「よし、ちゃんとついてこいよ」
校門をくぐると同時に訓練開始の笛が鳴った。生徒たちが側の通りを駆け抜けていく。
俺も班員たちとともに走る。目的地の施設から少し離れた場所にたどり着いたとき、先頭を走っていた生徒たちが立ち止まり始めた。避難誘導を開始したのだ。
今回の訓練では、俺たち生徒のほかに、『市民役』と『ACE役』、そして『騎士役』の教員や騎士団員がいる。『市民役』を上手く誘導し、『ACE役』相手に『騎士役』とともに時間を稼ぐための戦闘をおこなうこともある。
先頭辺りに『市民役』がいるようだ。生徒たちが誘導していくなか、シャイトスは、
「この辺は他の班に任せておこう。反対側に回るぞ」
班員についていくこと二分ほど、腕に『市民役・脚にケガ』と書かれたバンドを着けた女性がいた。一人では歩けない市民の役だ。
シャイトスが後続の班に連絡をとり、誘導するよう指示する。俺たちの班はそのまま進むようだ。
一分ほど経って施設の側まで着くと、『負傷した市民役』が数人、そして『騎士役』と『ACE役』が交戦していた。
「全員用意はいいな? まずは市民を戦場から引き離す」
シャイトスが言うと、
「りょーかい!」
ビシッとライファが敬礼する。
全員が散る。市民に肩を貸したり、背負ったりしながら安全な場所まで移動させる。後続の班とも協力しながら、上手く避難させられた。
しかし、建物の上から突如駆け降りてくる『ACE役』。
『学園最弱』で通っている以上、派手に波導を使う訳にもいかずどうしようか迷ってしまった。
「うっ!」
判断が遅れ、ギリギリで回避して距離をとる。
「よっと」
シャイトスが『ACE役』に近づく。波導術を発動させると、『ACE役』は地面に叩きつけられた。
「大丈夫だな? アッシュ」
「ナイス。流石ね、シャイトス」
パチパチと手を叩くユーム。
側にいたもう一つの班の人たちも近寄ってきた。
「おし、ケガはなさそうだな!」
ハートが俺の体を確認する。
「ああ、シャイトスのおかげだ」
そして、訓練終了を知らせる笛が鳴った。ぞろぞろと学校へ戻る生徒たちについていく。
昼休みの時間になり、生徒たちは思い思いの過ごし方をする。
俺はシャイトスの誘いで、昼ごはんを一緒に食べることになった。
指定された中庭のベンチに弁当を持って向かうと、六人が集まっていた。
「よし、来たな。ここ座っていいぜ」
シャイトスの隣、ベンチの端に座る。四人掛けのベンチが向かい合っており、正面にはブランが座っている。若干ついていけないながらも、みんなと話をしながら準備する。
「ワリぃワリぃ。遅くなった」
ハートが遅れてやって来て向かいの反対端に座る。
「よーし、みんなオーケーね」
「「いただきます!」」
みんな昼ごはんを食べながらあれやこれや話している。俺はついていけないながらも、なんとか話す内容を考える。秘密を抱え過ぎているため、ボロが出ないように気をつけるとどうしても言葉が詰まる。
三十分ほど経ち、そろそろ教室に戻ろうということで解散になった。
午後は普段通りの訓練。
帰ってからは拠点でクラリス、アン、ザイルとの訓練などをおこなって過ごす。
そんな毎日を続け、平和に一週間が過ぎた頃。
時間に余裕を持って学校に到着し、自分の下駄箱に手を伸ばした、そのとき。
「いつまで彼を抱えておくんだ? 足手まといにしかならないだろう」
最近よく聞く声であるため、すぐに分かった。ブランだ。
「彼? あー、アッシュのことか。命令通り動くのはいいんだけど。トロいし弱いし、つまんないんだよな。渋々付き合っちゃいるけど。あの時先生の頼み断っときゃよかった」
シャイトスの声だ。
「そうだよねー。なんか、訓練とかもあんまりやる気ないのかなって。全っ然本気を感じないの。なのに弱いって、なんなんだろうね。しかも話はツマンナイし反応薄いし!」
続くライファの声。
「よくそれで一週間耐えたね。オレが同じ班だったらどうなってたか」
再び、ブランの声が聞こえた。
そう、思われていたのか。
なんとなく分かっていたはずだ、と納得する自分がいる。彼らにしてみれば俺は問題だらけの生徒。当然ストレスも溜まるだろう。
気づかれないようにその場を後にする。
これまでに何度も罵倒を浴びせられてきた。この学校に来てからじゃない。
『裏切りの英雄』と呼ばれ、アルスに負けた後、俺は身を潜めて生きてきた。それから二十年、テレビでも、新聞でも、ネットでも俺はアヴァリティアスの負の象徴だった。いつだって、どこにだって汚い言葉が転がっていた。
「聞きたく、なかったな」
それだけだ。誰かを好きになることも、嫌いになることも、人として当然なのだから。
朝礼が終わり、シャイトスたちと集合する。訓練がある以上顔を合わせるのは仕方ないことだ、と自分に言い聞かせる。
「よし、今日も来たな」
「じゃあ、行こっか!」
シャイトスとライファが言う。
言葉が素直に聞こえない。足が止まる。声を振り絞る。
「あのさ」
「ん? どうした?」
シャイトスが俺を見ている。何を考えているのか分からない。俺は何を言えばいいのかも分からない。だから、
「……やっぱなんでもない。悪いな。気にしないでくれ」
何も言えなかった。ただ、みんなの後ろをついて歩く。すると、ハートが近寄ってきた。
「アッシュ、さっきなんて言おうとしたんだよ? みんなには言わなくてもいいから、俺が聞くぜ」
ハートが小声で言う。正直、複雑な気分だ。ハートは俺のことをどう思ってるんだろうか。わざわざ聞きに来るあたり、悪くは思っていないのだろうか。
「いや、なんでもないんだ。いいヤツだな、ハートは」
「ハハッ、照れるな。ま、話したくなったらいつでも言えよ」
「ハート。今日の動きの確認するぞー」
ブランがハートを呼ぶ。
「今行くぜー」
ハートは小走りで行ってしまった。
難しいな、人間関係って。本当のことを、自分の秘密を話せたなら、もっと仲良くなれたのだろうか。
いつの間にか校門まで来ていた。訓練が始まる。
この後に起きることを、ここにいるただ一人だけが知っていた。