シンが騎士団の部隊を追いかけていた頃、既に騎士団は『ACE』の部隊と衝突し始めていた。
「"
先頭を行くアルス・エルバートの問答無用の一撃。膨大な量の水がとてつもないスピードで進む。木々を薙ぎ倒し、地面を削りながら全てを飲み込む津波。
しかし、大量の水は突如一点に集まり、忽然と消えた。
その一点とは、男の手のひら。そこに立っているのは背の高い金髪の男。
元アヴァリティアス騎士団二番隊隊長、『六天』マティク・ワイルズ。
「意外と早く来たもんだね、アヴァリティアス騎士団。ここで潰しておいてあげよう」
アルスが彼の正面に立つ。
「今回の作戦で一番最初に会う『ACE』がアンタとはな。『王』とやらに信頼されていない、ただの捨て駒扱いされてるのか?」
「むしろ信頼されているからここを任されている。おや? コール局長もいるじゃないか。指揮官が前線にお立ちになるとは、気合いが入っているようですね?」
アルスの後ろに立っていたコール・ポーターが渋い顔をしながら答える。
「俺は現場に出ないと落ち着かないんだよ、特にデカイ戦いのときはなぁ。
アルス、作戦通りにやる。ここは頼むぞ」
「了解だ。さっさと動いた方がいい。オレもアイツ相手じゃ周りのことなんて考えていられない」
「ああ。
全体! ここはアルスに任せて我々は進む!! 四番隊と五番隊は作戦通りに広がれ!!」
「「了解!!」」
コールの指示を受けて、騎士団の各部隊が動き始める。
コール含め一番隊、三番隊、六番隊は相対するアルスとマティクを避けながら南へ、四番隊が東、五番隊が西へとそれぞれ移動し、各方向から『ACE』の本拠地を襲撃しようという作戦である。
各部隊が去り、残されたアルスとマティク。マティクの後ろには彼が率いる『ACE』の構成員たちが立っている。
「コールは偶然にもいい判断をしたよ。アルス、君を『王』の相手に温存すると思っていたんだが。実は今『王』は動ける状況にない。いや、それとも、どうにかしてその情報を手に入れたのかい?」
「それをアンタに言う必要があるか? そもそも、オレがアンタを相手するのが確実だろう? 他の『六天』じゃタイマンだと確実に負けるからな」
実際のところ、コールは進軍中にスフィア・アヴニールが見た未来を参考に作戦を変更した。スフィアが見た未来では、しばらくの間『王』が参戦してこないのである。だとすればアルスをマティクに当て、他の部隊でカノン・グラキエスやその他の『ACE』幹部を倒しに行くのが得策だと考えたのである。マティクには知りようのないことであった。
「ま、なんでもいいか。それから、一つ訂正してもらおう。『他の『六天』じゃ負ける』、だって? 違うだろう、それは。
先手を仕掛けたのは、マティクだった。マティクが右手を上げ、広げて構えた途端突風が発生し始める。
アルスの体がマティクの方へと引き寄せられていく。『極限の収束』を応用したものである。周囲のありとあらゆる物体がマティクの手へと集まり、巨大な塊になる。
「アルス、君は自分の波導術についてどう思っている? 滅亡を再現する力など、人の身には余りあるものだと思ったことはないか?」
アルスは地面を踏みしめて引き寄せに逆らいながら、
「あるが? それがどうした。オレの身に余るからなんだ? 使いこなせばいいだけだ。そのための技術を教わってきた。そのための努力を重ね続けてきた。なぜそんなことを聞く? アンタにとっても当然のことだろう」
マティクの引き寄せの力が一層強くなる。アルスの足が浮き始めるが、全身を使ってなんとか抗い続けている。その姿を見ながらマティクは、
「君の努力についてはどうでもいいんだ。君のその過ぎた才能。それはこれからの世界に不要だ。人智の極みたるこの『
「やれるものならやってみるといい。アンタじゃオレには勝てやしない。人が発展させてきた数学? 継承してきた叡智? ヒトという種そのものを終わらせるこの力で捻り潰すだけだ。
『
空を割って降ってくる巨大な隕石。圧倒的な質量と速度がマティク目掛けて落ちてくる。
「いいのか? 君も巻き込まれるだろう」
「耐えられる自信があるんでな。それに、アンタの引き寄せのおかげでオレへのダメージは多少軽減されそうだしな」
アルスがニヤリと笑う。一方のマティクは嫌そうな、呆れたような顔を浮かべながら『極限の収束』の効果を消して隕石の対処に移る。
「やはり君は嫌いだ。やることなすこと規格外過ぎて他人には理解されなかったであろうことには同情するよ。でもそれも、今日までで済む。嬉しいだろ?
"
マティクが波導術を発動した瞬間、隕石の降下が止まる。上空にとどまったままゆっくりと星の表面に沿うように移動し始めた。
マティクが隕石を止めたその時、アルスは既に次の行動へと移っていた。アルスの体に溜められ、練り上げられていた波導が一気に放出され、超災害級の現象を発生させる。
「"
マティクの足下が盛り上がる。大地が揺れ、空気が熱くなる。地下から噴出する膨大な熱熱と質量。溶岩と火山灰が溢れたマティクを空中へ打ち上げる。熱と衝撃を防ぎながらマティクが地面へ目を向けると、アルスの姿はなく、計五つの火山が発生していた。その全ての火口から溶岩が覗いている。
マティクの頭上に移動していたアルスがマティクを地面へ蹴り落とし、
「マティク、アンタに聞きたいことはいくらでもある。だが、オレたちにはすべきことがあるんでな……
"
五つの火山が同時に噴火する。先ほどの五倍の溶岩と火山灰がマティクを包み込む。
単純な波導防御では確実に耐えられない威力と熱量。肉体が融けるほどの熱さに波導と根気のみで耐えながらマティクが波導術を発動する。
「"
自身を一時的に他者から干渉されない状態へと変化させる。しかし、このままでは攻撃が終わるより先にタイムリミットが来てしまう、そう考えたマティクはさらに波導術を発動させる。
「"
マティクは本来『数智の支配者』の能力を併用することはできない。しかし、彼が『ACE』で手に入れた魔獣核がそれを実現させていた。
マティクは周囲の熱と振動の様子を確認し、操作することで自身へのダメージを最小限に抑える。溶岩と火山灰を弾き、伝わってくる熱を遮断し続けた。
冷え固まった溶岩の上に立ち、アルスはマティクの肉体を探していた。溶岩に飲まれて動かなくなっているか、死亡していると考えたアルスは灰と溶岩を踏みながら波導で探知しようとしていた。
アルスが違和感に気づいた、その直後。
「"
膨大なエネルギーが超高密度に集まり、アルスの心臓一点に向けて放たれる。溶岩を貫通してアルスの胸が撃ち抜かれる。紅い鮮血が地面に垂れ、声を上げることもなくアルスはその場に倒れ込んだ。
倒れたアルスのそば、ところどころに火傷を負ったマティクが溶岩の下から這い出てきた。
「ふう、死ぬかと思った。流石だよ、アルス。予想以上の攻撃だった。でも、君の作り上げた伝説もここまでだ。自分より下の