俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~   作:Fiomia

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第12話

俺は部屋の入口で立ち尽くしていた。

 

「……慣れない」

 

白を基調とした上品なワンピース。

昨日ミリアに半ば強制的に買わされた服。

 

神官服とは違う。

動きやすさより見栄え重視。

正直落ち着かない。

 

「似合ってるぞ」

 

後ろから笑いをこらえながら明弘が言った。

 

「うるさい黙れ」

 

反射的に言い返した。

 

「本当だって」

 

「余計なこと言うな」

 

ますます居心地が悪くなる。

明弘は肩を竦めた。

 

「まあ頑張れ」

 

「他人事だな」

 

「実際他人事だし」

 

殴りたい。

だが今日は領主の屋敷へ行かなければならない。

そんなことをしている場合ではなかった。

 

アレド領主館は街の中央区画に建つ巨大な屋敷だ。

ゲーム内では何度も見たが、実際に目の前で見ると迫力が違う。

 

(そういえば領主館のデザインもあのグラフィッカーだっけか)

 

高い石壁。

整備された庭園。

門前には武装した衛兵たち。

俺は思わず息を呑んだ。

 

(おお、ゲームのデザイン通りだ)

 

今さらながら実感する。

門番に名前を告げると、使用人がすぐに現れた。

 

「フィアナ様ですね」

 

「はい」

 

「お待ちしておりました」

 

丁寧すぎる対応に緊張する。

案内されるまま廊下を歩く。

 

赤い絨毯。

壁に飾られた絵画。

高価そうな調度品。

どれもゲームには存在しなかったものだ。

 

いや、正確には存在はしていた、しかしゲームでは絵画も調度品も全部同じもの。

それはそうだ。フレーバーに過ぎないアセットは使いまわす。ゲームではそれが常識。

だが現実では絵画も調度品も、当たり前だがすべて違うものだった。

 

しばらくして、応接室と思しき部屋へ通される。

中には一人の男性が座っていた。

五十代ほどに見える、威厳ある顔立ち。

 

アレド領主。

ローレンス・フォン・アレド。

娘のエリシアと共に、ゲームにも『背景設定』として名前だけは存在していた人物。

 

「よく来てくれた」

 

低い声が響く。

俺は頭を下げた。

 

「フィアナと申します」

 

「噂は聞いている」

 

領主の視線が俺を見据える。

少し居心地が悪い。

 

「高位神官級の治癒術を扱うとか」

 

「そこまで大したものではありません」

 

謙遜したつもりだった。

だが領主は首を振る。

 

「少なくとも、この街の神殿では治せなかった」

 

その言葉に空気が重くなった。

やはり病人か。

しかも相当深刻らしい。

 

「娘を診てほしい」

 

領主は静かに言った。

 

「医師も神官も手を尽くした」

 

苦しそうな表情だった。

領主ではなく、一人の父親の顔。

 

「まずは診察させてください」

 

俺は答えた。

 

領主令嬢エリシアの部屋は館の最奥にある。

厳重な警備。

頻繁に出入りする侍女。

空気そのものが重い。

 

扉が開く。

部屋の中央。

大きな天蓋付きのベッド。

そこに少女が横たわっていた。

 

年齢は十五歳ほど。

金色の髪。

整った顔立ち。

だが顔色が悪い。

呼吸も弱々しい。

まるで長く眠り続けているようだった。

 

「娘だ。もう半年ほどこの状態だ」

 

領主の声が掠れる。

俺はベッドへ近付き、エリシアの手を取る。

冷たい。

異常なほどに。

 

元の珠玖直人はプログラマーで、もちろん医療の心得などなかった。

だがこの体になってから、まるで元々そうであったかのように、医療の知識が頭に浮かんでくるようになっていた。

 

脈を確認する。

弱い。

だが病人特有の乱れ方ではないように思える。

次に瞳を確認する。

反応はある。

身体にも外傷はない。

俺は眉をひそめた。

 

(おかしい)

 

普通なら、ここで回復魔法を試すべきなのだろう。

しかしなぜか違和感が拭えない。

 

俺は静かに目を閉じる。

頭の中に浮かぶ知識。

この体が持っていたと思われる治療術や神聖魔法の知識。自分たちで設定したゲームの知識。

ふと思いつく。

ゲームでは特定のクエストでしか使わない、ほぼフレーバーのために用意した魔法。

 

《ディバイン・サイト》

 

淡い光が広がる。

次の瞬間世界が変わった。

俺には見えた。

少女の身体に絡みつく黒い何かが。

 

「っ……!」

 

思わず息を呑む。

黒い霧。

いや……影だ。

 

生き物のように蠢く禍々しい力。

心臓の辺りへ深く食い込んでいる。

直感した。これは病ではない。

 

「フィアナ殿?」

 

領主が不安そうに声を掛ける。

俺はゆっくり振り返った。

 

「領主様」

 

喉が乾く。

だが言わなければならない。

 

「お嬢様は病気ではありません」

 

部屋が静まり返る。

侍女たちが顔を見合わせる。

領主ローレンスは驚いて立ち上がった。

 

「どういう意味だ」

 

「呪いです」

 

沈黙。

誰も声を出さない。

領主だけが険しい顔で俺を見る。

 

「本当にそう断言できるのか」

 

「正確には呪詛ではないかもしれません。だが原因であることは確かです」

 

だから神殿でも原因が分からなかったのだ。

普通の病気にしか見えない。

だが《ディバイン・サイト》で視れば違う。

 

「解除はできるのか?」

 

領主が問う。

俺は再び少女を見る。

黒い影、その先。

どこか遠くへ伸びる糸のような繋がり。

そして気付く。

 

「……追跡できる」

 

思わず小声で呟いた。

 

「何?」

 

「呪いの痕跡です」

 

俺は目を細める。

影は消えていない。

今もどこかと繋がっている。

 

「術者までは分かりません」

 

だが。

 

「呪いが発生した場所なら辿れるかもしれません」

 

領主の表情が変わった。

かすかな希望を見たような表情。

 

「本当か」

 

「保証はできません」

 

正直に答える。

初めて使う能力だ。それにゲーム中のフィアナにこんな能力を設定した覚えはない。少なくとも俺は。

成功する確証はない。

 

それでも俺には見えていた。

黒い糸が館の外へ伸びているのを。

まるで何かへ導くように。

 

 

数時間後、再び応接室。

しかし今度は俺だけではなかった。

 

呼び出されたのは俺以外に、明弘、ルーク、ミリア。

四人全員が集められている。

事情を聞いた三人の顔も真剣だ。

 

領主は席から立ち上がる。

 

「フィアナ嬢から話は聞いただろうか」

 

静かな声。

 

「娘を救うため、呪いの発生源を調査してほしい」

 

そう言って四人を見渡した。

 

「フィアナ、アレックス、ルーク、ミリア」

 

「はい」

 

領主は深く頭を下げた。

領主が、冒険者へ。

 

「これは正式な指名依頼だ」

 

部屋の空気が張り詰める。

俺は思わず明弘を見る。

明弘もこちらを見ていた。

 

影の魔物。

ゲームにはなかった異変。

そして領主令嬢への呪い。

点と点が繋がり始めている。

そんな予感がした。

 

「どうか娘を救ってやってくれ」

 

ゲームならイベントなのだろう。

だが昏睡するエリシアを見ていると、とてもそんな風には思えなかった。

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