『僕が失敗したら、君たちは死ぬことになるかもしれないけど、やってくれるかい?』
無線の先、ディクトの問いに対して、アルスは、
「ああ。このままじゃ勝てない。どんな方法であれ、デメリットであれ、ヤツを止められる可能性があるなら、オレたちは命を懸ける。当然だろう」
と返した。
彼の目線の先では、シエルとロゼが深く頷き、レレアがウインクしながら親指を立て、ブレンはニッと笑っていた。
『ありがとう、みんな。作戦は――』
数十秒後、上空に出現する波導の円。ジェーン・ジャンパーの波導術である。その円からブレンの手元に新たな無線機が落ちてきた。
アヴァリティアス騎士団五番隊隊長 テルズ・ヴォーチェが自身の波導術で繋いでいる無線機の一つだが、より音声が大きくなるように改造されている。
「よし、準備できたな。作戦開始だ!」
アルスの掛け声と同時、アルス、シエル、レレア、ブレン、ロゼの全員が動き出す。
五人に気づいた星導獣 ヴ・ドゥジュは波導を放出し始め、黒い肉体に走る光が強くなる。長い首の先、大きく開いた口に波導が集中していく。背の上の光輪が明るく輝き、荒野を照らす。
そして、
「キリキリキリ……ギバアアアア!!!」
放たれる超高密度の波導。星全体に影響が出かねないほどの破壊力、エネルギーを秘めた波導の球体。五人は迫る一撃をそれぞれの方向へ回避する。
爆風と衝撃波、土煙に巻き込まれながらも彼らは進む。
先陣を切るのは空を飛ぶ竜人、ロゼ・リュトモス。
彼女は空気中の水分を集めつつ、自身の波導を水に変換していく。そして地上では、
「この辺、かなー?」
レレア・クラインが『
その穴から噴き出す大量の地下水。レレアは噴き出しによる運動エネルギーを吸収しつつ、ロゼが波導を加えて飛び出した地下水を操作する。
上空に出来上がる膨大な量の水の塊。
地上では波導の奔流が迸り、黄色い閃光と青い電流が走っている。
ロゼ、レレア、シエルの波導を察知した星導獣は自身の波導を圧縮、高出力で放出する準備を始めた。
「ギギッ、ジジッ……、コォォオオオ」
空が荒れ、雲は極彩色に塗り変わっていく。隠れた太陽に代わって、より強く輝く白と黄金の輪。赤と青の閃光が黒い身体と灰色の雲を照らす。広げた翼にも波導が集まっていき、紫と黒が空間を染め上げる。
万物を終わらせる波導の嵐。
常人であればあらゆる感情が過去になるほどの絶望。
しかし、命懸けなど何時ものこと。戦場に生きてきた英雄たちと罪人の歩みは止まらない。
飛び出したのは地上を疾走する緑の影。
「"
その身体は竜ではなく人の形のまま、緑に輝く波導に覆われている。
"龍鱗極衣"。それは竜化の最終段階。人の形のまま波導により竜の鱗、肉体、翼を再現することで、竜化した体に波導を纏わせるより高出力、高耐久の性能を発揮する。
そしてさらに、
「我は嵐。我は大気。我は天空。
地上の万象、この手の内に――
『
文字通り空気が変わった。
波導が大気全体に満ちていく。
大地を浚う緑の風が吹き荒れる。
ブレンは星導獣のそばへと走り抜け、跳び上がる。落ちていくブレンの体。一瞬の出来事に、星導獣はただ見ていることしかできない。
風と波導の竜の身体が黒い霧に抗い、その中に道を切り開く。
霧を吸えば、ブレンはヒトでなくなる。魔獣との融合体というおぞましい存在に変わってしまう。
星導獣が黒い霧をより濃く、強く放出し始める。
「くっ、ぐうっ!」
