コールが話し合う内容について『六天』全員に説明する。
「全員分かってると思うが、今回は『ACE』の対策についてだ。二十年前にこの国を壊滅させかけた組織だ。ここ最近、ゼリアとダインでテロを起こして甚大な被害が出た。詳細は鎮圧に当たった奴の口から聞きたい。シエル・リュミエール!」
「はい。『ACE』の行動について、解析結果を伝えておきます。奴らはまずゼリアで巨大魔獣を放っています。ですが、この魔獣はいつの間にか消滅。その後ゼリアドームで養成学校の特別講義中に襲撃、魔獣を放ちますがこの個体は討伐しています。その一週間後、今度はダインの『導脈』研究施設を襲撃。都市部に大規模な被害が出ました」
ひとしきり話したシエルに代わり、ディクトが続ける。
「対処にあたったのは三番隊と四番隊。『ACE』は全員撃退できたが建造物に大きな被害ってところですよ」
「分かった、二人とも。そしてあの宣戦布告の動画に繋がる、と。各地にある『導脈』研究施設の防衛力強化は当然として、どこに戦力を置くか決めたい。考えはあるか?」
コールの質問に、金髪の青年が答える。
彼はアヴァリティアス騎士団第二部隊隊長 マティク・ワイルズ。
「やはりクレール王国との国境、南部の端にもっと戦力を割いた方が良い。『ACE』はそちら側から来ているはずだろう?」
アヴァリティアス王国の西には海があり、北と東を同盟国であるポテンティア、南側にクレール王国が面している。
「恐らくは、そうであろうな。しかし、ゼリアでは見なかった奴がダインには現れたと聞いておる。確実にアヴァリティアス南端から来ているとは限らないんじゃないかね?」
マティクの発言に反応したのは白髪、白い髭の老人。五番隊隊長 ジーデン・スパーダム。齢260にして、騎士団最高齢の人物である。
「その可能性はありますが、どうやって……?」
マティクが疑問を口にするが、
「移動系、もしくは空間系の波導術ならできるんじゃなーい? そもそも国境渡れないでしょー。移動系使ってないと」
答えたのは六番隊隊長 レレア・クライン。薄紫色の髪の少女である。
「そうなるとかなりの使い手でしょうね。なかなか手強そうです」
「ただ、どのみち南部に配置するほかないんじゃないかな? 『ACE』が出現する場所は読めないんだからさ」
シエルが言い、ディクトが続けた。すると、
「オレも同感だ。情報のネットワークを強化したうえで、南部に戦力を追加しておくべきだろう」
そう話すのは一番隊隊長 アルス・エルバート。アヴァリティアス騎士団最強と謳われる人物である。
「そうするしかないな。南部の戦力増強と部隊間の情報通信の強化を進めることにしよう。あと他には……」
コールがまとめ、会議は続いていく……。
「ふぁあ、今何時だ?」
ベッドから降りて時計を見る。午前六時。十時間くらい寝たな。とりあえず起きるか。
扉を開けて部屋を出ると、身支度を終えたクラリスが通りかかった。
「おはよう。意外と早く起きたわね」
「おはよう。まあ早く寝たからな。朝食の準備か? 俺も手伝おう」
「それは助かるわ」
すぐに洗面台で顔と手を洗い、キッチンへ向かう。部屋の位置は昨日教えてもらっていた。
バターを溶かしたフライパンに卵と牛乳を混ぜて流し込む。箸で混ぜながらトロトロになるまでさっと火を通して皿に盛り付ける。ケチャップを掛けてスクランブルエッグの完成だ。
クラリスが少し凝ったサラダを用意している間にパンをトースターで焼き、朝食が出来上がった。
「「いただきます」」
うん、美味しい。良い出来だ。
「そういえば、誰かとご飯食べるの久しぶりだな」
「悪くない気分でしょう? 食後はコーヒーでも用意しようかしら。」
「俺がやるよ。豆ある?」
と言って自分の腕を叩くポーズをとってみる。
「市販の焙煎後のものならあるわ。自信あるみたいね? 任せるわ」
朝ご飯を食べ終えたあと、ポットやミルなどの淹れるための道具を出して、豆を砕く。クラリスは俺の様子をじっと見つめ、
「誰かに教えてもらったの? それとも独学?」
