今回の緊急時訓練では学校の西側で活動するため、校門を抜けて反対側に出る。
道中で生徒たちが『市民役』の誘導をこなすなか、俺たちの班は西にある騎士団の施設へ向かっていた。
途中、道路の脇に人影が見えた。腕に『市民役・右足負傷』のバンドを着けた女性だ。
「アッシュ、後ろの班まで運んでくれるか? 俺たちは周辺を探しておく」
「分かった」
そう返答し、『市民役』に肩を貸す。
少し歩いて、後続の別のクラスの班を見つけた。
「ん?」
見覚えのある顔と髪。クラリスがいた。その周りには班員と思われる三人の生徒。
「すみませーん!」
腕を振って呼び掛ける。クラリスを含めた四人が近寄ってきた。
「俺は前に戻らないといけないので。この人、頼みます」
「了解です」
クラリスがニマニマしながらこちらを見ている。『市民役』を彼女らに任せ、俺はシャイトスたち班員と合流するため走り出す。
『市民役』を見つけた辺りに戻って来た。
近くにいるはずのシャイトスたちを探していると、ハートらしき後ろ姿を見つけた。
シャイトスたちがいる場所を尋ねようと、足を踏み出したそのとき。
「君の訓練は終わりだよ、アッシュ」
何者かが、俺に突っ込んできた。体を捻って回避するが、追撃を避けきれない。相手の拳を両腕で受け止める。
しかし、足が浮いていたせいで吹っ飛ばされてしまった。
「うおわぁっ!?」
驚くハートの声。俺がハートの真横を飛んでいく。そのままビルに直撃し、壁に穴が空いた。外からハートの声が聞こえる。
「なっ、オマエ……! なにしてんだよ!?
ブラン!!」
「ハートこそ、なんでここにいるんだ? 二本向こうの通りにいてくれって言ったんだけど?」
俺を襲った男、ブランが面倒臭そうに話す。
騒ぎを聞きつけたのか、何人かぶんの足音が聞こえてきた。
「ハート、ブラン。一体何があったんだ?」
シャイトスたちが来たらしい。
「ブ、ブランが、いきなりアッシュを吹っ飛ばしたんだよ! てか、アッシュを助けねえと!」
「えっ!? ブラン君、なんで……」
「本当なのか。ブラン」
「ああ、本当だよ。シャイトス、君もアイツのこと嫌いだろう? 今朝も言ってたじゃないか」
「だからっていきなり吹っ飛ばすなんてことは――」
「いいから手を出すなよ。みんなもさっさと離れた方がいい」
ビルの隙間から近寄ってくるブランが見える。彼の前に、ハートが立ち塞がった。
「おかしいだろ! オマエらがアッシュの悪口言ってたのはまだいい。本人が知ったら、傷つくかもだが。でも、オマエは、『嫌いだから殴る』なんてタイプじゃねえだろ!!」
ブランが笑いながら答える。
「ふっ、まあね。オレも感情だけで人を殺そうとはしないよ。他にも理由はあるんだ。教えないけど。さっさとどいてくれよ、ハート」
「待て。俺も納得してない。正直、アイツのことは嫌いだし見下してるが。理不尽に殴るのは良くないだろ」
「熱くなるなよ、二人とも。アッシュのことは気にしなくていいじゃないか。ただの厄介者だろ? それに……」
風が、変わった。
嫌な予感がした。
だが、遅すぎた。
「俺はみんなのこと、嫌いじゃないから言ってるんだ。早く逃げないと……
『
けたたましい轟音とサイレンが鳴り響く。
訓練じゃない。『ACE』が仕掛けてきやがった。
「"灰外殻・黒燐"!」
ビルの壁を蹴って飛び出し、黒い灰の触手を伸ばす。突き刺さる直前、ブランは上に飛んで避けた。
すまない、クラリス。
俺が『灰貌』だということがバレる。だが、こいつとの戦闘は避けられない。
「とんだクソ野郎だな、お前。『ACE』の一人が騎士養成学校の生徒とは」
「アッシュ! これゃ、一体?」
目を見開いているハート。シャイトスや班員たちも同じ状態だ。
「ブランはこの国の敵だ。お前らは逃げろ。一秒でも早く!」
我に帰ったシャイトスたちが走り出す。全員が去った後で、ブランが話し掛けてくる。
「アッシュ・グレーン。いや、バーンモルトと言うらしいね。彼から聞いたよ。今の君は、オレより強いのかな?」
