目が覚めた。視界いっぱいに広がる青空。
「ここは、どこ?」
私は、死んだはずだ。バーンに全部託して。
体を起こすと、被っていた灰がサラサラと落ちていく。身体中についていたはずの傷はいつの間にか直っているし、胸に手を当ると確かな鼓動がある。
「なんで……?」
ポツリと呟く。心臓に埋め込まれていた魔獣核の能力は確かに発動したはずだ。自分の命と引き換えに、自身の波導と生命力を増幅させて譲渡するという能力。
なのに私は生きている。ふと周りを見ると、荒れた大地に大小様々な花が咲き誇っている。その根元には、きっとバーンが蒔いたであろう灰があった。
「もしかして、バーンの灰の能力だったりするのかな……」
不死鳥は灰から蘇るというし、花咲か爺さんも灰を蒔いたら桜が咲いたというし、灰は生命力の象徴なのかもしれない。
全身に付いた灰を払いながら立ち上がる。生き残ったはいいものの、これからどうしようかな。『ACE』としての罪を償うしかないけれど。私は基本的に前線に立たせてもらえなかった。『王』は私を貴重なサンプルだとして監視下に置いておきたかったからだろう。とはいえ、私が『ACE』の一員であったことに変わりはない。相応の罰を受け、罪を償うべきだろう。
「えっと……、アヴァリティアスはあっちかな」
ゆっくりと歩き出す。意外にも体が軽い。傷は治っているし波導もある程度回復している。波導術も問題なく使えそうだ。
「バーンに会いたいな……。でも、迷惑かな……」
せめてこのお礼くらいは言いたい、そう思っていると、
「叶えてあげましょうか? 彼のいる病院なら知ってるから」
「ふわあっ!?」
銀髪のフワフワした髪を靡かせた女性が後ろから突然声をかけてきた。バーンと一緒に装置に閉じ込められていた『
「っ、何で貴女がこんなところに?」
右手に氷を纏わせながら聞く。いざとなれば少しは殴っても命には関わらないだろう。
「一応、戦場跡に何かないか見に行くよう指令があってね。それであなたがいたわけなのだけれど……。
聞いた話だとあまりあなたはアヴァリティアスに手を出していないみたいだし、バーンモルトが『王』に勝てた一因でもあるみたいだし。せっかくだから少し話がしてみたくてね」
戦う意思はないことを示すかのように両手を上げながら言うクラリス。私も氷を消し、波導を収める。
それにしても、
「そっか……! バーン、勝ったんだ……! よかったぁ……!」
「ええ。彼なら今は病院で怪我の治療中よ。治ったら騎士団に復帰、新しくなる二番隊の隊長を務める予定よ。まだ正式には決まっていないけれど。
それで、私からあなたに聞きたいことは二つ。
一つ目、あなた、これからアヴァリティアスと敵対することはある?」
「ないよ。断言できる。というか……今の私には夢も目的もないや。『王』を倒して、バーンが幸せに生きていければ、それで……」
本当に?
バーンとの戦いの後、一瞬だけ考えてしまったことがあった。でも、それは強欲すぎる。
そんなことを考えているうちに、クラリスが話の続きを始めた。
「そう。二つ目は、『まだ生きてやりたいことがあるか?』だったんだけど、聞かないわ。その顔を見れば分かるもの。未練とか、後悔とか。『
ねえ、カノン・グラキエス。バーンモルトと一緒に生きる方法があるわ。あなたには、きっと苦難が待っているけれど」
「構わないよ。昔、バーンといた頃だって、辛い実験の中で生きてきたから」
「そう言うと思った。あなたにも魔獣核が埋まっているそうだしね。当然のことだけれど、アヴァリティアス国民のあなたへの視線は冷たいでしょう。そのうえでアヴァリティアスのために活動することになるけれど、できる?」
「できるよ。だって、バーンが好きな国だから。それに別にアヴァリティアスに悪い印象はないし、私が疎まれるのは仕方ないし。
でも、いいのかな。私、望み過ぎじゃないかな……」
「どうせ一度きりの人生よ。折角なら、望んだこと全部したいでしょう。それが誰かに迷惑をかけるものじゃない限り、私は肯定するわ。ほら」
そう言ってクラリスは手を伸ばす。風に吹かれて流れる銀の髪。
私は、信じてみたい。やり直したい。もっと、バーンのそばにいたい。
「ありがとう、クラリス・ヴェリテ」
外で舞う雪、白く染まっていく街。病室の窓から入り込む冷たい風。
外の景色を眺めていると、ガラガラと扉が開く音がした。
振り返る。
目を見張る。
感情に思考が追いつかない。
疑問よりも喜びが先に来る。
記憶に焼き付いた銀色の髪が小さく揺れる。
はにかむような笑顔の彼女の後ろには、ニマニマと笑った顔のクラリスと少しばかり不満げなコール。
一歩、彼女は踏み出して、
「これから、改めてよろしくね? バーン」