灰の触手が空を切った後、消えたアンとザイルが突然現れた。
タネは分かる。ザイルの波導術でアンがいた位置周辺をこの空間から隔絶したのだろう。ひたすら厄介だ。どれだけ狙っても反応されれば当たらないのだから。
それに対し、二人は突然現れては糸を振り回して俺を狙ってくる。俺が反撃に出ようとすればまた消えて……。この繰り返しだ。
埒が明かない。防戦一方では確実に敗北する。
ならば、やってみる価値はある。シエルと戦ったとき、何故か昔の炎を出すことができた。今は全く使える感触がないが、温度の上昇くらいならできるかもしれない!
「"
ドロドロに溶け、スラグ状になった灰が翼のように広がる。灰の翼の温度は千度を超え、赤く光っている。
「なんのっ!!」
アンが伸ばした糸を振り回し俺を切ろうとしてくるが、溶けた灰の翼で阻む。
そしてそのまま、糸を伝わせて溶けた灰をアンの手に飛ばす。
「アッツぅぅ!! ふんっ!」
慌てて糸を外すアン。その隙をついて接近するが、
「甘いですよ」
ザイルが自身とアンを隔離する。空間から二人が消え、声も聞こえなくなる。
俺はその場から動かない。溶けた灰を広げ、二人が居た場所を覆ったまま。
終わりだ。俺の予想通りなら、アンとザイルは
「勝負あったわね、コレは。アッシュ、その灰、どかしてあげて?」
「ああ」
溶けた灰を灰溜まりにしまうと、二人が目の前に出てきた。
「今のはやられましたね」
「実戦だったら恐ろしい死に方してるッスよ、マジで。波導で熱に耐えようとしても貫かれ、衝撃に耐えようとしたら熱々の灰で潰されるッス」
「なかなか苦戦したよ。ちなみにザイル、お前の空間、動かせないんだろう?」
「その通りですよ。だから、周りを塞がれたら負けるんです。一番の弱点ですね。外側みたいに広く隔絶できる場合は大丈夫なんですがね」
詳しく聞くと、"
「アン、指は大丈夫か? 俺の灰で火傷とか」
「大丈夫ッスよ~。ほんのちょっとなんで」
一応すぐに冷やして軟膏は塗っておいた。悪化しては困る。
その後、少し休憩をとっていると、
「もしもし、クラリスよ」
クラリスが無線を手にして誰かと話している。俺のそばに寄ってきたザイルが小さな声で、
「この空間、特別な通信を通すようにできてまして。あれはスヴェラトールの仲間からの連絡ですね」
と、耳打ちしてくる。すると、クラリスが少し焦った様子で、
「みんな、すぐに出発の準備。ゼリア西部の市街地と北部の騎士団の施設が『ACE』に襲撃されたそうよ」
「え? 市街地と騎士団の施設ッスか? 『導脈』研究施設じゃなくて?」
「ええ。騎士団と周辺住民に被害が出てる。アンとザイルは北部に向かって。私とアッシュが西部に行くわ」
「分かりました。御武運を」
ザイルが波導術を解除し、すぐに拠点へ戻り支度を済ませる。
「アッシュ、乗りなさい」
クラリスが言うや否や竜へ姿を変え、翼を広げる。その背に跨がると、すぐに空へ飛び上がった。
拠点の方を見ると、アンとザイルが浮いている。不思議に思っていると、クラリスが見透かしたように答えた。
「アンの波導術よ。空を飛べるの」
糸が波導術かと思っていたが、違ったのか。ならばあの糸はマギアか?
などと考えていると、クラリスが竜の翼を羽ばたかせる。
「このまま飛んで行くわ。手を離さないでね」
加速するクラリス。何分間か飛んだ後、騎士団と『ACE』の部隊が衝突しているのが見えてきた。
「あそこか。昨日見つけた『地図』の印がこの辺りにあったな」
もともとこの場所を襲撃する予定だったのだろうか。
クラリスが竜化を解除してビルの上に着地すると、再度無線に連絡が入った。
『君たちがいる辺りには騎士団六番隊が来ている。アンとザイルの方には四番隊だ。まずは住民の安全確保からだ。アッシュ、だっけ? 期待しているよ』
とだけ言って音声が切れた。
「何者なんだ?」
「スヴェラトールの優秀な指揮官、とでも言うべきかしら。リーダーは私なのだけれど、仲間への指示は彼が出すのよ。 さて、イケる? バーン」
「ああ、問題ない。"灰外殻"」
ビルの上を蹴って戦場の上に飛び出す。交戦する騎士たちと黒ローブの『ACE』構成員。その周りには多くの避難者。周辺で最大の駅のそばであるため、かなり人が多い。
巻き込まないように『ACE』の構成員に接近し、一人一人倒していく。黒ローブの一人の首を掴む。後ろから斬りかかるもう一人を蹴り上げ掴んだ男を叩きつける。
伸びている二人を捨て置き、次の標的に移ろうとしたそのとき、
「『灰貌』!!」
騎士団の一人が俺に剣を構えている。今にも飛び掛かってきそうな形相だ。戦闘を避けるために
「お前たちと争うつもりはない。俺の目的は『ACE』を潰すことだ」
と言うが、
「信用できるか!」
と一蹴される。確かに俺が相手の立場だったなら同じことを言うはずだ。
仕方ない、騎士団から逃げ回りながら『ACE』を倒すしかないか、と考えていると、
「いいんじゃなーい。信用してあげても。今は人手が欲しいしねー」
現れたのは薄紫色の髪の少女。気だるげそうな顔をしているが、その立ち姿には一分の隙もない。
「はじめましてー。アタシはレレア・クライン。こんなだけど『六天』で、みんなの上の立場の人間だからさ……、
騎士団に何かしようってんなら、潰すよ。『灰貌』」
俺を睨みつけながら凄むレレア。ただ、向こうも積極的に俺を倒したいようではないみたいだ。
「お前たちに危害を加えるつもりはない。三番隊の件も、悪かった。謝って済む話じゃないのは承知してる」
なんとか丸く収まることを願いながら謝罪と意志を述べてみる。すると、レレアは元の気だるげな表情に戻り、少し口角が上がった。
「まーいいけどねー。アタシはシエルと違ってお堅くないの。とりあえず、手貸してよ。そしたら今日は見逃したげる」
レレアの提案を聞いて、クラリスの方を見ると、彼女は黒ローブを踏みつけながら両腕で円を作っている。俺とレレアの会話は、無線でクラリスにも聞こえている。提案に乗るようだ。
「分かった、協力しよう。俺たちの目的にこの場を収めることも含まれているからな」
「オッケー。ものわかりのいいコは好きだよー、アタシ。じゃ、ある程度片付けとくけど、ここら辺なんとかしたら駅前に来て。そろそろ『ACE』の本隊とぶつかるから」
そう言って去っていくレレア。その道中で何人かの黒ローブが吹っ飛んでいった。
ひとまず周りの黒ローブを制圧し、クラリスと合流する。騎士団員も『ACE』を相手にし、俺を攻撃することはなかった。
「駅前の方がまずいらしい。向かうか?」
「罠……ではなさそうね。行きましょう。騎士団に対する良いアピールにもなるわ」
クラリスとともに駅前に向かう。通りを抜けて駅前の広場に出ると、
そこは緑に溢れたジャングルのようになっていた。