「その辺の建物に足場糸を張ったッス! でも、届かなくないスか? シンさん」
アンが手から伸ばした糸を建物に張る。蜘蛛の巣のように糸が広がった。
「もうちょい増やしてくれ。ネットみたいになるとエエんやけど。じゃ、撃ち落とそうやないか」
アンが糸を展開し、シンが糸の上に乗る。槍のマギアを起動させながら、器用にバランスをとっている。
「よし、遠距離要員! 全員位置に付け!」
「「了解!」」
ディクトの命令とともに、数人の四番隊員がマギアや波導術の準備をする。
「いざとなったら私が『
上空を旋回する魔獣は波導を集中させ、地上へ攻撃を放とうとしている。
そして、
「撃て!」
ディクトの指示。四番隊員が様々な遠距離攻撃を放つが、魔獣は器用に回避していく。
「大きさのわりにかなり速いッスね。本当にやれるんスか?」
「問題ないわ。隊長、頼むで」
シンが糸の上で何度も跳ね、トランポリンのように糸が揺れる。
「ああ。『魔獣まで跳べ』、シン!」
『
命令の強制は味方へのブーストに変化し、シンの脚には普段以上の波導が流れる。
飛び上がるシン。魔獣よりも高く上がる身体。シンは槍を構え、魔獣を狙う。
一方、魔獣も口に集中させた波導を空中のシンへ向ける。
しかし、
「ふっふーん。当てさせないッスよ。そりゃ!」
波導術を使い、何もない空中を歩くアン。手から伸ばした糸が魔獣の上顎と下顎を縛り、口を閉じさせる。
「終わりや。この一撃でな」
シンが槍を逆手に持つ。
構えをとり、目にも止まらぬ速さで投げる。
放たれた槍が空気を圧縮しながら進む。
地上からは魔獣を囲うように遠距離攻撃が放たれ、逃げ場はない。
音速を超える槍が突き刺さる。魔獣の体を縦に裂き、頭から尾まで貫通する。魔獣の腹にあった核が砕け散った。
魔獣を貫いた槍は衝撃とともに地上に着弾した後、ひとりでにシンの手元に戻ってきた。
魔獣が消滅し、シンとアンが着地する。
「よくやった。二人とも。
四番隊! このまま進むぞ!」
ディクトが全員に伝えた、そのとき。
中心街から数え切れないほどの魔獣が駆けてきた。
一方、ダインの騎士養成学校。
今朝通った校門をくぐる。グラウンドには多くの生徒と避難者が集まり、周囲には騎士団員が立っている。
話し掛けてきた教員に学生証を見せると、クラスごとに集まっているため、自分のクラスの生徒がいる場所へ向かうよう指示された。
いくつかのあまり良い印象がない顔と、こんな状況でも欠伸をかます担任の姿が目に入る。俺を見つけたクラスメイト数人が話し掛けてきた。
「おう、無事だったか。遅すぎてアッサリ死んだのかと思ったぜ」
「あんたの班員、超優秀なのに戻ってくるの遅かったらしいけど。まーた勝手に動いて迷惑かけたの? どうせ足引っ張ったんでしょ?」
ニヤニヤしながら気持ちの悪い目で見てくる。
この様子を見ていた級長が近づいてきた。
「まあいいだろう、君たち。彼がどんな行動をしていようが関係ない。ドームの時によく思い知ったろう?」
頷きながら生徒たちが俺の周りから離れていった、そのとき。
「キャー!! 嫌ッ! 来ないで!!」
「なっ、なんだあ!? うわあああ!!」
グラウンドの端で叫び声が聞こえた。全員が目を向ける。
グラウンドの端の柵を、魔獣が壊そうとしている。
一匹ではない。どこから現れたのか、数え切れないほどの魔獣が波のように押し寄せる。
唖然とする生徒たち。騎士団員は連絡をとりながら対応に向かおうとし、教員らは生徒と避難者を反対側へ誘導する。
しかし、時間がない。間に合うはずがなかった。
柵が崩壊する。堰が決壊し、魔獣がなだれ込む。鼓膜が破れるほど叫び声と咆哮が重なる。
生徒たちの顔に絶望と諦観が現れる。
俺は、動けずにいる生徒たちを退かしながら何十匹もの魔獣の前に立つ。
「ま、仕方ないか」
どうせ騎士団には俺の顔が割れている。このまま養成学校に在籍し続けることはできない。
「いい思い出はないけどな。どうせ最後なら、いっちょ暴れておくか!」
背中に灰溜まりを用意し、炎を纏った灰を展開する。迸る波導の奔流。
周りの生徒が俺を見つめる。驚愕か、尊敬か、恐怖か。様々な感情が混ざりあった目をしている。
「"
地面を蹴って飛び出すと同時に、灰と炎と熱が広がる。
十メートルほどの体躯の魔獣が俺に狙いをつけ、牙を剥いて襲いかかってくる。
開いた魔獣の口に灰の触手を突っ込み、波導を流し込む。
次の瞬間、魔獣が爆発した。内側から炎が飛び出す。この程度は造作もない。以前はやったことがない戦法だが、結構使えそうだ。
他の魔獣が束となって俺に襲いかかる。壁のように積み重なり、波のように押し寄せる。
魔獣が迫り来るなかで俺は後ろを振り返り、生徒たちに見せつけるように笑う。
「目に焼き付けろ。これが『学園最弱』だぜ?」
熱を持って赤くなった灰を広げる。
灰を包む波導が、その現象を誘導する。
「"
膨大な熱量。
超高温の融けた灰。
空間が歪むほどの衝撃。
その全てが、魔獣を包む。
一匹残らず燃え尽き、核すらも焼失した。
焼け焦げた臭いが充満するなか、少し離れた所にたつクラスメイトたちに告げる。
「これで俺はお前らの命の恩人だ。もう一生頭が上がらないな」
緊張と静寂がその場に漂う。騎士団と教員が俺を警戒し、震えながら前に出てくる。
「う、動くな! 一介の生徒に、こんなことできるはずがない! 何者だ!?」
騎士団の一人が叫ぶ。俺は無線を取り出してから両手を上げて、
「騎士団の味方だよ。俺に戦う気はない。ほら、六番隊のレレアからもらった無線だ。証拠になるなら確認してくれ」
「騎士から奪った敵の可能性がある! もっと具体的に、何者かを答えろ!!」
かなりややこしい立場なので、どう答えようかと思案していると無線が鳴った。
「レレアか? どうした?」
『バーン、今、避難所ー!? 全員を連れて北へ逃げて! 早くしないと――』
突如通信が途切れる。
同時に、騎士団本部のある方向から街が揺れる音が聞こえた。