ゲインアゲイン   作:十割二八

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第二十九話 開火

「その辺の建物に足場糸を張ったッス! でも、届かなくないスか? シンさん」

 

 アンが手から伸ばした糸を建物に張る。蜘蛛の巣のように糸が広がった。

 

「もうちょい増やしてくれ。ネットみたいになるとエエんやけど。じゃ、撃ち落とそうやないか」

 

 アンが糸を展開し、シンが糸の上に乗る。槍のマギアを起動させながら、器用にバランスをとっている。

 

「よし、遠距離要員! 全員位置に付け!」

 

「「了解!」」

 

 ディクトの命令とともに、数人の四番隊員がマギアや波導術の準備をする。

 

「いざとなったら私が『隔絶現世(ノーゲート)』で守りましょう」

 

 上空を旋回する魔獣は波導を集中させ、地上へ攻撃を放とうとしている。

 そして、

 

「撃て!」

 

 ディクトの指示。四番隊員が様々な遠距離攻撃を放つが、魔獣は器用に回避していく。

 

「大きさのわりにかなり速いッスね。本当にやれるんスか?」

 

「問題ないわ。隊長、頼むで」

 

 シンが糸の上で何度も跳ね、トランポリンのように糸が揺れる。

 

「ああ。『魔獣まで跳べ』、シン!」

 

 『王の勅命(キングス・コマンド)』が発動する。

 命令の強制は味方へのブーストに変化し、シンの脚には普段以上の波導が流れる。

 飛び上がるシン。魔獣よりも高く上がる身体。シンは槍を構え、魔獣を狙う。

 一方、魔獣も口に集中させた波導を空中のシンへ向ける。

 しかし、

 

「ふっふーん。当てさせないッスよ。そりゃ!」

 

 波導術を使い、何もない空中を歩くアン。手から伸ばした糸が魔獣の上顎と下顎を縛り、口を閉じさせる。

 

「終わりや。この一撃でな」

 

 シンが槍を逆手に持つ。

 構えをとり、目にも止まらぬ速さで投げる。

 放たれた槍が空気を圧縮しながら進む。

 地上からは魔獣を囲うように遠距離攻撃が放たれ、逃げ場はない。

 

 音速を超える槍が突き刺さる。魔獣の体を縦に裂き、頭から尾まで貫通する。魔獣の腹にあった核が砕け散った。

 魔獣を貫いた槍は衝撃とともに地上に着弾した後、ひとりでにシンの手元に戻ってきた。

 魔獣が消滅し、シンとアンが着地する。

 

「よくやった。二人とも。

 四番隊! このまま進むぞ!」

 

 ディクトが全員に伝えた、そのとき。

 中心街から数え切れないほどの魔獣が駆けてきた。

 

 

 

 

 一方、ダインの騎士養成学校。

 

 今朝通った校門をくぐる。グラウンドには多くの生徒と避難者が集まり、周囲には騎士団員が立っている。

 話し掛けてきた教員に学生証を見せると、クラスごとに集まっているため、自分のクラスの生徒がいる場所へ向かうよう指示された。

 いくつかのあまり良い印象がない顔と、こんな状況でも欠伸をかます担任の姿が目に入る。俺を見つけたクラスメイト数人が話し掛けてきた。

 

「おう、無事だったか。遅すぎてアッサリ死んだのかと思ったぜ」

 

「あんたの班員、超優秀なのに戻ってくるの遅かったらしいけど。まーた勝手に動いて迷惑かけたの? どうせ足引っ張ったんでしょ?」

 

 ニヤニヤしながら気持ちの悪い目で見てくる。

 この様子を見ていた級長が近づいてきた。

 

「まあいいだろう、君たち。彼がどんな行動をしていようが関係ない。ドームの時によく思い知ったろう?」

 

 頷きながら生徒たちが俺の周りから離れていった、そのとき。

 

 

「キャー!! 嫌ッ! 来ないで!!」

 

「なっ、なんだあ!? うわあああ!!」

 

 

 グラウンドの端で叫び声が聞こえた。全員が目を向ける。

 グラウンドの端の柵を、魔獣が壊そうとしている。

 一匹ではない。どこから現れたのか、数え切れないほどの魔獣が波のように押し寄せる。

 唖然とする生徒たち。騎士団員は連絡をとりながら対応に向かおうとし、教員らは生徒と避難者を反対側へ誘導する。

 

 しかし、時間がない。間に合うはずがなかった。

 

 柵が崩壊する。堰が決壊し、魔獣がなだれ込む。鼓膜が破れるほど叫び声と咆哮が重なる。

 生徒たちの顔に絶望と諦観が現れる。

 俺は、動けずにいる生徒たちを退かしながら何十匹もの魔獣の前に立つ。

 

「ま、仕方ないか」

 

 どうせ騎士団には俺の顔が割れている。このまま養成学校に在籍し続けることはできない。

 

「いい思い出はないけどな。どうせ最後なら、いっちょ暴れておくか!」

 

 背中に灰溜まりを用意し、炎を纏った灰を展開する。迸る波導の奔流。

 周りの生徒が俺を見つめる。驚愕か、尊敬か、恐怖か。様々な感情が混ざりあった目をしている。

 

「"灰外殻(はいがいかく)赫炎爪(かくえんそう)"」

 

 地面を蹴って飛び出すと同時に、灰と炎と熱が広がる。

 

 十メートルほどの体躯の魔獣が俺に狙いをつけ、牙を剥いて襲いかかってくる。

 開いた魔獣の口に灰の触手を突っ込み、波導を流し込む。

 次の瞬間、魔獣が爆発した。内側から炎が飛び出す。この程度は造作もない。以前はやったことがない戦法だが、結構使えそうだ。

 

 他の魔獣が束となって俺に襲いかかる。壁のように積み重なり、波のように押し寄せる。

 魔獣が迫り来るなかで俺は後ろを振り返り、生徒たちに見せつけるように笑う。

 

「目に焼き付けろ。これが『学園最弱』だぜ?」

 

 熱を持って赤くなった灰を広げる。

 灰を包む波導が、その現象を誘導する。

 

「"赤熱(スカーレット・)開火(イラプション)"」

 

 膨大な熱量。

 超高温の融けた灰。

 空間が歪むほどの衝撃。

 その全てが、魔獣を包む。

 

 一匹残らず燃え尽き、核すらも焼失した。

 焼け焦げた臭いが充満するなか、少し離れた所にたつクラスメイトたちに告げる。

 

「これで俺はお前らの命の恩人だ。もう一生頭が上がらないな」

 

 緊張と静寂がその場に漂う。騎士団と教員が俺を警戒し、震えながら前に出てくる。

 

「う、動くな! 一介の生徒に、こんなことできるはずがない! 何者だ!?」

 

 騎士団の一人が叫ぶ。俺は無線を取り出してから両手を上げて、

 

「騎士団の味方だよ。俺に戦う気はない。ほら、六番隊のレレアからもらった無線だ。証拠になるなら確認してくれ」

 

「騎士から奪った敵の可能性がある! もっと具体的に、何者かを答えろ!!」

 

 かなりややこしい立場なので、どう答えようかと思案していると無線が鳴った。

 

「レレアか? どうした?」

 

『バーン、今、避難所ー!? 全員を連れて北へ逃げて! 早くしないと――』

 

 突如通信が途切れる。

 同時に、騎士団本部のある方向から街が揺れる音が聞こえた。

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