午前八時過ぎ、扉を開けて教室へ入る。クラスには若干の緊張感が走っている。別に俺が原因ではない。今日から少し訓練が増えるからだ。
増える理由は一週間後に控えた『
『討伐合宿』とは、五日間『
午後の訓練が終わり、教員がこの一週間、夜はしっかり寝るように伝えている。俺も深夜のトレーニングは控え、疲労解消に努めよう。
一週間後。アヴァリティアス東部の小さな都市、ダインの端。山と森に囲まれた『導脈』近くで『討伐合宿』が始まった。同学年の生徒と教員、サポート及び緊急時の対応をおこなう騎士団員もいる。
三十分ほどの説明を受けた後、実習開始だ。本来であれば五、六人で班を組んで臨むのだが、俺はハブられた。教員もあまり気にしていない。学校全体にドームの一件は広がっている。不名誉な呼び名であった『学園最弱』はさらに不名誉な『学園最弱・最悪のクズ』に変わった。
それゆえ実習中は単独行動だ。俺としても都合がいい。全力で魔獣を狩って核を手に入れる。
あまり人が来ない森の中へ入ってすぐに体長三メートルほどの犬型の魔獣と遭遇する。
魔獣が向かってくる。噛みつきを避けて灰の槍で刺す。一撃だ。
灰外殻を使いこなすための練習もしておきたい。それと、
その後も森で狩りを続けた。収穫は魔獣核十個。まだ少し時間がある。
サブルとの戦闘の直前、俺はキメラの魔獣核を喰った。その際、波導神経が強くなった感じがした。本来、人間が魔獣核を体内に取り込めば拒否反応で即死する。俺が死ななかった理由には思い当たるものがある。確実ではないが、強くなれるのなら。
魔獣核の一つを喰らう。
猛烈な吐き気がする。なんとか飲み込むと体が熱くなる。神経が燃えるようだ。全身を襲う痛みに耐えること数分。
症状は嘘のように消えた。さらに、やはり波導神経の質が上がっている。
他の核も口に運ぼうとして、やめた。しばらくの間は一日一個にしておこう。二個以上取り込めるのか不安に感じた。
核をしまい、集合場所へ向かう。全員が集まった後、近くにある騎士団所有の施設へ移動し、夕食と入浴を済ませ、早々に眠りについた。
次の日の朝。身支度をして朝食会場へ向かう。食事はかなり広い部屋でバイキング形式だ。生徒たちもぞくぞくと入ってきた。半数は眠そうな、もう半数はスッキリとした顔をしている。
料理の並んだトレイを運んで席に着く。一人席がないので仕方なく四人掛けのテーブルでパンをかじっていると、
「あなた一人? 相席いいかしら?」
クラスメイトではない女子が話しかけて来た。金色のフワフワしたロングヘアに赤い瞳。名前も知らない相手だが、断る理由は特にない。
「ああ、どうぞ」
「ありがとう、失礼するわね。どう、食べながら少し話さない?」
「まあ構わないが。俺はアッシュ。よろしく」
「私はクラリス。クラリス・ヴェリテ。さて、あなたにいくつか聞きたいことがあるの」
「答えられるものであれば」
「じゃあ一つ目。あなたって弱いの?」
いきなりなかなかスゴイこと言うな。俺がそっちの立場なら一発目で聞かない。
「ああ、弱い」
「……二つ目。昨日は何体魔獣を倒したの?」
「ゼロ」
一つ上の位に一がつくが。
「そう。少し違う質問をするわ。あなた、現状に満足してる?」
「満足か。してないね。でも、受け入れてはいる」
今のところ嘘しか言ってない。こちらとしても答えやすい質問をしてほしいのだが。
クラリスがナイフとフォークを動かす手を止めて、俺を見つめる。
「最後の質問。ドームでの特別講義の日、どこで何をしていたの?」
「近くのコンビニ。飲み物買った後は周りをぶらついてた」
「……分かったわ。ありがとう。あなたも何か聞きたいことある?」
「なら、一つだけ。なんで俺に話しかけたんだ?」
「あなたに興味があったから。どんな人か知りたかったの。噂通りの人物なのか確かめたかったし」
「そうか。じゃあ、俺はもう行くよ。」
空になった皿を乗せたトレイを持ち上げて立ち上がる。クラリスの皿にはまだ料理が残っている。
「ええ、さようなら。また会いましょう?」
そう言った彼女は、少し不気味な笑みを浮かべていた。
二日目の実習が始まった。今日はもう一つのマギアを使おうと思っていたところ、丁度いい相手が現れた。同じ魔獣が複数いる。
『
魔獣が俺目掛けて飛びかかる。体長三メートル、狼のような形をしている。
噛みつきを横に回避し胴体を狙う。別の個体が避けた先で襲ってくる。俺は空中へ飛び、襲ってきた二匹に灰の槍を投げる。着地した瞬間に噛みつきに来た三匹を灰外殻で串刺しにする。
周囲にはおよそ十匹。警戒しているのか、一定の距離を保って動かない。その隙にマギアを展開する。
「『ヴェルザ』、起動」
出現したのは片手剣。グリップの上、ガードの中心には黒色の魔獣核が埋め込まれている。
周囲の魔獣が一斉に襲い掛かってくる。
俺は自身を囲うように剣を一閃する。
勝敗は決した。全ての個体が真っ二つになっている。
ヴェルザの正体は蛇腹剣。波導を流すことで伸縮自在、最大まで伸ばした時のリーチは約十五メートルだ。
その後もヴェルザを使って魔獣を倒していく。しばらくして木陰で昼食をとっていたとき、事件は起きた。
二日前、ダインの廃ビル。一週間ほど前までゼリアにいた『ACE』の部隊はダインに移動し、次の作戦の段取りを確認していた。
「バルバ、お前は絶対に計画通りに動け。ストレスだ」
トロンが眉間にシワを寄せている。
「そう言われてもなあー。まあ気を付ける」
バルバは不満げに言い、つまらなそうに欠伸を出している。
「次。キュラは作戦位置から二十キロ離れたこの山の頂上だ」
「あいよー。バッチリ見とくからー。トロンは前線かい?」
キュラ、と呼ばれたピンクのツインテールの女性が聞くと、
「ああ。戦闘部隊を二つに分ける。片方は俺とバルバの担当だ」
「ほーん。もう片方は?」
「ソヌスさんだ。今回の作戦はあの人主導だ」
「それ本当か!? 幹部まで来るのかよ! やる気出てきたあー!」
唐突にバルバが叫び、キュラがしかめっ面で耳をふさぐ。トロンの眉間のシワが深くなる。
「騎士団はかなり警戒しているはずだ。四番隊と戦うことになる。タマゴの用意は終えているが、……三番隊まで出てくると勝率は五分くらいだ。イレギュラー次第では撤退する」
「『
「あの人が言うには、まだ機を待て、とのことだ。俺たちもやれるだけのことはやるぞ。『人類の進化のために』、な」