ゲインアゲイン   作:十割二八

11 / 15
第十一話 灰の獣

さて、トロンがどうなっているか見に行かなければ。既に近くまで迫っている可能性もある。注意しておこう。

 

 そんなことを考えていたとき、穴から轟音が響く。現れたのは両手両足を『竜化』させ、翼と角を生やしたイブ。

 

「なかなか効いたよ、『灰貌』。捕縛しても良いと思っていたんだが――」

 

 気づくとイブが目の前にいる。いつ動いた?目で追えなかった。

 

「やはり、お前は殺しておく」

 

 腹に強烈な痛み。防御に用いた灰を貫通し、内臓が弾けそうだった。一瞬意識が飛んだ。百メートル近く吹き飛ばされたらしい。

 

「うおわぁっ!!」

 

 イブが追撃してくる。なんとか回避できたが、正直分が悪い。

 しかし幸運にも、避けた先に転がっているゼクシオン。これならまだ戦える。

 

 

 突っ込んできたイブの殴撃と俺のゼクシオンでの刺突。途轍もない衝撃。周囲の建物が耐えきれず崩壊していく。

 

 そこへ――

 

 何本もの斬撃が飛んでくる。イブは空いている左腕と翼で防御する。俺も灰外殻で撃ち落とすが、防ぎ切れず右半身から鮮血が吹き出る。

 

「う、ぐっ!!」

 

 右腕の力が抜ける。なんとか左腕を添えてイブの右腕を押し返す。そのとき、

 

 ゼクシオンが砕け散った。

 

 イブの右腕が腹にめり込む。胃液と血液が逆流する。骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。衝撃で身体が放り出される。

 

 

 

 

 目が覚めたのは知らないビルの中。まだ戦闘の音は聞こえている。イブとトロンが戦い、トドメを刺す機会を逃したのだろう。

 

 起き上がりたい。立ち上がりたい。なのに体は動かない。今の自分の限界を感じた。

 放てる中で最高火力の『灰瀧』を受けて倒れないイブ。そんな彼女の一撃を受けてなお反撃してくるトロン。

 漁夫の利を狙おうにも、二人して俺を潰しにくるだろう。今の俺には勝ち目がない。

 

 昔の俺なら勝てたのに。弱いから負ける。弱いから傷つく。弱いから死ぬ。

 何かを失うのは巡りが悪いからじゃない。運がないからじゃない。ただ、弱いからだ。

 弱者は淘汰され、強者たちが生き延びる。またその中の弱者が消え、強者が残る。生命はこうして進化してきた。

 世界とはそういうものだ。

 奪う者と奪われる者。

 手に入れる者と贄となる者。

 亡びる者と栄える者。

 喰う者と喰われる者。

 

 俺は、どちらだ。

 

 

 手を伸ばす。鞄を掴む。中には十五個の魔獣核。全て喰らう。拒否反応で死ぬかもしれない。そんなことはどうでもいい。

 足掻いて、壊して、殺して、喰らって、そして、その先まで――

 

 そのために俺は生まれたのだから。

 

 

 

 

 アッシュが致命的な一撃を食らって数分。イブとトロンの戦闘は続いていた。イブの攻撃はトロンに避けられ、トロンはイブの防御を崩し切れない。お互い決定打を欠くなか、

 ()()は突然現れた。

 全身を黒い鎧で覆い、血管のように赤い線が走っている。背中には翼と触手が生えており、周囲には黒い靄がたちこめる。禍々しいカタチをしたその人型は二人を見据え、

 

「ーーーーーー!!!」

 

 声にならない咆哮を上げた。

 

「『灰貌』か……!?」

 

 目を見開いたイブに、灰の獣は狙いをつけた。

 地面が砕ける。距離を詰めた獣が拳を振り抜く。イブは左腕で受けつつ、右手で反撃の殴打。しかし、獣の翼に阻まれ、がら空きの胴に灰の触手が直撃する。

 イブは咄嗟に腹部を竜化させ防御するが、三十メートルほど吹き飛ばされる。その直後には、既に獣がイブの眼前に迫っている。

 伸びる灰の触手。後退するイブ。穿たれる地面。

 イブが足を地面に叩きつけた瞬間、砕けた岩石が壁となる。波導で覆われた石の壁は獣の攻撃を防ぎ、さらに獣を囲っていく。空いた天井。獣の目にはイブの姿が映る。

 彼女の腕は大量の岩石を纏い、さらに波導で強化されている。振り下ろされる巨大な両手。

 岩の質量、イブの筋肉と波導が獣を圧し潰す。地面が割れ、沈み込む。街全体が揺れ動くほどの衝撃。

 

「なっ!?」

 

 岩石の腕が砕け散る。灰の獣がニヤリ、と笑う。背中から八本の灰の触手が伸び、空中のイブを襲う。イブは両腕で防御するが、捌ききれずビルに叩きつけられる。壁にヒビが入り、ビルが崩れる。

 追撃しようとする獣の首に刃が触れる。透明化して近づいたトロンが首をハネようと剣を引く。しかし、灰の翼が勢い良く広がり、トロンを弾き飛ばす。全身から灰を放出する獣にはほとんど隙がない。

 

(一度退く……。いや、コイツを押さえておかなければ作戦が……)

 

 トロンが逡巡していると、灰の獣が動いた。トロンはすぐさま『透明化』を発動して背後に回る。イブが獣の正面に戻ってきており、トロンとイブで灰の獣を挟む格好になる。

 

 拳を構えるイブ。

 

 剣を振りかぶるトロン。

 

 吼える灰の獣。

 

 

 

 

 

 三人の戦闘を見ている者がいた。

 キュラ・ハンター。『ACE』の一員である。彼女の波導術は『天使の目(エンゼル・スコープ)』。彼女を中心とする半径三十キロメートル以内の屋外全てを見ることができる。彼女はこの波導術を生かして、作戦時の状況を報告、共有するという役割を担っていた。

 

 

 その光景を見て、彼女は言葉を失った。

 街の中心からは建物が消え、クレーターができた。半径十キロ近くが瓦礫の山と化している。

 クレーターの端にはボロボロになって動かないイブ・ランデル。その反対側にはトロンが同じように倒れている。

 

 

 数秒前、灰の獣に飛びかかった二人であったが、獣は信じられない量の灰を放出。巨大な翼と触手になった灰が辺り一帯を破壊し尽くした。

 至近距離でその攻撃を受けた二人は重傷を負い、とても動けるような状態ではない。

 

 動く生命はただ一つ。中心に立つ、灰の獣。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。