数分前。ゼリア中心街西端にて。
クラリスは突然鳴り響いた警報を耳にした。
周辺の生徒たちが騒ぎ出す。教員が慌てて連絡を取る。
混乱のなか、クラリスもスヴェラトールの仲間と無線を繋ぐ。
「テルズ、何が起きているの?」
『『ACE』の襲撃だ。同時に、何体か魔獣が出現した。ディクトたち四番隊が向かってる。到着まで持ちこたえられるか?』
「やれるだけのことはやる――」
突如、無線が宙に放り出される。
無線の先に声は届かない。
『クラリス? どうした?』
無線機が落ちた場所から十メートルほど、クラリスは痛みを堪えながら立ち上がる。
「まったく、いきなりやってくれるわね」
視線の先には、『市民役・右足負傷』のバンドをつけた茶髪のロングヘアーの女性。
バンドが外れ、『ACE』のエンブレムが露になる。
「まさか、養成学校に潜入してるなんてね」
茶髪の女が笑う。
「ふふっ。それは違うわ。わたしが来たのは今日、たった数時間前。安心して? バンドの持ち主なら学校で寝てるから。それに、わたしと一緒に来るなら生かしてあげる、クラリス・ヴェリテ」
「『生かす』なんて、実験台としてでしょう? そもそも、あなたたちと生きるのなんてゴメンだわ!」
クラリスが腕を竜化させ、女を爪で貫こうとする。同時に、『反転』させた"
「あら、それは残念」
余裕ありげに、柔らかく笑う茶髪の女性。
クラリスの爪が空を切る。
女性は既に、クラリスの背後にいた。
「わたしたち、
「幻術使いってワケね」
クラリスは思考する。
(どのような幻術をかけられたのか、それが分からなければ攻撃は当たらない。まずは、『見る』)
"真実の瞳"を発動しながらクラリスが飛び出す。茶髪の女はゆっくりと動きながら、
「しっかり見えてる? クラリスちゃん?」
クラリスの瞳は女を捉え続けている。避けられそうな動きではない、受け止めるつもりか、とクラリスは考える。
クラリスの爪が女に届く。しかし、
「なんで?」
当たらない。女の姿が目に映らない。"真実の瞳"が、効いていない。クラリスに不安と焦りが生じる。
「どうしたの? 顔色悪いわよ?」
背後には茶髪の女。クラリスは『反転』した幻術を使おうとするが、
「無駄よ。わたしに幻術は効かないから」
クラリスは無視して幻術を使う。地面を強く蹴り、女を狙う。
今度は明らかに女が避けた。幻術にかかっていないことを示すためである。
「おちょくってるわね。イライラしてくる」
「そんなつもりじゃないの。ただちょっと、力の差を教えたくなっちゃって♪」
笑みを浮かべる女。性格の悪さが滲み出ているわね、とクラリスは思う。
「知りたい? わたしの波導術。教えてあげようかしら、ね?」
「そう。それはありがたいわね。あなたの波導術は何? ついでに、あなたの名前は?
……ああ、答えなくていいわよ。『見えた』から」
"真実の瞳"は、質問に対する『正解』を見ることができる。答える側が嘘をついたとしても、本当の答えが見えるのである。例外として、回答者が真実を知らない場合は何も見えない。
"真実の瞳"が答えを映す。
「あなたの名前は イリュス・ティグル、波導術は『感覚の操作』。合ってる?」
「大正解。わたしは自分と触れた人間の感覚神経を操れる。クラリスちゃんの瞳自体には幻術が効かないけれど、神経は別でしょう?」
(なるほど、最初の一撃で私に触れ、神経を操ることで幻術を見せつつ、自分に掛けられた幻術も解除していた、と)
クラリスは理解したものの、
「知ったところで、打つ手があるのかしら、ねぇ?」
イリュスが挑発する。事実、このままでは負けることをクラリスは理解していた。
しかし、いや、だからこそクラリスは突撃する。
イリュスが再びクラリスの感覚を弄る。実際にイリュスがいる位置と、クラリスから見えている位置をずらしているのだ。
クラリスの爪が地面を削る。
イリュスがクラリスの背後をとる。
「当たらないでしょ。もう諦めなさい」
「いや、当たるわよ? どこにいても」
クラリスが全身を竜化させる。
イリュスが避けるより速く、竜の翼と鱗が直撃する。
「うっ!!」
「そこね! 逃がさない!」
純白の竜の姿になったクラリス。
彼女の巨大な爪がイリュスを襲う。
回避しようとしたイリュスだが、突然のことに対応できず掌が直撃する。
勢いよく押し出され、周囲のビルを破壊しながら投石のように飛んでいく。
飛んでいった先に追撃を仕掛けようとしたクラリスであったが、
「結構やるのね。
イリュスの服の右腕部分が裂ける。
服の切れ目からは、白い魔獣核が見えていた。
「"
イリュスの言葉と同時、クラリスの全身が切り刻まれた。白い鱗に血が伝っていく。
クラリスがもとの姿に戻り、膝をつく。
「あなた、マギアを……!?」
「クラリスちゃんも胸に埋まってるでしょ? わたしも、
イリュスが話している最中にクラリスが地面を蹴る。奇襲を仕掛けるクラリスだったが、
「読めてるわよ。諦めないことくらい」
イリュスがクラリスの脇腹を蹴る。
「う、ぐっ!! こほっ」
クラリスの体がビルを突き破っていく。飛んでいった先、ブランと対峙するアッシュに直撃した。
そして現在。いきなり飛んできたクラリスを抱える。全身傷だらけではあるが、まだ息はある。一秒でも早く撤退したい。だが、
「あら? あらあら? ブランくんじゃない。どうしてここに?」
「オレのセリフだよ。女ぶっ飛ばしてきて、なんのつもり?」
「それはごめんなさい。わざとじゃないの。そこにいるのは、ああ。バーンモルトで、アッシュ・グレーンで、『灰貌』ね」
茶髪のロングヘアーの女がビルの穴から現れる。
ブランとの一対一でもギリギリだってのに。最悪なタイミングの増援だ。
「イリュス、手を出さないでくれ。彼はオレの相手だよ」
ブランが俺に近づいてくる。
「分かってるわ。そもそも、わたしが出るまでもないでしょう? ……でも、それじゃつまらないわね。
バーン、一つ、イイコト教えてあげようかしら」
イリュスと言う女が声を掛けてきた。『イイコト』、だと?
「知ってるでしょ? その娘の胸にはマギア、それもかなり強力な魔獣の核が埋まってる。
そして、仲間の一人から聞いたのだけれど。『灰貌』は魔獣核を喰らって強くなったそうね。
だったら――
クラリスちゃんの胸のマギアを喰えば、形勢逆転が狙えると思わない?」