俺たちが作ったゲームなのに知らない設定が多すぎる ~自作ゲーム世界に転移したら聖女になっていた~ 作:Fiomia
翌朝、俺たちは領主館の前に集まっていた。
「改めて聞くけど」
明弘が剣を背負いながら言う。
「本当に見えるんだな?」
「見える」
俺は頷く。
昨夜から消えていない。
領主館の奥。エリシアの身体から伸びていた黒い糸。
それは俺の視界の端で、かすかに揺れ続けていた。
「便利だな」
「便利というか気持ち悪い」
俺は正直な感想を返した。
本来なら存在しないはずの知識、使えないはずの能力。
それはこの世界へ来てから何度も経験している。
だが今回はとりわけ気持ち悪い。
「とりあえずフィアナが見えている黒い糸とやらを辿ってみようぜ」
ルークが言う。
「発生源が分かれば解決の糸口になるかもね」
ミリアがそう言うと、全員が頷いた。
そして俺たちはアレドの街を出発した。
痕跡は街の東門から外へ伸びていた。
草原のむこう、小川を渡ってさらに先、森の方向へ続いている。
「西の森か」
「あー……なんだか嫌な予感しかしないね」
俺とミリアが呟く。
「同感だ」
「俺たちが影の魔物に襲われたあたりだよな」
明弘とルークも頷く。
このあたりには覚えがある。
最初の薬草採取依頼。
そして影の魔物。
あの異常な存在と遭遇した場所だ。
「偶然じゃない気がするな」
明弘が低く言った。
俺も返事はしなかった。
たぶん同じことを考えている。
◇
森へ入って一時間ほど。
黒い糸はさらに濃くなっていた。
まるで墨でも垂らしたように。
「近い」
俺が言う。
四人の緊張が高まる。
ルークが剣の柄へ手を置く。
ミリアも弓を構えやすい位置へ持ち替えた。
やがて。
木々の向こうに石造りの建造物が見えた。
「建物?」
ミリアが驚く。
「こんな場所に?」
俺も目を見開いた。
ゲームの記憶を探る。
だがこんな建物を設定した覚えはない。
明弘の方に目をやると、黙って首を振った。
木々を抜けると全貌が見えた。
崩れた石壁、半ば埋もれた柱、巨大な石造りの階段。
そしてその先にある地下への入口。
……遺跡だ。
「なんだこれ」
ルークが呟く。
(知らない、なんだこれ。俺はこんなもの作った覚えはないぞ)
俺は心の中で混乱していた。
明弘も茫然としているようだ。
「入るか?」
ルークが聞く。
俺は黒い糸を見る。
迷う余地はなかった。
「ああ、多分ここが発生源だ」
◇
地下は異様なほどに静かだ。
虫の声もない。
風の音もない。
ただ冷たい空気だけが流れている。
石造りの通路。
壁面に刻まれた文様。
そのときふと、奇妙な既視感を覚える。
「どうした?」
明弘が聞く。
俺は壁を見ていた。
そこに刻まれた模様。
円、三角、幾何学的な線。
どこかで見たような気がするが思い出せない。
「いや……」
答えかけて次の瞬間、頭の奥が疼いた。
フラッシュバック。
──モニター画面。
──メール。
──大量の画像データ。
そして。
見覚えのある文様。
「あ!」
思わず声が漏れる。
「直人?」
「おいおい……」
似ている。
あまりにも似ていた。
あのグラフィッカーが送ってきた遺跡アセットの模様に。
だが、このアセットを使った遺跡は、最終的に実装しなかったはずだ。
俺と明弘はルークたちに聞こえないよう小声で話す。
「おい、ここの遺跡の模様。あのグラフィッカーが送ってきたデータにあったやつだ」
「確かに言われてみれば見覚えがあるな。だがこいつは実装しなかったんじゃなかったか?」
「間違いない。ゲームでは未実装だ。だが現実としてはここにある」
俺と明弘が立ち止まっていると、ルークたちが怪訝な顔をしている
「どうしたんだ?」
「何かおかしなものでもあったの?」
「いや、大丈夫だ。先に進もう」
その時。
ぞわり。と、背筋が凍る。
全員が同時に立ち止まった。
空気が変わる。
冷たい。
重い。
そして暗闇の奥から何かが現れた。
黒い影。
人型。
だが人ではない。
「来やがったな」
ルークが剣を抜く。
影の魔物。
以前遭遇したものと同じ。
半年前とは違い、ルークの剣技も上達している。ゲーム的に表現すればレベルが上がっているということだ。
ゆえに、半年前と同じ魔物なら、遅れを取るとは思えなかった。
だが数が違った。
1体ではない。
5体。
10体。
暗闇の奥から次々と現れる。
「……冗談だよね」
ミリアの顔が引きつる。
さらに。
その奥。
最深部。
奥に祭壇のような場所が見えた。
そして中央には、鈍く輝く黒い結晶。
黒い糸はそこへ繋がっていた。
間違いない。
あれがエリシアを蝕んでいる呪いの源だ。
「見つけた」
俺は呟く。
だが同時に理解する。
簡単には辿り着けない。
影の魔物たちが結晶を守るように立ちはだかっていた。
そして。祭壇の奥の壁面には巨大な紋章。
ゲームの製作者であるはずの俺たちが、見たことのない紋章。
そのことが意味するものを考えるより早く。
影の魔物たちが一斉に襲いかかってきた。
「来るぞ!」
アレックスが叫ぶ。
剣が抜かれる。
弓が引き絞られる。
そのまま俺たちは、謎の地下施設で影の魔物たちとの戦闘へ突入した。