ゲインアゲイン   作:十割二八

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第十二話 VOCE

 同時刻、ダイン西部の体育館及び公園には、住民のほとんどが避難していた。避難者の中にはゼリアの騎士養成学校の生徒も混ざっている。

 避難誘導をおこなったのはアヴァリティアス騎士団四番隊。その応援として三番隊も到着している。

 

 そこへ、魔の手が迫りつつあった。『ACE』の二つの部隊のうち一つが近づいてきているのである。

 ダインの導脈研究施設は街の中心から見て西側の端にある。東側の噴出口が目的地だと考えていたアヴァリティアス騎士団はその通過点に避難所を設けてしまったのだ。

 騎士団三番隊、四番隊が一部小隊を避難所に残し、街の中央へ進んでいたところ、四番隊の索敵要員が『ACE』の部隊を発見した。

 

「隊長、どうします?」

 

「このまま進もう。避難所からできるだけ距離をとりたい」

 

 進むこと数分。遂にアヴァリティアス騎士団四番隊と『ACE』の部隊が対面する。

 

「ようこそ、ダインへ。この街はお気に召したかな?」

 

 四番隊の先頭に立つ少年が話しかける。

 

「よーく見せてもらったわ。クソみたいな街ね。なくなった方がマシ。どうせこの状態から復興するのも楽じゃないでしょ」

 

『ACE』部隊の中から女性の声が響く。

 少年は味方へ向けて、

 

「あの女は僕がやる。第一小隊は周りの連中、いいね?」

 

「ほな、オレらは? 雑魚の掃除はゴメンやわ」

 

 四番隊のある男が聞く。

 

「第二小隊はあいつらの後ろの魔獣の群れ。地面の揺れの原因、アレだろうね。潰しといて」

 

 

 

 

 一方、『ACE』の部隊。

 

「あの生意気なガキはアタシが潰す。お前らはさっさと騎士ども蹴散らして、施設まで向かいなさい。その魔獣たちはこの辺で暴れさせといて」

 

 黒ローブたちが雄叫びを上げて走り出す。同時に、背後の巨大な魔獣の足枷が外され、魔獣が暴れだす。

 

 

 

 迎え撃つ騎士団。陣形を横に広げ、黒ローブを通すまいとしている。

 一人の騎士へ迫り、牙を向ける魔獣。

 その足に一本の槍が突き刺さる。

 

「何よそ見しとん? お前の相手はオレや」

 

 髪をセンター分けにした細身の男が刺さった槍を抜いて構える。アヴァリティアス騎士団四番隊副隊長 シン・ルナール。

 

 怒り狂った目で彼を見つめる魔獣。

シンも細い目で睨む。両者が同時に走り出し、衝突した。

 

 

 

 そして、

 

「お前がこの部隊の隊長か。シャバ僧じゃあないか」

 

 褐色の肌に編み込まれた黒髪の女性が笑う。

 ACEの幹部 ソヌス・ラクーナ。二十年前にもアヴァリティアスを襲った『混血』。六番隊と交戦し甚大な被害を出した。

 

 相対するは騎士団四番隊隊長 ディクト・ヴォーチェ。若冠十六歳にして六天を務める天才。

 

「そういうアンタはシワが出てるよ。テロリストも歳には勝てないね」

 

「クソガキがぁっ!!」

 

 ソヌスが地面を蹴り、ディクトに迫る。その両手にはナイフが握られ、喉を掻き切ろうとするが、

 

 

「『止まれ』」

 

 

 ソヌスの動きが止まった。ソヌスはなんとか動こうとするも、叶わない。

 ディクトはサーベルを取り出し、無防備なソヌスへ振り下ろす。しかし、

 

「オ゛ーーーーー!!!!!」

 

 ソヌスが尋常ではない声量で叫ぶ。あまりの音量にディクトは耳を塞いで後退する。

 

「随分とデカイ声だね。それ波導術? 近所迷惑だ」

 

 ディクトが顔を歪める。

 

