俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
数週間後。
「フィアナ!そっち行った!」
森の中からミリアの声が飛ぶ。
俺は振り向く。
次の瞬間、茂みから飛び出してきた巨大な猪を視界に捉えた。
《フォレストボア》
アレド周辺では比較的よく見かける魔物だ。
ゲームでは序盤の強敵枠として設定していた。
「任せろ!」
俺は右手を掲げ、魔法陣を思い浮かべる。
次の瞬間、光の矢が放たれた。
《ホーリー・アロー》
猪の突進が僅かに逸れる。
その隙を逃さず。
《スラッシュ》
明弘――アレックスが飛び込んだ。
一閃。
巨大な身体が横倒しになる。
土煙が舞う。
──戦闘終了。
「よし!」
ルークが拳を握る。
「今日も勝った!」
「ルークって、最後ほとんど何もしてないよね?」
ミリアが呆れる。
「そんなことない!」
「最初に転んでたじゃない」
「戦術的撤退だ!」
「転倒だな」
俺が言う。
「転倒だな」
明弘も頷く。
「ひどい!」
「ひどくないでしょ!」
森に笑い声が響いた。
◇
薬草採取依頼、害獣駆除依頼、荷馬車護衛依頼。それに迷子捜索依頼まで。
俺たちは、その後も様々な依頼をこなしていった。
最初は単なる偶然だった。
だが何度か一緒に依頼を受けるうちに、自然と四人で組むことが増えた。
ルークはガキ大将みたいな見た目に反して、根は真面目な奴だ。
少々空回りするが努力家でもある。
毎日欠かさず剣を振っている。
ミリアは弓使いで魔法も少し使える。
ゲームならば「レンジャー」ってところか。
知識量は豊富で、意外と冷静だ。
暴走するルークの手綱役でもある。
そんな二人と行動する時間は、思った以上に居心地が良かった。
◇
「すげえ……」
ある日のギルド訓練場。
ルークが呆然と呟いた。
俺の前には訓練で怪我をした冒険者たちが並んでいる。
淡い光が彼ら全員を包み込む。
「助かったよ嬢ちゃん!」
「いつも悪いな!」
「また上達してる」
ミリアが驚いていたが、俺自身も驚いている。
日に日に魔法の扱いが上手くなっているような気がする。
この世界にもレベルはあるのだろうか?
「これ本当に初心者冒険者かなあ?」
ミリアが疑わしそうに聞く。
「さあな」
俺は誤魔化す。本当のことを言っても信じてもらえるはずも無いし。
この世界の製作者は俺たちです。自分が作った世界に来ました。
──なんて、頭がおかしい奴だと思われる。
◇
「アレックス!」
荷車護衛中のこと。
ルークの叫びが響いた。
街道脇の茂みから飛び出してきた男たちが、一斉に荷車へ向かってくる。
盗賊だ。
最近この辺りで活動している連中らしい。
「止まれ!」
先頭の男が剣を振り上げる……が。
「遅い」
アレックス――明弘が剣を一閃した。
《スラッシュ》
鋭い一撃が盗賊の剣を弾き飛ばした。
続けざまに身を翻す。
二人目。
三人目。
盗賊たちは何が起きたのか理解する前に武器を失っていた。
「なっ……!」
「こいつ強ぇぞ!」
盗賊たちの顔色が変わる。
俺も何度見たか分からない光景だった。
明弘自身はまだ完全に慣れていないらしいが、その身体は戦い方を知っている。
ゲームで設定したモーションそのままに敵を切り伏せる。
ゲームの主人公だった『アレックス』の力は現実でも本物のようだ。
勝ち目が無いことを悟った盗賊の一人が背を向ける。
「逃げるぞ!」
その一言で残りも散り始めた。
ルークが呆れたように肩をすくめる。
「終わったな」
「みたいだな」
俺も息を吐いた。
荷車の御者が青ざめた顔で何度も頭を下げている。
盗賊は取り逃がしてしまったが、荷車は守り切った。護衛依頼は成功だろう。
「なんか主人公みたいだな」
俺が言う。
「主人公だろ」
明弘が肩を竦めつつ即座に返した。
少なくとも見た目だけなら、誰が見ても物語の主人公そのものだな。
◇
依頼帰り、四人で市場を歩く。
夕暮れのアレドは賑やかだった。
「あ!」
ミリアが声を上げる。
果物屋の前で立ち止まった。
見覚えのある顔が手を振る。
「おーい!」
商人のバルドだ。
「最近よく見かけますね」
「冒険者は上客ですからな!」
相変わらず明るい親父だ。
俺たちは果物をいくつか買うことにした。
もちろん借金はとっくに返済済みだ。
あの日の入城税のことは、今では笑い話になっている。
「最近噂ですよ」
バルドがりんごを磨きながら言った。
「噂?」
ルークが首を傾げる。
「銀髪の神官様と黒髪の剣士」
嫌な予感がした。
「西区画の酒場じゃ結構有名です」
「やめてくれ」
俺は頭を抱える。
「いや本当に」
バルドは笑った。
「若いのに強いし、依頼達成率も高いですから」
ルークが誇らしそうに胸を張る。
「だよな!」
「ルークのことじゃないでしょ!」
ミリアが即座に突っ込む。
ルークは分が悪くなったのを悟ったのか、唐突に話題を転換した。
「そういや聞いたか?」
「何を?」
ミリアが首を傾げる。
「領主様の一人娘の話だよ」
その言葉に俺は少し反応した。
領主の娘……確かエリシアだったか?ちゃんと存在するんだな。
最近ゲームとの違いばかり見過ぎてて、同一設定を知って少し安堵する。
「最近、隣領へ出かけた帰りに魔物に襲われたらしい」
「大丈夫だったの?」
「そこが凄いんだよ」
ルークが身振りを交えて続ける。
「護衛の騎士もいたらしいんだけど、見たこともない黒い化け物が出てきたらしくてさ」
黒い化け物……あの時のあいつか。
アレックスも少しだけ眉を動かした。
「それで?」
ミリアが先を促す。
「たまたま通りかかった旅の魔術師が助けたんだってさ」
「へえ」
「すごい偶然だね」
ミリアが感心したように言う。
ルークは大きく頷いた。
「その魔術師、めちゃくちゃ強かったらしいぞ。護衛が歯が立たなかった魔物を一人で倒したとか」
「本当かなあ」
ミリアは半信半疑のようだ。
だが俺は、内心少し安堵していた。
領主の娘を助けるなんて、テンプレ中のテンプレ展開だ。
ゲームでも設定していないそんなイベント、巻き込まれたら絶対面倒になるに決まってる。
幸い今回は違ったらしい。
どこかの旅の魔術師が解決してくれた。
だったら俺たちが巻き込まれることもないだろう。
「良かった……」
俺はつい何気なく呟いてしまった。
「ん?」
ミリアが怪訝な顔でこちらを見る。
「いや、無事だったなら良かったなって」
俺は慌てて取り繕った。
こんな他愛無い話が、数か月後に俺たちの運命を大きく変える前兆だとは
その時は微塵も思っていなかった。