同時刻、駅前。先ほど衝撃波で吹き飛んだ男が立ち上がる。緑と黒が混ざった髪。蔦に覆われた腕。ジャングルを作り上げた張本人である。
「特徴的なその髪と腕、セルーバ・アマズで合ってるー? 二十年前も会ったねー。このジャングル、邪魔だからさっさと消してくれるー?」
レレアが男に話しかける。クラリスは"真実の瞳"で確かめていた。すると、男が口を開く。
「本当に、嘆かわしいなお前たちは。これこそが星のあるべき姿だというのに……」
「意味が分からないわね。人の『あるべき姿』を滅茶苦茶にする『ACE』の一員のくせに」
「理解できないならばそれで構わん。ただ、駆除するのみ!」
セルーバの背後から大量の植物が伸びる。巨大な蔦がうねり、二人を貫かんとしている。
避けるクラリス。さらにクラリスへ植物が伸びるが、竜化により生じた鱗に弾かれる。
レレアへ伸びた植物はいつの間にか破壊されており、レレアがセルーバに衝撃波を放つ。セルーバの足下から伸びた植物が彼を持ち上げ、上空へ打ち出す。
ビルの上に立ったセルーバが祈るように両腕を広げた。
直後、駅前に蔓延る巨大植物全てが成長し、街を破壊していく。三十メートルなど優に超える植物がその茎、その幹をもってクラリスとレレアを潰しにかかる。
セルーバが操る植物は彼の波導を纏っているため簡単には折れず、また、
クラリスは翼を羽ばたかせて上空へ逃げる。追い掛けて伸びる植物を旋回して避ける。
一方、地上では
「何もかもボロボロ。ホント、ヒドいコトするねー」
余裕を顔に浮かべているレレア。彼女に触れた植物は一つ残らず破裂していた。飛び散る残骸。茶色く萎びた草木が山のように積み重なっている。
「目的のためなら非道で構わない。それはお前たちも同じだろう?」
「どうだろうねー? アタシは同じだけどさ。やっぱ『騎士』だから、道を踏み外したくないってコもいるんだよねー」
ため息を吐くレレア。その脳裏には、真っ直ぐ過ぎる雷使いが浮かんでいた。
「アタシが相手でよかったよ。シエルだとキツかったかなー? ……一応聞いとく。コレ、どうやってくっついてるワケ?」
レレアが植物を指差す。切れ目の入った茎からは赤い液体が滴りながらも、徐々に再生している。
クラリスは一目見て気づいていた。植物の異常な成長速度。波導を使っていたとしても、一人の波導術で可能な範疇ではなかった。
「捕まえた人間の生命力を奪っている。弱肉強食が世の常だ。何が悪いんだ?
それに、お前たちが傷つければ傷つけるほど、
ニヤリと笑うセルーバ。
「クズが。確実に殺す」
レレアの顔が歪む。波導の奔流が彼女の周りを巡る。
植物の残骸を吹き飛ばして蹴り出すレレア。セルーバが盾のように植物を伸ばす。
「クソッ! 性格ワッル!!」
レレアが盾と接触する直前で上に飛ぶ。その先では先端が尖った植物が何十本も待ち構えていた。そのうちの一本を掴み、体を捻る。鋭利な植物の集団を飛び越え、もう一度接近を試みようとするも、足が止まる。
「いいのか? 派手にやると人が次々死んでいくぞ。お前が殺すんだ」
草木でできた鎧がセルーバを覆っていた。その末端は他の植物と繋がっており、栄養補給を欠かすことはない。
「動きをサポートする鎧だ。時間をかければ肥料はどうなるか。この鎧を壊せば死ぬ人間は最小だ。無論、できるならば、だが」
高速で動くセルーバ。レレアの移動速度ではとても追い付けない。さらに、地面から生えた植物が彼女の邪魔をする。動きを制限し、視界を遮る。
いつの間にか背後に回っていたセルーバがレレアを殴る。波導術を使うわけにもいかず、弾き飛ばされる。
レレアの波導術は『"
彼女は、自身の波導をエネルギーとして外界へ放出、もしくは外界のエネルギーを自身の波導として吸収する。
鎧に触れたまま波導術で吸収しようものなら、捕まっている人たちのエネルギーを吸い過ぎて殺してしまう。
また、波導の放出で鎧が傷ついても同じことになるだろう。
そう考えた彼女は、波導術抜きでの防御を強いられた。
吹き飛んだレレアにセルーバが近づく。迷いを捨て切れなかった彼女を見下しながら、
「ヒトという生物には、情がありすぎる。要らぬ情に流され、力あるものが死ぬ。これは生物の在り方ではない。『ACE』の目指す生命の形ではない! ゆえに、滅びろ。そして生まれ変われば良い」
セルーバが植物でできた大剣を構える。首を飛ばすには十分な重さだ。
剣が振り下ろされる。刃が地面に触れた。
しかし、レレアの首は切れていない。
「なぜだ!?」
大剣が折れている。青々とした緑の剣はその色を失い、茶色く枯れていた。
同時に、鎧も枯れていく。蔦がほどけ、バラバラになっていく。
「な、何が……」
突然の事態に混乱するセルーバ。気づくと、彼の視界には灰色の髪の男がいた。
「植物に繋がってた人たちなら逃がしたぜ。もう、お前が吸える栄養は残ってねえ」
数分前、駅での戦闘の際に気になるものを見つけた。バルトを叩き落とした地下に植物の根が張っていたのだ。駅の内部にも植物は生えていたが、コンクリートに囲われた内側に藪があるのはおかしい。
そう考えて根に沿って歩いていくと、根の先には気を失っている人たちがいた。騎士団を呼んで根を切除し、駅の外へ人々を運び出した。
そして、今に至る。
「いった~~い。いやホントに。結構痛い。骨折れてるかも」
などと言いつつレレアが起き上がると、上空からクラリスが降りてきた。
「これであなたも終わりね、植物男」
「まだだっ!! 目的を、果たすまではっ!!」
波導を振り絞る男。蔦が側のビルを揺らし、俺たちに倒れてくる。なんとか回避したが、男から離れてしまった
地面から生えた木が男を覆いながら伸びる。
「逃げるつもりー? させないよ」
レレアが右手を構える。波導が集中し、空間が歪む。
打ち出される凄まじいエネルギー。数多の植物を薙ぎ倒し、男を覆う大木が弾け飛ぶ。
空中に投げ出された男に灰の槍を投げる。
しかし、槍は何も貫くことなく地面に落ちた。
男が避けたのではない。植物が弾いたわけでもない。
槍の軌道が、曲がった。
突然現れた壮年の男。こいつが槍を曲げたのだ。
「ほう、これは。随分と懐かしい顔ぶれだ。いや、顔は仮面で隠れて見えないが」
聞き覚えのある声だ。二十年前、いや、それ以前に聞いた声――
「お前はっ!!」
思わず声を張り上げる。俺の人生の転換点。全てを失うに至るまでの最初の一歩。そして何より、俺の師を殺した男。
「まさか生きていたとはな……。再会の喜びを分かち合いたいところだが、私にも仕事がある。また会おう。その炎が消えていないことを願っているぞ」
植物男を抱え、信じられない脚力でビルの上を飛び去っていく。とても追いつける速さではない。
呆然とするクラリスとレレアの横で、俺は拳を握りしめた。
そして、息つく暇もなく、警報が響き渡る――