俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
アレドへ来てから、半年ほどが過ぎていた。
「はい、依頼達成確認しました」
受付嬢のマリーが書類へ判を押す。
俺たちは午前中に終えた薬草採取の報酬を受け取っていた。
最近ではこうした手続きもすっかり慣れたものだ。
「次はどうする?」
明弘――アレックスが依頼掲示板へ視線を向ける。
「午後からなら護衛依頼があるな」
「俺は遠出したくない」
「おい、昨日も同じこと言ってただろ」
そんなやり取りをしていた時だった。
受付カウンターの奥から、一人の男性職員が慌てた様子で現れる。
「マリーさん!」
「どうしたんですか?」
「至急案件です」
そう言って差し出された封筒を見た瞬間、マリーの表情が固まった。
「……え?」
マリーが封筒と俺を見比べる。
もう一度見る。そしてまた俺を見る。
どうも嫌な予感がする。
「何ですか?」
恐る恐る聞く。
マリーは数秒迷った後、口を開いた。
「フィアナさん」
「はい」
「領主家から指名依頼です」
俺は思わず固まった。
明弘も固まる。
ルークとミリアも固まる。
「は?」
全員の声が重なった。
◇
「いやいやいや」
ギルドの隅のテーブル。
俺は頭を抱えていた。
「絶対間違いだろ」
「私も最初そう思いました」
マリーが困った顔で答える。
だが依頼書には確かに書かれていた。
『依頼主:アレド領主家』
『指名対象:アレド冒険者ギルド所属 冒険者フィアナ』
どう見ても俺だな。
「なんでフィアナなんだ?」
ルークが不思議そうに聞く。
「そりゃお前」
明弘が肩を竦める。
「回復魔法だろ」
その言葉に周囲も納得したような顔になる。
確かに最近、回復魔法を使う機会は増えていた。
冒険者の怪我。街の診療所の手伝い。薬師ギルドからの協力依頼。
最初はただ金を稼ぐためだった。
最初のやらかしもあり、気付けば、アレドの冒険者たちの間で
『回復が異常に上手い神官』として認識され始めていたらしい。
「それでも領主家は飛躍しすぎだろ……」
俺はため息を吐く。
するとマリーが依頼書をめくった。
「詳しい内容は当日説明とのことです」
「書いてないのか?」
「はい」
余計に不安になる。
普通の依頼ではないらしい。
「断れないのか?」
俺が聞くと、マリーは首を傾げた。
「断ること自体は可能ですよ?」
「可能なのか」
「ただ……」
言い淀む。
「領主家からの依頼を断る冒険者はあまりいませんね」
「だろうな……」
民主主義の日本人としちゃ、ファンタジー世界のお貴族様なんぞ関わりたくないんだがな……。
どうやらテンプレ回避は失敗したようだ。
◇
その日の夕方。
宿へ戻った後も落ち着かなかった。
「どう思う?」
ベッドへ寝転びながら聞く。
向かいでは明弘が本を読んでいた。
本が一般的な世界設定にしておいて本当に良かったな。
「分からん」
即答だった。
「病気の治療とかじゃないか?」
「まあ、普通に考えてそれしかないか」
高位神官級の魔力。
その噂が領主家まで届いた。
そう考えると自然ではある。
「そもそもの話、領主の娘が病気になるなんてイベント、俺たちは設定していない」
「ゲームに設定していないって話なら、ルークたちもそうだし、この宿だってそうだって話だぞ?」
「そうだが、なんか嫌な予感するんだよな」
「嫌な予感って?」
「ほら、最初の時にあった影の魔物。あれ、後半の敵として設定したシャドウ系とも違うだろ。あれと戦った時も何か嫌な感じがしたんだよな」
影の魔物。
ゲームにない出来事。
少しずつ増えている違和感。
俺たちはまだその正体を掴めていない。
だからこそ不安だった。
「まあ」
明弘が本を閉じる。
「行くしかないだろ」
「そう、だな」
結局それしかない。
◇
その翌日。
俺は市場へ連行されていた。
犯人はミリアである。
「なんで俺が」
「フィアナ!」
ミリアが真顔で言った。
「領主様に会うんだよ?」
「そうだけど」
「その格好で?」
俺は自分を見る。いつもの神官服だ。
多少使い込まれてはいるが清潔ではある。
問題ないと思う。
だがミリアは納得していなかった。
「絶対駄目!」
「そんなに?」
「そんなに!」
断言された。
結局、俺は半ば強制的に服屋へ連れて行かれることになった。
◇
ミリアに連れてこられたのは、女性向けの服屋。
入った瞬間、帰りたくなった。
「いらっしゃいませ」
店員の笑顔が眩しい。
「こっちの女の子の服を探してるんです」
ミリアが俺を前へ押し出す。
「領主家へ行くので、それに相応しい服を着ていかないといけなくて」
店員の目が輝いた。
逆に俺は遠い目をしてしまった。
「まあ!」
ああ……始まった、完全に始まった。
TSモノでよくある定番イベントを、まさか自分の身で体験するとは。
「こちらなどどうでしょう?」
最初に出てきたのは豪華なドレスだった。
却下。だいたいそんな金はない。
「これは?」
レースだらけ。却下。
「こちらは?」
露出が多すぎる!却下!!
俺が次々と拒否していくと、ミリアが呆れ始めた。
「フィアナ……」
「なんだ」
「なんでそんなに抵抗するの」
「落ち着かない」
本音だ。
そもそも俺は元男なんだ。
可愛い服を選ぶ習慣などあるはずがないだろう。
「これなんてどうです?」
店員が持ってきた一着に目が留まる。
派手ではない。
白を基調とした上品なワンピース。
神官服の雰囲気も少し残っている。
「これなら……」
思わず呟いてしまった。
ミリアが満面の笑みになった。
「決まりね!」
そこからは、俺の意見は聞かれなかった。
そのまま試着室へ押し込まれる。
数分後。
恐る恐る外へ出る。
店内が静かになった。
ミリアが固まっている。
店員も固まっている。
「……何だよ」
不安になる。
するとミリアが両手で口を押さえた。
「フィアナ」
「なんだ」
「それ、反則」
その言葉に、俺は思わず視線を逸らした。
なんだか落ち着かない。
だが、鏡に映る姿は確かに悪くなかった。
少なくとも、領主へ会いに行くには十分そうだ。
◇
帰り道、服を抱えながら歩く。
夕暮れの市場は賑やかだった。
ミリアが不意に聞いた。
「ねえねえ、フィアナ」
「ん?」
「アレックスとは付き合ってるの?」
俺は盛大にむせた。
「ごほっ!」
「やっぱり!」
「違う!」
即答だった。
ミリアが目を丸くする。
「違うの?」
「違う」
「でも仲良いよね?」
「まあな」
「一緒に住んでるよね?」
「宿代節約だ」
「いつも一緒だよね?」
「偶然だ」
「絶対嘘」
なんでだ。
俺は頭を抱えた。
だがミリアは楽しそうだった。
「街で結構噂になってるよ」
俺は立ち止まる。
予想できるが、嫌な予感しかしない。
「どんな」
「銀髪の神官様と黒髪の剣士の恋物語」
俺は天を仰いだ。
ついでに明弘を殴りたくなった。
本人は何もしていないが。