どうすればいいのか、考えるしかない。より良い選択はどちらか。どちらを取ってもリスクはある。
俺はどうしたいのか?
最初から決まっていただろう。
だから『運命を受け入れるための時間』。考える時間ではない。覚悟を決めるための時間だった。
「俺は、何もできないとしても。何もせずにいるのは嫌だ。誰に否定されてもいい。何に苛まれたっていい。俺は、ただ俺のために進み続ける。俺が仲間を失いたくないから、抗う。その結果が散々だったとしても何もせずに終わるよりは納得できる。その選択が正解でも間違いでもいい。進むよ、俺は」
周りにいた昔の俺は消えた。残ったのはクロスさんの姿だけ。
「これで、いいんだよな」
俺がポツリとこぼすと、その幻影は最後に笑って、
「何度も言うが、俺はクロスさん自身じゃない。だからあの世で本人に聞くんだな。何十年、いや、何百年も後に。それまでは、お預けだ」
とだけ残して、塵となって消えてしまった。
その直後、景色が変わった。降り注ぐ光。灼熱の海。黒と赤で構成された世界。
「アッツッ!! イッタあっ!!」
赤く光る流体が体に触れた瞬間、火傷どころではない傷ができる。しかし、逃げ場がない。見渡す限りの全てがその流体で満ちている。なんとか波導で守れば、
「使えないんだった……。でもなんか慣れてきたか?」
少しづつ熱と痛みが引いていく。最初の傷は残ったままだが、新しく火傷はできていない。
「ここは一体……?」
周りの赤い流体、これは溶岩か?
いくつか地表に宝石のようなものが埋まっている。薄い青色のものの他に、褐色や緑色のものもある。
「ジルコンか、これ。じゃあここは、もしかして……」
地表を覆う溶岩。ときたま降ってくる隕石。大量のジルコン。そして何より、俺の体がこの星の波導を受け入れ始めたということを考えれば、
「四十億年以上前の、原始地球か? というか、これから俺はどうすればいいんだ!?」
バーンモルトが星の波導を受け入れ始めた頃、アヴァリティアス騎士団は『ACE』本拠地までの道中にある山地に差し掛かっていた。ここまでは接敵することなく順調に進んできた騎士団だが、ここで一度止まることになる。
戦闘に立つコールがアルスに話しかける。
「作戦通りにやってくれ。『ACE』に負けるくらいなら山一つ荒らす方がマシだからな」
「ああ、任せろ。ポテンティアの騎士にも連絡はしてるんだな?」
「もちろんだ。それに、出力は少し下げていい。ブレン・リュトモスが側面から吹っ飛ばすそうだ」
「そうか、ならもうやるぞ。
"
空を裂き、雲を割って巨大な隕石が落ちてくる。隕石が山に直撃し、とてつもない衝撃波と突風が吹き荒れるが、
「おうおう、派手にやったなー。見込み通りだ、アルス・エルバート」
楽しそうに笑っているブレン・リュトモス。彼の波導術は『空の王』。
彼は地表の風を操って衝撃波を抑え込み、残った山地の一部を削り取る。アルスとブレンの手によってできた道。コールの合図とともにアヴァリティアス騎士団が進み始め、ポテンティアの騎士たちがその横を進んでいく。
元山地を突っ切る間に『ACE』の襲撃はなかったものの、作り上げた平野を抜けた瞬間、
「グゴオオアアアア!!!」
爆音の咆哮。一つだけではない。
「「シャアアア!!」」
「「オオオオオオ!!」」
数えきれないほどの魔獣が出現する。
クレール王国の地下を通る『導脈』から大量発生したのだ。『ACE』は、『導脈』の研究を何十年も前から続けていた。その中には人道から外れたものも少なくない。その結果手に入った技術の一つが、魔獣の発生タイミングを操るというもの。遠隔で発動させ、アヴァリティアス騎士団とポテンティア騎士団に奇襲を仕掛けたのである。
魔獣に囲まれる騎士団。その中心でコールが無線越しに叫ぶ。
「狼狽えるな!! 全員、陣形を崩すな。孤立しないかつ味方を巻き込まない距離を保ち続け、襲って来た魔獣にカウンターを入れてやれ!」
先頭の一番隊、中心の三番隊、後方の六番隊、左右の四、五番隊がそれぞれ対応にあたる。
