『王』が握った銃。そこから漏れる眩い光。
触れたものが消滅する弾丸。概念的には上回っているはずの俺の波導術さえ簡単に吹き飛ばす攻撃。それが連続して放たれる、その直前に――
「俺がすべきことはただ一つ……。撃たれる前に、ブッ壊す!!」
まだ見せていない奥の手。地下に走らせていた、俺の波導を含んだ溶岩。それが既に『王』の足元まで来ている。一気に地下から噴き出させて銃の破壊を狙う。しかし、『王』は銃を抱えて後退しながら回避、目の前で冷え固まっていく溶岩を見ながら銃を構えつつ、
「何かしらして来ると思ってい――」
溶岩の内側から噴き出す灰と炎。『王』は咄嗟に引き金を引くが間に合わない。灰が銃口を塞ぎ、炎が銃身を包み込む。
『王』が驚いているうちに一息で距離を詰め、火山灰とマグマでできた剣を振り抜く。
「"
融ける大地。燃える空間。舞い上がる白い炎と灼熱を放つ斬撃。波導により限界を超えた温度まで上昇した灰と炎が『王』の身体を焼き、俺の視界全体、周辺一帯が焦土に変わる。
煙が晴れ、俺の前に立っているのは全身に火傷を負い、顔の半分が焼け爛れている『王』。
だが『王』は、
「ふっ、ふはっ! ははははは!! ああ、そうか。こういうことだったのか。ヒトともに発生して何十万年、不老の肉体と敗北を知らぬ波導術ゆえ、苦悩はあれど苦痛はなかった!! これが、この痛みが……生きているということかァ!!」
空中に浮かぶ大量のマギア。最も警戒すべき『カオスビーター』も数十ほど出現していた。
「この数、受けきれるか……? いや、受けるしかないか」
全力で波導を神経に流す。光速の弾丸など避けられやしないのだから。高威力の攻撃で守りながら銃を破壊する……!
「"
"
焼け焦げた黒い大地とマグマを出現させて壁にして自分を覆い、その外側には紅色の炎と高温高圧のガスが満ちていく。擬似的な太陽を再現し、俺の身体に与えられる影響を抑えた攻防一体の波導術だ。
『王』は俺の守りを打ち砕こうと手を振り上げてマギアを起動させる。次々と放たれる数々の武器と波導の光弾。
交差する炎と武装が互いに反応して爆発していく。爆音と衝撃波が走り抜け、空気は失くなってしまうほどに小さく圧縮される。
時折、光弾によって消滅する炎と気体。隙をついて飛んで来るマギアを大地の壁で受け止めながら、波導をすぐに補充して炎を再生させて防御を保ち続ける。ジワジワと炎を広げてマギアの破壊を試みるが、『王』も負けじと攻撃の密度を上げてくる。
それから数十秒、拮抗した境界。
酷使し続けてきた波導神経が悲鳴を上げ始める。
狂い出す感覚、揺れる視界、止まない耳鳴り。
しかし『王』の波導術、その勢いは衰えるどころか増していた。
炎が押されていく。壁に直撃するマギアもかなり増え、だんだん削れていく。
どこかのタイミングで反撃しなければ、押し切られる。
敗北への焦りと疲労が汗となって額と頬を伝う。
「このまま、やられるくらいなら……!」
身体に残っている波導の殆どを叩き込む。壁が破られるのも無視して火に全力を注ぎ込む。
「うっ! かはっ!!」
腹に突き刺さる一本のマギア。穴から崩れていく壁。その外にある赤色の火――
「太陽に飲まれて、燃え尽きろ!!」
バーンモルトと『王』の激闘。その戦場から遠く離れたところで魔獣の処理を続けるアヴァリティアス騎士団ら。彼らの瞳に映ったのは、赤く光る二つ目の太陽。地上に産まれた輝く星が爆発する。
「「うわああっ!!」」
爆風と熱、衝撃が騎士団にさえ伝わる。指揮を執っていたアヴァリティアス騎士団本局局長、コール・ポーターは、
「何事だ!! 全員無事か!?