「お前こそ、気色の悪い波導術を使う。突然動けなくなるとはな」

 

「どうせ知ってても変わらないし、教えてあげるよ。『王の勅命(キングス・コマンド)』、僕の命令を受けた者に、その内容を強制的に実行させられる。まあ、出せる命令にも制限はあるけどね」

 

「偉そうにペラペラと。それで死んでも言い訳するなよ?」

 

「しないよ。僕が負けるわけなくてね」

 

 こうして、二人の戦闘が始まった。

 

 

 

 

 一方、ダイン南部にも、何体もの魔獣を引き連れている『ACE』の部隊がいた。

 率いるはバルバ・ゼババ。

『ACE』とは別の一件で危険度が第一階級に設定され、その後組織に入ったことで第一階級オーバーになった人物。

 

 

 迎え撃つはシエル・リュミエール率いるアヴァリティアス騎士団三番隊第一、第三小隊。

 隊員らが魔獣及び黒ローブと、シエルがバルバと交戦していた。

 

「おいおい、どうしたぁ? ドームでのキズ、治ってねえのか?」

 

 敵味方に構わず大暴れするバルバに対して、周囲への流れ弾さえも撃ち落とすシエル。バルバにとっては、実力差を埋めるに足る好都合な状況である。

 

 バルバの拳を足裏で止めるシエル。カウンターしようとする彼女だが、背後から魔獣の爪が迫り、回避せざるを得ない。

 その先では別の魔獣が待ち構えている。シエルは牙を剥く魔獣の頭を雷撃で吹き飛ばし消滅させる。

 再びバルバがシエルに突っ込む。異常なスピードだ。シエルはギリギリで回避するも、反撃に出ることができない。近寄ってくる魔獣を消し飛ばしつつ、バルバの攻撃を受ける、もしくは躱し続けている。

 

 しかし、シエルにも打開策があった。

 突如として、バルバの拳が当たらなくなる。彼の強化された筋肉から放たれる拳。岩を砕き、大気を圧縮するほど速く振り抜かれる拳。

 そして、その全てを避けるシエル。

 

「何で当たらねえっ!!」

 

 バルバは激昂し、無意識に振りが大きくなる。この行動は致命的であった。

 隙をついて懐のうちへと入り込むシエル。彼女を狙うバルバの右腕。シエルはその腕を右手で上に突き上げ、ガラ空きとなった胴に左腕の肘をめり込ませる。

 その後も、息を吸う暇さえ与えない連撃がバルバを襲う。

 痛みに耐え、踏ん張るバルバ。

 

 しかし、ここで距離をとるべきだった。シエルとバルバの至近距離の高速戦闘。周囲の魔獣が介入する余地がない。シエルを狙い、振り抜かれる魔獣の手はバルバに直撃。

 

「"電影"」

 

 避けたシエルはバルバに追撃を仕掛ける。体勢を立て直したバルバが電気を纏った拳を片手で受け止める。そのままもう一方の手で殴打しようとするが、

 

「当たりませんよ。そんな雑な拳は」

 

 シエルは余裕を持って回避し、逆にカウンターを食らわせる。

 

 

 彼女を『六天』たらしめるのは雷撃の強さだけではない。近接戦闘の強さもおおいに関わっている。

 "電理眼(でんりがん)"。彼女の波導術である『厳雷霊(イカツチ)』の能力の一つ。術者の目は電気を見通すことが可能となる。彼女は相手の肉体の電気信号を捉え、行動を先読みしているのだ。

 

 

 ゆえに、肉体以外の攻撃手段を持たぬバルバに勝ち目はない。

 

「バルバ・ゼババ。私とあなたでは、越えてきた修羅場が違う」

 

 シエルのカウンターで体勢を崩したバルバ。

 その顔面にシエルのハイキックが直撃。

 雷を纏った蹴りを受けたバルバは気絶し、その場に崩れ落ちた。

 シエルがトドメを刺そうとしたそのとき、異様な気配を感じて振り返ると、――

 

 

 騎士団員と魔獣が、凍りついていた。

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