アルス・エルバートと『ACE』の『王』の分身との戦闘に決着が着いた頃、アヴァリティアス王国首都キャンドにて。
キャンド中央近辺の『ACE』の襲撃部隊を完全制圧した騎士団四番隊とキャンド端部での対処を終えた三番隊が合流し、情報共有や今後の活動の話し合いをおこなっていたところへ、その連絡は入った。
「こちら三番隊隊長、シエル。何か?」
シエルが無線を取り出して応答する。通信相手はキャンド都市部と郊外の境にある簡易基地の人間だ。
『そ、それが、五番隊のバーンモルトが、行方不明になりました! 医療班が器具の調達のために少し目を離した間に消えたそうで!現在五番隊の他の隊員が捜索にあたっています』
「……分かりました。基地内部や他の隊員らに問題はありませんね?」
『はい、襲撃などを仕掛けられたわけではなく、ただ一人忽然と消えてしまって』
シエルが持っている無線に目をつけたシンが言う。
「なあ三番隊長、ちょっと代わってくれへん?
おおきに。そっちにコール局長から連絡いっとるか?」
『連絡も何もこちらにいますよ。ポテンティアの方とともに飛んできましたから。なんでも、もともとほぼもぬけの殻だった指令部を襲撃されたみたいで』
「なんや、無事やったんか。いきなり通信切れてビビったわ。オレの思い過ごしやったみたいやな」
「シン、指令部が襲撃されたって? じゃあ四番隊はそこに向かおう。バーンモルトと周辺住民の捜索は三番隊に任せるよ。それでいいかい?」
シンと無線機の先の人物の会話を聞いていたディクトが言い、
「ええ。異常事態になったら援護に行きますので教えてください」
シエルも頷いて隊員に指示を出し始める。
三、四番隊がそれぞれ動き出した一方、郊外にいる五番隊では、
「大変なことになったッスね。バーンさん、どこに行っちゃったんスか……?」
アンが泣き出しそうな顔で呟く。クラリスが『ACE』に連れ去られたときも一晩中泣いていた。
「今はとにかく探すほかありません。自分で動いたのか連れ去られたのか分かりませんが、まだそう遠くには行っていないでしょう」
ザイルは竜化して上空からバーンモルトの姿を探し続ける。他の五番隊員もバーンの名を呼びながら瓦礫の下や建物の中を探すが、返事は返ってこず、人影は見つからない。
その後、三番隊も捜索に加わったが、バーンモルトが発見されることはなかった。また、本局へ向かった四番隊についても、彼らが到着した頃には襲撃者たちは撤退しており、特に成果は上げられなかった。
今回の襲撃対応の作戦をコール・ポーターは、
「民間人の避難に関しては上出来だったが、それ以外は正直ダメダメだったな、俺の失態だ。行方不明者は出るわ、復興には相当時間が掛かるさりそうなくらい街が吹っ飛ぶわ。
しかも今日、国王から提案、実際には半ば命令なんだが、があってな。やられる前にやれ、だと。アヴァリティアス騎士団は明日より、本格的に攻勢に転じる。南部での戦いは上手くいったようでな、『ACE』の特大の基地へ襲撃を仕掛けられる状況になった。今度は向こうに守らせてアヴァリティアス内部への襲撃をさせない、もしくは完全に潰してしまおうという考えらしい。
よって防衛及び復興用の別動隊を配備し、その他の隊員全員で『ACE』を潰せ、とのことだ。分かったな。覚悟を決めておけ。以上だ」
と締め括った。
一方、行方不明となったバーンモルトはというと、
「ふははっ! 変わらないカタチだ。やはりバーンモルトも成功作だった! ああ、本当に後悔したとも。カノンにばかり気を取られて手放してしまったあのときは……」
透明な窓のついた機械の中で謎の液体に浸かり、身体中に管を繋げられたバーンモルトを見つめながら『ACE』の『王』は喜びを爆発させる。
『ACE』最大の基地。『王』の城。ここに、バーンモルトは運び込まれていた。
「本当によくやったよ、トロン、メア」
ローブの男の後ろ、片膝をついて頭を下げる二人。
トロン・ランサーとメア・ゲーティス。
トロンが『透明化』によって騎士団の基地に潜入し、触れたバーンモルトさえも透明化させて誰にも気づかれることなく誘拐した。その後、メアの『異相経路』で移動してきたのだ。
メアの波導術である『
その通路はザイルの『
また、ジェーン・ジャンパーの『跳躍転送』とは異なり、一瞬で移動することはできない。本来移動に必要な距離の十分の一程度を歩く必要がある。
騎士団本局の一員として活動していたメアがアヴァリティアスの各地と拠点を繋げることで、『ACE』は何度も都市への奇襲を成功させていたのである。
二人は頭を下げた後部屋から出ていき、入れ替わりに入ってきたのは銀髪の女性、カノン・グラキエス。
「捕まえられたんだ、意外。もっと苦戦するかと思ってたんだけど」
「代わりにバキラを失ってしまったけれどね。彼は本当によく働いてくれた。彼を
「ところで、クラリスだっけ? 彼女の方はどうなの?」
「順調だよ。彼女もまだ動けるような状態ではないけども。だからカノン、皆にも伝えておいてくれ。近々アヴァリティアス騎士団が攻めてくるだろうから準備しておくように、と」
「ええ了解。向こうの戦力は?」
「騎士団全部隊を投入するだろうね。それに、戦闘能力はないが厄介な『神託の巫女』も加わるだろう。こちらも全戦力で迎え撃とうか。
「はいはい。『ACE』の望みが叶うまでは、必ず」
「じゃあ、任せたよカノン。
カノンが部屋から出ていき、一人になった『王』はアヴァリティアスの各地から採取した『導脈』の波導を装置に入れていく。バーンモルトが捕らえられている装置の隣、巨大な培養機器の中には紺色の魔獣核が一つ。
『導脈』由来の波導を受けて色が変化していく。表面に白い斑点のような光が浮かんでいく。星空のような色を放つ魔獣核を『王』が取り込み、
「うぐっ、はっ、はあ! くくっ、これで我は……! バーンモルト、クラリス・ヴェリテ。君たちがいたお陰で我は――」
『王』の姿が一瞬変化する。
ローブを裂いて翼が伸び、幾本もの尾のようなものが床を割る。ヒトではなく、竜でもない。今この星に在る生物、『王』が再現できる過去の生物。そのどれからもかけ離れた、新時代の生命のカタチ。
すぐにヒトの姿へと戻った『王』は、何千、何万。
いや、何億年もの間叶うことがなかった悲願を口に出した。
「この星と、一つになれる。星が滅ぶまで生き残る生命は……、過去の全てを背負い、現在の全てを凌駕し、未来の全てを担う生命は、ついに誕生する……!」