アルスたちはクソデカ魔獣に勝ったはずだろ? 一体、誰が何を……」
「見えたよ。あれは……『王』? それにもう一人、白髪の……」
『
「バーンと『王』が戦ってるはず。未来はまだ……ごめんなさい、分からない。さっきからいろんな未来が入り交じって、まるで一つに定まらない」
未来視によってある程度の情報を把握したスフィア・アヴニールだったが、二人の決着については見えずにいた。
『王』とバーンモルト、二人とも未来に関わる波導術を使っているため、定められた未来・運命は既に崩壊している。彼女の瞳が特殊な機能を失うほど、世界は狂い始めていた。
そのとき、コールが持っていた無線機に連絡が入った。
『オレだ、アルスだ。とりあえず全員無事だ。さっきまでここにいたバキラ・オードはどこかに消えたが。今の爆発は何だ』
「バーンモルトと『王』の戦闘のようだが……。キュラ、今はどうなってる」
「さっきの一瞬以降見えないねぇ。爆発の余波か何か、煙とかが酷くてもう全然」
「……だそうだ。アルス、そっちの誰かしら協力しに行けそうか?」
『悪いが無理だな。なんならこっちに人が欲しいくらいだ。全員怪我と疲労でほとんど動けん』
「そうか。いや、お前らはよくやってくれた。こちらでなんとか、なんて無理か」
『……信じることしか出来ない時もある。その度に自分の不完全さを突き付けられる。アンタもそうだろ?』
「そうだな。信じるしかねぇか。目の前のことでギリギリだってのに。最悪な事はいつだって最悪な時に来やがる。どうしようもねえことばっかりだ。せめて、どうにかできることはやらないとな。
アルス、お前らへの指令は一つだ。必ず戻ってこい!」
『ああ、了解した』
無線を切り、コールは空を見上げる。
「これまで、散々な目に遭ってきたお前にとっては酷かもしれんが。お前を待ってる奴らがいるんだ。どうか、勝って戻ってきてくれ、バーンモルト……!」
大爆発の後、俺はすぐに起き上がった。隙を見せれば死ぬ、そう直感したのだ。
そして腹に刺さったマギアを抜いて気づいた。
「ゼクシオン……」
その槍の形をしたマギアは、以前俺が使っていたゼクシオンを再現したものだった。
腹にできた傷を炎で焼きながらゼクシオンを握り直す。その直後、俺に飛んできたのは数十の武器。ゼクシオンと炎で防御する。
煙が晴れ、そこにいたのは全身に傷を負った『ACE』の『王』。呼吸は荒く、もとより異形だった顔は火傷によりさらに歪んでいた。
「ぐっ、ふう……バーンモルト、まだ我が前に立ち塞がるか……。いや、それでこそ我が最大の壁か」
『王』の背後に出現する大量の武器。しかし、その数はこれまでと比べて少なくなっている。恐らく波導神経を損傷したのだろう。
しかし、俺も重傷だった。腹に空いた穴の他にも、身体中に傷ができている。全て止血しているものの、かなりの筋肉が断裂しているのも相まってあらゆる行動に支障が出てしまう。そのうえ、俺に残された波導は残り少なく、神経の状態もあまり良くない。
そうして始まった俺と『王』の最終ラウンド。今にも倒れてしまいそうな体を意地で起こし、
「"
灰で覆って無理矢理動かす。握ったゼクシオンと黒い灰の触手で『王』が飛ばしてくる武器を弾き、襲い掛かってくる魔獣を倒していく。
一方の『王』は一歩も動かない。正確に言うなら、動けないのだろう。
『王』の左足は既になく、左手で杖のようなものをついてなんとか立っている。右手には厄介な銃を携え、何度も俺を狙って弾丸を発射してくる。灰や炎で相殺しているものの、いつ撃ち抜かれてもおかしくない程度にはギリギリだった。
『王』は手に持った銃から光速の波導の弾丸を放ちつつ、背後に展開した無数の武器を飛ばしてくる。弾丸を灰で受け止め、両者が消滅。右手に握ったマギアと灰の触手を振り回してその他の武器を弾き飛ばす。空中から襲い掛かってくる魔獣を回避しながら前へ走り続ける。
次第に縮まる距離。
より多くの武器が『王』から放たれる。
間を縫うように進むが、時折先端が体を掠める。
正面から飛んで来る三本の槍。上下左右にも武器が舞っていた。
逃げ場がない……!
そのとき、ふと吹いた冷たい風。
飛来した武器が凍り、止まって砕けた。
避けて、受けて、走って。
辿り着いた『王』の目の前。
向けられる銃口。
放たれる弾丸。
それを受け止めたゼクシオンが塵も残さず消えていく。
そして、俺の左手が『王』に触れ――
掌から伸びた灰の槍が、その心臓を貫いた。