吹き抜ける黒い風。緑の空気の層と竜の身体が徐々に削れていく。
逃げ場はない。
突き進む他にない。
ただ進む、誰よりも前に。
大切な仲間の、先頭に。
ブレン・リュトモスとは、そういう人間だ。
「おおっ!! うおらアッ!!」
黒く覆われた空間から、緑色の光が差す。そして、星導獣の頭に着いた彼の手には、特殊な無線機があった。
「やれ!! ディクト・ヴォーチェ!!」
無線越しブレンの声は、ハッキリとディクトの耳に届いていた。
「ああ。ありがとう、ブレン」
全身の神経に波導を流す。全身を巡る波導。喉に一際多く波導を集める。無線機を口に近づけ、そして、
「『――――』!!」
声にならない声。人から放たれたとは思えない音が響く。
『
ヒトとその他の生物、ヒトと魔獣、その垣根を超えて伝わる命令の音。相手に対してどうあるべきか、を押し付けるための振動。
その音は、ブレンが持つ無線の先にも届いていた。
無線から溢れだす音を聞いた星導獣の動きが止まる。硬直する肉体。流れない波導。
その隙に放たれる波導術。
空に浮かぶ水の塊が形を変える。とぐろを巻いた龍のような形へ変化した大量の水。ロゼの波導を含み、渦を作り上げながらながら襲い掛かる。
「『
透き通る水の龍の背後から黄色と青に光る閃光が走る。空気を焼き、爆音を轟かせるは、シエルの雷撃。
「『
澄々たる水と唸る電流が無防備な星導獣の身体を破壊する。
禍々しい角が折れ、黒い翼が落ちていく。ロゼとシエルの渾身の一撃では、星導獣の全身を消し飛ばしきれない。
しかし、削れた波導の肉体に、追撃が迫っていた。
吹き抜ける風、流れる水、熱を放つ電流。それらから無駄に消えるハズだったエネルギーを回収し、彼女はこれまでにないほどの波導を手に入れていたのだ。
「アタシの特大の一撃、ブチ込むよ!!
『
放たれた波導の砲撃。純粋なエネルギーの塊が星導獣の胴を撃ち抜く。
しかし、穴の空いた身体が動き出す。もとの形を取り戻そうとする星導獣は自身の最優先事項を外敵の排除と定めた。
ディクトの命令の効果が切れ、再び星導獣の波導が流れ始めるが、すぐに肉体の動きが止まる。散らばっていた隕石の瓦礫。その一つ一つが黒い体を押さえ込む。
「『
少し離れた場所に立っているバキラ。彼の波導術により足を止められた星導獣。
そこへ更なる重圧がのし掛かる。
「空気ってのは、集まりゃ重いんだよ」
圧縮された空気の圧力が体表を押し込める。星導獣の身体が縮むほどの超高圧を実現させているのはブレンの『
固定された星導獣。その頭上にはアルス・エルバートがいる。欠けた肉体で拘束に抗う星導獣だったが、頭を上に向けてアルスを迎え撃つ。口へ流し込み、圧縮された大量の星の波導。
ヒトを終わらせ、新たな生命を生み出すための魔獣。その全霊の一撃が放たれる。
対するアルスも全身の波導神経を励起させ、かつてない威力の波導術を放つ。
「オレは、滅びの力を以て、ヒトの滅びを遅らせよう。
"
超高速で移動する大質量の天体、暴走星。動エネルギーを取り出し、ただ一点にぶつける一撃。
果てしないエネルギー同士の衝突。大地が浮き上がり、天空が堕ちるかのような衝撃が星の全てを包み込む。
そして、破られたのは星導獣の波導放出。余りあるアルスが放ったエネルギーは星導獣の肉体を打ち砕き、その最奥に存在していた魔獣核を塵へと変えた。
解ける星の波導。
消えていく黒い霧。
無数の光が戦場に降り注ぐ。
その魔獣は、星の内側へと還っていった。