ゲインアゲイン   作:十割二八

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第二十四話 心

「よし、ちゃんとついてこいよ」

 

 校門をくぐると同時に訓練開始の笛が鳴った。生徒たちが側の通りを駆け抜けていく。

 俺も班員たちとともに走る。目的地の施設から少し離れた場所にたどり着いたとき、先頭を走っていた生徒たちが立ち止まり始めた。避難誘導を開始したのだ。

 

 今回の訓練では、俺たち生徒のほかに、『市民役』と『ACE役』、そして『騎士役』の教員や騎士団員がいる。『市民役』を上手く誘導し、『ACE役』相手に『騎士役』とともに時間を稼ぐための戦闘をおこなうこともある。

 

 先頭辺りに『市民役』がいるようだ。生徒たちが誘導していくなか、シャイトスは、

 

「この辺は他の班に任せておこう。反対側に回るぞ」

 

 

 

 班員についていくこと二分ほど、腕に『市民役・脚にケガ』と書かれたバンドを着けた女性がいた。一人では歩けない市民の役だ。

 シャイトスが後続の班に連絡をとり、誘導するよう指示する。俺たちの班はそのまま進むようだ。

 

 

 

 一分ほど経って施設の側まで着くと、『負傷した市民役』が数人、そして『騎士役』と『ACE役』が交戦していた。

 

「全員用意はいいな? まずは市民を戦場から引き離す」

 

 シャイトスが言うと、

 

「りょーかい!」

 

 ビシッとライファが敬礼する。

 全員が散る。市民に肩を貸したり、背負ったりしながら安全な場所まで移動させる。後続の班とも協力しながら、上手く避難させられた。

 

 

 

 しかし、建物の上から突如駆け降りてくる『ACE役』。

『学園最弱』で通っている以上、派手に波導を使う訳にもいかずどうしようか迷ってしまった。

 

「うっ!」

 

 判断が遅れ、ギリギリで回避して距離をとる。

 

「よっと」

 

 シャイトスが『ACE役』に近づく。波導術を発動させると、『ACE役』は地面に叩きつけられた。

 

「大丈夫だな? アッシュ」

 

「ナイス。流石ね、シャイトス」

 

 パチパチと手を叩くユーム。

 側にいたもう一つの班の人たちも近寄ってきた。

 

「おし、ケガはなさそうだな!」

 

 ハートが俺の体を確認する。

 

「ああ、シャイトスのおかげだ」

 

 

 

 そして、訓練終了を知らせる笛が鳴った。ぞろぞろと学校へ戻る生徒たちについていく。

 昼休みの時間になり、生徒たちは思い思いの過ごし方をする。

 俺はシャイトスの誘いで、昼ごはんを一緒に食べることになった。

 指定された中庭のベンチに弁当を持って向かうと、六人が集まっていた。

 

「よし、来たな。ここ座っていいぜ」

 

 シャイトスの隣、ベンチの端に座る。四人掛けのベンチが向かい合っており、正面にはブランが座っている。若干ついていけないながらも、みんなと話をしながら準備する。

 

「ワリぃワリぃ。遅くなった」

 

 ハートが遅れてやって来て向かいの反対端に座る。

 

「よーし、みんなオーケーね」

 

「「いただきます!」」

 

 みんな昼ごはんを食べながらあれやこれや話している。俺はついていけないながらも、なんとか話す内容を考える。秘密を抱え過ぎているため、ボロが出ないように気をつけるとどうしても言葉が詰まる。

 三十分ほど経ち、そろそろ教室に戻ろうということで解散になった。

 

 

 

 午後は普段通りの訓練。

 帰ってからは拠点でクラリス、アン、ザイルとの訓練などをおこなって過ごす。

 そんな毎日を続け、平和に一週間が過ぎた頃。

 

 

 

 時間に余裕を持って学校に到着し、自分の下駄箱に手を伸ばした、そのとき。

 

「いつまで彼を抱えておくんだ? 足手まといにしかならないだろう」

 

 最近よく聞く声であるため、すぐに分かった。ブランだ。

 

「彼? あー、アッシュのことか。命令通り動くのはいいんだけど。トロいし弱いし、つまんないんだよな。渋々付き合っちゃいるけど。あの時先生の頼み断っときゃよかった」

 

 シャイトスの声だ。

 

「そうだよねー。なんか、訓練とかもあんまりやる気ないのかなって。全っ然本気を感じないの。なのに弱いって、なんなんだろうね。しかも話はツマンナイし反応薄いし!」

 

 続くライファの声。

 

「よくそれで一週間耐えたね。オレが同じ班だったらどうなってたか」

 

 再び、ブランの声が聞こえた。

 

 

 

 そう、思われていたのか。

 なんとなく分かっていたはずだ、と納得する自分がいる。彼らにしてみれば俺は問題だらけの生徒。当然ストレスも溜まるだろう。

 気づかれないようにその場を後にする。

 これまでに何度も罵倒を浴びせられてきた。この学校に来てからじゃない。

『裏切りの英雄』と呼ばれ、アルスに負けた後、俺は身を潜めて生きてきた。それから二十年、テレビでも、新聞でも、ネットでも俺はアヴァリティアスの負の象徴だった。いつだって、どこにだって汚い言葉が転がっていた。

 

「聞きたく、なかったな」

 

 それだけだ。誰かを好きになることも、嫌いになることも、人として当然なのだから。

 

 

 

 朝礼が終わり、シャイトスたちと集合する。訓練がある以上顔を合わせるのは仕方ないことだ、と自分に言い聞かせる。

 

「よし、今日も来たな」

 

「じゃあ、行こっか!」

 

 シャイトスとライファが言う。

 

 言葉が素直に聞こえない。足が止まる。声を振り絞る。

 

「あのさ」

 

「ん? どうした?」

 

 シャイトスが俺を見ている。何を考えているのか分からない。俺は何を言えばいいのかも分からない。だから、

 

「……やっぱなんでもない。悪いな。気にしないでくれ」

 

 何も言えなかった。ただ、みんなの後ろをついて歩く。すると、ハートが近寄ってきた。

 

「アッシュ、さっきなんて言おうとしたんだよ? みんなには言わなくてもいいから、俺が聞くぜ」

 

 ハートが小声で言う。正直、複雑な気分だ。ハートは俺のことをどう思ってるんだろうか。わざわざ聞きに来るあたり、悪くは思っていないのだろうか。

 

「いや、なんでもないんだ。いいヤツだな、ハートは」

 

「ハハッ、照れるな。ま、話したくなったらいつでも言えよ」

 

 

「ハート。今日の動きの確認するぞー」

 

 ブランがハートを呼ぶ。

 

「今行くぜー」

 

 ハートは小走りで行ってしまった。

 難しいな、人間関係って。本当のことを、自分の秘密を話せたなら、もっと仲良くなれたのだろうか。

 

 いつの間にか校門まで来ていた。訓練が始まる。

 この後に起きることを、ここにいるただ一人だけが知っていた。

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