数分ほど走った先に、騎士団の緊急対策本部があった。
レレアが俺に気づき、声を掛けてくる。イリュスのことは巻いたようだ。
「や、無事みたいだねー。抱えてるソイツはもらってくよー。おーい、誰か手錠と足枷かけといてー」
気を失っているブランを引き渡す。とりあえずは捕虜にしておくつもりらしい。
「女のコならこっちだよー。今治療中。しばらくしたら起きると思うよー」
シートの上に横たわっているクラリス。いくつかの傷が塞がり、顔色も良くなっている。
「良かった。治りそうだな」
「さて、ちゃんと聞いておかないといけないねー。
今は、どっち? 二十年前のキミなのか、もっと前のキミなのか」
レレアが俺に問う。今の俺はアヴァリティアスの味方か、敵か。レレアは気づいている。俺がバーンモルトであることに。二十年も前とはいえ、同僚だったから分かるのか。
「後者の成り損ないってとこだな。今の俺には、あの時ほどの力がない」
「聞きたいことなら山ほどあるんだけどねー。それどころじゃないかー。信用したげるよ、バーン」
レレアが小声で囁く。周りには名前が聞こえないように配慮してくれたようだ。
「当たり前だ。そのためにここに来た。レレア、今はどういう状況なんだ?」
「とりあえず大多数の避難は完了。『ACE』の攻撃がなかなかヒドくてねー。人のいなくなった中心街を占拠されてる」
「奴らの目的は分かるか? この辺には『導脈』もその研究施設もないはずだが」
「そこなんだよねー。中心街の占拠も、いまいち何がしたいのか分からなくてさー。陽動かとも思ったんだけど、今のところ緊急連絡はない」
「難しいな。とりあえず、次の行動を考えるか」
「アタシたちは四番隊と合流したら中心街の奪還に向かうって感じ。キミは生徒たちのとこに戻りなよ。はい、無線渡しとくから」
「分かった。確かに点呼とってるかもしれないか」
「ふふっ。なんか可笑しいねー。元騎士団員、それも『六天』が学生って」
「うーん、何も言い返せないな。じゃあ、また何かあったら呼んでくれ。クラリスのこと、頼むぜ」
「はいよー。さて、と。六番隊! 引き続き周囲を警戒ー。いつ『ACE』が襲撃してくるか分からないぞー」
本部を後にし、避難所になっている養成学校に向かう。
一方、クレール王国某所。
青年がある人物に問い掛ける。
「おい、俺の出番はねえのか? もう準備しちまったんだぜ、王」
「まあ少し落ち着きたまえ、クルヴァンガ。私たちが出る必要はない」
ボス、と呼ばれた人物に代わり、壮年の男が答える。
「あんたには聞いてねぇ。その気持ち悪い薄ら笑いを止めろ」
「ふっ、薄汚い子供には分かるまい。これが大人の余裕というものだ。私の背を見て学ぶといい」
壮年の男が笑う。クルヴァンガ、と呼ばれた男はこめかみに青筋を浮かべ、
「テメエはほんっとうに腹立つなぁ!! いいぜ、騎士団の連中より前に潰してやるよ!!」
「そこまでだよ、クルヴァンガ。バキラもあまりからかわないように」
二人に声を掛けたのはローブに身を包んだ男。
「王……。ちっ、仕方ねえか」
「これは失礼。謝罪しよう、クルヴァンガ」
『王』と呼ばれたローブの男が椅子から立ち上がる。
「さて、私は顔を見せに行ってくる。留守は頼んだよ」
「承った。我々の誰かがともに行きますか?」
バキラが尋ねる。ローブの男は
「いや、いいよ。クレール王国の騎士団と行くから」
男が歩きだす。一歩踏み出すごとに、世界が揺れていた。
ゼリア南部、アヴァリティアス騎士団四番隊が中心街へ向かっていた。
シンがディクトに話し掛ける。
「隊長、マズいんとちゃいますか」
「割りとまずい。囲われてる。どうして僕たちの位置が『ACE』にバレてるんだ」
「考えたーないけど、裏切り者でもおるんやろか? とんでもないことになるかもしれへんな」
「まあそれは後でいいや。どうやって切り抜けようかな」
移動を続ける四番隊の後方から、ディクトに連絡が入る。
『隊長!! 今すぐ指示を! このままでは、『ACE』とぶつかる前に全滅します!!』
「は? どういうことだ? おい、もう少し詳しく――」
「
影が四番隊を覆う。ディクトとシンの目に映ったのは、上空を飛ぶ百メートル近い魔獣だった。翼竜のような見た目をした魔獣の口に、膨大な波導が集中していく。
そして、エネルギーの塊が地上に放たれた。
先ほどまで四番隊がいた場所には誰もいない。建物はそのほとんどが消し飛び、地面には巨大なクレーターができていた。
強い光、大きな音とともに消失した四番隊の生体反応。
応援を待っていた本部がざわめく。
「おい、四番隊が、れ、レレア隊長!! 四番隊の反応が、消失しました!!」
「え? ちょっと、画面見せて! って別に位置出てるじゃーん。脅かさないでよー、もー」
「アレ? ホントですね。さっきまで消えていたんですけど」
一方、四番隊では、
「な、なんだったんだ? 今のは」
隊員の一人が呟く。魔獣の攻撃が着弾する瞬間、景色が変わった。壊れていく街ではない。彼には荒野が見えたのだ。
隊の先頭に立つディクトとシンの前に、その二人は現れた。
「全員無事ッスかー!? 大丈夫そうッスね! 流石ザイルさん!」
「久しぶりですね。ディクト、シン。ここからは、『
「助かった。悪いけど、もう少し手伝ってくれへんか」
「いいタイミングだ。テルズ兄さんのおかげかな?」
ザイルが持つ無線から音が鳴る。
『やあ、ディクト。元気そうで何よりだ。その二人、うまく指揮しろよ。こちらでもサポートはする』
「もちろん。頼りにしてるよ」
「じゃあ、あの魔獣、撃ち落とすッスよ!」
「アンの『糸』とシンの槍以外にヤツに届く攻撃はありますか?」
ザイルがディクトに尋ねる。
「僕の隊員だと、遠距離攻撃が数人かな。威力が足りないけど」
「援護になるなら十分や。オレがあの高さまで跳べばええんやろ?」
シンが自信満々に伝え、ストレッチを始めた。
「いや届かないんじゃ……。まあ挑戦したいなら止めませんが」
「あ? やったるわ。見とけよ」
シンがビルに上がり、屋上を蹴って飛び上がる。
建物の倍以上飛び上がったものの、まったく届かない。
上空では、嘲笑うかのように魔獣が飛んでいる。
「シン、いいんじゃないかな、そのチャレンジ精神は」
ディクトが着地したシンを慰める。
「……。アン、『糸』で足場作ってくれへんか……」
シンがポツリと呟いた。