俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

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主人公くんちゃんを女の子の体に慣れさせるために時間を早回しします


第10話

数週間後。

 

「フィアナ!そっち行った!」

 

森の中からミリアの声が飛ぶ。

俺は振り向く。

次の瞬間、茂みから飛び出してきた巨大な猪を視界に捉えた。

 

《フォレストボア》

 

アレド周辺では比較的よく見かける魔物だ。

ゲームでは序盤の強敵枠として設定していた。

 

「任せろ!」

 

俺は右手を掲げ、魔法陣を思い浮かべる。

次の瞬間、光の矢が放たれた。

 

《ホーリー・アロー》

 

猪の突進が僅かに逸れる。

その隙を逃さず。

 

《スラッシュ》

 

明弘――アレックスが飛び込んだ。

一閃。

巨大な身体が横倒しになる。

土煙が舞う。

 

──戦闘終了。

 

「よし!」

 

ルークが拳を握る。

 

「今日も勝った!」

 

「ルークって、最後ほとんど何もしてないよね?」

 

ミリアが呆れる。

 

「そんなことない!」

 

「最初に転んでたじゃない」

 

「戦術的撤退だ!」

 

「転倒だな」

 

俺が言う。

 

「転倒だな」

 

明弘も頷く。

 

「ひどい!」

 

「ひどくないでしょ!」

 

森に笑い声が響いた。

 

 

薬草採取依頼、害獣駆除依頼、荷馬車護衛依頼。それに迷子捜索依頼まで。

俺たちは、その後も様々な依頼をこなしていった。

 

最初は単なる偶然だった。

だが何度か一緒に依頼を受けるうちに、自然と四人で組むことが増えた。

 

ルークはガキ大将みたいな見た目に反して、根は真面目な奴だ。

少々空回りするが努力家でもある。

毎日欠かさず剣を振っている。

 

ミリアは弓使いで魔法も少し使える。

ゲームならば「レンジャー」ってところか。

知識量は豊富で、意外と冷静だ。

暴走するルークの手綱役でもある。

そんな二人と行動する時間は、思った以上に居心地が良かった。

 

 

「すげえ……」

 

ある日のギルド訓練場。

ルークが呆然と呟いた。

 

俺の前には訓練で怪我をした冒険者たちが並んでいる。

淡い光が彼ら全員を包み込む。

 

「助かったよ嬢ちゃん!」

 

「いつも悪いな!」

 

「また上達してる」

 

ミリアが驚いていたが、俺自身も驚いている。

日に日に魔法の扱いが上手くなっているような気がする。

この世界にもレベルはあるのだろうか?

 

「これ本当に初心者冒険者かなあ?」

 

ミリアが疑わしそうに聞く。

 

「さあな」

 

俺は誤魔化す。本当のことを言っても信じてもらえるはずも無いし。

この世界の製作者は俺たちです。自分が作った世界に来ました。

──なんて、頭がおかしい奴だと思われる。

 

 

「アレックス!」

 

荷車護衛中のこと。

ルークの叫びが響いた。

街道脇の茂みから飛び出してきた男たちが、一斉に荷車へ向かってくる。

 

盗賊だ。

最近この辺りで活動している連中らしい。

 

「止まれ!」

 

先頭の男が剣を振り上げる……が。

 

「遅い」

 

アレックス――明弘が剣を一閃した。

 

《スラッシュ》

 

鋭い一撃が盗賊の剣を弾き飛ばした。

続けざまに身を翻す。

二人目。

三人目。

盗賊たちは何が起きたのか理解する前に武器を失っていた。

 

「なっ……!」

 

「こいつ強ぇぞ!」

 

盗賊たちの顔色が変わる。

俺も何度見たか分からない光景だった。

明弘自身はまだ完全に慣れていないらしいが、その身体は戦い方を知っている。

ゲームで設定したモーションそのままに敵を切り伏せる。

 

