第十五話 スヴェラトール
ニッコリと笑うクラリス。訳が分からない。
「いきなり何なんだ? スヴェラトール? というかなぜ俺がバーンモルトだと!?」
誰にもアッシュ・グレーンがバーンモルトであることを伝えていない。なぜ分かったのだろうか。
「一つ一つ答えていくわ。まず、どうしてあなたのことを見抜けたか。それは、コレよ」
そう言ってクラリスは自分の目を指差す。
「私の波導術、『
「なるほど? じゃあ嘘は全部バレていた、と」
「ええ。私に隠し事はできないわ。この目、透視もできるから。じゃあ次ね。『
「ほう、分かった。『ACE』を潰したいのは俺も一緒だ。だが、なんで俺の存在が重要なんだ?」
「アヴァリティアス騎士団元『六天』 バーンモルト。ある程度のことは調べさせてもらったわ。六十年ほど前から騎士団員として活動。その十年後,
アヴァリティアス南のクレール王国との戦争における功績が評価され『六天』に昇進。合ってるかしら?」
「ああ」
概ねこの通りの人生を送ってきた。問題はこの後だ。
「二十五年前、『ACE』の幹部と接触。まるで人が変わったようになり、騎士団を脱退し消息不明に。そしてその五年後、遂に『ACE』の一員としてアヴァリティアス王国を襲撃。クレール王国が『ACE』を支援し大規模な戦争へと発展。あなたは最後、アルス・エルバートの手で討ち取られた。そうでしょう?」
「その通りだ。まあ、実際には力を失って生き残ってたわけだが。どうやって生き延びたのかは……教えられないな。それで? 結局なんで俺を
「あなたが今『ACE』と敵対してるのを考えると、味方になってくれると思ってね。それに、あなたは『ACE』としては喉から手が出るほど欲しい人材なの。あとは、……私にとっては憧れだから」
「ん? どういうことだ?」
「分かっていないならいいわ。大したことじゃないから、最後のは忘れなさい。とにかく、あなたは『ACE』にとってはかなり重要で、騎士団にとっては相当なイレギュラーで、私たちにとっては救世主になり得る存在なのよ」
『俺を『ACE』が欲してる』というのはかなり気になるが、それ以上の詮索はしなかった。
「買い被り過ぎな気もするが、まあ分かった。ただ俺は騎士団と敵対してるぞ。クラリスたちからすれば、騎士団と争うのはまずくないか?」
「問題ないわ。衝突を回避するための支援をしてくれる人たちがいるから。 入ってきて」
ドアノブが回り、茶色い木の扉が開く。
「どうも、はじめましてだね」
「はじめまして。クラリスにめっちゃ気に入られとるなぁ。」
入ってきたのは騎士団の制服を着た二人の男。水色の髪の少年と、センター分けの糸目の男。
「アヴァリティアス騎士団四番隊隊長のディクトと、同じく副隊長のシン。二人ともスヴェラトールの協力者よ」
「ああ、よろしく。ディクト、シン」
「こちらこそ」
「よろしゅう頼むわ」
ディクトは若干警戒しつつ、シンは気味の悪い笑顔で握手を交わす。
「アッシュ、彼らが『灰貌』と騎士団の関係はなんとかしておくから、安心しなさい。」
「とはいえ、完璧に、常にサポートできるわけじゃない。ある程度『誠意』を見せて欲しいんだ」
ディクトが言う。誠意ってなんぞや?
