シンに後を任せて進む四番隊。その先頭を走るディクトは、全体の指揮を執っているコールに現在の状況を伝えていた。
「……そういうわけで、僕たちはシン一人を残して進んでる。左側は任せてくれ」
『そうか。お前が心配になる気持ちは分かるがな、あいつなら大丈夫だろう。ディクト、お前は知らないかもしれないが、……シンが秘密にしてたことを勝手に言って大丈夫か? 戻ってきてから報復されたりしないよう気をつけとくか』
「それで、シンが僕に隠してた事って?」
『あいつは元『六天』だ。それも戦闘に特化したタイプでな。二十年前までは『六天』だったから、昔から騎士団にいる奴らは知ってることだ』
「え? シンが『六天』!? じゃあなんで今副隊長なんかやってるんだ!?」
『そこはまあ、本人の口から聞いた方がいいな。まあバーンモルトと似たようなもんだ。一回辞めて、その後また入団したんだ』
「そうだったのか。早く言っといて欲しかったな。でもなんだか府に落ちたよ。これまでの冷静さといい自由さといい、余裕あるからだったのか」
『そういうこった。だからま、余計な心配はしなくていい。シンは強い』
「わかった。集中するよ。そろそろ『ACE』の妨害があるかもだしね」
『しっかり頼むぞ、ディクト』
ディクトは気合いを入れ直し、四番隊員を率いて歩みを進めていく。
一方、シンは謎の異形と激闘を繰り広げていた。異形は肩から伸びる触手でシンの動きを制限しつつ、身に纏った鎧を活かしたタックルで攻撃してくる。シンは触手を槍で切断して動きながら異形の突進を回避して無傷のまま。時々割り込んで襲ってくる魔獣を串刺し、真っ二つにして反撃の機会を狙い続けている。
互角。このままでは埒が明かないと考えたシンが異形目掛けて槍を投げる。異形は体勢を低くしながら回避し、シンへ触手を伸ばす。触手が地面に突き刺さってシンの周りを囲み、異形が猛烈な蹴りによって高速で突進する。異形の腕がシンを捉える、その直前。
槍が異形の肩から腕を貫き、動きが止まった。
「さっきも見せたやろ。『
シンの蹴りが異形の顔面に炸裂する。同時にシンは刺さった槍を引き抜き、後退した異形へ向けて構える。
異形は叫びながら触手を振り回し、周りにいた三十匹ほどの魔獣がシンに襲いかかる。
シンは触手と魔獣を軽々と躱しては突き、切り、致命傷を与えて消滅させていく。巨大な犬のような見た目の魔獣がシンに牙を向けるが、脳天を下から突かれて動かなくなる。
その直後、魔獣の腹を破って触手がシンへ伸びた。異形の触手が魔獣を背中から腹までぶち抜いたのである。想定外の攻撃をシンは何とか回避しようとするも、触手が右腕を掠り、左肩を抉った。
「ちぃっ、なかなかやりよるな。しかもなんか威力増してへんか?」
シンが呟く。実際、先ほどまでの触手の動きであればシンは避けることができていただろう。しかし、異形は強くなっていた。これまでにシンが倒していた魔獣、その核を吸収することで波導の出力、触手のキレが向上しているのだ。
シン自身も周囲に魔獣核が転がっていないことに気づき、異形の強化のカラクリを理解した。
「異形なだけあって魔獣核喰うんやね。それなら、周りの魔獣は一匹残らず核ごと潰したるわ」
シンが普段は細い目を開く。その目は紫水晶のような色をしているる。
「オレの波導術は『
シンの周りに数十本の槍が出現する。その全てが渡飛燕と同じ形と色をしており、高速で魔獣たちに向けて動き出した。魔獣の肉体、核を貫き槍が進む。それを見た異形と残りの魔獣たちがシンとの距離を一気に詰めて攻撃を仕掛けるが、
「ああ、あと言い忘れてたけど、
先端を向けてシンに戻ってきた槍が魔獣たちを背後から貫く。渡飛燕を能力ごと複製した槍が魔獣の肉体を引き裂いていく。
魔獣たちの反撃の手が止まり、一瞬早く気づいた異形は掠り傷を無視してシンに殴りかかる。シンは手に掴んだ槍を構え、低い姿勢で下段から突きを放つ。
交差する拳と槍。異形の拳が割れて血液が噴き出す。なおも止まらぬ異形は肩から伸ばした触手でシンの体を絡めとる。そのままシンを軽々と持ち上げ、
「グググッ、ガアッ、ガアッ! ゴェアアアッッ!!」
雄叫びを上げながら腕を振り回して何度も地面に叩きつける。一撃ごとに土煙が上がりクレーターができていく。
異形が空中へ跳ね上がる。シンを捕らえた触手はより強く彼を拘束し、異形が全身を使って振り回す。空を切る音と異形の咆哮だけがシンの耳に届き、視界は塞がれている。方向感覚がおかしくなっていくシン。
その肉体は物凄い速度で地面に衝突。一際巨大なクレーターができ、そこへ両腕を合わせた異形が全体重で渾身の一撃を放つ。
途轍もない衝撃波が平野を駆け抜ける。
周囲の木々が抜け、大地が深く抉れる。
異形の目には、自らの拳の下に槍が見える。血だらけの槍だ。
異形は思った。男は死んだ、と。自身の全身全霊の一撃。それを受けて生きているはずがない。それに、圧死して噴き出したであろう血液が見えている。槍は変な方向に向いている。
この厄介な男は死んだ。そう、結論づけた。
慢心ではない。油断でもない。
過去の経験、現在の状況に基づいたものである。しかし、
「いったいなぁ、ホンマ。背骨折れるかと思うたわ」
その男は、異形の背後にいた。槍に付着した血。それは異形の腕が切断されたときのものであった。
「アガッ、ギギャアア!!」
異形が地面を蹴ってシンから逃げる。理解できなかった。男を潰した確かな感触があった。なのに男は生きている。それどころか一瞬で腕を切り落としたのだ。
「なんで生きとるか気になるか? さっきジブンが潰したのはオレやない。オレが複製したジブンの触手や。もちろん、切り落とした破片やけど。いやー、ギリギリで身代わりにすんのちょー怖かったわ」
異形はシンの一挙手一投足から目を離さない。後ずさってシンから逃げようとする異形。一方のシンは、槍を構えないどころか近づく素振りさえ見せない。
「もう終わらせよか。一瞬とはいえエエ気分にはなれたやろ。
"
異形の周り、全方位に展開される複製された槍。その数は千を優に超えている。
打ち出される槍。渡飛燕の能力によって元の位置へと戻る際にも異形の体に直撃する。
鎧が砕け、触手が千切れる。
何千、何万もの刺突を受けて異形の体から力が抜けて崩れ落ちる。
異形がうつ向けに伏せ、鎧と触手が消えていく。シンは異形の顔を確認し、少し驚いた顔をした後、その四肢に槍を突き刺して地面に固定し、木を重しにして拘束する。
「ま、ひとまず殺さんといてやるわ。後でたっぷり話聞いたるで、バルバ・ゼババ」
そう言ってシンは異形の側から離れ、先を行く騎士団を追いかけていった。