ゲームの主人公だった『アレックス』の力は現実でも本物のようだ。

勝ち目が無いことを悟った盗賊の一人が背を向ける。

 

「逃げるぞ!」

 

その一言で残りも散り始めた。

ルークが呆れたように肩をすくめる。

 

「終わったな」

 

「みたいだな」

 

俺も息を吐いた。

荷車の御者が青ざめた顔で何度も頭を下げている。

盗賊は取り逃がしてしまったが、荷車は守り切った。護衛依頼は成功だろう。

 

「なんか主人公みたいだな」

 

俺が言う。

 

「主人公だろ」

 

明弘が肩を竦めつつ即座に返した。

少なくとも見た目だけなら、誰が見ても物語の主人公そのものだな。

 

 

依頼帰り、四人で市場を歩く。

夕暮れのアレドは賑やかだった。

 

「あ!」

 

ミリアが声を上げる。

果物屋の前で立ち止まった。

見覚えのある顔が手を振る。

 

「おーい!」

 

商人のバルドだ。

 

「最近よく見かけますね」

 

「冒険者は上客ですからな!」

 

相変わらず明るい親父だ。

俺たちは果物をいくつか買うことにした。

もちろん借金はとっくに返済済みだ。

あの日の入城税のことは、今では笑い話になっている。

 

「最近噂ですよ」

 

バルドがりんごを磨きながら言った。

 

「噂?」

 

ルークが首を傾げる。

 

「銀髪の神官様と黒髪の剣士」

 

嫌な予感がした。

 

「西区画の酒場じゃ結構有名です」

 

「やめてくれ」

 

俺は頭を抱える。

 

「いや本当に」

 

バルドは笑った。

 

「若いのに強いし、依頼達成率も高いですから」

 

ルークが誇らしそうに胸を張る。

 

「だよな!」

 

「ルークのことじゃないでしょ!」

 

ミリアが即座に突っ込む。

ルークは分が悪くなったのを悟ったのか、唐突に話題を転換した。

 

「そういや聞いたか?」

 

「何を?」

 

ミリアが首を傾げる。

 

「領主様の一人娘の話だよ」

 

その言葉に俺は少し反応した。

領主の娘……確かエリシアだったか?ちゃんと存在するんだな。

最近ゲームとの違いばかり見過ぎてて、同一設定を知って少し安堵する。

 

「最近、隣領へ出かけた帰りに魔物に襲われたらしい」

 

「大丈夫だったの?」

 

「そこが凄いんだよ」

 

ルークが身振りを交えて続ける。

 

「護衛の騎士もいたらしいんだけど、見たこともない黒い化け物が出てきたらしくてさ」

 

黒い化け物……あの時のあいつか。

アレックスも少しだけ眉を動かした。

 

「それで?」

 

ミリアが先を促す。

 

「たまたま通りかかった旅の魔術師が助けたんだってさ」

 

「へえ」

 

「すごい偶然だね」

 

ミリアが感心したように言う。

ルークは大きく頷いた。

 

「その魔術師、めちゃくちゃ強かったらしいぞ。護衛が歯が立たなかった魔物を一人で倒したとか」

 

「本当かなあ」

 

ミリアは半信半疑のようだ。

 

だが俺は、内心少し安堵していた。

領主の娘を助けるなんて、テンプレ中のテンプレ展開だ。

ゲームでも設定していないそんなイベント、巻き込まれたら絶対面倒になるに決まってる。

 

幸い今回は違ったらしい。

どこかの旅の魔術師が解決してくれた。

だったら俺たちが巻き込まれることもないだろう。

 

「良かった……」

 

俺はつい何気なく呟いてしまった。

 

「ん?」

 

ミリアが怪訝な顔でこちらを見る。

 

「いや、無事だったなら良かったなって」

 

俺は慌てて取り繕った。

こんな他愛無い話が、数か月後に俺たちの運命を大きく変える前兆だとは

その時は微塵も思っていなかった。

 

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