「ま、騎士団と『ACE』の戦闘に巻き込まれたら騎士団を援護しろっちゅうことや。そしたら警戒度も下がるかもしれへんしな。いつか話し合いまで持ってける可能性もある」
シンが補足する。
「まあでも、三番隊がおったら逃げた方がエエわ。隊長さん、めっちゃキレとる。副隊長は回復したみたいやけどな」
「そうか。まあ、そりゃ怒ってるよな。部下を重傷にして、街も壊したし」
「過ぎたことはどうしようもないわ。アッシュ、あなたの力が必要よ。協力してくれる?」
もう一度クラリスが手を差し出す。
「もちろん。ちょうど、仲間が欲しかったところなんだ」
その手を握り返す。これまでは友人の一人もいなかったんだ。ただの協力相手だとしても、関係を大切にしていきたい。俺は、空っぽの手で何かを掴めたような気がした。
少し経って、シンがクラリスに聞いた。
「スマン、クラリス。少しアッシュと二人で話しといてええか」
「構わないわ。私はディクトと今後の方針を話しておくから」
そう言ってクラリスとディクトが部屋を出ていく。扉が閉まった後、シンが口を開いた。
「久しぶりやね。バーンモルト。オレはジブンがやったこと、忘れてへんからな。もしなんか企んどると感じたら、そんときは容赦せぇへん。今のジブンならオレでも殺せる」
シンが間近に迫り、俺を睨む。その眉間と額には深くシワが寄り、頬には筋が浮かんでいる。
俺とシンは以前同じ部隊に所属しており、何度も戦場で背中を合わせて戦ってきた。俺たちが『六天』になるまでの同僚だ。俺もシンのことはよく知っている。
「ああ、お前はそれでいい。手放しに信用してもらえるとは思ってないさ。ところで、なんで今さら四番隊の――」
「オレにもいろいろあんねん。ジブンはジブンのことだけ気にしとき。ま、仲良うしようや」
そんな会話をしていると、クラリスとディクトが戻ってきた。
「シン、僕たちはここらでお暇しよう。この後の会議に向かわないと」
「りょーかい、隊長。ほな、オレらはこの辺で」
二人が出ていき、部屋には俺とクラリスだけが残された。
「ああ、言い忘れていたけれど学校はしばらく休みよ。立て続けにテロに巻き込まれたのだから当然だけど」
「俺はどのみち街中歩けないんだがな。シエルに顔を見られてるはずだ」
「いや、彼女はあなたの素顔見えてないわよ。私が幻術かけておいたから」
「幻術?」
「あなたの仮面が壊れた後も、仮面があるように幻を見せてたのよ」
「そんなこともできるのか。ただ、戦ってる間に見てたなら助けて欲しかったな」
俺の体はかなりボロボロだ。あの威力の攻撃を至近距離で受ければ当然ではある。五体満足なだけマシか。
「下手に突っ込んで巻き込まれたくなかったから。私だってあなたたちの戦いに混ざれば無傷じゃすまない。それに、治療はしておいたわ。もちろん、全身丸裸にして見させてもらったから」
クラリスがニヤニヤしながら見てくる。すごい口角の上がり方だ。普通に恥ずかしいんだが。わざわざ言わないでほしかった。
「なーにが『もちろん』だ。まあいい。治してくれたのは感謝してる」
「どういたしまして。さて、あなたにも明日からは手伝ってもらうわ。だから今日はもう休みなさい。この部屋は自由にどうぞ」
「ああ、助かるよ」
「あとコレ。そばに落ちていたマギアよ」
クラリスがヴェルザを手渡してくる。よかった。一日にしてマギアを二つとも失うところだった。
「ありがとう。無事っぽいな」
「じゃあ、おやすみなさい。アッシュ」
「おやすみ」
クラリスが部屋から出ていき、俺は布団に戻るが、なかなか寝付けなかった。
一方、アヴァリティアス王国首都、キャンドにあるアヴァリティアス騎士団本局にて。
ある一室に、騎士団最高戦力である『六天』が集結していた。今後の『ACE』対策を話し合い、全部隊に共有するためである。
会議を取り仕切るのは騎士団本局局長 コール・ポーター。二十年前のバーンモルトとの戦闘で指揮を執り、勝利に導いた人物の一人である。
「全員揃ったな。始めるぞ、『六天会議』を」