、後ろ飛んで避けられる。

 トロンもマギアを展開する。

 

「起きろ、『ファールス』」

 

 トロンの右手に直剣が現れる。腕と武器の長さを足すと、リーチは同じくらいか。

 俺は一気にトロンへ迫り、腹を狙って突きを放つ。トロンが剣で弾き、右足で蹴りを放ってくる。俺は左腕で蹴りを受け止め、ゼクシオンの側面で斬りかかる。

 

 トロンは左足で地面を蹴って跳躍、空中から大量に斬撃を飛ばしてきた。

 一振ごとに四、五発の斬撃が発生している。

 

 後ろへ下がって回避する。先ほどまで俺が居た場所に斬撃が降り注ぎ土煙が上がる。体勢を整えようとした瞬間、土煙を裂いて一際巨大な斬撃が飛んでくる。ゼクシオンで受けるも、威力に耐えられず手から離れてしまう。トロンが煙の中から飛び出す。俺の腹を両断せんとする剣。

 

「『灰外殻』ッ!」

 

 背中の灰溜まりから四本の触手を展開、剣を叩き落とす。バランスを崩すトロンの左脇腹に蹴りを入れて吹っ飛ばす。空中で体勢を変えて着地するトロン。その顔には怒りが浮かんでいる。

 

「俺はお前を舐めていた。本気で殺りにいく。ここで消す」

 

 言い放った瞬間、トロンが消えた。周囲を見るがどこにもいない。背筋に冷や汗が走った。嫌な予感がして後ろに灰外殻を展開すると、いつの間にか背後にいたトロンが剣を振るう。俺は吹き飛ばされ、さらにトロンが詰めてくる。

 

「クッソ……。『ヴェルザ』!」

 

 マギアを展開して打ち合う。

 体勢が悪かった俺は地面に倒れ、トロンにマウントをとられる。なんとか鍔迫り合いになっているが、このままだと確実に負ける。

 そのとき、トロンの背後、空中から声がした。

 

「二人まとめて消えろ」

 

 巨大な岩石の塊が落ちてくる。避けるためにトロンが離れ、俺も逃げ出す。

 

「チッ。外したか」

 

 現れたのは、赤色のショートヘアの騎士。

 

「イブ・ランデル。第一等級か」

 

「よく調べたな、トロン・ランサー。それと、そっちの奴……。やはり『灰貌』か」

 

「あんたもドーム以来だな。世話になったよ」

 

「お前たちは危険因子だ。捕縛なんて甘いことはしない。殺す」

 

 やっぱ怖いこの人。

 

「俺もそのつもりだ。第一等級を削れば騎士団の戦力も下がるだろう?」

 

 とトロンが語る。

 戦わざるをえない。見逃してくれるタイプではないし、本気でやらなければ死ぬ。

 

 

 

 互いに警戒し合うなか、最初に仕掛けたのはイブだった。イブが地面を殴る。その瞬間、俺とトロンに向けて一直線に岩が出現する。剣山のようになった岩が地面から伸びる。横に飛んで回避する。

 イブ本人が俺に迫ってきた。彼女の右腕は異形になっている。重い拳を灰外殻で受け止める。

 刹那の拮抗は斬撃によって崩れる。漁夫の利を得ようとトロンが放った斬撃。回避した俺と受け止めたイブ。次の動きはイブの方が速かった。再び俺を襲う異形の拳が灰を突き破る。ヴェルザで受け止めるも、吹き飛ばされてビルの壁に激突した。

 さらに追撃を仕掛けてきたイブの右ストレートを転がって回避し、反撃に出る。灰外殻でイブを刺しにいく。避けられるが、回避された先へヴェルザを伸ばして振り回す。受け止めて刃を掴むイブ。俺はヴェルザを縮ませ、イブの目の前に急接近する。剣を振り抜こうとした瞬間、トロンがいないことに気付いた。

 

「後ろかッ!!」

 

 背後のトロンの剣撃にヴェルザを合わせる。今の俺はトロンとイブに挟まれている格好だ。両足に波導を込めて飛び上がり、ビルの屋上に逃げる。直後、イブがトロンを狙い拳を振り抜く。トロンは後ろへ飛んで回避、距離をとった。

 再びの膠着状態。

 

 一度整理しよう。

 

 トロンの波導術はおそらく『透明化』。飛ぶ斬撃はマギアの能力だろう。

 一方イブ。波導術は『岩石の操作』か?あの異形の腕は『竜化』、イブは多分竜人だ。どの程度の力を持っているのかは分からないが、別の部位も変形することができるはず。

 どう立ち回ってもリスクはある。だったら、俺から仕掛けさせてもらう。

 

「『灰霧』」

 

 灰溜まりから大量の灰を放出し、一帯を灰色に染める。灰外殻の出力は下がってしまうが、この霧の中でなら透明化されても位置が分かる。

 ゆえに、まずはイブを狙う。三十本の灰の槍を空中に展開し、その全てをイブに向けて飛ばす。イブの目の前の地面が隆起し、盾となって槍を防ぐ。

 その間に斬撃を飛ばすトロン。俺とイブの両方を狙ってきやがった。隣のビルへ飛び移る。次の瞬間には、さっきまで俺がいたビルが消し飛んだ。イブは腕で防ぎながら前進している。

 トロンの斬撃が止んだ瞬間、地面が爆ぜた。イブがトロンへ急接近する。

 

「当たらないぞ、ゴリラ女」

 

 トロンが後ろへ飛ぼうとした瞬間、イブの踏み込みで地面が動いた。トロンの背後に高さ五メートル、厚さ三メートルほどの土壁が出現し、逃げ場が消える。

 

「これなら当たるだろ?」

 

 振り抜かれる拳。受け止める剣。衝撃によってトロンが吹っ飛ぶ。その体は土壁を砕き、ビルを三棟ぶち抜いた。

 

「次はお前だ」

 

 イブが地面を蹴ってビルの屋上に飛んでくる。着地と同時に打ち込まれる拳をバックステップで避け、ヴェルザを伸ばして反撃する。

 

「ヌルいな」

 

 腕で簡単に止められるが、それでいい。

 ヴェルザの先端はその先、反対側の焼け焦げたビルの手すりに巻きついた。ビルを飛び降り、ヴェルザを縮ませる。同時に灰外殻を伸ばしてさっきまでいたビルを切断する。イブも崩れかけのビルから飛び移る。

 

 掛かった!

 

「俺の勝ちだ」

 

 移動先のビルには既に灰で満ちている。火事のせいだ。そこに、俺の灰を少し混ぜた。

 屋上から内側に灰外殻を伸ばし、内部に積もる灰と接続する。これで建物内の全ての灰を操ることが可能だ。そのうえ、波導で強度も上げられる。

 

 イブが距離を詰めてくる。窓から灰が吹き出す。ビルを覆い尽くす。彼女に逃げ場はない。操作できる岩石や地面もない。膨大な量の灰が屋上に降り注ぐ。

 

「滝の如く流れ、穿て。『灰瀧(はいろう)』」

 

 

 

 俺の一撃でビルは完全に崩壊、地下深くまで穴が空いた。さすがにイブも動けまい。

 

 そう思っていた俺は、甘かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。