アルスが進行方向の魔獣の群れを消し飛ばし、全体で移動しながら左右と後ろの魔獣を倒していく。ポテンティア騎士団も周囲を魔獣に囲まれるが、竜化によって地上と空中の両方から道を切り拓いている。
しかし、アヴァリティアス騎士団の左側。異常な波導が近づいてきていることに四番隊は気づいていた。
「まずいかもね、何かヤバいのが来てる」
ディクトがシンに言う。シンは頷きながら、
「どうします、隊長? オレ一人残ってもええで。むしろ他の隊員の世話なんかできへんし」
いつも通りの薄ら笑いを浮かべて言ったが、それに対しディクトはシンを睨み、
「シン、本気か。今冗談を言うのは止めた方がいい。死ぬぞ、一人だと」
「死なへんわ、このくらいで。このまま近寄ってきてるヤツ受ける方が死人が出る。
ディクト、ジブン隊長やろ? せやったら四番隊のための指示出せや。
今すべき事は何や? 全体で進むことやろ。
一人置いてくのと四番隊全体で遅れるのとじゃ、他の部隊への影響が違いすぎる」
シンの説得を受けてなお、ディクトは決断できずにいた。若くして隊長になった自分を一番そばで支えて来た人を、置いていくのか。
「……シン」
「そんな顔すんなや。必ず戻る。オレはジブンが思っとるよりめっぽう強いで」
「ああ、わかった。四番隊! 僕たちは襲ってくる魔獣を倒しながら進む! 遠くから突っ込んでくる波導の対処は副隊長シン・ルナールに一任する。走れ! 突破するぞ!」
ディクトが叫び、
「「了解!」」
と隊員たちが返す。ディクトは一歩踏み出す前にシンの方を振り返り、
「これは僕の命令だ。『死ぬなよ、シン』」
「ジブンの波導術じゃそんなインチキじみた命令できんやろうに。ま、エエわ。サクッと倒して戻ってきたる」
シンが飛び出す。進んでいく隊から離れ、魔獣の群れに突っ込んでいく。
「『
槍の形をしたマギアが展開される。灰色の柄が伸び、銀色の先端が鈍く輝く。
武器などお構いなしにシンへ襲いかかる何十匹もの魔獣。その肉体に、幾つもの穴が空く。一瞬で蜂の巣になって消滅する魔獣たち。
シンは消えかけの体を踏みつけ、異常な波導を放つ相手と相対する。
「珍しいカタチしとんなぁ。さて、何か言いたいことあんなら聞いとくで。話せるんなら、やけど」
シンの前に立っているのは身長三メートルほどの二足歩行の異形。頭から爪先まで全身が黒く刺々しい鎧に覆われており、両肩から伸びた何本もの触手のようなものが腕に絡み付いている。
「ぐぎっ、がぱあっ!!」
異形が叫ぶ。開いた口からは白い歯が覗いていた。
地面を砕いて飛び上がる異形。両手を組んでシン目掛けて振り下ろす。シンは後方へ下がって回避し、異形の腕が地面を抉る。
シンが攻撃後の隙を突くために地面を蹴ろうとした瞬間、地面を割って触手が伸びてきた。シンの足が止まる。
「うげっ! なんや!?」
シンが異形へ視線を移すと、異形の肩から伸びた触手が地面に潜り込んでいた。その先端が足元に出てきていたのだ。すぐさま槍を振るって触手を切り裂く。
そこへ異形が突っ込みシンを吹き飛ばす。地面に転がったシンへ周囲の魔獣が一斉に襲いかかる。しかし、シンの体を覆い尽くした魔獣たちの動きが止まった。
その瞬間、何体かの魔獣を突き抜けて異形へ槍が迫る。高速で飛来した槍が異形の左肩を貫き、穴から赤い液体が溢れる。突然のことに、魔獣の塊とその内側にいるはずのシンを見つめる異形。
そこへ再び槍が迫り、今度は右肩を貫いた。
「ぐぴっ、があああっっ!!」
両肩を押さえ、痛みと怒りで叫ぶ異形。槍はシンを覆う魔獣の集団に突っ込み、シンが魔獣をバラバラにして現れる。
「はっ、もしや、と思うたけどやっぱ魔獣じゃなかったか。血ぃ流れとる魔獣なんておらんしな。何モンや、ジブン。いや、喋られへんのか。じゃあエエわ」
異形がシンを睨みつける。さらなる触手が異形の体を覆い、鎧がさらに鋭利に変形する。全身から赤い煙が立ち上ぼり、
「ゴガッ、ガッ、ア゛ア゛ア゛ーーーーー!!」
空を仰ぎながら暴力的な咆哮を上げる。
その様子を見たシンは、
「ここからが本気っちゅうわけか。オレも本気でやらんと流石にマズいしな。ほな、見せたるわ。隊長は知らんオレの強さ。