「さあな。ただ、お前を殺す気でいく」
懐からヴェルザを取り出し、展開する。
「
ブランも刀の形をしたマギアを展開し、地面を砕きながら突っ込んできた。
ブランの横凪ぎを飛んで避け、落下とともにヴェルザを突き刺す。
後退して避けるブランに灰の触手で追撃するが、上手く刀で捌かれた。
ブランが構える。踏み込んでくるよりも速く、ヴェルザを伸ばして先手を打つ。刀と剣先がぶつかり、高音が響く。
直後、ブランが迫ってきた。体勢が悪かったのか、そこまで速くない。問題なく避けられる。そう思っていたのだが、
ブランが急加速する。その足下は、光っていた。
「うぐっ!」
ヴェルザで刀を受けるが、押し込まれてしまう。鍔迫り合いのなか、ブランの刀が炎を纏った。
威力が増す。俺の足が下がっていく。ビルの外壁に押し付けられ、そして、
「君、随分弱くなったらしいね」
刀が光る。炎が暴れる。
熱が伝わり、空気が膨張する。
ビルの壁を砕きながら俺の体が放り出される。
爆発の直前、全身を黒い灰で覆ったおかげで熱には耐えられた。だが、
「いってぇ……」
全身に爆風を受けてしまい、痺れるような痛みが走る。
「意外と固いんだね。いや、反応できて当然か」
「さっきの攻撃といい、炎と刀の扱いといい、どこでその戦い方を習った?」
ブランの戦い方は、バーンモルト時代の俺のものに酷似していた。それに、『バーンモルトと言うらしいね』という言葉も引っ掛かる。
「なんで俺がバーンモルトだと?」
「ま、答えてあげるよ。君がバーンモルトだと分かったのは特別なことじゃない。君を知る人がいたのと、目の良い人がいたおかげだ。
バキラがバーンモルトと『灰貌』は同一人物だと言い、キュラがアッシュ・グレーンと『灰貌』は同一人物だと言った。それだけ」
バキラ、か。バキラ・オード。植物男を連れて去っていった男。俺の師を殺した男だ。
「戦い方のほうも教えてあげるよ。二十五年前、『ACE』は君を手に入れた。洗脳によってね。それから五年、突如として君はそれに抗った。一人で戦場に走り出し、アヴァリティアス騎士団に討たれ、死亡した。
折角手に入れたものを失くし、『王』はひどく嘆き悲しんだのさ。けれど幸運にも、君の波導神経の構造を調べた結果が残っていた。
そして、オレが選ばれた。『炎』の波導術を持つオレが。体がバラバラになるほどいじくられたよ。
オレは、君のコピーだよ。バーンモルト」
俺の複製。それなら同じ戦い方をするのも頷ける。
「それで、俺を?」
「ああ。君はこの世界に必要ない。オレがいれば十分だろ?」
「お前は、俺にはなれねえよ。俺も――」
「黙れっ!!」
怒りを滲ませたブランが接近してくる。蹴る度に足下が爆発し、刀身は煌々と燃える炎を纏っている。
後退しながらヴェルザで受け止める。少しずつ押されるが、
「"灰外殻・融翼"」
灰のスラグでブランの刀を包む。空気が遮断され、炎が消えた。
「チッ!!」
刀を灰から引き抜くブラン。その隙にヴェルザを振るう。しかし、
「全然だな! バーンモルト!!」
先ほどまでの比ではない炎。ブランを包む爆炎と灼熱の空気の流れがヴェルザを弾く。
ブランが刀を構える。文字通り地面が爆発する。爆風に乗った体が近づく。
切っ先は既に俺を捉えている。
灰で防御しながら体を捻るが、間に合わない。
脇腹から紅の華が咲き、視界が赤く染め上げられた。
ヴェルザを地面につきながら立ち上がる。ブランは既に刀を振り上げているが、まだ間に合う。塊となった灰の触手で刀を受け流す。
刀を上段に構え直すブラン。
俺は足を踏ん張りながらヴェルザを横に構える。
同時に振るわれる剣と刀。交差するその瞬間、
俺の体に、何かが飛んできた。
直撃したものとともに体が転がる。刀は回避できたが、ヴェルザが手から離れた。
体勢を立て直そうとして、飛んできたものの正体に気づいた。
「なっ、おいっ! 大丈夫か!?」
それは、全身に傷を負った、
「クラリス!!」