「昔の師匠に習った。旧『六天』クロス・ライター。俺を騎士団に入れてくれた人だ。コーヒーが好きでな、よく淹れてくれたよ」
「そう。いい人だったのね。楽しそうに話すんだもの」
「ああ、あの人のおかげで俺は強くなれた。他人を救えるように、大切なものを守れるようになれたんだ。だってのに……今は、あの世で合わせる顔がないな。それでも、胸張って生きないとな」
フィルターの上、蒸らしたコーヒーの粉にお湯を注いでいく。のの字を描くように注ぎ、部屋中に香りが広がる。
「できた、どうぞ」
「ありがと。んん! 美味しいわね」
クラリスが目を見開く。飲んだことない味って顔だな。よし。
「それはどうも。まあなんだかんだ五十年近くやってるとな。上手くなるもんだ」
何気ない会話をして過ごした後、片付けを終えると、
「さて、バーン、仕事よ。私たちの目的は『ACE』の殲滅。そのための情報収集や戦闘準備が平時の活動。『ACE』のテロがあった場合には、現場に向かって住民の保護と被害の縮小のための活動。あとは、役職についてる捕虜が手に入れば最高ね」
「じゃあとりあえずは情報収集か? それとも訓練?」
「今日はゼリアの端の廃工場に向かうわ。今なら騎士団の調査が止まってる。今、騎士団員たちは各部隊の基地に緊急召集されているらしいわ。勝手に入るのは犯罪だけど、ま、必要なことね。私たちは別に清廉潔白な組織ではないから」
そもそも俺を取り入った時点で大罪だろう。今さら不法侵入くらいどうってことないに決まっている。
「準備できたら呼ぶわ。はいコレ。あなたの仮面。目的地に着いたらつけなさい」
「ありがたく受け取っておくよ」
支度を済ませ、二十分後に出発した。
「へぇー。こんなところだったのね。『ACE』のアジトの一つ」
「前に来たことがある。監禁と拷問にあってな。結構キツかった」
「そういうことは早く言いなさい。無理してないでしょうね」
「ああ、問題ない。乗り越えたことだ。これからのために必要な調査だろ? さっさと行こうぜ」
一応、貰った仮面をつけて廃工場の裏へ向かう。確か俺が脱出ように空けた穴があるはずだ。
「お、残ってる」
「この穴から入れそうね。よいしょっと」
「ふーん、結構ボロボロね。何ヵ所も穴が空いてるし」
焦りに焦り、迷いに迷って俺がぶち抜いた穴だとは言えなかった。
「何か、秘密の部屋とか知ってるかしら?」
「一つだけある」
そう答えて魔獣核のあった場所に案内する。ちなみにちょっと迷った。
廊下の突き当たりの隠し扉を開き、中に入る。
「いろいろあるわね。役に立ちそうなもの、手がかりになりそうなものは全部回収してくれる? いらなかったら後で捨てるわ」
クラリスに言われ、とりあえず珍しげなものを袋に入れていく。これじゃただの空き巣では? とも思ったが、
「コレは……」
クラリスが手に持っているものを覗いてみる。紙だ。人の体を前と後ろから描いた図だ。背中には石のようなものが描かれている。
「人体実験の記録か」
俺は
「コピーと写真をとって持ち帰りましょう。私が保管しておくわ」
そう言ったクラリスは、少し悲しげな、悔しそうな顔を浮かべていた。クラリスもこの記録について知っているのだろうか。
調査を続けること三時間。
「このくらいにしておきましょう。十分調べられたから」
部屋の出入り口辺りからクラリスの声が響く。
「分かった。今行くから、ちょっと待ってくれ」
部屋の奥から出ようとしたそのとき、よろけて手が何かのボタンに触れた。カチッという間の抜けた音。ゴゴゴ、と轟く音。まずいな。やらかした。
「ちょっと!? 大丈夫、バーン!?」
「ああ、大丈夫だ!」
部屋の奥の壁が開き、無機質な廊下が現れる。すると、クラリスが近寄ってきて、
「最後に、ここだけ調べておきましょ」
と言って進んでいく。一応扉に突っ張り棒をしてから後ろをついていく。廊下の突き当たりにあった階段を下ると、その先にあったのは――
謎の液体に浸かった、人にも魔獣にも見えるナニカだった。